目次に戻る 番外07に戻る

「色柄を持たないパンツはく山崎すぐると、彼の担任の中村大悟」番外07頭髪検査と懲罰床屋1980のスピンオフ

「大悟の兄貴・圭悟と県立一高の仲間たち」 パート2 1980 兄貴もつらいぜ!!進学校・ケツバット

 それは、大悟たちが住む県において、高等学校・普通科がまだ男女別学で、県下一の進学校・県立第一高等学校が、男子校だった頃のお話である。「男女七歳にして席を同じうせず」(だんじょしちさいにして せきをおなじゅうせず)という戦前の教えがその県の学校制度にもまだ残っていた時代だった。

一、進学校・ケツバット

「やっべぇ〜!!朝練遅刻確実!!大悟のヤツ・・・目覚まし、止めやがって・・・」

 9月。大悟と相部屋に戻って以来、兄貴・圭悟の生活のリズムは乱れがちだ。しかし、不平をもらせば、またオヤジからケツを叩かれかねない。兄貴だってついらのだ。

 その日の朝も、県立一高で圭悟が所属している硬式野球部の朝練に間に合うように起きるため、圭悟が午前5時にセットしておいた目ざまし時計のアラーム。それを、大悟が「あ〜、兄貴の時計、うっせーなぁ・・・なんだ、まだ5時じゃん・・・あと1時間は大丈夫・・・ムニャムニャ。」と、わざとではないのだが、圭悟が目覚める前にすぐに消してしまったのだ。

 圭悟がハッと目覚めた時は、午前5時半・・・。ダッシュで登校したものの、結局、朝練は、15分の遅刻。

 朝練後、主将の北村は、1年生だけでなく、2年生にも集合をかける。

「やっべぇ・・・ケツバットだ・・・。」と思いながら、ダッシュで整列に加わる圭悟。

 1年生と2年生が同時に整列するときは、前列が2年生、後列が1年生だった。

 案の定、主将の北村は、前列中央で整列する圭悟に詰問する。

「圭悟!!今日はなんで遅刻したんだ?」

「寝坊だ・・・・すまん・・・・」

「2年のお前が遅刻してどーすんだ!!」

 3年生はすでに引退しており、主将の北村は、圭悟と同じ2年生。そして、「新体制」発足当初、「1年生(後輩)の模範になるよう行動しよう!!」と誓った以上、ケジメが大事と北村は考えていた。

「中村!!ケツバットだ!!」

と、主将・北村は、あえて圭悟の苗字を呼び捨てにして、圭悟にケツバットを宣告する。

 主将の厳しさに、2年生だけでなく、1年生の列からもざわめきがもれる。

 しかし、「朝練に遅刻したら2年生もケツバット!!」は、新体制発足時に2年生も同意した男同士の約束だ。仕方がない。

 圭悟も北村の命令に素直に従わざるを得ないと覚悟を決めたのか、

「ィ〜〜〜ス!!」

と返事をすると、右手で茶色く薄汚れた白の野球帽をとって、前列から一歩前に出るのだった。

「ケツだ!!ケツ出せ!!」と主将。

「ィ〜〜〜ス!!」

と、再び、返事をすると、圭悟は、回れ右をする。

 圭悟は、2年生の後ろで整列していた1年生たちの存在に気がつき、恥ずかしさがこみあげてくる。「1年の前で、2年のオレが、一人、ケツバットだなんて・・・」 遅刻したことをいまさらながらに後悔するのだった。

 もちろん、圭悟も、1年生も、お互いに目を合わさぬよう、とっさのうちに視線をそらす。

 新主将・北村のケツバット初のお披露目。その威力に1年生たちの関心は、いやが上にも、盛り上がる。なぜなら、新主将のケツバットとは、来夏までの1年間、付き合っていかなければならない運命だからだ。

 もちろん、すべてそうだとは言わないが、進学校における部活は、運動部といえども、上下関係がさほど厳しくなく、フラットな部活動を目指している場合が多い。ただ、当時はまだ、全国津々浦々、硬式野球部といえばケツバットが当然あった時代だ。

 圭悟たちの県立一高・硬式野球部においても、毎年、代が変わるごとに、ケツバットをどうするかという話が首脳陣ミーティングで出ており、

「これでも一応、硬式なんだからさー、オレたちの代も、ケツバットないとやばいでしょう!」

てな具合に、ケツバットの伝統が、脈々と受け継がれていたのであった。もちろん、その意味あいは、強豪校のそれとはやや異なり、ケツバットは、観光地へ訪れた際の定番お土産のようなもので、ケツバットを受けるも与えるも、彼らが「高校球児」であったことの証拠を自ら残したいと気持ちからなのであるが。

 1年生たちは、自分たちの前で繰り広げられている、先輩たちのケツバット劇を、固唾を飲んで見守っている。

 北村は、自身が1年生の夏以降、正捕手で3番を打つ長距離打者だ。北村が主将になって以来、1年生たちみな、声には出さないが、「北村さんが主将だと、今年のケツバットは、マジ、やばそ・・・」と思っていたのだった。

 主将・北村の「ケツを出せ!!」の命令に、圭悟は、悔しそうに口をキュッと結び、帽子を右手に持ったまま、両手を後頭部へ持っていて組むようにする。そして、両足を広げふんばるように力を入れると、あたかも1年生の列に会釈するように、上体を前傾するのだった。

「行くぜィ!!」

と、後ろから、同期の主将・北村の声。北村は、木製のノックバットを持って、まるでバッターボックスに立った時ように、眼光鋭く、圭悟の薄汚れたユニのケツに狙いを定めていた。

 圭悟は、北村の体勢に、バッチ来い!と応ずるかのように、

「ィ〜〜〜ス!!」

と叫んだその瞬間、ドスッ!!と後ろから鈍い音が聞こえてくる。

フェンス直撃!!右中間適時三塁打!!

 整列している1,2年生の誰もがそう思った。

 圭悟は、ドスッ!!という音の発生源は、己の白ブリーフ、スラパン、ユニズボンに包まれたおケツであることをいやというほど全身で実感する。ケツから脳天にガツゥ〜ンと突き抜けて行くような重くて熱い衝撃。思わずつむった目の奥に、火花が散るのをみる圭悟。

 バットがおケツを直撃したその瞬間から2,30秒ほどが一番つらい。目をギュッとつむって、両足をグッとふんばり、ケツバットの衝撃と痛みが己の身体から徐々に消え去っていくのを待つ圭悟。

 そして、その一番つらい試練の時をどうにかやりすごした後、今度は、ジリジリ・ズキズキとケツが焼けるように熱くなってくる・・・。ユニもスラパンも白ブリーフを脱ぎ捨てて、フリチンになりたい気分だった。

「畜生・・・ズキズキしてケツになにかが張り付いたみたいだ・・・北村のヤツ、手加減なしかよ・・・」

と圭悟は思うのだった。

「よし!!列にもどっていいぞ!!」

と、後ろから北村の声。

 圭悟は、両手をおろし、再び、しかし、さっきよりはかなりそろそろとゆっくりした動作で回れ右すると、

「シタァッ!!」

と、挨拶して主将にペコリと一礼すると、再び、「中村」と黒マジックで記名された薄汚れた白の野球帽をかぶるのだった。

 しかし、北村は、圭悟のケツバット感謝の挨拶を無視するかのように、そして、「オレはまだおまえのことをゆるしてねーぞ!」と言わんばかりに、

「中村は罰当番!!1年生と一緒にグラセンと後片付け!!」

(太朗注:「グラセン」 なぜかわからないが「グラウンド整備」の略語。)

 「畜生・・・北村のヤツ・・・どこまで・・・」と思いながらも、圭悟は、悔しさとまだ腫れたような痛みが少し残るケツの不快感をグッと堪えて、

「ィ〜〜〜ス!!」

と挨拶するのだった。

 解散後、他の2年生たちはニヤニヤしながら、「中村!!ガンバれよ!!」と言って、圭悟の背中や肩をポンポン叩きながら、圭悟の横を通り過ぎていく。もちろん、同情心はあまり感じられない。

 圭悟は、

「2年の中で、理系なのはオレだけだからな・・・みんなつめてぇーよな・・・」

と思いながら、屈辱感にさいなまれつつ、朝練後のグランド整備と後片付けを始めた1年生の中へと入っていくのだった。

 決まり悪そうに自分たち「後輩」の中に混じってきた圭悟に、1年生たちは、進学校の優等生らしく、

「中村さん・・・大丈夫でしたか?」

と表向きは同情をしめしつつ、新主将・北村のケツバットの「ケツ感」にさぐりを入れてくる。

 フラットな部活組織運営を目指す、県立一高・硬式野球部では、先輩を先輩と呼ぶことを禁じ、その代わり、「さん」づけで呼ぶことにしていた。

 圭悟は、ますます恥ずかして情けなくなり、

「オレは大丈夫だ・・・気にしなくていいから・・・」

と、元気なく言う。

 「先輩、全然、大丈夫そうに見えないッスよ・・・」と思いながらも、無言の1年生たち。その気まずさを打ち破るかのように、1年統括の宮林真司が、てきぱきと、同期の1年生たちに仕事を割り振っていく。そして、残った、2年生の圭悟・・・。さすがに宮林も先輩の圭悟に、仕事を割り振るのは、躊躇していた。

 圭悟もそれに気がついたのか、

「シンジ・・・オレはなにすればいい?」

と、自分から仕事を願い出るのだった。

 宮林真司は、

「じゃあ、グラセンお願いできますか?いつも人数足りなくて、一時間目に間に合わない時があるんで、助かります!!」

と言って、ホッとした表情を浮かべるのだった。

「よし!!わかった!!」

と言うと、あまっていたトンボを持って、1年生たちの整備の中に入っていくのだった。

 1年生たちに混じって、朝練後のグランド整備をしながら、圭悟は、校舎3階の2年生の教室のある方から、自分に向けられている好奇の視線をビンビンに感じるのだった。それは、野球部の2年生チームメートたちであることは確実だった。

「畜生・・・もう絶対に、朝練遅刻はしない!!今夜から目覚まし時計は、抱いて寝る!!」

と、屈辱感の中で、反省し心に誓う圭悟。

 そして、校舎にかかった時計をチラリと見ると、始業時間の9時まで、あと15分を切っていた。

「やっべぇー、これじゃ、授業にも遅刻じゃんか・・・トホホ・・・今日の一時間目、誰だったけ?あぁ・・・思い出せねぇ・・・畜生、ケツが痒くなってきた・・・」

 ユニ、スラパン、白ブリーフに包まれた圭悟のケツは、汗でむれて、ケツバット後のケツの痒みを増幅させた。もちろん、痒いとはいっても、それを掻こうとして、触れば、まだまだズキリとケツが痛む、つらい状況だったのだ。

 北村のケツバットは、一発でも十分に強烈で、その日一日、授業で教室の堅い椅子に座り続けるのは、かなり不快であることが予想された。今日一日、椅子に腰を下ろす度、朝練遅刻を反省させられることになる圭悟だったのである。

 


二、進学校・遅刻の罰は・・・

 圭悟の「苦行」は、まだまだ続く。兄貴だってつらいのだ。

 案の定、グランド整備を終わり、ダッシュで着替えて教室にたどりついたのは、始業10分過ぎ。圭悟の属する校舎3階の2F教室では、すでに授業が始まっていた。

「やっべぇーーー、よりによって、一時間目は、数学UBの川上だ・・・」

 そう思いながら、教室の後ろの扉を静かに開けながら、教室に、忍び込むように入っていく圭悟。

 後ろの方に座っている圭悟の悪友たちは、その様子をニヤニヤ顔で眺めている。

「オッス!」のあいさつ代わりに、紙屑をまるめて、圭悟になげてくる悪友。声をたてないように、口だけ動かして、「バァーカ!!」と言うようなしぐさをする悪友。

 圭悟は、硬式野球部員らしいそのノリのよさで、理系クラスの2年F組では、一番の人気者で、やんちゃ坊主の最右翼だった。

 その間、なにもなかったように、黒板の方を向き、数列の公式を板書(ばんしょ)していく川上先生。先生の板書に遅れないようにと、ほとんどの生徒たちの視線は、ノートと黒板をいったりきたりしていた。

 圭悟も、窓側、後ろから2番目の自分の席に、ソォ〜と座る。先生に気がつかれないようにという意味もあったが、ケツがまだ少し痛く、できるだけ、刺激をしたくなかったのだ。

 しかし、席にすわった圭悟に、待ってましたといわんばかりに、

「中村!!11分遅刻!!立って、理由を言え!!」

と、川上先生は、圭悟を名指ししてくる。

 川上一人(かわかみ かずひと)先生は、圭悟たち2Fの担任で数学担当。29歳。丸刈り頭で褐色に日焼けしなかなか精悍な顔立ち。数学教師のイメージからやや外れた、ガッチリした体躯。薄茶系のピッチリしたスラックスがいまにもはちきれんばかり、板書時、黒板の下の方に数式を書く際、腰をグッとさげて中腰になると、ケツの部分にブリーフのラインがクッキリと観察できた。白のワイシャツの下にはいたランニングシャツのシルエットも男らしかった。

 「ケツ痛ぇ〜のに、何度も立ったり座ったりでっきかよ・・・」と思いながらも、圭悟は、立って、

「寝坊して野球部の朝練に遅刻して、後片付けの罰当番やってて、授業に遅刻しました!!すいません!!」

と言うのだった。圭悟の悪友たちからは、「圭悟、ダッセー」と、笑い声が漏れてくる。

 通常は兄貴のようにやさしくて面白い川上先生も、遅刻取締りに関しては、鬼のように厳しかった。

「ごちゃごちゃ言い訳しても、結局は、寝坊ってことだな!!」

と川上先生。

 川上先生のその言葉に、圭悟は、「ヤッベェー」と思い、とっさに、

「部活で寝坊の罰はもう受けました!!!」

と言うのだった。

 しかし、川上先生は、

「部活は部活、授業は授業だ!!2年生にもなってそんなこと言っているようじゃ、文武両道の目指す県立一高生としては恥ずかしいぞ!!」

とキッパリ。

 それには、圭悟も下を向いてしまい、返す言葉もなかった。

 教室に、「あの罰」を予感する、期待と興奮の入り混じった空気が流れる。

 そして、教室にいた大方の生徒たちのその期待を裏切ることなく、

「中村!!おまえみたいな寝坊助には、まだまだ子供と同等の<しつけ>が必要なようだ!!前に出て来い!!」

と、川上先生は、圭悟に、遅刻の罰を宣告した。圭悟の悪友たちから、ドッと笑いが起こる。

 真っ赤な顔で、「はい・・・」と返事をし、黒板の方へと進み出る圭悟。

「ヤッベェー、さっき、ケツバット食らったばかりなのに、またケツ叩かれんのかよ・・・・」

と内心、泣きたい気持ちだった。しかし、部活でケツバットを受けた言い訳はしなかった・・・。圭悟は、その言い訳は男らしくないと思っていたのだ。

 川上先生は、帝都理科大学・数学科出身。自身の学生時代、代数学担当・米田助手(アメリカ留学前)の<しつけ>の薫陶を受けており、そのお仕置きスタイルは、米田方式と似通っていた。

(太朗注:帝都理科大学・数学科・米田先生の<しつけ>については、「すぐる大学編」by 日光さん を参照して下さい。)

「よし!!中村!!黒板の桟に両手をついて、<しつけ>のためのケツ叩きだ!!11分遅刻だからな、何回だ?」

 川上先生との約束では、遅刻時の<しつけ>のためのケツ叩きの回数は、「遅刻分の正の平方根の整数部分」だった。

「3回です!!」

ととっさに答える圭悟。悪友たちからは、「おーーー、圭悟、あったまいいじゃん!!」との冗談の声がかかる。万が一、ここで間違えたり、返答が遅かったりすると、一発、おまけがつくのだった。

 11の正の平方根は、9の正の平方根(「3」)よりも大きく、16の正の平方根(「4」)よりも小さい。すなわち、暗算で、11の正の平方根の整数部は、「3」だとすぐにわかるのである。

 圭悟は、まだ9月ということで、夏用の薄生地の黒学ランズボンに、白の開襟シャツ。白の開襟シャツの下には、白のランニングシャツのシルエットがクッキリで、進学校の生徒らしく、おしゃれを考えるのは、まだまだといった感じ。しかし、その恰好は、よく日焼けして、丸刈りの高校球児・圭悟には、よく似合っていた。

 川上先生は、ニヤリと笑って、

「よし!!おまえにしては上出来だ!!そこに両手をついてケツを出せ!!」

と命令する。

 川上先生は、自分と同じ丸刈り頭の圭悟のことが、弟のようにかわいくて仕方なかった。聞けば、数学科ではないようだが、帝都理科大が第一志望で、将来は理科の教員を目指しているらしい。いつもの<しつけ>時のように、黒板の桟に両手をつこうとしている圭悟の丸刈り頭をちょっと乱暴に撫でる川上先生。

 しかし、圭悟は、いつもよりちょっと困ったような、いまにも泣きそうな顔をしている。そして、何かを自分に訴えたいような眼差しだ。

 川上先生は、「ははぁ〜〜ん、コイツ、部活でケツバット食らったばかりだな・・・でも、3年はもう引退、コイツら2年生の天下だろが・・・そうか、うちの高校の硬式は、そういうところがあるよな・・・」と思う。そして、圭悟の男のガマンを尊重することにした。すなわち、知らぬふりでいつものようにコイツのケツに、ピシリと<しつけ>のための愛のムチを入れようと決心するのだった。

 黒板の桟に両手をついて、両足をやや拡げ、ケツを後ろに突き出すと、圭悟は、

「お願いします!!」

と、いさぎよく言うのだった。

 圭悟の教室側に突き出されたケツ。夏用の黒学ランズポンの薄生地は、圭悟の白ブリーフを完全に隠すほど厚くはなかった。冬服ならばパンツのラインが浮き出るだけの学ランズボン。。しかし、夏服は、生地がうすいだけに、圭悟のその突き出されたケツは、白色のブリーフパンツで覆われていることが、はっきりとわかるのだった。

 川上先生は、いつものように、黒板の端にかけてあった木製の布団叩きを持ち出してくる。「おまえらのようなホコッリっぽいズボンのケツ叩くには、これがぴったりだよな!!」と言って、学期のはじめに家から持ってきて、担任クラスの黒板の端のところに、まるでそれをみた生徒たちの「自律」を促すかのように、常時、吊るしてあるのだった。

 その布団叩きを見て、再び、「でたーーー、布団叩き!!」と、教室からは笑いが漏れる。しかし、圭悟の悪友たちは、その布団叩きも、なかなか侮れない威力があることを知っていた。

「よし!!行くぞ!!」

と圭悟にケツ叩き<しつけ>宣言する川上先生。

 圭悟は、奥歯をグッとくいしばり、その日のしつけがどんなに痛くても、余計な声などを出さないように、心構える。

ビュッ!!ビシッ!!

「お〜〜〜〜!!」と教室から声がもれる。圭悟のちょっとテカッた黒ガクズのケツからほこりが舞っていた・・・。

「・・・・一回!!」

 ケツが焼けるように痛かったが、どうにか声を絞り出す圭悟。目をギュッと閉じて、二発目に備える。

ビュッ!!ビシッ!!

「お〜〜〜〜!!いまのはセンターだ!!!」と再び、悪友たちから、批評が飛び出す。

「畜生、泣くくらい、いってぇ〜〜」と思いながらも、

「2回!!」

と、回数を数える圭悟。

 川上先生は、圭悟の様子を注意深く観察しながらも、圭悟を<しつけ>る愛のムチに手加減は加えなかった。

 そして、川上先生の側からしかみえない圭悟の表情や一発愛のムチが飛ぶごとにケツをもじもじと動かす身体の動きから、圭悟のケツの焼けつくようなジリジリとした痛みは、頂点に達しつつあることが、川上先生にもよくわかった。

「よし!!ラスト行くぞ!!」

と声をかけ、圭悟の坊主頭を再び、やや乱暴に撫でる川上先生。「あと一発のガマンだ!!男だったら根性出せ!!」のメッセージだった。

 圭悟は、ケツにグッと力を入れて、最後の一発を覚悟する。

ビュッ!!ビシッ!!

「お〜〜〜〜!!いまのは入った!!一番いてぇーヤツだ!!」と、悪友たちからのコメントがすぐにつく。

 圭悟は、「ぎゃぁ〜〜いってぇ〜〜」と叫びたいのを必死で堪え、声を絞り出すようにして、

「3回!!ご指導ありがとうございます!!遅刻してすいませんでした!!」

と言うのだった。

 遅刻をした罰を男らしく己のケツに受け、自分の席に戻る圭悟に、悪友、数人から拍手が起こるのだった。

 もちろん、その日一日、席に座るたびごとに、遅刻したことを思い出し、反省が深まっていくのだった。

 

三、それでも大悟はかわいい弟 1980


 その日の夕方。

「大悟のヤツ!!今日という今日は、ゆるさねぇ!!オレがどんだけ学校でケツが痛い思いをしたか!!」

と、いきりたって母屋二階の部屋のドアを開ける圭悟。

 大悟は、すでに家に戻ってきており、なにやら机に向かって勉強している模様。その後ろ姿に、圭悟が、

「大悟!!ちょっとこっちへ来い!!」

と言おうとしたその時だった・・・大悟が、クルリと振り向くと、

「あっ兄貴!!いいところに帰ってきた!!ここの因数分解がわかんなくてさー!!ちょっと、ヘルプ、ヘルプ!!ねっ!いいだろ!!たのんます!!」

と、立って参考書とノートを差し出してくるのだった。

 そのあどけない顔つきに、いままで大悟に抱いていた怒りがすぅ〜〜と氷塊していく。

「ったく、世話のやける弟だよな・・・」

と思いながらも、参考書とノートを受け取り、

「あのなぁ、中3にもなってこんな簡単な因数分解もできんようじゃ、おまえ、マジ、来年やばいぜ!!」

と言って、大悟の頭を小突きつつ、自分もシャーペンを取り出して、かわいい弟に、数学の指導をしてやる兄貴・圭悟だったのである。

目次に戻る 番外07に戻る