金サポコーチ誕生秘話

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三、二高生・三つの試練

 チィ〜〜〜〜〜ッス。オレ、東和大付属第二高校・社会科教諭の藤本翔太ッス。

 東和二高の名物体育教師・ゴリ(本名:猿田泰造)が二高生に与える試練が卒業までに三つあるって言われてるッス。

@、高一・夏 大磯臨海寮 赤海パン(トラディショナル競泳タイプ)での遠泳

 夏期休暇中・5泊6日で、神奈川県・大磯にある二高所有の大磯臨海寮に合宿し、全員・遠泳・完泳を目指すッス。

 それに先立ち、一学期中間考査終了後から、一年生の体育は水泳一色になるッス(学校プールは室内温水で、50メートルプールが二面ありかなり立派な施設ッス。でも、ゴリが時々生徒に命じる、デッキブラシでのプールサイド磨き罰当番は、地獄ッスよ。)。

 時間割変更により、5・6時間目ぶっ通しでシゴカれるッス。

 東和二高は各学年A〜F組の6クラス体制(一クラス約36名)ッスけど、水泳授業と合宿は2クラス合同で行うッス。

 大磯臨海寮の建物は、木造平屋建てでかなり古く、年季が入っているッスけど、それなりに立派で広い施設ッス。生徒80名くらい余裕で収容ッス。

 合宿中、生徒は、ゴリの命令により、毎早朝、ラジオ体操の後、寮の床と廊下をパンツ一丁で雑巾がけさせられるッス。その方が遠泳よりはるかにキツイってウワサっす。毎年、生徒が雑巾がけでピカピカにするので、建築後、 50年近く経っても、寮建物がもっているって、これもウワサっす。

(15年前に赤フンは廃止されたッス・・・期待されていた方、申し訳ないッス・・・ゴリは職員会議で存続を主張したらしいッスけど、政治力がまだ足りなかったらしいっす。)

A、高二・6月(中間考査と期末考査の間)の相撲大会

 これは、夏に向けて全校生徒の健康・無事故を祈願する奉納相撲ッス。

 高二の体育では、東和大応援団仕込みのゴリによる相撲特訓があるッス・・・(応援団では、体格向上と体力をつけるため、合宿での特訓で相撲をすることが多いッス。)

 フンドシは少年相撲さながらの「六尺」なんで、二高男児の六尺デビューッス。

 この行事によって、人前で「生ケツ」をさらす恥に耐え、さらには恥とは思わなくなる免疫が二高生の中にできるっていわれてるッス・・・

 二高の敷地内には、戦争中に軍部の命令でつくった小さなお社(やしろ)があるッス。もちろん、戦前は、朝の登校時、その社の前で脱帽し一礼することが義務づけられていたッス。

 戦後、新校舎建設時に、その社を取り壊そうとしたッスけど、工事関係者にけが人が続出、さらにその年の大磯臨海寮で食中毒事件がおこり臨海合宿が中止になるなどの「たたり」があり、結局、新校舎設計変更の上、取り壊しは中止し、いまでも残っているイワクつきの神社ッス。その社への奉納相撲っつうわけです。

 あらかじめ高二各クラス毎に全員参加の練習・予選会(もちろん、授業時間割変更の上、5・6時間目ぶっ通し)があり、奉納相撲当日は、各クラスより数名が代表として出場するッス。

 ちなみに、体育授業時練習・予選会は相撲部道場で、クラス代表による奉納相撲は、校内グランド中央部に設えられる特設土俵で行われるッス。

B、高三・5月・体育祭 エッサッサ 

 エッサッサといえばもちろんN体大ッスけど、ゴリの一つ前の体育科主任教諭がN体大出身だったこともあり、ここ東和二高でも、体育祭における高三生の「集団行動」の一つとして行われるッス。

 もちろん、指導はゴリが行い、4月中旬からゴールデンウイークをはさんで体育祭までの一ヶ月間、授業時間割変更の上、5・6時間目ぶっ通しで、2クラス毎、あるいは全クラス合同で、エッサッサっす。

 格好は、体育短パン一丁に、鉢巻で決めるッス。

 今年も自分が教師になってから、午後はほとんど、グランドから聞こえてくる、高三生の

「エッサッサ!エッサッサ!エッサ!エッサ!エッサッサ!」

の掛け声を聞く毎日だったッス。

 以上の三つは、体育の単位と連動しているため、サボることは絶対にできないッス。

・・・・・・・・・

 ゴールデン・ウイークもあけたある日の午後、自分は空き時間をいつもの通り職員室で過ごしていたッス。そろそろ、中間考査の「倫理・政経」の作問のことが頭にチラチラよぎり、憂鬱だったッス。

 5月にしては暑いほどの陽気の中、職員室のグランド側の窓はすべて開け放たれていたッス。

 窓から飛び込んでくる、高三生たちの、

「エッサッサ!エッサッサ!エッサ!エッサ!エッサッサ!」

の掛け声。

 四月の頃に比べると、かなり揃ってきて、気合の入った声になっていたッス。最初は、ゴリのものと思われる、ホイッスルの音にあわせて、

「エッサッサ!エッサッサ!エッサ!エッサ!エッサッサ!」

だったッスけど、いつの頃からか、生徒代表の太鼓の打ち鳴らす音にあわせて、

「エッサッサ!エッサッサ!エッサ!エッサ!エッサッサ!」

になっていたッス。

 そして、生徒の掛け声の「合間を縫う」ように、

「コラァ〜〜!そこなにやっとる!全然、揃っておらん!!」

パァ〜〜〜〜ン!

「コラァ〜〜!バカモン!まわりのヤツに合わせる努力をせい!遅れとるぞ!」

パァ〜〜〜〜ン!パァ〜〜〜〜ン!パァ〜〜〜〜ン!

と、生徒たちの白短パンのケツを叩いて指導するゴリの怒鳴り声と竹刀の音も聞こえてきていたッス。

 たまたま職員室に居合わせた、社会科主任の荒牧先生が、自分に声をかけてきたッス。

「今年のエッサッサもいよいよ仕上げに入ってきましたな・・・」

「は、はい・・・」

 職員室の窓から外を覗く荒牧先生に誘われるようにして、自分も校舎二階の職員室の窓からグランドの方をのぞいったッス。

 グランドでは、3A・3B組のヤツらが、ゴリからエッサッサの指導を受けていたッス。

パァ〜〜〜〜ン!パァ〜〜〜〜ン!パァ〜〜〜〜ン!パァ〜〜〜〜ン!

と、ゴリは、3A・3B組のヤツら列の間を歩き回り、白短パンのケツを遠慮なく竹刀で打って回りながら、怒鳴り散らしていたッス。

 しばらくすると、太鼓の音にあわせて、

「エッサッサ!エッサッサ!エッサ!エッサ!エッサッサ!」

の掛け声が始まったッス。

 荒牧先生は、

「ああ・・・かわいそうに・・・猿田先生も、もうちょっと手加減してあげればいいのに・・・ 猿田先生は昔とちっとも変っとらんなぁ・・・」

とつぶやくように言ったッス。

 不思議そうな顔をして、荒牧先生の顔をのぞきこむ自分に、荒牧先生は、

「そうかぁ・・・藤本先生にそう言ってもわからんかぁ・・・実はねぇ〜〜、僕と猿田先生は、同じ年にこの学校に来たんですよ・・・もう二十数年前になりますがね・・・」

「え・・・そうなんですかぁ・・・」

「そうです・・・二十数年間・・・猿田先生は、ずっとあの調子で、生徒を厳しく指導し続けて、全然、丸くなりませんよ・・・ワハハハ・・・」

「・・・・」

「僕もね・・・藤本先生・・・昔は、猿田先生のあのやり方に反対して、猿田先生とは、随分と、生徒指導法に関して口角泡を飛ばす教育論議を戦わしたものです・・・」

「え、そうなんですか?」

「ええ、でも最近は、猿田先生のあのやり方も正しいのかなと、僕は思っているんですよ・・・見て下さい・・・今年のエッサッサも・・・なんやかんやいって、モノになってきているじゃないですか・・・」

「はあ・・・」

「子供たちも、口ではいきがって反抗していても、結局、猿田先生についていっている・・・」

「はあ・・・」

「猿田先生は、生徒から逃げたりはしない・・・いつも、正攻法・真っ正直で生徒に向かっていきますからな・・・いくら現代っ子とはいえ、生徒たちも、そんな猿田先生になにかを感じるのでしょう・・・」

「はあ・・・」

「まあ、生徒たちにとって、猿田先生は、ちょっと厳しいオヤジであり、親分でもあるんですな・・・」

「はあ・・・」

「男の子っていうのはかわいいもんです・・・親分だって思った人には、どんなに竹刀で打たれても、泣きながらでも歯を喰いしばってついていく・・・」

「はあ・・・」

「あ、こんな話、藤本先生には退屈でしたね・・・すいません・・・どうですか?藤本先生・・・少しは慣れてきましたか・・・ 」

「え、ええ、おかげさまで・・・」

「そうですか・・・体育祭が終ればまもなく中間考査ですね。大変でしょうが、お互いにがんばりましょう。わからないことがあったら、なんでも聞いてください・・・僕でよかったら相談に乗りますから。」

「ありがとうございます!よろしくお願いします!」

 自分の挨拶にやさしく頷くと、荒牧先生は、席へ戻っていったッス。

♪キンコンカンコォ〜〜〜〜ン♪

♪コンキンカンコォ〜〜〜〜ン♪

♪キンコンカンコォ〜〜〜〜ン♪

♪カンコンキンコォ〜〜〜〜ン♪

  ほどなく、6時間目の終業をしらせるチャイムが鳴ったッス。

 そして、グランドでは、

「A組全員!居残り練習!!!気合が全然はいっとらん!!」

のゴリの声が響いていたッス。

「えぇ〜〜〜〜、勘弁してくださいよ!!!!」

 一斉に、ざわつき、不平を口にする3年A組の生徒たち。

「うるさい!さあ、居残りだ!全員、潔く、短パンを脱げ!!!」

「えぇ〜〜〜〜〜〜〜!やばいッスよ〜〜〜〜〜!後輩にパンツみられちゃいますよ!!!」

「バカモン!パンツ一丁でシゴカれてんの後輩に見られたくなかったら、今度から、ちっとはまともに練習せい!このままじゃ、体育祭に間に合わんぞ!さあ、短パンは居残り練習が終るまで没収だ!!」

 B組の連中がニヤニヤしながら教室へと戻っていく中、A組の連中は、グランドのど真ん中で、短パンを脱ぎ始め、それをゴリが持っていたダンボールの箱の中へ次々と投げ入れていくッス。

 エッサッサ練習期間中、ゴリとの約束で、体育の時間に気合の入った練習をしないと「居残り・エッサッサ」となるッス。居残りエッサッサは、全員、短パンを脱ぎ白ブリーフ一丁で行う、超恥ずかしい「ブリーフ・エッサッサ」なんスよ・・・

 A組は、運動部の主将が一番多いクラスっすからね・・・アイツら、部活の後輩たちの前で、ブリーフ一丁でエッサッサ!叫ばされて、立場ねぇ〜〜だろうなぁ・・・でも、ちょっと楽しみだなぁ・・・なんて思いながら、一人、3年A組の居残りエッサッサ練習を、見物する自分だったッス。

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