金サポコーチ誕生秘話

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四ー2、名前を忘れた罰

 ウッス!自分、3Bの辻大輔です。藤本先生に指名されて、前回に引き続き、皆さんに今年度のエッサッサについて、 お話することになりました。よろしくッス!

 どのクラスにもちょっと情けねぇ〜ヤツっていますよね・・・実は、自分がクラス委員長している3Bにも一人いるんスよ。しかも、ソイツ、俺の幼馴染なんで、なおさら話はやっかいなんです。

 ソイツの名前は、片桐孝太郎。自分は、コータローって呼んでます。

 コータローとは、中学まで一緒に野球やってた仲なんです。もち、東和二高に入っても、一緒に野球部に入部したッス。

 けど、コータローのヤツ、一年の夏合宿を前にOB先輩のケツバットが怖いとかなんとか情けねぇ〜〜こと言い始めちゃって、自分たち一年が必死で説得したッスけど、結局ダメで、コータローは退部しちまったッス。

 それで、OB先輩に夏合宿を前に一年が一人退部したことがばれちまって、自分たち一年はもうたいへんだったッス。コータローの分だけ余分にケツバット食らったんスから・・・

 そういうわけで、自分たち野球部員同期は、コータローに結構恨み持ってるヤツ多いッスよ。だから、帰宅部になっちまったコータローは、それ以来、なにかにつけてイジメの対象になってるッス。

 もちろん自分は、幼馴染として、アイツをフォローしてやんないといけない訳で・・・トホホ。ホントにコータローって、世話が焼ける情けないヤツっす。

 しかも、ゴリっす。

 ゴリにとって「運動部中途退部者」は「不良予備軍」の最右翼ッス。だからコータローは、野球部退部以来、ゴリにも目をつけられ、ことある毎に、なにかにつけては、いびられっぱなしだったッス。 

 コータローは、そのストレスに暴飲暴食気味。さらに運動不足も影響して、野球部捕手体型→柔道部体型→相撲部体型と、坂道を転げ落ちるように太っていったッス・・・

 そして、今回のエッサッサ特訓で、ついにゴリのイビリは、その頂点に達し、爆発してしまったッス。

 その日の午後・・・

 今日も今日とて、自分たち高三は、あの憂鬱なエッサッサ特訓だったッス。体育祭が終るまでの試練ッス。

 5、6時間目ブッ通しで、鉢巻、そして、ブリーフに短パン一丁で、エッサッサ!って叫ばされるッス。

 グランドに、3A、3B、それぞれ4×9列に、 お互いに2mは間隔開けて並んでるんで、ゴリはその間を歩き回っては、自分たちのケツを竹刀でパァ〜〜〜ン!パァ〜〜〜〜ン!とこれでもかってくらい思いっきし殴っていくッス。

 野球部とかサッカー部とか、「メジャーな」運動部に所属する自分たちのケツには、特に容赦なく、竹刀が飛んでくるんで、自分たちのケツは、もうジリジリジリジリ、焼けるように痛むッス。そして、自分たちのケツは、ほんとうにもう、紫色の痣だけになるッス。

 でも、特訓後、シャワー室で「あ!アイツのケツにも痣があるぜ!」とかって、お互いに痣を見たり見せ合ったりしてると、運動部の野郎同士、連帯感、ビンビンに感じて、もう最高ッスよ。女の子にはぜってぇーーみせられねぇ「男だけの勲章」ッスから・・・

 で、悪いことに、体育会も翌週に迫っていたその日のゴリの機嫌は最悪だったッス。

 もう初っ端から、いきなり、

「おめえらの中によぉ〜〜〜、声ぜんぜん出してねぇ〜ヤツがいるんだよ!まわりのヤツらが気合入れてエッサッサやってる影に隠れて、適当にごまかそうとしているヤツがいるんだよ!!え!わかってんのか ぁ!!!」

ですもん・・・トホホ。

「あぁ〜〜今日はなにかありそうなやな予感だぁ・・・」

って、自分たち全員、初っ端から胸騒ぎがしてたッス。

 そして予想通り、ゴリは、

「よし!これから、おめぇ〜らのエッサッサの仕上がり具合をタップリと見せてもらうことにする!一列目!前に出て回れェ〜〜〜〜右!」

って自分たちに宣言したッス。

「あ〜〜〜〜、デタァ〜〜〜〜、今日の練習は長くなるぞ・・・」

って、自分たちは、もう暗澹たる気分になっていたッス。

 それは、ゴリが「全日本中等教育・体育教育学会・集団行動部会」で提唱している、

「エッサッサ・マトリックス(行列)・訓練法」

の始まりの宣言だったッス。

(注:ゴリはN体大出身じゃなく、東和大学・教育学部・スポーツ科学科出身 なんで、上の特訓法は、学会では軽くシカトされてるッス。だから、これは東和二高のオリジナル特訓法ッス。)

 エッサッサ・マトリックス(行列)・特訓法 では、全体でエッサッサをやるのではなく、各組4行×9列に並んでいるところから、一行ずつ4人で、あるいは一列ずつ9人で、あるいは左右一対角線ずつ3〜4人で、エッサッサをやらされるッス。だから、ぜってぇ〜〜サボれないッス。

 他の連中は、座って見学ッス。もちろん、短パンのわきから白ブリ・チラミエ必至の伝統的「体育座り」ッス。

 で、その日も、マトリックス訓練法・その一・「行揃え」から始まったってわけッス。

 ゴリの号令で、4行×9列に並んでいるA組、B組の一番前のヤツら8人が一歩前に進み出て回れ右して自分たちの方を向いて、エッサッサっす。

 もちろん、ゴリからは厳しく注文がつき、前に出された8人のヤツらの短パンのケツには、ケツ竹刀の集中攻撃ッス。

「エッサッサ!!エッサッサ!!」←8人の野郎の雄たけび

「コラッ!お前ら、ぜんぜん声が出とらん!」←声が出てても・・・ゴリの怒号 

 パァ〜〜〜〜ン!!!!パァ〜〜〜〜ン!!!!パァ〜〜〜〜ン!!!!パァ〜〜〜〜ン!!!!←ケツ竹刀集中攻撃打

「エッサ!エッサ!エッサッサ!!!!」

「ぜんぜん揃ってねぇ〜〜〜んだよ!」

 パァ〜〜〜〜ン!!!!パァ〜〜〜〜ン!!!!パァ〜〜〜〜ン!!!!パァ〜〜〜〜ン!!!!

「ウ、ウィ〜〜〜〜〜ス!」

「最初からやり直しだ!!」←ケツ竹刀・もう一周の意味もある!

「ウ、ウィ〜〜〜〜〜ス!」

「エ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!ッサッサ!エッサッサ!エッサッサ!」

「隣のヤツにあわせるんだ!!!もっと意識を集中しろ!!」

 パァ〜〜〜〜ン!!!!パァ〜〜〜〜ン!!!!パァ〜〜〜〜ン!!!!パァ〜〜〜〜ン!!!!

「エッサ!エッサ!エッサッサ!!!!」

「まだまだぁ〜〜〜〜!!もっと気合をいれろ!!!」

 パァ〜〜〜〜ン!!!!パァ〜〜〜〜ン!!!!パァ〜〜〜〜ン!!!!パァ〜〜〜〜ン!!!!

 こんな感じで何回も何回もエッサッサをやらされるッス。練習し始めの頃は、結構、みんな適当に手を抜いてやっていたんで、初めてこれを見たときは、誰もが、

「やっべぇ〜〜〜〜、マジィ〜〜〜〜」

って思ったッス。

 しかも、ケツ竹刀後のあのジリジリと襲ってくるケツの痛さを辛そうにガマンしている仲間の表情を目の前でまざまざと見せ付けられるんで、次は俺かぁ〜〜〜ってもうたまんないッス。ゴリって、マジ陰険ッス。

 マトリックス訓練法では、この他、前後のヤツらと息を揃えるための「列揃え訓練」、斜め前後のヤツと息を揃えるための「対角線揃え(右)」「対角線揃え(左)」があるッス。

 特に、居残りブリーフ・エッサッサでは必ずどれか一つやらされるんで、グランドで少人数だけで突っ立って、後輩たちもみている前でのブリーフ一丁エッサッサは、もう超恥ずかしいッス・・・

 その日も、一行8人(A、B2クラス)、最低三周はエッサッサ叫ばされて、自分たち、ゴリからこれでもかってくらい徹底的にシゴかれていたッス・・・

 そして、だんだん自分の並んでいた「行」の番が近づいてきたッス。その日は、A組の佐々木が太鼓打ちだったんで、自分はB組の中に入ってエッサッサっす。

 自分の一つ前、斜め横にコータローがいて、ゴリの

「よし!次!前に出て回れ右!」

の号令で、コータローたちが立って前にでて、自分たちの方を向いたッス。

 自分は、一番前で、コータローの短パンがよく見えたッス。こっちを向いたコータローの短パンを自分はぼんやりながめながら、

「あれ・・・あの短パン、どこかで見たことあるよなぁ・・・」

なんて思いながら、コータローの短パンにどことなく違和感を感じていたッス。

 なんかコータローにしては、やけにピッチリしている短パンだったッス。いつもより、コータローの腹の出具合が、際立っていたッス・・・

「あっ!アイツ・・・俺の短パン・・・ガメやがった・・・」

(注:ガメる・・・http://shigo.com/view.cgi?1704 を参照のこと。男子校の一部ではまだ生きている言葉ッス。)

 体育祭の練習で体育の時間割り変更がしょっちゅうのこの時期、マジ、体育着って忘れやすいッス。

 もちろん、自分たち運動部所属のヤツも、部活の時は、あんなダサい白短パンははきませんよ!後輩に体育短パンはかせて罰ランやらせることはあるッスけど・・・

 だから、普段はロッカーの中に放りっぱなしッス。でも、短パンがあんまり汚れてると、ゴリが結構うるさいんスよ・・・機嫌悪いと、 すぐに手もみ洗いさせられて乾かしている間、マジでブリーフ一丁で一人罰ランになるッスから・・・しかも、

「おめえ一人、パンツ一丁じゃかわいそうだな・・・よし!今日はクラス全員、パンツ一丁で体育だ!」

なんて、ゴリのヤツ、マジで言いかねないッスから・・・

 そうなったら、マジやばいんで、自分たち、コマメに家に持ち帰ったり、後輩に命令したりして、短パンを洗濯するんスよ。

 でも、そういう時に、結構、忘れるんスよね・・・ 自分も一年の時、三年の先輩に短パンの洗濯命令されて、うっかりその先輩の短パン忘れちまって・・・その先輩、ゴリの体育の時間中、一人・ブリーフ・罰ランだったッス・・・もちろん、その後、部活で一年生全員・連帯責任のブリーフ罰ランで、マジ、周りのヤツラには迷惑かけたッス。

 エッサッサ練習のこの時期に短パン忘れると、もうブリーフ・エッサッサ確実なんで・・・自分は対策として、ロッカーに短パンをもう一丁余分にキープしてあるッス。

 目の前でコータローのヤツがはいてる短パン・・・それは間違いなく、自分がロッカーにキープしてあった短パンだったッス。

(今年の東和二高の生徒会スローガンは、「仲間を信じよーぜー!」なんで、ゴリの了解のもと、「ロッカー鍵なし」キャンペーンを実施中だったッス。もちろん、キャンペーン期間中は、校内盗難事故ゼロを目指しているッス。ゴリも自分たち生徒会の意向に賛同してくれて、生活指導主任として校長先生に交渉してくれたッス。だから、ゴリったら、今年、やたら神経質になって、自分たちの持ち物の「名前チェック」するんスよ・・・トホホ・・・まるで幼稚園みたいだーーー。)

 案の定、コータローがはいている短パンには、名前が書いてなかったッス・・・俺の短パンなんスから、書けるはずないッス。きっと、練習が終ったら、俺のロッカーにそっと返しておくつもりだったに違いないッス・・・

 もちろん、ゴリがそれを見逃すはずなかったッス・・・・

  普段のゴリだったら、

「コラ!クラス名と名前が消えかかってるぞ!盗まれたらどうする!今度までに書き直しとけ!」 

  悪くても、「軽い」ケツ竹刀一発で済んだはずだったッス。

 けど、体育祭の前ッス。ゴリの機嫌は、もう最悪だったッス。

「コラぁッ!B組の一番右のヤツ!」

 ゴリの突然の怒鳴り声に、エッサッサは止まり、グランドにいた自分たち・・・いや、学校中がシィ〜〜〜ンとなったッス。

 もう、自分、これからどうなるのか・・・心臓、バクバクだったッス。

「おめえだよ!なにボケッとしてやがるんだ!」

 ゴリは、コータローのところへ近寄ると、コータローの短パンの腰ゴムをグッと引っ張ると、

「おめえ!名前どうした!短パンにはクラス名、出席番号、苗字を書いておくようにいってあんだろう!高三にもなって、しかも体育祭の直前だぞ!!」

「わ、わすれました・・・」

 コータローは蚊のなくようなちっちゃな震える声だったッス。

 ゴリは、さらにいらついたように、コータローの耳をおもいきし引っ張って、

 「ナニィ〜〜〜、腹から声ださなきゃ、聞こえねーんだよ!!!」

と、コータローの耳元で怒鳴ったッス。

 コータローは、真っ赤な顔で、今度はほとんど泣き叫ぶように、

「な、名前を忘れましたぁ!!」

って言ったッス。

 ゴリは、口元に意地悪い笑みを浮かべながら、

「ナニィ〜〜〜。名前を忘れただとぉ〜〜〜〜?」

って、コータローに聞き返したッス。

 コータローは、デッカイ声で、

「は、はい!名前忘れました!」

って答えちまったッス・・・

 ゴリはすかさず、

「そうかぁ・・・おめえ、若いのにアルツハイマーかぁ・・・そりゃ、いけねぇ〜なぁ〜〜!」

 自分を含めて、そこにいる全員が、「あ〜〜〜でたぁ〜〜〜」と思ったッス。コータローは、ゴリの罠にまんまとはまっちまったッス・・・

「面白いことになりそうだぜ・・・フフフ」

って、A組のヤツラなんか、もうニヤニヤ笑っていたッス・・・

 自分は、もう

「バカヤロー、おまえなんて、もう手におえねぇ〜〜よ・・・」

って感じだったッス。

 B組の他の連中も、

「片桐のバカ野郎・・・もう俺、しぃ〜〜らねぇ〜〜〜!」

って、あきらめムードだったッス。

 コータローは、もう真っ赤な顔を通りこし、真っ青になってブルブルと震えていたッス。

「俺がいい治療法しってからよぉ〜〜!おめえにやってやるよ!」

「い、いや・・・え、遠慮・・・・・」

 コータローは、もうそれ以上、言葉にならなかったッス・・・

「なんだよ・・・遠慮しなくていいよ・・・他ではしらねぇ〜が、おめえら二高生のアルツハイマーには、これが一番よく効くんだよ! 回れ右だ!!!」

って、ついにゴリはコータローに命令したッス。

 ブルブル震えて、回れ右できないコータローに、ゴリは、

「回れ右っていってんだよ!!!俺の方にさっさとケツ向けろって言ってんだ!このバカ野郎!!」

って語気を強めて言うと、コータローの両肩をグイとつかんで、コータローを強引に後ろ向きにさせたッス。

 もうゴリを止めることはだれにもできなかったッス。そしてゴリは、コータローに止めを刺したッス・・・

「短パンとパンツおろして、ケツだせ!!」

 A組の連中からは大爆笑が起こり、自分たちB組は、スゲェ〜〜重い空気に押しつぶされそうだったッス。

 コータローは、再び、ゆでタコみたいに足の先から頭のてっぺんまで真っ赤になり、モジモジするだけだったッス。

 ゴリは、すかさず、

「おめえ、短パンとパンツの下ろし方まで忘れたのかぁ?え??こりゃ重症だな・・・よし、俺が教えてやる!!!短パンとパンツはだな!こうやって下ろすんだ!!!」

と言うと、コータローの短パン、そして、ブリーフの腰ゴムの後ろの部分をガバと鷲掴みにして、グイっとそれを下ろしたッス。

「や、やめて・・・・」

と、コータローはか弱く泣くような声でゴリに必死で懇願したッス。そして、腰ゴムの前の部分を両手で必死に握り締めて、チンチン晒しだけは逃れようとしてたッス。

 鬼のゴリも、コータローの短パンとパンツをそれ以上下ろそうとはしなかったッス。

 自分たちの前に、妙に真っ白で、エッサッサの練習でゴリの竹刀が炸裂した真っ赤な数本の筋も鮮やかな、コータローの生ケツが、ペロォ〜〜〜ンってむき出しになっていたッス。

「おい!誰か・・・コイツに自分の名前、教えてやれ!」

って、ゴリが、自分たちに聞いてきたッス。

 もちろん、自分たちB組の連中は、誰もこたえず、シィ〜〜〜ンと白けていたッス。

 A組の誰かが、

「ブタです!!」

「ブヒィ〜〜!ブヒィ〜〜!」

ってふざけて答えたッス。

 ゴリは、ゴリの担任クラスのA組の連中をギロリと睨みつけ、

「ふざけるんじゃねぇ〜〜!おめえらも全員、アルツハイマー治療してほしいのか!!」

って、ド迫力で叱りつけたッス。

「辻!おめえ、B組のクラス委員長だろ!コイツの名前なんてーだ?え?」

 あ〜〜〜、ついに自分が指名されちまったッス・・・しゃぁ〜ないッス・・・

「片桐です・・・」

って、自分は答えるしかなかったッス。

 ゴリは、

「片桐だな!よし!」

って言うと、ジャージ・トレパンの脇ポケットから極太油性赤マジックを取り出すと、ペロンと剥き出しのコータローの左ケツに、

3B

って、そして、右ケツには、

片桐

って、遠慮なくデカデカと書き込んだッス。

 A組からは大爆笑が起こり、

「ブヒィ〜〜!ブヒィ〜〜!」

って、コータローを侮辱するブタの鳴き真似が聞こえてきたッス。

 自分たちB組は、もう情けなくて、うつむいているしかなかったッス・・・畜生!!A組に負けたッス・・・

「よし!片桐!パンツと短パンを上げるんだ!いいか、もう二度と自分のクラスと名前を忘れねぇ〜ように、いま俺がお前のケツに書いた3B片桐の文字をお前の脳天まで叩き込んでやる!ケツを出せィ!」

って命令したッス。

 全校生徒の前で生ケツさらしたもほとんど同然のコータローは、もう恥ずかしさを通り越して、放心状態のまま、両手を頭の後ろで組むと、状態をやや屈めてケツを後ろに突き出したッス。

パァ〜〜〜ン!パァ〜〜〜ン!パァ〜〜〜ン!

って、あのド派手な、「短パンケツ竹刀」の音がシィ〜〜ンと静まり返った校庭に響いたッス。

 ものすごい衝撃とともに、自分のクラスと苗字の「3B片桐」が、ゴリの竹刀によって、コータローのケツから脳天へと打ち上げられ突き抜けていったに違いないッス・・・ジリジリと焼けるような余韻とともに・・・

 自分たちは、それをやられたものの胸に「トラウマ」という一生消えない高校時代の思い出を残すといわれる、伝説の「ゴリの生ケツ・オンネーム」の儀式を目の当たりにして、興奮気味だったッス。

キンコンカンコォ〜〜ン!コンキンカンコォ〜〜〜ン!

と、その興奮を冷ますように、6時間目終了のチャイムが、学校に響き渡ったッス。

 ゴリは、そのチャイムを聞くと、ホイッスルをピィ〜〜と吹くと、

「よし!A組の今日の練習はここまで!B組は、居残りだ!パンツ一丁!」

って、まるで片桐の失態の連帯責任といわんばかりに、自分たちB組に「居残り・ブリーフ・エッサッサ」を宣言したッス。

「やりぃ〜〜〜!!終った!!!」

と、A組の連中はおおはしゃぎで、教室へ、シャワー室へと、戻っていったッス。

 一方、自分たちB組は、

「えぇ〜〜、マジ・・・」

って言いながら、騒がしくなった校舎からでてくる後輩たちの目を気にしながら、短パンを脱ぎブリーフ一丁になって、再び、4×9列に整列したッス。

 コータローは、自分たちB組のヤツらと目をあわすこともできず、うつむきがちにエッサッサの隊列に戻ろうとしたッス・・・

 しかし、ゴリは、コータローに情け容赦なく、

「片桐!短パンにクラスと名前を書いとらんヤツは、エッサッサの練習に出る資格はない!おめえは、居残り練習が終るまで朝礼台に立ってろ!!!」

って、命令したッス。

 しかも、朝礼台に昇ったコータローに、ゴリったら、

「片桐!短パンを頭から被ってろ!いいな!」

「回れ右だ!校舎の方を向くんだ!」

ッスよ・・・陰険ッスよね・・・ゴリってホント。

 短パン頭から被って、ブリーフ丸出しのコータローの情けねぇ〜姿は、校舎の窓から、よく見えるわけで・・・

「先輩ぁ〜〜い!パンツの前が黄色ッスよ!ギャハハハハ・・・」

って、高2の後輩のやんちゃな野郎たちからは野次られて、コータローは、まさに晒し者だったッス。自分の短パンを黙って持ち出した報いッス・・・

 そして、自分たちB組の「居残り・エッサッサ」は、コータローのために中断した「マトリックス特訓法・行揃え」を三周で、ミッチシ、シゴかれたッス・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ケツがド派手だぁ〜〜〜!!」

 自分たち運動部の連中は、エッサッサが終ると、たいてい体育館一階にある「運動部共用シャワー室」に直行なんスけど、自分たちB組のヤツらは、その日、お互いのケツを見て、思わず叫んじまったッス。

 青、赤、紫・・・・ストライプに斑点と、自分たちの左右、両ケツには、全面ベッタリと、ゴリの竹刀で打ちのめされた痕がクッキリだったッス。

 シャワーを浴びながら、B組の連中は、

「あのブタ野郎・・・絶対に許さん!明日学校に出てきやがったら、ただじゃおかねぇ〜〜〜!! 」

って口々に、コータローに対する恨み節だったッス。

 絶対に負けたくねぇ〜〜、自分のライバル、3Aの佐々木 なんか、エッサッサの後、わざわざ自分のとこまでやってきて、ニヤニヤしながら、

「よぉ〜〜辻・・・おまえたちのクラス、今日たいへんだったじゃんか!ああいうヤツがクラスに一人いると、おめぇ〜らも苦労するよな!あのブタ野郎、もう学校これねぇ〜〜んじゃねぇ〜〜。」

って、言うんスよ。

 しかも、佐々木と仲のいいA組の連中は、

「体育祭休んだら、大変だよなぁ〜〜〜、ゴリ、ぜってぇ〜〜単位くんねぇーぜ!」

「体育の単位落として留年かよ!悲惨だぁ〜〜〜!」

「体育の単位落として留年なんて、後輩の手前、立場ねぇ〜〜じゃん!!!!」

「かっこわりぃ〜〜〜〜!!!ギャハハハハ!!!!」

って、ニヤニヤしながら、言ってるッス。

 確かにゴリから「生ケツ・オンネーム」食らうと、その後、三年間は立ち直れねぇって話っすから、そういうことも充分ありえるわけッス。自分の短パンをロッカーから黙って持ち出した報いッス・・・ いわば、自業自得ッス。

 自分としてはですねぇ・・・コータローが留年して後輩とタメになってどんな「地獄」をみようと半分どうでもいいんスけどね・・・しかしッス・・・3Bのクラス委員長として、A組に負けるわけには絶対ぇ〜〜いかないッス。

 たとえ、コータロー1人とはいえ、自分たちのクラスからエッサッサの脱落者を一人出すってことは、A組に、そして、佐々木に負けるってことッス。それは絶対、ありえねぇ〜〜ことッス!

 だから、コータローを絶対ぇ〜〜脱落させるわけにはいかなかったッス・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 案の定、その次の日、コータローは「病欠」だったッス。

 放課後、自分は野球部の練習を休んで、コータローに家にいったッス。

 コータローの家は、田園調布にあって、オヤジさんは片桐物産の社長で大金持ちッス。銀座の高級輸入食器専門店「ギャルリー片桐」は、コータローのオヤジさんが経営する会社の直営店ッス。

 で、自慢じゃないッスけど、コータローの家のとなりが自分んちなんスよ。今度遊びに来てくださいね!自分のオヤジは、「辻フーズ・インタナショナル」の社長で、万札持たなきゃ入れない高級スーパー「FOOD・GARDEN・TUZI」は、自分のオヤジの会社が持っているスーパーチェーンっす。 

 ま、そんなことどうでもいいんスけど、コータローの家の呼び鈴を押して、自分がインターホン越しにコータローに面会を申し出ると、案の定、家政婦の山田さんが出て、

「おぼっちゃまは、ご病気で、今日はどなたにもお会いできません!」

って、なかなかガードきついッス。

 で、自分は、コータローに家の裏に回って塀をよじ登ったッス。もちろん、番犬ドーベルマンのマックスには、ヤツの大好きな「FOOD・GARDEN・TUZI」自慢の3000円の超高級カツサンドを一切れ与えておいたので、もう咆えないッス。

 でも、家の中までは、さすが自分でも入れないんで、コータローの部屋の下までくると、二階のコータローの部屋の窓に向かって、小石を何回も投げつけて、「隠れてないで出て来いよ!男らしくねーぞー!」って合図を送ったッス。けど、そん時は、なんど石を投げつけても、コータローったら出てこなかったッス。

 仕方ないんで、てめちゃくちゃ恐ぇ〜〜ガードマンの北本さんに庭に忍び込んだの見つかってケツ叩かれて追い出されるの覚悟で、部屋に隠れているコータローに聞こえるように、

「コータロー!おめえ、悔しくねぇ〜〜のかよ!このままだと、ゴリに負けたことになるんだぞ!おめえ、悔しくねぇ〜〜のかよ!体育祭で気合の入ったエッサッサやって、ゴリのこと見返してやろーぜーーー!そのためにはさぁーーー、お前の力も必要なんだよ!!出てきてくれよ!な!頼むからさぁ!!出て来いよ!!」

って、何度も何度も、コータローの部屋に向かって、コータローに大声で語りかけたッス。

 とうとう、

「コラァ!隣の悪がきだな!!塀をよじ登って忍び込むなって、何度言ったら分かるんだ!この懲りない悪がきめ!!ケツぶっ叩いてやる!」

って、警棒振りかざして、迫ってきたッス。

 ゴリのケツ竹刀の後、北本さんのケツ警棒なんて、いっくら自分でも勘弁してほしかったッス。あの木製警棒でケツ叩かれると、マジ、一週間くらい、まともに椅子に座れないんスよ・・・自分は、「マジ、ヤベェ〜〜、北本さんの好物なんなんだぁ〜〜?」なんて思いながらも、

「コータロー出て来いよ!男だろ!ゴリのこと、一緒に、見返してやろうぜ!!」

って、念じるように叫んだッス。

「コォラァ〜〜〜〜ッ!この悪がきめ!!!覚悟せいよ!」

って、ガードマンの北本さんが、自分のこと押さえつけて、自分のケツを警棒で叩こうとしたその時、コータローの部屋の窓がついに開いたッス!

「北本!やめろ!お前も知ってるだろ!ソイツは、ボクの友達なんだ。今日、会う約束してたんだ!」

って言ってくれたッス。

「わかりました・・・おぼっちゃまがそうおっしゃられるのであれば・・・北本、もうお邪魔はいたしません・・・」

って言って自分のこと放してくれたッス。ガードマンの北本さんたら、自分のケツを叩き損なったのがよほど悔しかったのか、苦虫をつぶしたような顔をして門の方へ戻っていったッス。

 やっと、コータローが裏庭まで降りてきてくれたッス・・・こうやって、コータローと「さし」で話すのは、ほんと久しぶりだったッス・・・

「昨日はすまなかった・・・これ、借りてたヤツ・・・」

って、コータローは、自分の短パンを申し訳なさそうに差出たッス。

「今度から言えよな・・・みずくせーぞ!」

「ああ・・・すまなかった・・・」

「ケツ・・・大丈夫だったか・・・おまえ、随分派手に殴られてたもんな・・・」

「ああ・・・大丈夫だ・・・」

「明日は絶対に出て来いよ・・・」

「ああ・・・」

「それから・・・」

「わかってる・・・自主ボーズだろ・・・」

「よし!そんなら話が早いじゃん!これから一緒にバーバー田園調布へ行こうぜ!」

「おお!」

 もちろん、自分はクラス委員として、コータローと一緒に自主ボーズ決めて、クラスのみんなに詫び入れッス。それがコータローをクラス全員シカト状態から、救ってやれる唯一の道だったッス・・・

 そして、翌日、自主ボーズ決めた自分とコータローは、B組のヤツラから

「お〜〜〜、お前ら気合入ってるじゃん!」

の賞賛の声で迎えられ、一件落着となったッス。

 藤本先生!!自分からの今年のエッサッサ・エピソード報告は以上ッス。体育祭の自分たちのエッサッサ!絶対ぇ〜〜〜〜見逃さないで下さいよ!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 おお!辻君、ごくろうさん!体育祭、楽しみにしてるぞ!

 どうでしたか、みなさん?アイツらのエッサッサ苦労話。

 もう、お気づきと思うッスけど、アイツらのほとんどが、「歩く身代金」といってもいいほどの大金持ちのお坊ちゃまで、俺みたいなしがないサラリーマン教師が一生働き続けても稼ぎきれないような財産を生まれながらにして持っているウルトラリッチな野郎たちってわけッス。

 でも、アイツらはアイツらなりに苦労して、結構、くせぇ〜〜男の青春を送ってるスよね。だから、俺もますますアイツらのことが可愛くて、応援してやりたくなるッス。

 それから、そんなウルトラリッチなアイツらのケツ、バシバシ遠慮なく竹刀でぶっ叩ける、ゴリのプロ教師根性にも、敬礼ッス。

 さて、体育祭当日ですが、A組、B組のほとんどのヤツらが、少し長めのお洒落スポ刈りにキッパリ別れを告げて、アイツらが言うところの「自主ボーズ」で決めて、気合のエッサッサを見せてくれたッス。

 佐々木君の3Aと辻君の3Bって、そんなとこまで張り合って、対抗意識ビンビンなんスよね・・・でも体育祭本番でエッサッサやっているアイツら、息もピッタリだったッスよ。

 自主ボーズと白短パンにつつまれた痣つきのプリケツを誇らしく思いながら、きっとアイツら連帯感ビンビンだったに違いないッスよね。すばらしい気合のエッサッサ見せてくれたアイツらに拍手ッス!

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