2010年サマースペシャル テキ屋の信ちゃん 純情OTK編 〜ケツが恥辱の色に染まる夏〜 by 太朗

読切短篇小説の目次へ戻る

 暑い夏の日。小さな田舎町の神社で夏祭りが開かれていた。神社の名前は、「尻板(しりいた)神社」。これからこの神社で起こることを予感させるような名前だった。

 まだ日差しが強くむし暑い真昼間から、神社の境内では、祭りの縁日の露店の準備が始まっていた。

 その露店の一つに、ド派手に「ソースヤキそば」と描かれたのれんの店があった。誰でもがよく祭りでみかけるやきそば屋さんだった。

「ったく・・・涼子がいねぇと、なにかと不便だぜ!!いいか、おめえら!!今日は、かあちゃんがいねぇ分しっかり働くんだぜ!!!」

と、息子たち三人にはっぱをかけるとうちゃん。

 いつもは、とうちゃんとかあちゃんの二人で切り盛りする露店の焼きそば屋も、今日は、とうちゃんと息子三人。かあちゃんは身重で、いつ産気づくかもしれず、お休みだった。

「チェッ!このクソ暑ちぃ中、たりぃ〜なぁ・・・」と長男の山本信。中3で生意気ざかり。最近、不良仲間と付き合いだしたヤンキー予備軍だ。

「はい!!」と、元気にうれしそうな声を張り上げる次男の亮。小6で三人の息子の中では一番のしっかりもの。

「はぁ〜〜い!!」と、甘えるような声で返事をする三男の豪。小3だが、まだまだかあちゃんのオッパイが恋しい甘えん坊。実はまだ寝小便ばかりしている。

 とうちゃんは、長男の信のことは無視して、左手で次男・亮の、そして、右手で三男・豪の頭をやさしく撫でながら、

「そうだ!その意気だ!!がんばってくれよ!」

と次男に言い、三男には、

「もうすぐ赤ちゃんが生まれるからな!そうしたら、豪もおにいちゃんだぞ!」

と言うと、真っ黒に日焼けしたいかにも強面な顔に笑みを浮かべるのだった。

 豪は、うれしそうに、

「うん!ボク、早く、おにいちゃんになりたい!!」

と言うのだった。

 長男の信は、不機嫌そうな顔をして、わざととうちゃんに聞こえるように、

「チェッ!うちに子供なんてもういらねぇ〜よ!!」

と口をとんがらせる。

 とうちゃんは、そんな信のことをギロリと睨む。

「やべぇ!ちょっと言い過ぎた・・・」

と思い、信はあわてて目をそらす。生意気な憎まれ口ばかりきく長男の信も、とうちゃんのことが大好きだったし尊敬もしていた。そして、元ヤンキーだったというとうちゃんのことが、まだちょっと怖かったのである・・・。



 その日は祭りの初日。とうちゃんはなにかと忙しかった。仕入れてきたソバと具材を息子たちに託すと、

「しっかり下準備しとけよ!!特にキャベツは、デッカさをそろえて、丁寧に切っとくんだぞ!俺は、ちょっと挨拶にいってくっから!!」

と、原チャリバイクにまたがると、ブゥ〜〜〜ンとどこかへ行ってしまう。オヤジは、露店商の元締め親分さんのところへ祭りの初日の挨拶に向かったのだった。当分帰ってきそうにはなかった。

 そして、残された息子たち。

「チェッ!いつも下準備は俺たちかよ!!」

と長男の信が舌打ちする。

 一方、三男・豪は、まだ子供ですぐに飽きてしまい、すでにキャベツを切り始めた次男・亮のTシャツをさかんに引っ張って、

「ねぇ〜〜、りょう兄ちゃん・・・遊びに行こうよぉ・・・」

と、おねだりを始める。

「ダメだ!!とうちゃんが帰ってくる前に、下準備しとかないと、とうちゃんから百叩きだぞ!!」

と言って、弟をにらみつける。

 つい三日前、よりによってとうちゃんの布団の中で寝小便をしでかし、にもかかわらず、それを隠そうとして素直に謝りもせず言いわけばかりしている罰として、早朝からとうちゃんの膝上で生ケツを100発叩かれてしまった三男の豪は、

「えっ!!また百叩き・・・」

と、泣きそうな顔をする。とうちゃんの百叩きは、山本家の名物で、平手とはいえ、膝上で生ケツを力まかせにバチンバチンと叩く。元ヤンキーとうちゃんの、わんぱく坊たちに対する豪快で厳しいしつけ法だった。

 本来なら仕事の指揮をとるべき長男の信は、

「チェッ!」

と舌打ちする。信は中三・・・もうとっくに「とうちゃんの百叩き」は卒業しているはずの年頃。しかし、「とうちゃんから百叩きだぞ!!」とまじめな次男の亮が三男の豪をたしなめるために言ったその言葉が、まるで自分自身に向けられたように聞えて、思わず、ケツ筋をキュキュと引きしめる・・・。

 そして、年甲斐もなく、

「百叩きなんて、こわくねぇよ!!」

と、まるで「百叩き」という言葉にビビってしまった自分を叱咤激励するかのようにつぶやくのだった。

「えっ!」

と、びっくりして信の方をふりむく次男の亮。

 弟の亮と目があってしまう。兄貴の目をじっとまっすぐにみつめる鋭いまでの弟の視線に、信は、たじろいだように目を背ける。信は、弟の亮から「兄貴・・・実は、とうちゃんの百叩き怖いんだ!!中学生なのにまだ子供だな!!ダッせぇ〜〜!!!」と思われているようで我慢できなくなってきた。そして、背けていた視線を再び亮の方へ向け、弟をジッと睨みつけると、

「チェッ!オヤジなんか怖くねぇよ!!ちょっと行ってくるから!!!しっかり下準備しとけよ!!」

と、精一杯、兄貴の威光を振りかざし、弟に命令する。そうは言っても、一瞬、どうしていいのかどこへ行こうか戸惑う信・・・。弟の手前、「とうちゃんの百叩き」なんて怖くないことを行動で証明しなければと思ったが、さすがにその場を離れ仕事をさぼる勇気がすぐには湧いてこないのだった。

 しかし、まるでタイミングを見計らったかのように、信の友達たちが、チャリでそばを通りかかり、

「よお!!信!!遊びに行こうぜ!!」

と、誘ってくるのだった。

 まるで援軍を得て背中をグッと押されるように、信は、即座に、

「おお!今行くから、ちょっと待ってて!!!」

と大声で友達の誘いに応え、弟には、

「亮!俺が帰ってくるまでに、キャベツ全部切っとけ!!いいな!!」

と、まるでオヤジのような口ぶりで命令をすると、露店の裏に置いてあったチャリに跨り、友達たちの自転車の列に加わるのだった。

 まだまだチャリだが、信とその友達たちは、全員ヤンキー予備軍。夏の暑い中でも、プージャーをきていた。プージャーとは、プーマのジャージのこと。ヤンキーの定番アイテムである。アディダスではダメなのだ!

 その中でも、信のプージャーは、ゴールデン・プーマが背中にドデカくプリントされたとうちゃんのお下がりプージャーだ。数ヶ月前、誕生日祝いにとうちゃんからもらった信ご自慢のプージャーだった。

 残された、弟の亮と豪。

 豪は、ことの深刻さに気がつかず、

「あーあ、お兄ちゃん行ちゃったね!!ボクも、行きたかったなぁ〜!!」

と、あどけない。

 一方、亮は、手にもった包丁を、まな板の上で軽やかにトントン動かしてキャベツを適当な大きさに切りながら、

「もう、しん兄ちゃんったら!!オレ、どうなっても知らないからな!!」

とつぶやく。

 亮は、この前の祭りの時、やはり友達に誘われて信が仕事をさぼったことを、とうちゃんにチクっていた・・・。とうちゃんは、

「信のヤツめ!!これで今年に入って何回目だ?アイツが仕事さぼったのは・・・」

「2回目だよ・・・」

「アイツ・・・うまく逃げやがって・・・よし!今度さぼったら三回目だな!次は、百叩きだ!!」

「えっ・・・・」

 中学生になった兄ちゃんがオヤジの膝の上で百叩きだなんて!!

 小6の亮自身だって、高学年になってからは、ケツ丸出しでオヤジの膝上を温めたことなどなかった。亮は、中学生の信兄ちゃんが百叩きだなんて想像すらできなかった。

 心の中では信兄ちゃんが好きな亮。カッコいいとも思っていた。だから、この前、とうちゃんに兄ちゃんのことをつい告げ口してしまったことをちょっとだけ後悔していた。

 そして、

「信兄ちゃん・・・・早く帰ってくればいいのになぁ・・・今度は、とうちゃんに秘密にしといてやるのに・・・」

と、心配になってくるのだった。


ブゥ〜〜〜ン!

 そこへ原チャリバイクの音。とうちゃんが帰ってきたのだ。

「ったく・・・親方さんもしょうがねぇなぁ・・・・」

と、不満そうに言うとうちゃんの声を聞きつけて、亮のうしろでしゃがみこみ、石で地面に何かを描いて遊んでいた弟の豪が、

「あ!!とうちゃんが帰ってきた!!」

と、嬉しそうな声を上げるのだった。

「えっ!」

 亮は、ドキッとして、後ろを振り向く。あの原チャリバイクの音は、とうちゃんのだったのだ!まさかとうちゃんがこんなに早く帰ってくるなんて!亮は、動揺し、真っ赤な顔になってしまう。仕事のキャベツ切りに集中しようとするが無理だった。

「おお、しっかり仕事やってっか?親方さんが留守でなぁ・・・挨拶できずに帰ってきたんだ・・・・ったく、忙しいってのに・・・」

と、とうちゃんはしきりにぼやいていた。そして、その場に長男の信がいないことに気がつくのだった。

「よお!!信のヤツはどした?いねぇじゃねぇか?便所か?」

と、亮と豪に尋ねるとうちゃん。

 豪が、ことの重大さに気がつかず、 

「友達と自転車でどっかいっちゃたよ!!」

と、あっけらかんと言う。

 亮は、

「ごう!!」

と、思わず弟を睨みつける。

「ボ、ボク・・・なにかいけないこといったの?」

と豪は思ったのか、急に不安そうな顔になり、とうちゃんのプージャーの影に隠れるのだった。

 とうちゃんは、ヤンキーは大昔に卒業したが、プージャーへのこだわりはまだまだあった。とうちゃんのプージャーは、限定品のプラチナ・プーマのロゴが背中にデッカクついたプレミアム・プージャーだった。シルバー・プーマと色は似ているがプラチナはその輝き違う!!祭りの初日にピッタリのとうちゃんの決めプージャーだった。

 そんなとうちゃんは、亮を睨みつけ、

「亮!!いま豪が言ったことは本当か?」

と聞く。その声は、百叩きのお仕置きの前の、真剣で厳しい声だった。

「・・・・・・」

 亮は、なぜだか急に目がしらが熱くなり、涙を堪えながら、キャベツを切る包丁の手を止めて、とうちゃんをジッとみつめてただコクリとうなづくのだった。 
 
「ったく・・・帰ってきたら、タダじゃおかねぇからな!!!」

と、怒った声で言うのだった。
 しかし、その一方で、いまにも泣きだしそうな亮と、自分のプージャーの脚にしがみついている豪の頭を両手で撫でてやりながら、やさしい声で、

「おめえたちは、ぜんぜん、悪くねぇからな・・・心配すんな・・・兄ちゃんの尻にちょっと薬を塗ってやるだけだ・・・」

と言うのだった。

「クスリ?」

と、豪が不思議そうに聞いてくる。

「ワハハハ!そうそう薬だな・・・もう二度と仕事をさぼらないようにするためのおまじないの薬だ!」と、とうちゃん。

「おまじない?それどこに売ってるの?」と、豪。

「ワハハハ!神社に売ってるかもしれないな!ちょっと行って買ってくるわ・・・」と、とうちゃん。

 亮があわててとうちゃんになにかを言おうとする。

 とうちゃんは、そんな亮の気持ちを察したのか、

「ワハハハ!心配するな!すぐに戻るから・・・亮、下ごしらえ、ヨロシクな!!ワハハハ!!」

と笑いながら上機嫌で、神社の境内の方へと行ってしまうのだった。

 
 再び、二人になった亮と豪。豪は退屈になり、露店の裏に座り込み、石ころで遊んでいる。そして、亮は、ちょっと心配な気持ちはそのままに、とうちゃんから言われた通り、下ごしらえを続ける・・・・キャベツ、もやし、豚肉、そして、油に特製ソース。鉄板もそろそろ温め始めないといけない。

 それから小一時間が過ぎても、「薬」を買いに行くと言って神社の境内の方へ行ったとうちゃんはまだ戻ってこなかった。豪は、完全に退屈したのか、さかんに、

「ねえ!薬ってなあに?とうちゃんは、まだ帰ってこないの?なんで?」

と、亮のTシャツのそでを引っ張っては、さかんに亮に話しかけてくる。

 そんな中、

チリンチリンチリン!

「おい、そこどけ!邪魔だ!」

と、ヤンキー予備軍・プージャー軍団の中学生たちが、チャリに乗って集団でお帰りだった。行きと違うのは、全員、後ろにゆかた姿の女の子を乗せていることだった。

 その集団の中に信もいた。豪がいち早く気がつき、「あ!しん兄ちゃんだ!」と大きい声を出す。

 信はちょっと自慢げに、その自転車の集団から抜け出し、露店の裏に自転車を止め、弟たちに、

「よお!しっかり仕事してたみたいじゃねぇか!!上等!!上等!!」

と、とうちゃんのような口をきいて、生意気にも弟たちの頭を撫でるのだった。

 そして、自転車の後ろに乗っていた女の子に、

「こいつら、俺の弟のりょうとごう!ヨロシクな!!」

と、弟たちを紹介するのだった。

 その女の子は、信の中学の同級生だった。信のヤンキー予備軍ルックとは、ちょっと不釣り合いなほどに上品な感じのかわいい娘だった。

 そして、

「へぇ〜〜山本君、弟いるんだ!かわいい!よろしくね!」

と、豪と亮にやさしく声をかけるのだった。 


 しかし、信は気がつかなかった・・・。その同級生の女の子にもう一人紹介すべき人が、いままさに自分の後ろに仁王立ちになっていることを!

「あっ!こんばんは!!私、学校で山本君と同じクラスの小島です。」

と、いきなり丁寧な口調になった女の子に、信は、

「おめえ、急にていねいになって、なに言ってんの?」

と言う。しかし、信のその疑問が解けるのに一秒とはかからなかった。

「おお、小島さんか!こんばんは!信が学校で世話になってるね!」

と、いつもの聞きなれた野太いとうちゃんの声が、信の真後ろから、信の両耳に飛び込んで来るのだった。

「えっ!」

と、信が振り向くのが早いか、とうちゃんのデッカイ右手は、信の左耳をグイと引っ張っていた!!

「痛てぇ!とうちゃん、なにすんだよ!小島の前だぞ!やりすぎだよ!かんべんしてくれよ!」

と信。

 しかし、とうちゃんの右手は、信の左耳をグイとつまんだまま離さなかった。

「おめえ、いままでどこで油うっていやがったんだ!俺の目盗んで仕事をサボりやがって!」

「痛、痛い・・・離して・・・」

 とうちゃんは、ついに、信の耳を引っ張ったまま、信を露店裏の参道横の舗装されていない細道へと引きずり出す。その様子を、信の友達たちは、固唾をのんで見守っていた。

 そこで、耳をやっと離してくれたとうちゃん。信は、

「痛ってぇなぁ・・・」

とふてくされた風で自分の耳をさする。しかし、信は、蛇に睨まれたカエルのように、怖いとうちゃんに睨まれ、もう逃げることはできなかった。

 その日のとうちゃんの行動は早かった。商売に支障がでないように、祭りで参道がごった返す前に、片付けたかったからだ。

「信!!図体ばっかしデカクなっても、まだまだガキだな!!」

 そういうと、とうちゃんは、露店の裏にいくつか置いてあったソバを炒めるための食用油の缶を一つ持ってくる。そして、それを椅子代わりに、ドテンと腰をおろし、両足をおっぴろげて座ると、

「おめえのサボりぐせを直すには、これが一番だからな!!さあ、男らしく、こっちへきて、ケツを出せ!」

と、信にとっては、昔懐かしい「お仕置き準備のポーズ」をとるのだった。そして、とうちゃんは、「さあ、俺の膝の上に乗るんだ!」と言わんばかりに、己の太腿をパァ〜ンと一発叩いたのである。

「えっ!」

と、これには信も絶句して、しどろもどろになる・・・。

「と、とうちゃん・・・そ、それだけは・・・・あとで家に帰ってから・・・た、頼むよ・・・み、みんな見てるし・・・」

 信は、まわりにいるヤンキー予備軍の野郎の悪友たちや、小島さんをはじめとする女子の方を、助けを求めるかのように見るのだった。しかし、みんな、信からは目をそむけてしまう・・・。

「チェッ・・・みんな、いざとなると冷たいよな・・・」

と、絶望的な気持ちなる信。そんな友達たちでさえ、まさか自分たちの目の前で、本当に信のオヤジさんが信のケツを叩くとはまだ信じていなかった。

 しかし、とうちゃんは、

「さあ、信!早くこっちへ来い!縁日がはじまっちまうぞ!」

と、一向に信を許そうとはしない。そして、いつまでもグズグズしている信に、業を煮やしたのか、

「こいつ・・・おんなのくさったヤツみたいにグズグズしやがって・・・こねえなら、こっちから・・・・・!」

と、中腰を上げ、信の腕をつかもうとする!

「わ、わかったよ・・・ぞ、そっちへ行って、ケ、ケツ出せばいいんだろ・・・」

と、真っ赤な顔で言うのだった。とうちゃんに引っ張られて強引に膝の上に乗せられてケツ丸出しだなんて・・・すでにズタズタの信のプライドが、最悪なまでにケチョン・ケチョンだ!

 信は、顔を上げることなどできなかった。仕方なく、とうちゃんの左膝の上に乗ろうとする・・・。しかし、とうちゃんは、

「家と同じにしろ!」

と命令をする。

 その言葉に、信は、もう全身から火が噴き出そうなくらい恥ずかしくて首から上が真っ赤になる。

「と、とうちゃん・・・な、生だけは・・・かんべんしてよ・・・」

と、泣きべそかいて、懇願する。信は、とうちゃんの前で泣きそうになっている自分の情けない姿を見つめているであろう同級生たちの視線を、背中に、そして、ケツに・・・ヒシヒシと感じていた。

「ダメだ!今日という今日はかんべんならねぇ!おめえの、その怠け癖のついた根性を、タップリと叩き直してやる!」

と言うのだった。

 ついに観念したのか、信は、家でとうちゃんから「百叩き」食らう時と同様に、ジャージを下ろすのだった・・・。

 まわりにいた信の同級生の女子たちが、

「えっ・・・やだぁ・・・」

とヒソヒソ話を始める・・・。

 一方、信の同級生の男子たちは、

「信のオヤジさんって、マジ、ヤバくねぇ?」

と、やはりヒソヒソ話を始める。

 境内方向へ参道を歩いていた祭りの見物人たちは、山本家の「百叩き」見物人に変わりつつあった。その見物人の一人が、「これ、ちょっとまずいですよ・・・」とつぶやきながら、その場を離れていく。近くの交番に通報するためだった。

 しかし、そんなことはおかまいなし。信のとうちゃんは、ジャージを膝上まで下ろして、パンツ丸見え状態の息子に、さらに厳しく命令する!!

「パンツも下ろせ!!!」

 その命令に、信の同級生の女子たちは、「え〜〜〜!!」と声を上げる。

 同級生の女の子たちに、家ではとうちゃんから生ケツ丸出しでお尻ペンペンされていることを暴露され、信はもう抵抗することはできなかった。真っ赤な顔の両頬には、すでに涙の筋をつくっている。そして、うつむきがちに、

「は、はい・・・」

と返事をして、とうちゃんに降参の白旗を上げるのだった。 

 信も、すでにまわりが人ごみになりつつあることは知っていた。これ以上、人が増える前に、終わらせたかったのだ・・・山本家の古風 な男の子しつけ法・・・とうちゃんの膝上での生ケツ丸出しの百叩きを・・・。 
 
 信は、はいていたド派手な柄のトランクスを下ろすと、はずかしそうに前を隠して、とうちゃんの膝の上に乗るのだった・・・チ○コ隠して、ケツ隠さず・・・信のケツは、一学期の水泳の授業で日焼けした上半身と両足とは対照的に、スクール水着の白い痕がクッキリついていた。プリッと盛り上がって肉厚な信のお尻は、その生意気な態度とは裏腹に、まだまだ丸くてかわいい幼さを残した桃尻であった。

 神社の境内は、祭りにくる人でだんだん混みあってきていた。そして、その視線は、いやがうえにも、縁日露店屋台の後ろ側で繰り広げらている父と息子のスキンシップに向けられつつあった。

 とうちゃんの左膝の上に乗る信。とうちゃんは、息子の両足を、自分の右足でガッチリとロックし、信のTシャツとジャージの裾をグイとつかんで、信の上半身を前方に引っ張りだす。信のケツが、ちょうどとうちゃんの左膝の上に乗り、信のプリッと盛り上がったケツは、プリッと上向きになるのだった。

 信は、両手を地面につけて、その時を待っていた・・・何年ぶりだろうか・・・しかし、祈ることは、ガキの頃と一緒だった。

「痛くありませんように・・・泣きませんように・・・」

だった。

「いくぞ!!歯をくいしばれ!!」

と言うが早いか、とうちゃんのデッカく分厚い右手のひらが、信のケツの中央に打ちおろされる!

バチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

 自分のむき出しのケツに感じる、その熱い衝撃に、信は、

「あぁぁぁぁ・・・・・」

と思わず、上半身をのけ反らせる。信の祈りは神様には通じなかったらしい。それは、子供の頃と同様、痛恨の一発だった。

 そんな信の上半身をグイと押し下げて、とうちゃんは、

「ワハハハ!久々のケツ叩きはどうだ!痛てぇか?良薬口に苦しってとこだな!ワハハハ!」

と上機嫌に笑い飛ばし、さらに右手を

バチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

バチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

バチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

と信のケツに厳しく打ちおろすのだった。

 右、左、中央と、ケツッペタをとうちゃんに叩かれ、信のケツには、とうちゃんの平手の痕が、最初はうっすらピンク・・・そして、だんだん深紅色に、ベッタリ次々とついていくのだった。

 豪は、木の陰にかくれて、兄貴がお仕置きされている風景をながめている。自分もつられて泣きそうだった。一方、しっかり者の亮は、それを無視するかのように、ヤキソバの下ごしらえに余念がない・・・鉄板に火をかけて、鉄板がだんだん温まってくる熱気を顔に感じていた。それは、まるで、信兄ちゃんのケツと同じだった・・・。

バチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

バチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

バチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

 信のケツへのしつけのためのクスリ塗りが「百」に達するまでにはまだまだ回数があった。

 最初は「え〜〜〜」といった声を上げていた女子たちは、なんと、次々とケータイを取り出し、信のプリッとした真っ赤な「かわいい」ケツに、そのケータイのカメラのレンズを向けるのだった!

 そして、カシャ!カシャ!と次々シャッターを切る。

「畜生!アイツら、オレのケツの写真撮ってやがる・・・」

と、信は、とうちゃんの膝の上で悔し涙をにじませる・・・。

 しかし、あっという間に、とうちゃんからお仕置きを食らって真っ赤な恥辱色に染まった信のケツは、写メールになり、信のクラスの女子全員に、配信されてしまうのだった!なかには、信の両太腿の間に哀しくユラユラとぶらさがる、信のタマタマに、デコレーションを加えて、デコメ発信するつわものもいた。

 不思議なものである。その場に居合わせた男子たちは、一人として、信の恥辱色に染まったケツにケータイのカメラを向ける者はいなかった。

「キャハハ」とはしゃぐ女子たちをしり目に、

「女ってやることが残酷だよなぁ・・・」

とヒソヒソ話をしていた。さっきまでの、男の子らしい勢いは、完全に影をひそめていた。

 男子の誰かが、もうたまらんとばかりに、小声で、

「おい!もう行こうぜ・・・」

「そうだな・・・じゃましちゃわりぃーしな・・・」

と言っている。信の親友たちは、ちょっと悔しそうな顔をしながらも、元ヤンキーの信のオヤジさんのド迫力に圧倒されてしまったのか、「失礼します!」と信のオヤジさんに挨拶をして、次々とチャリに跨りその場を去っていく・・・。一方、丸出しのケツを晒している信も、次々とその場を去っていく野郎の悪友たちに「オレを見捨てていくのかよ・・・それでも、おめえらダチかよ・・・」とは思わなかった。

 信の野郎の友達たちは、目の前で、親友の信がオヤジさんの膝上で生ケツ丸出し!辱めのお仕置きを受けているところを、黙って指をくわえて見ていることに耐えられなかったのだ。生ケツ百叩きを見続けることは、さらに信を辱めることだと思っていたのだ。

 信の友達の男子たちも、オヤジさんから命じられた仕事をサボったのは信が悪いということは重々わかってはいた。しかし、信と同様、彼らも反抗期まっさかり。親友をオヤジさんの膝上から救ってやれないことへの悔しさ、友達を見捨てて行くことへの罪悪感、そして、親友の信への同情心にさ いなまれていた。しかしそれでも、その場を立ち去ることが、親友の信にとって一番であると思うのだった。

 親友を見捨てていくしかない自分たちの不甲斐なさに憤っているのか・・・それとも、自分たちもオヤジさんの膝上で生ケツを叩かれることがあるのか・・・信の親友たちは、頬をほんのりピンク色に染めて下目がちにその場を立ち去っていったのだった。

バチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

バチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

バチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

 「百叩き」はまだまだ続き、その回数は、40発を超えていた・・・。そうこうしている間に、その騒ぎを聞きつけて、神社の近くにある交番勤務の若い警官が、自転車でやってくる。

 その警官は、

「おとうさん、どうしたんですか?」

と職務質問を始める。

「ああ、ごくろうさんです・・・ったく、コイツ、俺のせがれなんですがね。長男のクセに、弟たちに仕事まかせっきりで、さぼってばかりいやがるんですよ・・・だから、ちょっとはマシな息子になるようにと、こうして、ケツにたっぷり、クスリを塗ってやっているんですよ!」

と、とうちゃんは、警官の職務質問に悪気もなく答えるのだった。そう答える間にも、信のとうちゃんは、

バチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

バチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

バチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

と信のすでに真っ赤なケツを打ち据えていた。

 若い警官もそう野暮ではなかった。しかし、祭り前のにぎわいつつある神社の参道横で息子の尻を生にひん剥き折檻するのはちょっとやりすぎではと思い、

「まあまあ、おとうさん、そう熱くならずに・・・ここは、本官に免じて・・・」

と、百叩きを止めようとする。

 しかし、その警官は、とうちゃんの膝上に真っ赤な生ケツ丸出しで乗せられている信の顔をのぞきこんで思い出すのだった!

「あっ!コイツ、いつも交番前の通りを、自転車三人乗りで暴走行為をしている、北中の悪ガキだ!!」

と思うのだった。そして、

「いつも騒ぎを起こしやがって・・・コイツのケツをぶっ叩きたいのはこっちの方だ・・・」

と、とうちゃんの百叩きを職務権限で制止することを思い留めてしまう!

 その警官は、とうちゃんの説明を真剣な表情で一通り聞き終わると、なにも言わず、今度は、ニヤニヤしながら、尻ポケットから手帳を取り出し、

「8月×日 17:35分ころ。尻板神社の参道横で騒ぎあり。軽度の父子喧嘩。解決済み。他に記すべきこと特になし。」

とメモ書きするのだった。そして、そのニヤニヤ笑いを抑えきれないまま、手帳をパタンととじると、手帳を再び尻ポケットにしまい込み、とうちゃんに向かって、

「どうも、おとうさん、お疲れ様です!」

と敬礼して、再び自転車に乗って、その場を去っていくのだった。

 その警官の声を聞いて、息子の信は、まさに「神は、俺を完全に見離したーーーー」の気分になるのだった。

 警官の「お墨付き」を得たとうちゃんの右手は、

べチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

べチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

べチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

と、さらに一段と厳しく信の生ケツに炸裂するのだった。

 そして、50発を超える頃、

「チッ!手が痛くなってきたぜ!!」

と呟くように言う。信のケツは、とうちゃんが知らない間に鍛えられ、中学生とはいえ、ケツ筋につつまれた一人前の男の堅尻になっていたのだった。

「えっ!もしかして、今日は50で許してもらえるのかな・・・・」

と思う、とうちゃんの膝上で生ケツ丸出しの信。

 しかし、それは甘いというものだった。とうちゃんは、片一方のサンダルを脱いで、右手に握りしめると、そのサンダルの底で、信のケツを

べチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

と、いままでとは比べ物にならにほど強く打ち据え始めるのだった!!

 サンダルとはいっても、ペラペラのサンダルではない。元ヤンキーのとうちゃんこだわりの、プーマのサンダル。略して、プーサンだった。くまのプーさんではない!!

 とうちゃんのプーサンは、敵を蹴ってよし、踏みつけてよしのヤンキー格闘モードに改良されており、かなりの堅厚底のサンダルだった。

 これには、信もたまらず、

「ぎゃぁ!!!!痛てぇ!!!!暴力反対!!!」

と叫ぶのだった。

 しかし、周りのギャラリーたちからは、笑いが漏れるばかり・・・・。

べチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

べチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

べチィ〜〜〜〜〜ン!!!!

と、プーサンによるキツイ後半50発が、情け容赦なく、信のケツに炸裂したのであった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 あたりのギャラリーは、赤ら顔のおっさんばかりになりつつあった。

べチィ〜〜〜〜〜ン!!!!「98!!」

べチィ〜〜〜〜〜ン!!!!「99!!」

べチィ〜〜〜〜〜ン!!!!「100!!」

と、物好きにも「百叩き」の回数を数えていたギャラリーのおっさんの一人が、信のケツに炸裂するとうちゃんの愛のムチの回数を、大声でカウントする。そしてついに、それが100に達した時、信は、とうちゃんの膝上から、立ち上がることを許されたのだった。

パチ、パチ、パチ、パチ!!!!

と、あたりからは、なぜか拍手が・・・。

「チェッ!!拍手してる場合かよ・・・」

と、ぶつくさ呟きながら、信は立ち上がるのだった。

「信!!今度仕事サボりやがったら、100じゃ納まらんぞ!!さあ、トットとパンツとジャージを上げろ!!真っ赤なケツをいつまでも晒してんじゃねぇ!!」

と、とうちゃんは、厳しいながらも、信にパンツとジャージを上げる許可を与える。

 信は、

「はい・・・・」

とだけボソリというと、パンツとジャージを素早く上げて、真っ赤な恥辱色にそまったケツを隠すのだった。しかし、恥ずかしくて、その真っ赤な顔を上げることはできなかった。

 信は、弟の亮から強引にやきそばを混ぜるヘラを取り上げると、亮を後ろへ押しのけ、亮が下準備したヤキソバを熱くなってきた鉄板の上で混ぜ始めるのだった。参道を歩く人たちの視線を痛いほどに感じながら、麺を炒めることに集中して面目を保とうとする。

 とうちゃんから尻を叩かれたのは誰の所為でもない。自分が悪いのだ。信だって、そんなことくらい十分にわかっていた。しかし、衆目、とうちゃんの膝上で生尻を叩かれたことに、また悔しがこみあげてきて、目がしらが急に熱くなってくる。涙を堪えることはできなかった。信の涙と汗が、鉄板にポタポタ落ちて、ジュゥ〜〜〜〜!!と音を立てる。気がつけば、信の真っ赤なケツも、その熱せられた鉄板のように、まだまだジリジリと熱く火照っていた・・・。

 だんだん増えてきた祭り見物の通行人からは、下を向いて恥ずかしそうにやきそばを混ぜる信に、

「にいちゃん!今度からしっかり仕事しないとダメだよ!!ワハハハ!!」

と声がかかる。

 信は、真っ赤な顔のままうつむきがちに、

「はい・・・・わかってます・・・」

と、元気のない小声だが、素直に、その声に応えるのだった。

 さっき、信が食らったとうちゃんの膝上での恥辱の「百叩き」の回数を数えていたおっさんが、ちょっと申し訳なさそうに、

「兄ちゃんの汗と涙が混じったしょっぱいヤキソバ一皿!!いただくよ!!」

とヤキソバを注文してくれるのだった。

 しっかりものの次男・亮が、すかさず、

「はい!!550円です!!ありがとうございます!!」

と元気に応対する。

 信が、

「あれ?500円じゃねぇのか?」

と、やっと涙が乾いてきたその目をチラリと弟に向ける。

 しっかり者の亮は、いたずらっぽく兄貴に目配せし、

「いいの!550円で!!しん兄ちゃんの汗と涙の分、50円追加!!」

と、その客にも聞こえるように言うのだった。

 その客は、

「ワハハハ!!!こりゃあ、一本とられたな!!よし、もう一皿追加!はい!1100円だ!」

と、信が炒めるヤキソバを2皿注文してくれるのだった。

「まいどありぃ!!」

と、声をそろえて礼を言う、信と亮。あたりからは笑声がもれ、祭りの参道は、いつもような賑わいをみせ始めるのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 新学期。始業式の後のホームルームで、担任の高田明子先生が、残念そうな顔をして学級の生徒たちに話し始める。

「みなさんに残念なお知らせがあります。山本信君は、おとうさまのお仕事の関係で、岡山県の学校へ転校しました。」

「えっ!山本君・・・・転校したんだ・・・・」

 中三の二学期で転校だなんて!しかし、これもまたテキ屋の家族の宿命だった。

 クラスの男子たちは、「山本のヤツ、もう会えねぇのか・・・・さびしいなぁ・・・」と感慨深げ。

 一方、クラスの女子たちは、禁止されているはずのケータイを一斉にかばんから取り出し、
 
「チェッ!つまんねぇ〜の!」

と口ぐちに言うと、写メールを1通消去し始める。もちろん、その表題は、「山本の真っ赤なケツ かわいいよ!!」であった・・・。

おわり

読切短篇小説の目次へ戻る