太朗注:今回の俺の回転すし屋の話の元ネタは、太朗のオリジナルではありません。

 すでに元ネタが掲載されていたサイトはなく、その元ネタをどなたが書いたのか今となっては全くわかりませんが、なかなか面白い話ですので、皆さんにも紹介したく、今回、アップすることにしました。

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すし屋のバイト仲間 作者不詳

 ワタクシが生まれて初めてアルバイトをしたのが16歳の冬だった。それは回転寿司の調理係。仕事の内容は単純なもので、寿司をのせたお皿を店内グルっと回っているコンベアーにのっけていくだけ。もちろん食材の下ごしらえや開閉店時の掃除などもするが、勤務時間のほとんどは寿司をのせて回すことだった。その寿司はというと、機械が握ったシャリにネタをのせるだけ。だから高校生だろうが素人だろうが、誰もが簡単にできる仕事だったのだ。

 その回転寿司屋さんはアルバイトの人数が多く、どこの飲食店でも多分そうであろうが、日曜祭日になるとほぼ全員出勤の状態になる。男女合わせて約12〜13人くらいの人数が店内で一生懸命仕事をする。仕事内容は上記した通り単純なものなのだが、けっこうハードである。立ちっぱなしだから足はだるくなるし、手は酢の匂いで臭い。おまけに赤だしの調理になると、それも臭いのなんのって、たまりましぇん・・・。 ま、そんな仕事でもみんな仲良く働いていた。それもそのはず、バイトはほとんど全員高校生。年が近いから話題も自然に合うし、すぐ仲良しさんになれたのだった。店長も20代前半の人で、これまた話しもだいたい合うから割と仲良くしていて、雰囲気の良い働きやすい店だった。

 さて、ここでその若い店長について軽く説明しておこう。彼は背はワタクシより少し高いくらいなのだが、体つきが実にイカツイ。顔もけっこう怖い雰囲気の顔で、言葉使いも乱暴な感じ。で、聞いた話では凄腕の空手の選手だったらしい。もちろん店を経営する時にはすでにやめていたようだが、過去に鍛えた筋肉が体に残っていて、いわゆる男前な体をしていたワケだ。そういう話を耳にしていたもんだから、彼が仕事中に怒って怒鳴った時は、バイトのみんなは背筋がピンッとなる。別の意味でシャキッとなる。要するに固まる・・・。余談になるかもだが、一度だけワタクシはマジ切れされたことがあって、さすがに殺されると思ったのを憶えている。だって「表出ろや!」だよ?元・凄腕空手家が胸倉つかんで「表出ろや!」ッスよ?そんなの怖いじゃん!・・・やっぱり余談になってしまったが(汗)、つまりはバイトのみんなは彼をけっこう怖がっていたのだった。仲は良いのだが、怖い。そんな感じだった。

 そんなバイトを続けていたワタクシに事件が起こった。正確にはワタクシ達であるが・・・。

 ある日、店が閉まる時間になったので、いつも通り閉店作業をするバイト達。女の子達はホールを、我ら野郎共はキッチンを掃除&片付けをする。いつもは30分くらいで終わって、残りもんの寿司を頂いて、更衣室のある二階へ上がって、着替えて家へ帰るのだが、その日は掃除が終わる頃に店長がこう言った。

 店長 「男は掃除終わったらホールに集合!」

 戸惑いながらもワタクシ達は返事をする。「え?なんで?」って感じである。とりあえず自分の担当した個所の掃除が終わった人からぞろぞろとホールに集まっていった。

 で、みんなが集まり、静まり返った深夜の回転寿司屋のホールで

 店長    「おつかれさん!」(←気合いの入った口調)

 バイト男衆 「おつかれッス!」

 店長    「ちょっと声小さいなぁ。(さらに気合い入れて)おつかれさん!!」

 バイト男衆 「おつかれッス!!」

 店長    「おう・・・。」

 バイト男衆 「・・・・・。」

 一体何が始まるのか?という不安があった。ふと見るとテーブルの上には残りもんの寿司が綺麗に箱詰めされている。小さいお皿に醤油と甘だれも用意されている。まったく先が読めない店長の行動に不思議がるワタクシ達を見て、店長はイタズラっぽく笑う。

 店長    「お前等と勝負してみようと思ってな。あははは・・・。」

 バイト男衆 「えっ!?」

何のこってすかい・・・?である。

 店長    「おい、『ケッパン』ってわかるか?」

と店長は一人のバイトに訊く。おいおいおいおい『ケッパン』って、いわゆる『おしりペンペン』の豪華版のことじゃないの?なんてワタクシは考えていた。

 バイトA 「いや、わかんないッスけど・・・?」

店長は腰くらいの高さにある何かを、思いっきり蹴るような動きをしながら言う。

 店長   「ケツ(お尻)をパン!やないかい。あはははは・・・」

一同笑う。いや、だからそれが何よ?って感じで、みんな把握できていない。そこで店長が笑いながらさらにイタズラっぽく言う。

 店長   「今から『ケッパン』やるぞぉ!」

一瞬の沈黙。そのすぐ後に

バイト男衆 「えぇぇ〜〜っ!?」

内容はまだイマイチわかっていないが、痛い目に遭うということが誰もがわかった。

 店長   「ま、とりあえずみんな円になれ、円に。」

言われるままにワタクシ達は円になる。そこから店長がその『ケッパン』のルールを説明する。店長の説明はこうだった。

 まず、みんなでジャンケンをして一番負けた人、つまり最下位の人が全員にお尻を順番に蹴られるというルールなのだが、ジャンケンに勝った人は思いっきり蹴らないと店長の空手キックが、蹴りをミスった人のお尻にもお見舞いされるという、大変えげつないシステムのゲームだった。気合い入れて蹴っているかどうかは店長が判断するということにもなっていて、もちろん利き足で蹴ってはさすがに痛いので、利き足とは反対の足で蹴ることにもなっている。ただし、店長が負けた場合に限り、ワタクシ達バイト男衆は利き足で思いっきり蹴らないと、これもまた店長からの空手キックが来るのである。

「ウソやん?」「マジでぇ?」などとバイトのみんなは口々に言う。

 店長   「あ、ほんでな、蹴られたヤツはそこの寿司一つ食べていっていいから。」

みんなの目線はテーブルの寿司にいくが、正直うれしくない・・・。単純に考えると、残りもんの寿司がなくなるまで『ケッパン』をするのかと思うとゾッとする・・・。

 店長   「あはははは、勝ったらええねんって!」

いやいや、勝ったらバイト仲間を蹴らなきゃいけないし、寿司食べれないじゃん・・・。かと言って負けたら総勢8人の蹴りがお尻を狙うし・・・。

 店長   「じゃ、いくぞぉっ!」

恐ろしいゲームが始まったのだった。深夜の閉店した回転寿司屋のホールで、男達が必死になってジャンケンをする。そして、バイトの誰もが店長にだけは蹴られたくないと願うのだった・・・。

 一同   「じゃーんけーん・・・」

あぁ、始まってしまったか、こんな恐ろしいゲームが・・・。敗者はよつんばになってお尻をかかげる。勝者は力いっぱい蹴り込む。

 勝者A  「おらぁ!」

バシッ

 敗者A  「ぐわっ!」

 勝者B  「とりゃー!」

バシッ

 敗者A  「あ痛ぁっ!」

 勝者C  「うらぁっ!」

・・・とまぁこんな感じで蹴りと悲鳴が続く中、店長が蹴る番になる。

 店長   「行くぞ、いいか?」(←かなり楽しんでいる) 

 敗者A  「ちょ、マジで怖いッスよ、店長・・・。」

 店長   「とりあえず歯食いしばっとけや、あはははは・・・」

 敗者A  「・・・・・。」

 そして、バイトの勝者達は店長の気合いの後に凄まじい音を耳にする。そう、それはまるで豪速球のボールをキャッチャーミットでキレイに受けとめたような気持ちのいい音。

ズバァーン!!

 敗者A  「んぐっ・・・・・!」

 店長に蹴られたお尻は、空中に軽く弧を描きながら飛ぶ。お尻を押さえたまま倒れて動かない敗者A。店長は爆笑。もしかしたらこれから自分たちもこうなるかもしれないというのに、バイト勝者一同も爆笑。やはり店長の蹴りは凄まじかった。爆笑の後、敗者Aが立ちあがりワタクシ達勝者にこう言う。

 敗者A  「店長はヤバイぞ、マジで。」

そうとう痛かったのか、少し涙目である。

 もちろん一回で終わるわけもなく、ゲームは続く。ホールに響く蹴りの音と悲鳴。中には二回三回負ける運のない人もいてるわけで、そうなると・・・

 連続敗者 「なぁ、頼むから左ケツにして。もう右ケツ痛み通り越して熱いねんって!」

 最初の一回二回は本当にイヤだったが、不思議なことに回を重ねるほどみんな燃えてくるのである。「次絶対勝ったんねん!」「あぁ、もう蹴られたくない!」負けた人になるとお尻を差し出して「はい、早く早く!蹴って蹴って!」「よっしゃ来いやぁ!」ってな感じである。そして店長が負けた時にはさらにヒートアップ。いくらゲームだと言えど、バイトが店長のお尻にマジ蹴りを浴びせるというスゴイ光景になるのだから、みんな楽しくてしょうがない。バイト一同この『ケッパン』にドップリはまっていたのだった。

 もちろんワタクシも敗者になって蹴られた。勝者の蹴りは次々に容赦なくワタクシのお尻を狙う。ハッキリ言って、負けるとハンパじゃない。シャレにもならない。マジで痛い。利き足じゃない足と言えど、みんな一応本気で蹴ってくるし、高校生ともなればやっぱそれなりに力がある。それが連チャンで続いた後に、元・凄腕空手家の蹴りでトドメをさされる。段違いの威力。これがホンモノかぁ!・・・っと知らされる。
しかし、楽しい(?)時間はあっという間に過ぎる。もともと店が終わってから始めたもんだから、かなり遅い時間になっていた。店長の「これでラストな。」という言葉で、あと一回だけして解散となった。

 『ケッパン』終了後、なぜかみんなイキイキとした顔で二階の更衣室まであがる。蹴られた感想や蹴った感想でかなり盛りあがる。そして言うまでもなく、この店で働く男達のブームとなる『ケッパン』。バイトの人数が多い日は必ず掃除の後に集合がかかる。繰り広げられる熱い闘い。

 この店でバイトする人(男限定)は今まで以上にバイトが楽しくなったのでした。

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