目蒲の高校時代---スクール・ブリーフよもやま小話

南寮編・スピンオフの目次に戻る 

一、明和学園のスクール・ブリーフ

二、水曜日の五時間目・高三A組ブリーフ検査

三、水曜日の六時間目・中一C組ブリーフ検査 

四、部活下級生試練

五、目蒲のフォロー

 

一、明和学園のスクール・ブリーフ

 明和学園の校則の中で、一番ユニークなのが、中学一年生から高校三年生まで、下着として、白のブリーフを指定されることだろう。いわゆる、スクール・ブリーフであった。

 また、下着の上は、夏・冬を問わず、白のランニングシャツ指定であった。

 指定の下着は、制服とともに、学校指定業者、国鉄・東中野駅前「テーラー松崎」で購入しなければならなかった。

 指定の下着には、クラス(学年は六学年通しで1〜6)、名前を所定の位置に書かなければならなかった。

 そして、着用義務に加えて、常に「清潔」を保たなければならなかった。

 

 生活指導係りの教師たちによって、時々、抜き打ちで、ブリーフ検査が、実施されたが、そこでは、学校指定のブリーフを着用しているかの他に、クラスと名前をきちんと所定の位置に記入しているか(盗難防止のため!)、そして、いつも清潔にしているかも、チェックされた。

 清潔度チェックでは、染みなどがついていないかもちゃんとチェックされてた。

 例えば、中学部・生徒の検査の場合、思春期の男子特有の夢精のあとの薄茶色のゴワゴワの染みも厳しくチェックされた。

 食欲・睡眠欲・性欲は、人間のもっとも基本的な三欲であるといわれる。しかし、特に日本の学校現場では、これら三欲の暴走を嫌う傾向にある。

 明和学園でも例外ではなかった。早弁も、授業中の居眠りも、ケツピン棒の対象であるし、不純異性交遊にいたっては、退学の厳しい処分が下されることもあった。

 しかし、夢精の染みチェックは、生徒の性欲暴走を抑制するのが目的ではない。

 あの染みのチェックを通して、家庭環境のチェックをしているのだ。

 私学の進学校は、生徒の家庭環境をたいへん重視する。親子揃っての面接があるのもそのためだ。

 思春期の男の子にとって、一番恥ずかしいはずの夢精の染みを、親(特に母親)に隠さず洗濯を頼んでいるか?そのようなことでも、フランクに話し合える家庭環境にあるかが、チェックされるのだった。

 また、本来は、ブリーフ裏側に付くはずの、小便の黄色い染みや、いわゆるウン筋が、表についていないかもチェックされた。こちらは、特に高校生の場合に、厳しいチエックが入った。

 これは、何日も風呂にも入らなかったり、ブリーフも取り替えず過ごし、洗濯もせずにブリーフを長持ちさせるため裏返しにはくなど、不精な生活態度をとっていないかを、調べるためであった。

 生活指導係りが津島教諭になって以来、津島教諭担当クラスでは、体育の時間にブリーフ検査をすることが多かった。 

 ブリーフ検査の違反者は、学校指定以外の下着、例えばトランクスをはいていたなど、重大な違反を除き、検査の時、その場で、ケツピン棒三発(竹の棒で作った明和学園特有のケイン)のお世話になった。

この節の先頭へ戻る / このページの先頭へ戻る

二、水曜日の五時間目・高三A組ブリーフ検査

 水曜の五時間目は、目蒲の所属する高三A組(6A)の体育の時間であった。

 明和学園の体育着は、下は、白の短パンであった。生地が薄く、ピタッと小さめのため、例えば後ろから見ると、スクールブリーフの後がはっきりと見え、学校外での、マラソン大会などでは、歩道を歩く者たちから、ブリーフラインがクッキリと丸見えで、恥ずかしかった。

 特に、体育の時間に、学校の敷地にそって学校外の公道を何周かさせられる時は、授業時間によっては、近くの京文女子学園の生徒の下校時に重なるときもあり、女子高校生にブリーフラインを丸晒しにしなければならず、特に、 男子高校生にとっては、赤面ものの恥ずかしさであった。

 明和学園男子は、京文女子学園に通う彼女がいることが多く、ガールフレンドとばったり出くわしてしまい、あとで、

「え!目蒲君たちって、まだ、小学生がはくようなブリーフはいてるんだぁ。」

などと言われ、男子高校生として、そして、ボーイフレンドとしての面目丸つぶれなんてことも多かった。

 また、ピッチリしていて小さめにできているのに加えて、品質がよくないのか、長くはいていると、短パンの裾の部分がヨレヨレになってきて、胡坐をかいて座ったりすると、ブリーフ丸見えにな ったり、いわゆる体育座りしていると、ブリーフがチラチラとハミパン状態になってしまい、クラスの悪友から、

「あ、目蒲、パンツ汚れてる!」

とか、

「あ、目蒲、パンツはみ出してる!うぅ〜〜ん!セクシィ〜!」

なんて、冗談で、意地悪な指摘をされることもあった。

 さて、6Aの体育の担当は、もちろん、津島裕二だった。津島の体育は、出席をとったあと、必ず、四列に並んで、校庭を三週させられる。

 津島のフォイッスルに合わせ、

「1、2!」「1、2!」

と、6Aの野郎どもが、白の短パンと白の体育シャツを着て、大声で掛け声をかけなければならなかった。

 そして、グランド三周が終わると、その場で駆け足・足踏みをしながら、津島の

「全体ぁ〜〜い!止まれ!」

の号令で、

「1、2、3、4、5!」

と、大声で、掛け声を掛け、止まるのであった。

 そして、準備体操に移る。準備体操が終わると、いよいよ、体育の授業が始まるのであるが、その日は、

「そのままで、整列してろ!今日は、久々に下着検査を実施する!」

と、津島が宣言した。

「え〜〜〜〜!もう、俺たち高三スよぉ〜!」

と、目蒲を初めとする6Aの連中の不平の声。

「だからやるんだ!」

 そういうと津島が、ジャージのズボンの下に、刀のように腰から下げて、隠し持っていた、例の黒ケツピン棒を取り出し、素振りし始めた。

「出たよぉ・・・ケツピン棒!もう、勘弁してほしいよ・・・」

 6Aの連中から再び、不平不満の声がもれた。

「うるさい!お前らが違反さえしなきゃ、ケツピンはなしだろ!黙って男らしく検査を受けろ!出席番号順だ!名前を呼ばれたら、俺の前に来て、短パンをおろせ!」

「一番、秋吉!」

「はい!」

 四列にならんだ6Aの連中から、秋吉が前に出てきた。そして、直立不動の姿勢で、津島教諭の前に立ったかと思うと、

「6A一番、秋吉、下着検査、お願いします!」

と、大声で、津島に依頼した。

「よし、短パンを下ろせ!」

と、津島。

「はい!」

と元気に返事をして、秋吉が短パンを膝まで下ろし、再び、直立不動の姿勢になった。

 いきなり、津島の厳しいチェックが入った!

「おまえ、汚ねぇ〜な・・・なんだ、その黄色い染みは・・・」

 本来は、ブリーフ表に付くはずのない小便の黄色い染みが付いていた。

「は、はい・・・」

 クラス全員の前で、自分のブリーフの汚れを指摘され、恥ずかしさで真っ赤になる秋吉だった。

「お前、最近、取り替えてねぇ〜だろ!それになんだ、そのゴワゴワの染みは・・・」

「は、はい・・・すいません・・・」

 何も言えずに、真っ赤な顔の秋吉。

 目蒲などは、

「そこまで、ネチネチ虐めなくていいじゃん・・・」

と内心思って、その光景を眺めていた。

 一方で、秋吉が、津島のネチネチした質問に、答えられず口ごもっている様子をみて、ニヤニヤしている者もいた。

「まあ、そのゴワゴワの染みについては、これ以上聞かないでおこう・・・洗濯すんのが面倒で、お前、裏返しにして、はいていなかったか?」 

「は、はい・・・」

 後ろから、「うわぁ〜!汚ねぇ〜!」のヒソヒソ話が・・・

「高校生から、そんな不精じゃ困るな、なぁ、秋吉!」

「は、はい・・・すいません。今度から、ちゃんと取り替えます・・・」

「お前、パンツを脱げ!」

「え!」

「いいから、脱ぐんだ!」

「は、はい・・・」

 秋吉は真っ赤な顔で、津島の指示に従い、短パンをとり、パンツも脱いだ。津島教諭お得意の羞恥攻めだった。

 下半身フリチンで、上半身は学校指定の体育シャツだけの秋吉は、そのブリーフを手でもった。

「よし、それを両手で拡げて、みんなに見せてやれ!」

「は、はい・・・」 

 秋吉は、恥ずかしそうに下を向きながら、6Aの連中の方を振り返ると、両手で、自分のスクール・ブリーフを拡げ、顔の高さに掲げて、6Aのクラスメートたちに見せた。

「うわぁ〜!汚ねぇ〜!」

の声が、再び、6Aからもれた。

「よし、自分で臭いを嗅いでみろ!秋吉!」

 秋吉は、恐る恐るそれを自分の鼻へ近づけた。自分のものとは思えぬ、醗酵し蒸れて異様な酸っぱい臭いが、秋吉の鼻をついた!

 いったい、何日間、洗濯もせずにはき続けたら、そんな異臭を発するブリーフを作成できるのであろうか?

「うわぁ!臭っせぇ〜〜!」

 思わず、自分のブリーフを放り出す秋吉だった。

 6Aからは、大爆笑が起こった。

「わかったか!そんなに臭くならないうちに、取り替えて、洗濯しろ!」

「は、はい!」

「よし、パンツをはけ!パンツをはいたら、脚を開き屈んで、両膝に手を置き、ケツをしっかりと突き出せ!ケツピン三発だ!」

「はい!」

「よし!ケツピンいくぞ!」

「はい!お世話になります!」

ヒュッ!ビシッ!

「一!お世話になりました!」

 いつもながら、ブリーフ一丁のケツに津島のケツピンは、熱く痛かった。あと二発だ・・・我慢、我慢!

ヒュッ!ピシッ!

「い、痛ちぃ・・・二!お世話になりました!」

 さっきよりも、少し下側、モモに近い部分に、ケツピン棒が振り下ろされた・・・・

ヒュッ!バシッ!

「三!お世話になりました!」

「よし!つぎからは、パンツは清潔にな!次、二番、飯田!」

「はい!お世話になりました。」

と、秋吉は、大声で返事をすると、体育用白短パンをはき、ホンワカ暖かくなったケツをさすりながら、6Aの列の中に戻っていった。

 都会の学校である校舎に囲まれた校庭で、この恥ずかしいブリーフ検査は、行われていた。

 まるで、教室で授業中の全生徒の関心が、校庭の6Aの連中に注がれているのではと思うほど、6Aの連中はこのブリーフ検査が恥ずかしかった・・・

・・・・・・・・・・・

 順調に、検査は進んでいた。トランクスをはいていた不届き者は、あとで、生徒指導室への呼び出しとなった。もちろん、あとでみっちりと、ケツピン棒であった。

 いよいよ、目蒲の番だった。

「次、三十八番!目蒲!」

「はい!」

と返事をすると、目蒲は、津島の前にでて、

「6A三十八番、目蒲、下着検査、お願いします!」

と、大声で、津島に依頼した。

「よし、短パンを下ろせ!」

と、津島。

 短パンを下ろすと、目蒲のブリーフのちょうど前面真ん中に、大きな茶色い染みが付いていた。

 津島は、

「なんだ!この汚れは!不潔だなぁ!」

と尋ねた。

 目蒲は、

「昼休みに、屋上で、パンツ一丁で日焼けしながら、売店のコロッケパン食ってたんです。そしたら、ソースのついたコロッケを、パンツの上に落としてしまって・・・ その染みです・・・パンツは毎日取り替えてますし、洗濯もマメにやってます!」

「そんなうそついてもダメだ!お前のことだ!不精して、何日もパンツを取替えもせず、洗濯もしてないんだろ!」

「違いますよ!本当に昼休みに汚したんです!信じてくださいよ!よく見てくださいよ!」

「ダメだ!ケツピン三発!グズグズ言ってないで、男らしく、ケツをだせ!」

 いつも手を焼いている、やんちゃ坊主の目蒲には、津島は、手厳しかった。

「チェッ!またかよ・・・汚ッタねぇ〜な・・・」

「こら、ブツブツなに言ってんだ!パンツを下ろして、ケツピン倍食らいたいのか!」

「い、いえ・・・遠慮しておきます。」

「ダメだ!口答えをした罰だ。パンツを下ろして、ケツピン六発!」

「ヒェ〜〜、きっびしぃ〜〜!」

 そんな声が、6Aのクラスからもれてきた。

「せ、先生、勘弁して下さいよ・・・」

「ダメだ!はやく、短パンとパンツを脱ぎ、屈んで尻を突き出せ!」

「チェッ!わかりましたよ・・・」

 真っ赤な顔で、口をとがらしながらも、仕方なく津島の指示に従う、目蒲だった。

 丸出しのケツに、ケツピン棒六発!これは、高三生、しかも、野球で鍛えた堅尻の目蒲にもキツイことが予想された。

 6Aの連中は、全員、

「目蒲、絶対、津島に涙見せんなよ!」

と、心の中で叫んでいた。

 津島は、竹棒を頭の上まで振り上げると、目蒲のケツめがけて、思いっきり振り下ろした。

ヒュッ!ビシッ!

「今のは、入ったぜ!」と、6Aの連中、誰もがそう思った。

 目蒲も、ケツを襲う熱い痛みで思わず、上体を起こし、手でケツを押さえたかった。しかし、津島に弱みを見せたくない目蒲は、必死で、我慢し、

「一!お世話になりました!」

と、大声を張り上げた。

「よし!」

というと、津島は再び、そのムチを振り上げ、全体重をかけるようにして、それを目蒲の尻の双丘に振り下ろした。

ヒュッ!ビシッ!

「二!お世話になりました!」

ヒュッ!ビシッ!

「三!お世話になりました!」

ヒュッ!ビシッ!

「四!お世話になりました!」

 休むことなく、三発連続で、津島のケツピン棒が、目蒲を厳しく教育した。

「畜生!ケツが焼けるように痛てぇ〜!」

 目蒲は、そう思いながらも、じっと耐えていた。額からは、脂汗が噴出していた。

ヒュッ!ビシッ!

「痛てぇ〜!」

 目蒲は、反射的に起き上がり、ケツに両手をあてて、必死でさすった。

「こら!目蒲、挨拶はどうした!」

「畜生!」

と、津島にはき捨てるようにいい、再び、屈んで、

「五!お世話になりましたッ!」

と叫ぶ目蒲だった。

「ダメだ!立ち上がって、尻をさすった罰だ!五発目やり直し!」

と、津島の意地悪な宣言があった。

「え!ひでぇ〜!」

 6Aのクラスからそんな声が漏れてきていた・・・

 目蒲は、意地になり、

「はい!五発目、お世話になります!」

と、怒鳴った。 

「よ〜し・・・、なかなか、いい根性してるじゃないか・・・」

 ニヤリと笑って、津島は、ケツピン棒を振り上げた。

ヒュッ!ビシッ!

 再び、目蒲のケツを強襲する津島の竹棒だった。

「五!お世話になりました!」

 そして、津島の全体重をかけた最後の「六発目」が、目蒲に振り下ろされた。

ヒュッ!ビシィ〜〜〜〜〜ッ!

 目蒲は、真っ赤な顔で、ケツのジリジリと焼けるような痛みに耐え、声を振り絞って叫んだ。

「六ッ!お世話になりましたぁッ!」

 目蒲のケツピンは終わった。目蒲のケツは、真っ赤に腫れて、何本かのムチ筋が残っていた・・・

 津島のケツピン棒の濫用に抗議したのだろうか。ケツが痛くて、パンツと短パンを手に持ったまま、列に戻ってくる目蒲に、すこしづつ拍手がおこったかと思うと、クラス全員が、拍手をして、目蒲を迎えていた。

「うるさい!拍手をやめろ!全員、ケツピンだぞ!」

「ほら、目蒲、パンツと短パンをさっさと、はけ!もっと、食らいたいのか!」

 そんな津島の怒鳴り声は、クラス全員の拍手の音で、打ち消されていた・・・

この節の先頭へ戻る / このページの先頭へ戻る

三、水曜日の六時間目・中一C組ブリーフ検査

 五時間目の高三A組(6A)に続き、六時間目の中一C組(1C)の体育の授業でも、津島のブリーフ検査が行われていた。1Cは、津島の正担任の受け持ちクラスだった。

 その日の1Cの体育は、体育館で行われていた。

 1Cのクラスで、津島の標的になったのは、目蒲の後輩でもある野球部・新入部員の渕上誠二だった。

 運悪くその日、渕上は、夢精の後の染みのついたスクール・ブリーフを恥ずかしくて洗濯カゴの中に入れることができず、取り替えることもせず、朝起きて、そのままはいてきてしまっていたのだった。その夜、風呂の中で、そっと洗って 自分の部屋の窓の外に干しておこうと思っていた。

 津島は、その薄茶色のゴワゴワの染みを見逃す筈がなかった。

 すこし震えながら、体育用の短パンを膝まで下ろし、直立不動で立つ渕上。

 津島は、一年生・初心者用の白のケツピン棒で、渕上のブリーフの染みを指しながら、

「なんだ、渕上!ここの部分が汚れてるじゃないか。先生に、説明してください!」

「は、はい・・・これは・・・」

「はっきり言いなさい。それじゃ、先生、わかりませんよ、渕上君!」

 津島の追求に、真っ赤な顔で、なにも答えられない渕上だった。

 1Cのクラスメートたちは、その染みのワケを知っていてニヤニヤしているものもいれば、ブリーフ検査で細かいところまでチェックされると知り、自分もなにか叱られるのでは?と、心配になる一年生もいた。

「答えられないのか・・・渕上君よ・・・仕方ねぇ〜な・・・渕上、回れ右!」

「え・・・」

 一瞬唖然とする、渕上だった。

「こら、渕上!ボヤぁ〜っとしてないで、向こうをむいて、クラスのみんなに、その染みを見せてやりなさい!」

 そういうと、津島は、渕上の肩を持ち、1Cが整列している方を向かせると、

「いいか!よく見ろ、今度、朝起きて、いま渕上のパンツにあるような染みができていたら、お前たちのおかあさんに洗濯してもらうように正直に頼みなさい!この染みの『原因』は、来週の保健体育の時間に、詳しく教えてあげます!わかったな!」

と、クラス全員に向って言った。渕上は、もう真っ赤な顔をして、今にも泣き出しそうな顔だった。

「はぁ〜〜い!」

という、クラスの返事。高校三年生に比べて、まだ、子供の高い声だった。知っているのか、ゲラゲラと笑う者もいた。

 その笑い声を聞くと、津島は、

「今、笑ったヤツ出てこい!」

と、怒鳴った。

 誰も、下を向いたまま名乗り出てこなかった。しばらく、いやな沈黙が流れた。

「ほら、誰も出てこないのか・・・出てこないなら、全員この棒で、一発ずつケツをひっぱたくぞ!」

と、白ケツピン棒を振り上げて、怒鳴った。

「は、はい・・・」

 恐る恐る列の後ろの方にいた坂口がやっと手を挙げた。1Cでは、一番背の高い少し太った生徒だった。

「お前か、坂口。笑ったのは・・・。友達がクラス全員の前で恥ずかしい思いをしているのが、そんなに可笑しいのか?なぜ、笑った?」

「え〜と・・・それは・・・わかりません・・・」

 坂口も真っ赤な顔をして、下を向いてしまった。

 津島は、舌打ちをすると、

「よし、坂口!向こうの壁に手をついて、尻をつき出せ。」

「え〜〜・・・・」

 ケツピンをされるとわかったのだろうか、急に泣きそうな顔になると、耳まで顔を真っ赤にさせて、津島の言われたとおり、壁の方へいくと、両手をついて、ケツを後ろに突き出した。

 ピチピチの体育用白短パンのケツの部分には、スクール・ブリーフのラインがクッキリと浮き上がっていた。

 津島は、後ろ斜め横へ行くと、坂口に、

「ほら、もっと足を開いて、グッと腰を落として、ケツだせ!男だろ、尻叩きくらい、怖がるな!」

と、言った。

 坂口が怖がるのも無理はなかった。ほとんどの中一の生徒が、まだ、親からも、平手以外で叩かれた経験がなかったのだった。

 そして、クラス全員の方を向くと、

「いいか、この棒が、我が明和学園・伝統の『ケツピン棒』だ。開校以来、お前たちの先輩が、校則を破ったり、勉強をサボったりした時、このケツピン棒が、先輩たちの尻に飛び、叱咤激励してきた ヤツだ。

 お前たちのクラスで、このケツピン棒を使うのは初めてだが、これから6年間、お前たちがこの学園で生活していく間に、何十回、いや、何百回と、お世話になるかもしれない棒だ。

 これから、この棒で指導を受ける時の注意事項を説明する。一度しか言わないから、よく聴くように!

 まず、尻を出す前に、この竹棒に『お世話になります!』と、大声で挨拶する。

 そして、この棒が、お前たちの尻に飛んできたら、回数を数え、再びこの竹棒に『お世話になりました!』と、大声で挨拶すること!わかったな!」

「はい!」

「いいか、俺に挨拶をするのではない!自分を鍛えてくれた棒に感謝するんだ!わかったな!」

「はい!」

「よし!では、始める。坂口、まずは、挨拶だ!」

「お世話になります!」

「よし、行くぞ!ガキのお尻ペンペンとは違うからな!痛てぇ〜からしっかり歯を食いしばってろ!」

 そういうと、津島は、中一用・白ケツピン棒を振り上げ、坂口のブリーフの透けて見える短パンで覆われたケツに振り下ろした。

ヒュッ!ビシッ!

「痛てぇ〜〜〜〜!」

と叫び、坂口は、両手で必死にケツをさすりながら、ピョンピョンとその場で飛び跳ねた。

 坂口にとって、生まれて初めての手加減なしの尻叩きだったのであろう。しかも、平手ではなく、硬くて重い竹の棒が、短パンとブリーフの「薄い」生地のみで覆われたケツに咬みつくのだった。小さい頃の「お尻ペンペン」とは、比較できないほど痛かったに違いなかった。

 津島は、中一であっても、手加減はしなかった。中一にとっては、慣れるまでは、かなり辛抱が必要であったろう。

 津島は、泣きそうな顔で、必死で、ケツをさすっている坂口に、

「ほら、挨拶はどうした!もう、忘れたのか、早くせんか!」

と、怒鳴った。

 坂口は、ハッとして、

「アッ!一、お世話になりました!」

と、叫んだ。

「よし、今回は、一発で許しといてやる。今度、友達が注意を受けている時に笑ったり、ケツピンの後、挨拶をし忘れたら、一発じゃすまんからな!他の者もそうだ!わかったな!」

「はい!」

「よし、坂口は、列にもどってよい!」

 坂口は、

「痛てぇ〜〜〜!」

と、涙まじりの小声で言いながら、必死で尻を両手でさすりながら、そして、ときどき、痛みを消そうとするのか、ケツを指でギュッと押さえつけながら、列に戻っていった。

 渕上は、短パンを上げて、まだクラスの前に立っていた。それを見て、津島は、

「渕上!誰が短パンを上げていいと言った!もう一度、短パンおろして、こっちへ来い!」

「は、はい・・・」

 渕上も、泣きそうな顔をしていた。

「よし、お前には、染み付きのパンツを学校にはいてきた罰だ。今日は、初めてだから、この棒で一発だ!さあ、短パンを脱いで、坂口のやったように壁に手をついて尻を出せ。」

「はい・・・」

 渕上は、短パンを脱ぐと、体育館の壁に手をつき、ブリーフ一丁のケツを後ろへ突き出した。

「ばかもの!挨拶だ!もう忘れたのか!やり直し!この棒をしっかりと見て、挨拶せぃ!」

 渕上は、壁から手を離すと、津島の方に向き直り、その棒を見た。白のビニールテープが巻かれた、竹の棒だった。見るからに、硬くて痛そうだった。

「すごく痛いのかなぁ・・・」

 そんなことを考えながら、渕上は、心臓が破裂しそうなくらい、ドキドキしていた。

「ほら、早く、挨拶しろ!」

と、津島が渕上に促した。

「は、はい・・・お世話になります!」

「よし!壁に手をついてケツを出せ!」

「はい・・・」

 渕上は、壁に手をついた。

 そして、渕上の後ろで、津島が、渕上のまだ小さいケツの中央よりやや下に狙いを定め、ケツピン棒を振り上げた。

 渕上は、壁の方を向いていたが、津島が棒を振り上げた気配がわかった。

 渕上は、スクール・ブリーフの薄い木綿で覆われた尻に、ムズムズするものを感じた。そして、両ケツを思わず引き締めた。

 不安だったが、怖くて、後ろを振り向けなかった。目をつむり、首を下に向けて、身構えるだけだった・・・

ヒュッ!ビシッ!

 その音と迫力に、クラスからは、

「オぉ〜〜!スゲェ・・・」

「厳しぃ〜〜!」

と、思わず感嘆の声が漏れていた。

 渕上の不安が裏切られることはなかった。突然ケツから脳天へと襲ってきた、あの熱い衝撃に、思わず、

「痛い!」

と、叫んでしまった。しかし、「挨拶」のことを思い出し、津島の注意を受ける前に、

「一!お世話になりました!」

と、大声で叫んだ。

「よし!渕上は、列にもどっていい。今度から、パンツは、いつも清潔にな!」

「はい・・・」

 そういうと、恥ずかしそうに尻をさすりながら、渕上は、列に戻っていった。

 1Cの連中にとって、初めてのケツピン棒の洗礼であった・・・

 このような、いわば、「カルチャー・ショック」を何回か乗り越えて、中一生徒は、明和学園の伝統を学び、明和学園生の色に染まっていくのであった・・・

この節の先頭へ戻る / このページの先頭へ戻る

四、部活下級生試練 

 明和学園の運動部系部活は、一部の練習メニューをのぞき、中・高合同で、活動をするのが伝統だった。

 当然、中学生、とくに、中一は、部活では雑用係だった。中一が、どの運動部に入っても、まず覚えさせられるのが、先輩のユニフォームの洗濯の仕方だった。 とはいっても、洗濯機と乾燥機の使い方といった方が、正しいのであろうが・・・

 男子校である明和学園には、女子マネージャーはいない。しかも、ユニフォームを、親に頼まず、自分自身で洗濯するのが、明和学園の部活の伝統だった。独立・独歩の精神を養うためらしかった。

 もちろん、中・高生の男子が洗濯なんて、そんな面倒くさいことをするわけはない。

 放っておけば、汗と埃で汚れたユニフォームを、悪臭を放つまで、ロッカーに放りこんでおくのが、男子校の常であった。

 そこで、「ロッカー検査」が定期的に行われるのだが、その前に必ずする洗濯は、すべて、入部したての中一にやらせるのが、明和学園の部活の伝統だった のである。

 ちなみに、ロッカーから、汚いユニフォームが見つかると、やはり、ケツピン棒の対象であった。

 中三や高校生の中には、家ではトランクスをはき、学校で履き替えるための汚い染み付きスクールブリーフが何枚も、汚いユニフォームとともに見つかり、ケツピン棒を十発以上食らうことになる猛者も いた。

 運動部系部室が集まった二階建てのバラックの建物の裏に、小さなコインランドリーほどの広さの部屋があるバラック小屋があり、そこが洗濯 場であった。

 そこに数台の洗濯機と乾燥機があるのだが、一つの部に一台というわけにはいかず、しかも、先輩たちから命令される洗濯日が重なると、中一の洗濯機争奪戦 が行われることになっていた。

 洗濯機を確保できず、順番が最後の方になってしまうと、部室に戻ってから、高校生の先輩から叱咤され、正座や空気椅子の「お仕置き」に涙することになっていた・・・六年一貫男子校の 中一が経験しなければならない「雑用・下働き」のツライ洗礼であった。

 その日は、目蒲の野球部の後輩、中一生の渕上君が、練習の後、グランド整備に手間取って、洗濯機確保に失敗し、ビリになっていた。

「まだかよ!洗濯が終わらないと俺たち帰れないんだぞ!」

「なんで、お前が、一番ケツなんだよ!」

「ダッシュで終わらせろよ!ダッシュだぞ!」

などと、明日のロッカー検査を控え、野球部の高校二年生と三年生の先輩たちが、洗濯場の洗濯係の渕上に、文句をつけにきていた。

 そして、洗濯カゴのなかに次々と、汚れたユニフォームを放り込んでいった。

「なんで、今日に限って、俺一人、洗濯係りなの・・・ああ、ついてない・・・」

そうつぶやきながら、ジャンケンで負けた自分を悔やんでいた・・・

 なんと、母親にパンツの洗濯を頼むがいやなのだろうか、洗濯カゴのなかに、

「これも、洗濯しとけよ!」

と、スクール・ブリーフを放り込んでいく先輩もいた・・・

 練習用ソックスやスクール・ブリーフが次々とカゴのなかに放り込まれていった。

 中には、渕上の顔に投げつけてくる意地悪な先輩もいた。プンプン臭うブリーフも、時々、顔にベッと張り付いてきた・・・

 しかし、その臭い、いや、渕上にとっては、その匂いに、なぜかドキドキしてしまう渕上だった・・・ 

 「洗濯日」の時は、中一の帰宅時間のことを考えて、練習は少し早く上がるのであるが、やっと、ビリの渕上の順番になった時は、もう、日が暮れかかっていた・・・

 洗濯場で、独り、洗濯の準備をする渕上だった。

 他の一年生野球部員も、渕上の洗濯が終わるまでは帰れなかったので、部室の前や、整備の終わったグランドのネット裏で、ガヤガヤとふざけていたり、先輩から、駅前の大福堂へ「お使い」に行かされる者もいた。

 他の部の一年生たちも、洗濯機にスイッチを入れると、それぞれの部室へと戻っていった。

 洗濯場でただ独り、洗濯の準備をする渕上。洗濯機の蓋を開け、ユニフォームやソックス、それに、ブリーフを洗濯機に放り込んでいた。

 渕上は、あたりに誰もいないことを確認していた・・・胸がドキドキしていた。

 しかし、抗し切れない誘惑に、洗濯機に入れようとして手に取った、先輩の汚れたスクール・ブリーフ一枚を鼻に押し付け、思い切り息を吸った。あの匂いだった・・・

 渕上自身にも、理由はわからなかったが、渕上の股間は、ビンビンにテントを張っていた・・・

・・・・・・・・

 洗濯機の準備を終え、部室に戻ると、不機嫌な顔をした副将の目蒲が、渕上を睨みつけた。

「渕上!これで、お前ら一年が、洗濯機の順番がビリだったの三度目だよな!みんなに迷惑かけてんだぞ!わかってんのか?」

「は、はい・・・」

 その日の五時間目の、あの「ソースの染みケツピン事件」で、後輩には人気の目蒲も、いつになく、不機嫌であった。

「今日の目蒲先輩、機嫌悪りぃ〜よ・・・近づかないでおこう・・・」

 中三や高一の野球部員からは、そんなヒソヒソ話が聞こえてきていた。

「よし、中一の部員は全員集合だ!呼んで来い、渕上!」

 目蒲は、渕上に、怒鳴って命令した。

 しばらくすると、渕上とともに、十五人の一年生野球部員が集まってきた。

「整列!」

と、目蒲が怒鳴った。

「いいか!お前ら一年が、洗濯の順番で一番ケツになったのは、これで三回目だ!気合が全然入ってねぇ〜んだよ!わかってんのか!」

「は、はい・・・」

「これから俺が気合をいれてやる。中一全員、ケツバットだ!全員、三塁線にそって間隔をあけて整列!」

「は、はい・・・」

 当時は、ケツバットなど、中学・高校の野球部であれば、全国どこでもあったものだ。まさに、定番中の定番といえるほど、当たり前だった。

 目蒲が副主将を務める明和学園の野球部でも、進学校の野球部とはいえ、例外ではなく、「お仕置き」のひとつとして、監督や先輩からのケツバットがあった。

 目蒲の命令で、一年生は、三塁線に横一列に整列した。目蒲は、木製バットを持って、一年生たちの後ろに立った。

「よし、これから、ひとりケツバット一本ずつだ!中腰になって、両手を膝の上で支え、ケツをしっかり後ろへ突き出せ!」

 目蒲の命令で、一年生部員たちは、

「お願いします!」

「お願いします!」

「お願いします!」

と、まだ揃ってはいなかったが、甲高いカワイイ大声でバラバラに叫ぶと、目蒲の方に、ケツを突き出した。みんな素直だった。

 その日は、新学期の入部以来、中一にケツバット振るう最初の日だった。

 目蒲も突き出されたその小さくカワイイ中一たちのケツをみて、

「カワイイなぁ〜!気をつけてやらないとな・・・なんか、壊れそうだな・・・」

などと感想を抱き、思わず緊張した。同じ後輩でも、中三や高一の連中にケツバットを食らわすのと事情が違っていた。

 中一にとっては、野球部入部以来、初めてのケツバットだった。

 入部以来、先輩たちがケツバットを食らうのを見てきて、いつかは自分たちにも・・・と、思っていた一年生たちであった。

「あ〜あ、遂に、来たか・・・」

 ケツを後ろに突き出しながら、そんな思いを抱いていた・・・

「行くぞッ!歯を食いしばれ!」

と、怒鳴ると、

バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!

バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!

バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!

と、目蒲は、列の端から、ケツバットで中一の部員に気合を入れていった。

 ケツバットを受けると、また、甲高いカワイイ大声で、

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

・・・・・・・・・・

と、次々と、目蒲に「お礼」の挨拶をしていった。

 誰に教わったわけでもないし、目蒲が教えたわけでもなかったが、一人が、

「ありがとうございました!」

と、言うと、次々、それをマネして

「ありがとうございました!」

と言う。そんな中一の後輩が、目蒲には、可愛くて仕方なかった。

 目蒲にしては、随分と手加減をしたケツバットだった。

 さすがに、前に倒れたヤツはいなかったが、それでも、かなり痛かったのか、必死でケツをさすっている中一がほとんどだった。特に、渕上は、つらそうな顔をしていた・・・

「よし、今度からは、ダッシュで洗濯機を確保しろよ!わかったな!」

「はい!」

一年生たちの返事がグランドに響いた。

「それから、渕上は、校庭の朝礼台の上で、みんなに遅くなったことを謝れ!ブリーフ一丁だ!」

目蒲の無情の命令が出た・・・

 明和学園・野球部名物の「朝礼台・声出し」のお仕置きだった。

 明和学園・野球部では、練習をサボったり、遅刻したりすると、スクール・ブリーフ一丁で、朝礼台の上に立たされ、大声で、歌わされたり、謝罪させられたりするのだった。

「はい!」

というと、渕上は、部室に戻りユニフォームを脱ぎ、スクール・ブリーフ一丁になると、グランドを挟んで向かい側にある朝礼台に走っていこうとした。

 渕上のブリーフについた例の「染み」が、先輩たちのカラカイの対象になったことは、いうまでもなかった。

「渕上君、エッチぃ〜〜〜〜!」

「渕上、なんの夢見たの??」

「お前、男だろ!染み付ける前に、シコれよ!」

などと、冷やかされたり、嘲りの口笛を吹かれたりしていた。

 目蒲は、これは失敗だったと思った。

「あちゃぁ〜〜〜!あいつのブリーフ今日は染み付きかよ・・・マズッたなぁ・・・ケツバットだけでやめとけば、よかった・・・今更、取り消すわけにもいかんし・・・スマン、渕上・・・耐えてくれ・・・」

と、心の中で思っていた。

 あの染みを見咎められるのは、たとえ、男同士であっても、非常に恥ずかしいことを、目蒲は、充分に知っていた。

 渕上が、まだ、あの染みの意味をしらなくも、すごく恥ずかしいことには違いないことも、わかっていた・・・

 真っ赤な顔で、朝礼台まで走り、上に登って、手を後ろに組む渕上だった。

「洗濯が遅くなりすいませんでしたぁッ〜〜〜〜〜!」

と、大声で叫び、頭を下げる渕上だった。

 もちろん、一回で勘弁してもらえるほど、この「朝礼台・声出し」は、甘いお仕置きではなかった。

「全然、きこえねぇ〜!」

「もっと、腹から声だせよ!」

「『すいませんでした』じゃなくて、『申し訳ありませんでした』だろ!」

などと、先輩たちから次々と野次が飛び、最低二十回は、叫ばされるのであった・・・

 渕上の叫び声が、もう薄暗いグランドに響いていた・・・

 そして、すべての洗濯が終わり、渕上を始めとする一年生の野球部全員に帰宅が許されたのは、中学生の下校時間ギリギリの7時近くで、あたりは、すでに暗くなっていた・・・

この節の先頭へ戻る / このページの先頭へ戻る

五、目蒲のフォロー

「だれか、声かけてやれよぉ〜、仲間だろぉ・・・最近の『ガキ』は、冷てぇ〜なぁ・・・」

 帰宅する野球部の一年生たちの後を見守りながら、一年生たちには気づかれないように、一年生の後を追って、目蒲も、東中野の駅へと向っていた。

 案の定、他の一年の野球部員たちが、運動部員たちの帰宅時のオアシス、駅前のパン屋兼菓子屋の「大福堂」の中に消えていく中、渕上だけは、独り寂しく駅へと向っていた・・・

 帰宅時の買い食いは、本来は校則違反だった。

 しかし、以前、「大福堂」での買い食いを厳しく取り締まったところ、学校へ「大福堂」の主人から「営業妨害で告訴する」との猛烈なクレームがあり、帰宅時の「大福堂」での買い食いだけは、厳しい校則の明和学園でも、黙認されることになっていた。

 渕上が、仲間はずれにされているのか、それとも、今日のことで、仲間の輪に入って行きづらいのか、今ひとつはっきりとはしなかった。

 しかし、目蒲は、なんとか渕上に声をかけて励ましたいと、改札に消えていく渕上の後を必死で追っていた。

「あいつ、たしか、俺と同じ三鷹だったよな・・・」

 渕上を追って、ホームにおりると、ちょうど、三鷹行きの各駅停車が入ってくるところだった。目蒲は、渕上の乗車を確認して、自分も電車に乗った・・・

・・・・・・・・・・・・

 三鷹でおりた目蒲は、渕上の後を追って、改札を出たところで、

「よぉ〜!渕上!元気か!」

と、声をかけた。

 驚いて、後ろを振り向く渕上だった。

「あ、目蒲先輩!こんばんわ!」

と、渕上は、あわてて制帽をとり、ペコリとお辞儀をした。

「俺といっしょに、駅前のファースト・キッチンに行こうぜ!おごるからさ!なあ、付き合えよ!」

と、目蒲は、渕上の方に手をかけ、有無を言わさず渕上をファーストキッチンに連れ込む体勢に入っていた。

  「もしかして、高校生が、中学生をカツアゲ??!」と、あたりの歩行者から疑われるほど、目蒲の人相は悪くはなかった・・・さすが、進学校へ通うお坊ちゃまだ。制服を見てもそれはわかる。「不良のはずがない!」と、世間の人々の信用には絶大なものがあった。

 駅前のファーストキッチンに入ると、ベーコンエッグバーガーに、バターコーン、そして、コーラのMサイズを二つずつ頼んだ。すべて、目蒲の大好物だった。

 一人ならば、すべてを平らげても足りないくらいの目蒲だったが、後輩に奢らなければならない都合上、財布の中の小遣いと相談しての注文だった。

 二階席の窓際近く、目蒲の指定席に陣取ると、

「さあ、遠慮しないで、食えよ!腹減ってるだろう。」

と、五歳近くも年上の先輩の前で、遠慮がちに畏まる渕上に勧めた。

 やっと渕上が食べ始めて、二人の間の緊張もほぐれてきた頃、

「今日のこと、あんまり気にスンなよな・・・洗濯機の順番なんて、運なんだから・・・」

「は、はい・・・」 

「それに、朝礼台の声出しのこと、スマなかったな・・・お前のブリーフの染みのこと、知らなくて・・・知ってたら、あんな命令しなかったんだけど・・・」

 渕上は、真っ赤な顔で、下を向いてしまった。

「あ、ヤバ!やっぱ、こいつ、すごく気にしてるんだよ・・・よし!話題を変えよう!」

と、目蒲は思った。そして、この五歳も年下の後輩と自分の共通の話題はなにか必死で頭の中で考えていた。

 そして、

「あ、津島とケツピンだ!」

と思いつき、渕上に話しかけた。

「ところで、お前1Cだったよな。津島のクラスか・・・ケツピンもう食らったか?俺、今日の五時間目にブリーフ検査に引っかかちゃってさぁ、ケツピン6発食らったんだぜ!」

「え、目蒲君、あ、目蒲先輩もですか・・・俺も、あ、僕もです・・・六時間目にパンツの検査があって・・・それで・・・」

「あ〜、あの染みのせいか・・・バァ〜カ!オフクロさんに、ちゃんと洗濯してもらえよ。恥ずかしがらないでさ、夜、眠っている時、染みつけちゃってもさぁ。」

「は、はい・・・」

と口ごもると、再び、真っ赤な顔で、渕上は下を向いてしまった。

「あ、俺、またマズイこといっちゃった!ヤバイ!」

 目蒲は、そう思い、

「とにかく、渕上、お前もこれで、一人前の明和学園の男だな!握手しようぜ!」

と言って、右手を差し出した。

 渕上は、ニッコリと微笑むと、やはり、右手を出してきた。

「こいつ、やっと笑ってくれたよ・・・」

と思い、目蒲は、ホッとして、目蒲に比べればかなり小さい渕上のカワイイ右手を、ギュッと握った。

「いるんだぜ。マジメで頭もよくて教師のお気に入りで、ケツピン一回も食らわずに卒業しちゃうヤツって・・・でも、そういうヤツは、俺たちの仲間じゃないよな!」

 また、微笑んで、

「うん、あっ、は、はい!」

とうなずく渕上だった。

・・・・・・・・・・・・

「食べ終わったか?さあ、出るか。」

 目蒲は、そういうと、自分のプレートをもって席を立った。渕上も、遅れないように、自分のプレートを持って目蒲の後についていった。

 表にでると、目蒲は、

「明日の朝練、寝坊せずにちゃんと出てこいよ!遅れたら、ケツバットだからな!じゃあな!」

と、渕上に言った。

 渕上は、

 「はい!ごちそうさまでした!失礼します!」

と、元気に返事をし、制帽を取ると、ペコリと頭を下げて、目蒲に挨拶する。目蒲のつぶれて平たい制帽とは違い、渕上の制帽は、まだ新品のような厚みがあり、ピシッと型のついた制帽だった。

 目蒲に挨拶をすると、渕上は、自分の家の方角へと走っていく。その日の夕方、目蒲先輩におごってもらったベーコンエッグバーガーのことは、渕上にとって、忘れえぬ中学時代の思い出となったことだろう。

この節の先頭へ戻る / このページの先頭へ戻る

南寮編・スピンオフの目次に戻る