金サポコーチ誕生秘話
一、プロローグ
チィ〜〜〜〜〜ッス。お久しぶり!!オレ、東和大学経済学部卒、金サポ・コーチの翔太ッス。
エヘヘ、東和大・体育会・フィルホの「ゴミの一年」から一気にコーチに昇格したッス。コーチって、なんのコーチかっつうと、なんと東和大学付属第二高等学校・フィールドホッケー部の新コーチっす。
そう!オレ、この春から高校教師になりました!しかも男子校の教師ッス。担当は、社会科です。親友のアイホからは、春の卒業記念飲み会で
「え!!おめぇが社会科の教師!!!だいじょうぶなのかよ!オレ、オマエに倫理だけは習いたくねぇ〜から!よろしく!」
って、突っ込まれたッス。大きなお世話だっつぅーの!オレもアイホにだけは「倫理」教えたくないッス。
・・・・・・・
学校法人・私立東和大学・付属高校は、関東地方に三つあるッス。
一つ目は、都内・世田谷区にある第一高校ッス。ここは共学で、すげぇ〜〜偏差値が高い進学校ッス。ほとんどが、国立大学へ進学するんで、内部推薦で東和大に進学してくるヤツは少数ッス。
二つ目は、神奈川県・横浜市にある第二高校ッス。オレが教師になった高校っスね。ここは、三つある東和の付属高校のうち、唯一の男子校で、東和の付属校が男子生徒の制服を次々ブレザーにするなか唯一ガクラン・ガクボーの伝統を維持してるッス。
偏差値もあまり高くないんで、ほとんどが、内部推薦制度をつかって、東和大に進学するッス。東和大の男子比率が、首都圏の私立総合大学の中でダントツなのも、二高からの内部進学組が多いからッス。
内部進学組のやつらには、二高OBの目がしっかり光っているんで、だいたい、体育会の部活に「強制」参加させられるッス。そんなわけで、二高からの内部進学組の野郎たちは、「体育会要員」とも言われているッス。
二高の制服に話を戻すと、二高のガクランは、ブレザー制服の東和の付属中学の男子にも受けが悪いッス。二高は、三つの付属校の中で一番偏差値が低いんで、東和付属中学に通う男子のヤツらは、教師・親から、
「しっかり勉強せいよ!でないと、第一には推薦してやらんぞ!第二へ行ったら、来年から超ダサいカラスだからな!」
って、脅かされているらしいッス。もちろん、おしゃれなデザイナーズ・ブランドのブレザー制服でなくて超バンカラの黒ガクランなので「カラス」っす。
そして、三つ目は、埼玉県・大宮市(現在のさいたま市大宮区)にある第三高校ッス。ここは共学っスけど、帰国子女でスペイン語がペラペェ〜〜ラァとか、バイオリンが実はプロ並とか、偏差値では測れないちょっとユニークなヤツらが進学してくる高校ッス。
まあ、知力の第一(共学)、体力の第二(男子)、一芸の第三(共学)って東和の中では言われているッス。
で、オレが社会科教師として勤めることになった付属第二高校っつうのは、肉体派の金持ち息子が多いっスね。だから、ガタイには恵まれて体力はバッチシのヤツが多いッスけど、総じて根性・ガッツはイマイチのヤツばっかしッス。中学まで甘やかされっぱなしで育ってきたんでしょうね。
まあ、中高六年一貫男子校でスパルタ式の明和と違って、「東和の伝統」としては「根性を鍛えるのは大学に入ってから」ッスけどね。
あ!皆さん、東和大付属第二高校・野球部は、あのLP学園・野球部の最強のライバルで、甲子園では「東の横綱」って呼ばれているってどこかで聞いたことがあるかもしれないッスけど、それは、古きよき「昭和」の時代の話ッス。平成になってからは、LP学園に一勝もできないどころか、県大会突破も無理な状態が続いているていたらくッス。
でも、東和の付属第二高校はそこそこ校則とかは厳しいッスよ。
その厳しい校則を一手に支えるのが、生徒からは、「ゴリ」ってあだ名で恐れられている体育教師にして、生活指導担当主任、しかも、教頭の次に偉い教務主任も担当している猿田泰造(エンダ タイゾウ)先生ッス。
ゴリは、生活指導担当主任教諭として生徒ににらみをきかし、教務主任として、オレたち新人教師に睨みをきかしてるッス。体育教師が、教務主任になるところなんか、「肉体派の付属第二」の真骨頂ッスね。
しかも、ゴリは、東和大の応援団出身のバリバリの硬派で、付属二高の教師の中で45歳にして、すでに「一人時代錯誤」状態の中年教師ッス。
「ゴリ」のあだ名は、野毛山動物園(神奈川県横浜市にある動物園ッス。)から逃げ出してきたゴリラにそっくりだかららしいッス。
日に焼けた肌に毛深い腕、北島三郎も顔負けの上に開いた鼻に、40代にしてはフサフサしているボサボサの坊主頭がそのゴリラ度に拍車をかけているッス。
生徒が猿田先生のことを「ゴリ」って呼んでいるのを耳にすると、すかさず、「お前!ちょっとこい!!!!ゴリって誰のことなんだ!え!」となり、「ゴリの竹刀」が生徒のケツに飛ぶッス。ちなみに、「ゴリの竹刀」は付属二高の名物ッス。「ゴリの竹刀」がケツに飛ぶと、少なくとも二日は椅子に座るのが辛いらしいッス。けど、「竹刀」はまだマシな方で、
「ゴリの本名、どう読んでも『サルタ』だよなぁ〜〜!絶対に『エンダ』なんて読めねぇーよー」
とか生徒が言っているのを耳にすると、ゴリは、プツンとマジ切れ状態になるらしいッス。
もちろん、ゴリは、その生徒の胸倉を掴み、
「なんだとぉ〜〜〜〜〜〜サルタだとぉ〜〜〜〜〜〜〜!もういっぺん言ってみろ!」
と、鼻血がでるまで、そして生徒が「間違えました!エンダです!グスン!ごめんなさぁ〜〜〜〜い!」と、泣いて謝るまで、
バシィ〜〜〜〜〜ン!!!!
ベッチィ〜〜〜〜〜ン!!!!
と往復ビンタでボコボコにされるらしいッス。
自分は東和の付属出身じゃないッスけど、実は、自分の親友のアイホは付属出身なんで、ゴリのことはよく知っているッス。
しかも、アイホのヤツ、ゴリからは、三年間、「竹刀」で徹底的に「生活指導」入れられたって話ッス。だから、ゴリにはかなり恨みを持っているッス。
飲み会で酒が入ると、
「ちくしょぉ〜〜〜〜!アイツのこと、いつかボコボコにしてやりてぇ〜〜〜よ!」
といつもいきがってるッス。でも、
「オレを敵に回すってことは、OB会を敵に回すのとおなじだからな!!覚悟してかかってこい!」
のゴリの一言にビビって、いまだ「ボコボコ」にできない状態ッス。応援団出身のゴリのこの言葉は、はっきし言って、自分たち東和の体育会系出身者には、ズシンと重いッス。
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採用が決まってから、自分の「直属の上司」にあたる社会科主任の荒牧先生と、ゴリに挨拶にいったッス。
自慢じゃないッスけど、自分、22歳にしては童顔ッス。だから、ゴリからは、早速、
「おまえ、22にもなって、ガキみたいな顔してるな!そのままだと生徒に舐められるぞ!パンチパーマかけてサングラスしたらどうだ・・・・」
って、パンチ&グラサンの「生活指導」がはいっちまったッス。
自分がその「生活指導」に絶句していると、荒牧先生が、
「エ、エンダ先生・・・ちょ、ちょっと、それは、いかがなものかと・・・藤本先生には、倫理・政経を担当していただく予定ですので・・・」
と、あわててフォロー入れてくれたんで、助かったッス。噂によると、体育科の新任教師は、有無を言わさず、パンチにグラサンらしいッス・・・。
けど、
「お前、学生時代は、フィールドホッケー部だったらしいな!」
って、しっかり自分の得意分野を調べていてくれたんで、ゴリもなかなかだと思ったッス。
「お前、フィールドホッケー部のコーチになれ!あの老いぼれ爺さんが監督じゃ、部員がかわいそうだ・・・」
って、早速、ゴリから教務命令が下ったッス。
そうなんです。東和大学付属第二高校は、全国でもめずらしい、男子フィールドホッケー部がある高校なんです。
もちろん、またフィルホができると思い、自分、マジうれしかったんで、迷わず、
「ハイ!お願いします!がんばります!!」
って、新人らしく元気よく返事をしたッス。