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「色柄を持たないパンツはく山崎すぐると、彼の担任の中村大悟」

 番外編07 頭髪検査と懲罰床屋 1980 

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一、引っ越し

 昭和55年9月・第三週目の日曜日。

  中村家の邸宅の「離れ」で、中学三年生の中村大悟が、高校二年生の兄・圭悟(けいご)と一緒に、母屋への引っ越し作業をしていた。 そして、引っ越し手伝いの戦力としてはあまり役立ちそうにないのだが、大悟の中学の「親友」である青木義之も、その引っ越しを手伝いにきていた。

  いままで通いの家政婦だった山崎キミが、わけあって(大人の諸事情)、まだ乳飲み子の一人息子・卓とともに、住込みのお手伝いさんとして、大悟と圭悟が使っていた「離れ」に引っ越してくることになったため、父親の指示で、「離れ」をキミさん親子へと譲り、大悟と圭悟は、母屋2階の部屋へと移ることになったからだ。

  それまでは、中村家邸宅の「離れ」を中村家の三兄弟が使っていたのだ。そして、長男・正悟(しょうご)が大学の野球部・合宿所暮らしで実家を離れてからは、大悟が兄の圭悟とともに、その「離れ」の住人になっていたのである。

「ベロベロベロベロ、バァーー!!」

「バブバブ、ブブブーーーー」

「こいつ、笑ってやがる、かわいいなぁー、赤ちゃん・・・」

 大悟は、ゆりかごの中で元気に手足をバタバタさせながらを笑っている卓のことを、まるで自分に弟ができたかのような兄貴のまなざしで、いとおしく眺めているのだった。引っ越し作業の最中、「離れ」の勝手口から母屋へ行く際、大悟は、必ず、卓のゆりかごを覗きこみ、卓をあやしていくのだった。

「あっ、この子、うれしそうに笑ってる。大ちゃんは、ほんと、赤ちゃんあやすのがうまいね!!」

と、引っ越しを手伝いにきている青木義之も、卓のゆりかごを覗きこむのだった。

 青木義之は、大悟の小学生時代からの友達で、現在は、大悟とは違うクラスで3C所属。部活は、音楽部(担当は打楽器・パーカッション)だった。色白で痩せていて、中三の男子にしてはやさしい感じがする。それでも、3Cでは男子学級委員を務めていた。

 そして、「へへへ・・・そうでもねぇーよ・・・」と大悟が義之に返そうとしたその時だった。突然、大悟たちの耳に、 

バッチィ〜〜〜ン!!!

という音が飛び込んでくる。

「痛ってぇ〜〜〜!!!」

と、大悟が思わず声を上げ、その時はいていた市立第三中学の体育短パンである白短パンの茶色く薄汚れたケツを両手でおさえるのだった。

「チンタラ、やってんじゃねーよ!!もう4時過ぎだぞ!!これじゃ、いつまでたっても引っ越しが終わんねーぞ!!」

 大悟の白短パンのケツを急襲したのは、いつのまにか大悟と青木義之の後ろに立っていた大悟の兄貴の圭悟だった。

 圭悟は、県下一の進学校・県立第一高校の2年生。硬式野球部に所属し、良く日焼けした精悍な顔立ちの丸刈り・高校球児だった。その日は、汚れた野球部の白色ユニズボンに、上は、濃紺のミドルネック・ノースリーブ・アンダーシャツ。鍛えた上腕二頭筋が逞しかった。

「チェッ!!痛ってぇーな!!卓と親友のよっちゃんの前で、ケツ叩かなくたっていいだろう!!」

と、口をとんがらせて、兄貴の圭悟に抗議する大悟。

「ケツ叩かれんのが嫌なら、こんなところでサボってんな!!」と圭悟。 

 大悟の隣で立っていた青木義之は、ちょっと頬を赤らめ、やや気まずそうな表情を顔に浮かべて黙っていた。

 大悟にとって、圭悟は、目の上のたんこぶ。特に長男・正悟が実家を離れてからは、大悟に対する圭悟の兄貴風はますます強まり、なにかにつけて、大悟のケツをバッチィ〜ンと一発平手打ちしては、大悟を指導してくるのだった。

バッチィ〜〜〜ン!!!

「痛ってぇ!!なんだよ!!みんなが見ている前で、ケツを二度も叩かなくたっていいだろう!!」

 大悟は、もう顔を真っ赤にして、まるで小学生に戻ったかのような表情を浮かべて、圭悟に抗議するのだった。

「いまのは兄貴に反抗的な態度をとったからだ!!」と依然、厳しい圭悟。

「バブバブ、プゥプゥプゥーー」

 ちょうどその時、まるで二発目のケツ打音に反応するかのように、ゆりかごの中の卓が笑うのだった。

 それを聞いた圭悟は、顔にニヤリと笑みを浮かべ、

「おまえ、中3にもなって、赤ん坊に笑われてんじゃねーよ!!」

と、弟をからかうのだった。

 それには大悟も、

「赤ん坊の卓にわかるわけねぇーだろ!!兄貴は、赤ん坊のことが全然わかってないんだ!!!」

と、もう半分泣きそうな声と表情で、兄貴に言い返すのだった。

 そして、兄貴から強烈なケツ平手打ちを二発も見舞われ、ボワァー温かくなってきた短パンのケツを、両手でさすりながら、

「ったく、痛ってぇーよ・・・兄貴は、バカ力すぎるよ・・・」

と、下を向いて、ブツクサ言うのだった。

 一方、傍らに立っている親友の青木義之は、中村兄弟のそのやりとりをうらやましそうに眺めていた。しかし、背後にあった時計に気がつき、

「あっ!だいちゃん、もうそろそろ4時半だよ・・・明日、頭髪検査でしょ・・・そろそろ行かないと・・・ウチの床屋、今頃、かなり混んでるよ・・・」

と、言ったのだった。

 その言葉に、圭悟は、

「なんだよ!!まだ床屋いってねーのかよ!!このグズ野郎!!あとはオレ一人でやっとくからサッサと床屋行ってこい!!」

と、大悟に乱暴に言うと、さらに一発、

バッチィ〜〜ン!!

と強烈な平打ちを大悟の白短パンのケツに見舞うのだった。

「バブバブ、プゥプゥプゥーー」

と、その音を聞いて、ゆりかごの中の赤ちゃん卓は、さらにうれしそうに両手足をバタバタさせながら、笑っているのだった。

「あっ!卓君、本当に笑ってるね!!」

「マジかよ・・・卓!!笑うなんて、赤ん坊のくせに、生意気だぞ!!」

 大悟のその言い様は、まるで圭悟が弟の大悟にもの言う時の口調にそっくりで、義之はおかしくて仕方なかった。

「バァーカ!!いいから早く、床屋に行け!!いいか、これはお前のためじゃなくて、オヤジのためなんだからな!!お前が明日の頭髪検査に引っかかって、吉田先生からケツ竹刀食らうことになったら、その噂がオヤジが勤務する一中にまでひろがって、オヤジが恥をかくんだからな!!そのことを忘れるな!!」

「またその話かよ!!わかってるよ!!さあ、行こうぜ、義之!!」

 そういうと、大悟は、圭悟から逃げるように、青木義之とともに、「離れ」の勝手口から出ていくのだった。

 大悟が出て行った「離れ」の台所では、いままでうれしそうに笑っていたゆりかごの中の卓が、急に泣き顔となり、

「バブバブ、ホンギャァ〜フェ〜〜〜〜ン!!」

と、泣き始めてしまうのだった。

 その様子をみて、

「ベロベロベロベロ、バァーー!!」

「ベロベロベロベロ、バァーー!!」

と、何度も卓をあやそうとする大悟の兄の圭悟。

 しかし、赤ちゃん卓は、

「ホンギャァ〜ホンギャァ〜ホンギャァ〜」

と、一向に泣き止まないのであった・・・。

< 関連スピンオフ 1980 兄貴もつらいぜ!!オヤジ悟の書斎  >

< 関連スピンオフ 1980 兄貴もつらいぜ!!進学校・ケツバット >


二、市立第三中学・正門すぐ前「バーバー青木」毎月・第三日曜日の風景

 9月・第三日曜日の夕方。

 閉店間際の「バーバー青木」は、いつになく男子中学生たちで混雑していた。

 明日、9月の第三月曜日は、市立第三中学校の第三学年の男子を対象に、学校で「頭髪検査」が実施される。

 頭髪検査は月に一回、男女別、学年別に実施されていたが、それでも「頭髪検査」の前日、市内の市教育委員会指定の理髪店(以下、指定理髪店)はかなり混雑する。

 指定理髪店「バーバー青木」も、三台あるバーバーチェアーがフル稼働。若手理容師2人が応援に来ていた。

「はい!次の方、どうぞ!!」

と、店長の青木義介が、理髪店の壁にそって並べられた丸椅子に座っている思春期ホルモン・ムンムンの中学生たちに向かって声をかける。店長は、大悟の親友・青木義之のオヤジさんだ。

 店長の声掛けに、読んでいた「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のコミック本を本棚に置いて立ち上がり、バーバーチェアの方へやってきたのは、市立第三中学校・3Bの西原健太君。リーゼントヘアのツッパリ君だ。しかし、夏休みの間、バッチリと決めていたご自慢のリーゼントヘアともしばしのお別れ。今日からしばらくの間は、「中学生カット」で我慢する。

「中学生カット・・・ちょっと長めで・・・」

と、店長にリクエストする健太君。

 それを聞いて、店長は、ニヤニヤしながら、

「健ちゃん、池永先生、厳しいんだろ・・・丸坊主にされても知らないよ・・・・」

と言う。健太君は、「バーバー青木」にとって、子供の頃からのお得意さんだった。

「坊主だけじゃなくて、竹刀でケツも叩かれるんで・・・」

と、健太君が恥ずかしそうに顔を赤らめ店長に言うのだった。

 それを聞いた店長は、苦笑いして、

「だったら、なおさら、いいのかい?ちょっとでも長めだったまずいんじゃないか?竹刀でお尻叩かれるんだろ?痛てぇーんだろ?」

と聞いてくる。

「池永の竹刀、そりゃもう、痛いってもんじゃ・・・だから、そこをオジサンのテクニックで、なんとか・・・たのんます・・・」

 その言葉は、店長の理容師としての職人魂を絶妙にくすぐったのだった。店長は、ニヤニヤしながら、

「手間がかかって、しよーがーねーなぁ・・・じゃあ、ギリギリのところまでがんばってみるか!!」

と言うのだった。

「さすがオジサン!!恩に着ます!!」

 市立第三中学校において、すでに「男子丸刈り規定」は廃止されていた。

 生徒心得・頭髪編には、男女とも

「本校生徒は、少なくとも月に一回、学校が指定した理容店(男女)または美容店(女子のみ)にて整髪し、中学生らしい髪型を常に心がける。」

ことが規定されているだけだった。

 そのため、月に一回、学校で実施される頭髪検査に際しては、男子の場合、前日までに学校が指定した理容店(以下、指定理容店)で「中学生刈り(中学生カット)」にて散髪し、指定理容店・店長発行の「整髪証明書」(有効期限は発行日を含めて7日間)を提出する必要があった。

 「整髪証明書」を頭髪検査日・当日に提出すること、そのことがまさに「中学生らしい髪型」を常に心がけていることの極めて重要な証拠なのであった。

「はい!次の方、どうぞ!!」

 店長の右隣りのバーバーチェアを担当していた応援理容師が次の客を自分担当の椅子へと呼び込む。

 3Aでサッカー部員の近藤陽介が、読んでいた「少年ジャンプ」を本棚に戻して立ち上がり、となりの椅子にやってくる。

「一分刈りで・・・」

 すでに丸刈りの陽介君。さらに短く刈り込むつもりだ。

「陽介は、A組か・・・」

と、真ん中で西原健太君の髪をカット中の店長が横から口を挟む。

「は、はい・・・サッカー部だし、吉田、あっ、吉田先生がうるさいんで・・・」

 丸刈り、スポーツ刈りは、理容店のメニュー上、「中学生カット」ではないが、市立三中・頭髪検査においては「中学生らしい髪型」と見做されていた。

 部活などで普段から丸刈りの男子生徒も、頭髪検査に際しては、指定理容店で散髪し、「整髪証明書」を提出する必要があった。

 そして、市立三中・サッカー部では、3A担任でもあり、サッカー部顧問でもある吉田先生の指導により、サッカー部員は、頭髪検査に際しては「一分刈り(3mmの丸刈りカット)」にする!と決められていたのだ。

「はい!次の方、どうぞ!!」

 店長の左隣りのバーバーチェアを担当していたもう一人の応援理容師が次の客を自分担当の椅子へと呼び込むのだった。

 そして、待合スペースの丸椅子から立ち上がって、空いているバーバーチェアへとやってきたのは、C組で音楽部(フルート担当)の谷山啓太君だった。そして、脇に持っていたNHK番組テキスト「フルートとともに」(講師:三村園子先生)を荷物置き用バスケットに入れて、バーバーチェアに座るのだった。

「中学生カットで・・・来週、発表会があるんで、少し長めでお願いします・・・」

と、谷山啓太は、自分を担当する若手理容師にリクエストする。

 店長が、再び、横から、

「啓ちゃん、いつもうちの義之が部活でお世話になるねぇ。」

と声をかける。

「いえ・・・こちらこそ・・・」

と、それに答える谷山君。なかなかのおすまし君だ。

 さらに、今度は、店長が散髪しているB組の西原健太君が、

「チェッ!C組の石井先生は、やさしくていいよな!!」

と口をとがらして言う。

 それに同調して、隣ですでにクリクリ坊主になっているA組でサッカー部の近藤陽介君が、

「そうだよ!!俺たちのクラスだったら、C組の男子全員、頭髪検査不合格で丸坊主だぜ!!不公平だよ!!」

と言うのだった。

 そんな二人の反応に、理容師たちは、苦笑いするばかり。色白で大人しそうなC組の谷山君は、西原君と近藤君の言葉を、顔を真っ赤にして黙って聞いているだけだった。

 「中学生らしい髪型」とは、いったいどのような髪型なのか。

 指定理髪店制度を採用する大悟たちの住む市では、市教育委員会より、

「前髪は眉毛にかからない、両サイドは耳にかからない、頭の上の髪(トップ)はできるだけ短めに梳き、後ろは少なくとも両耳の高さまでバリカンにて刈り上げた髪型。ただし、上記条件をすべて満たしても、リーゼントヘアー、モヒカンヘアー、それらに類似の髪型は不可とする。」

との申し入れが、いくつかのヘアースタイル・サンプル写真とともに、指定理髪店・店長宛てに届けられていた。

(太朗警告:この髪型を理髪店または美容店でリクエストした場合の結果は、自己責任でお願いします。)

 もちろん、有効な「整髪証明書」を頭髪検査を受ける際、担任に提出できることが大前提ではあるのだが、市立三中の場合、クラス毎に頭髪検査が行われていたため、「中学生らしい髪型」であるか否かの最終判断は、担任の教師に任せられていたのである。よって、クラス毎、すなわち、担任教師毎に、頭髪検査の厳しさと、頭髪検査が不合格になった場合の罰が、それぞれ違っており、不公平感を抱く生徒も多かったのである。

 

三、通達 閉店時間を厳守セヨ!!



 市立三中の中三・男子で混雑するバーバー青木。

 3Aの中村大悟の番が回ってきたのは、閉店15分前の午後5時45分過ぎだった。担当は真ん中の席の店長・青木だった。

「中学生カットでお願いします。」

「はいよ!!お、大悟君、また逞しくなったんじゃねぇーか!!」

「ありがとうございます・・・。」

「まだラグビーやってるの?」

「はい、一応・・・。教室に通ってます。」

「いいね〜。うちの軟弱息子にも、大悟君の爪の垢でも煎じて飲ませてやりてーくれえだ!!」

 そんな会話もそこそこに、店長・青木は、早速、バリカンをウィ〜ンとうならせ、大悟の後頭部を高く刈り上げていくのだった。

 そんな間にも、さらに混雑してくる店内。思春期の男子たちのまだ幼い乳臭さにも似た男臭さ・ホルモン臭に、店内はムッとするほどだった

 閉店間際、入り口をちょっと覗いては店内に立ち入ることもせず、あきらめ顔で帰っていく大人や家族連れの常連客も多かった。そのたびに、店長は、大きな声で、「すいません!!またよろしくお願いします!!」と声掛けをしていく。

 一方、市立三中の男子生徒はあきらめるわけにはいかない。閉店時間ギリギリになっても、まだバーバーの入り口を「お願いします!!」と言って入ってくる中三男子がいるのだった。

 そして、閉店時間の午後6時を30秒ほど回った時、また一人の中三男子が、店内の飛び込んでくる。

「あ・・・間に合った!!お願いします!!」

 息をきらせてそう挨拶する男子生徒に、店長は「チッ!!」と舌打ちすると、

「しよーがーねぇーなー!!今回は特別だぞ!!イスに座って待ってな!!」

と言うのだった。

「ありがとうございます!!」

とその生徒は、顔にホッとしたような表情を浮かべて、待合椅子の最後尾に座るのだった。

 その生徒をみながら、そこで待ち合わせていた男子生徒たちは、ニヤニヤしながら、口々に「セーフ!!」と言うのだった。

 中三男子たちのその反応に、店長・青木は苦笑いしながら、若手応援理髪師の一人に、店のカーテンを閉じ、入り口のドアに錠をかけるように指示するのだった。店長の指示に、テキパキと閉店の準備を整える若手応援理髪師。以後、客である中学生たちは、散髪を終えると、散髪料金を支払い、店長から「整髪証明書」を受け取って、バーバー青木の横の通用口から出ていくのが恒例であった。

 こうして、午後6時03分25秒、店先の赤・青・白の三色ねじり棒ネオンサインも消灯し、「バーバー青木」のその日の散髪受付は終了したのである。

 しかし、受付終了からほどなくして、店の外から、

「おじさん、お願いします!!」

「テニスの大会が長引いちゃって、遅れたんです!!お願いします!!」

との声が聞こえてくる。

 市立三中・3Cでテニス部員でもある秋吉君と森田君。そして、同じく3Dでテニス部員の福本君だった。

 しかし、店内からはなにも反応が返ってこない。三人は顔に不安な表情を浮かべる。特に、テニス部の福本君は、真っ赤な顔で半泣き状態だった。

「だから言っただろう!!昨日、来るべきだったんだよ!!なのにお前らが、明日、大会が終わってからで十分間に合うとかいうからさぁー!!」

「しょうがねーだろ!!まさか、あんなに長引くなんて予想できなかったんだから!!」

 店前で言い合いをしているテニス部三人組は、「中学生カット」で大会に出るのはダサいと、頭髪検査に備えての散髪をギリギリまで延期していたのであった。

「チェッ!!C組はいいよな!!石井先生、甘いもんなぁ・・・」

 福本君のその言葉を聞いて、秋吉君と森田君は、ちょっと余裕のニヤニヤ顔。

「オレたちだって、正座させられて、先生から説教なんだぞ!!」

「そんなの罰のうちに入らねーよ!!うちは、吉田か池永がやってきて、それで頭髪検査なんだから・・・整髪証明書を出せないとどうなるかわかってんだろ!!」

 3D担任は、女性の真行寺ツタ(しんぎょうじ つた)先生。市立三中では、最長老で、女子生徒のお行儀にはチトうるさいお姑さんタイプの女性教師だった。

 しかし、男子のこととなると、すべて男の先生にお任せするタイプ。頭髪検査も、「殿方(とのがた)の髪型について、わたくしは無知なものですから・・・」と言って、3年D組男子の頭髪検査は、毎回、A組担任の吉田先生か、B組担任の池永先生に任せっぱなしなのであった。

 秋吉君、森田君、そして、福本君の言い合いは、店内にも聞こえていた。若手応援理髪師が、心配そうな顔で、店長に視線を送り、彼らを受け入れるか伺いを立ててくる。しかし、青木・店長の合図は、ノーだった。

 以前は、週末、特に、翌日が休業となる日曜日の営業時間については、臨機応変に対応し、場合によっては、午後7時半頃まで延長することもしばしばだった。

 しかし、指定理髪店制度となり、「整髪証明書」を発行するようになってから、学校側から、

「生徒たちに時間厳守の大切さを教えるため、特に頭髪検査日前日に、通常の営業時間を超えての散髪受付は、極力行わないようご協力お願いします。」

との申し入れがあったのだ。

 もちろん、営業上はマイナスになるのだが、指定理髪店の認定を取り消されては一大事と、その申し入れを、理容店組合として受け入れたのであった。

 そして、店長・青木は、三中の吉田先生が、そのことに特に口うるさいことをよく知っていた。閉店時間を超えて生徒を受け入れると、どこからその情報を入手するのか、翌々日には、必ずと言っていいほどやってきて、閉店時間厳守のお願いをしていくのであった。

 そんなことが数度あって以来、店長・青木も、男子中学生たちのことをかわいそうだと思いながらも、日曜日だけは、閉店時間を厳守するようにしているのであった。

 その時、店内にいた市立三中の男子生徒たちは、お互いに顔を見合わせてニヤニヤしている。そして、いまだバーバーチェアの上で、その声を聞いていた、中村大悟は、心臓をバクバクさせ、ジャージに覆われた白ブリーフの股間にビンビンと元気よくテントを張っていたのだった・・・。

 やがて三人はあきらめたのかお互いに無言になる。

 そして、D組の福本君は、泣きそうな顔と声で、

「冗談じゃねーよ・・・坊主とケツ竹刀かよ・・・そうだ・・・まだあいている床屋あるかもしれねぇ・・・」

とつぶやきながら、テニス部チームメートでC組の秋吉君と森田君には挨拶することもせず、その場から走り去っていくのだった。福本君のピチピチ、ショートパンツスタイルのテニス白短パンのケツが哀しく揺れているように見えた。

 そんな福本君の茶色薄汚れたテニスパンツのケツをみながら、秋吉君が、

「おい森田・・・いいのかよ・・・アイツ、いっちゃったぜ・・・。」

と声を潜めて言うのだった。

「ほっとけよ・・・あのことは、C組男子だけの秘密だからな・・・アイツにはいっちゃダメなの・・・さあ、裏口に回ろうぜ!!」

「おお、石井先生はやさしくていいけど、説教がネチネチしていてうっとおしいからな・・・」

 そんなことを言いながら、二人は、バーバー青木の「裏口」へと回る。もちろん、それは店に対しては裏口だったが、青木店長の家の玄関であった。そして、それはすなわち、市立三中・3年C組男子学級委員の青木義之の家の玄関口だったのである。

 

四、きみの朝


 9月の第三月曜日の朝。市立三中の3年生男子たちの頭髪検査の日だ。

 その日の登校に際して、彼らにとって、絶対に忘れてはならないものが一つあった。それは、前日までにそれぞれの理髪店でもらった「整髪証明書」だ。その日の朝、男子生徒たちは、その紙片を大切にカバンにしまいこみ登校するのである。

 中村家・母屋二階の部屋で朝の支度をする3A・中村大悟。

「圭悟兄ちゃん、最近、やけに学校行くの早いよな・・・。」

 大悟は、兄・圭悟が朝練を遅刻し、同学年の主将・北村からケツバットを食らい、おまけに一年生と一緒に後片付けの罰当番を食らっていたことを知らなかった。

< 関連スピンオフ 1980 兄貴もつらいぜ!!進学校・ケツバット 参照>

 そのことがあって以来、兄・圭悟は、「朝練にだけは、死んでも遅刻しねぇ!!」と心に誓い、それを実践していたのであった。

 中村大悟は、一人、朝の支度をしていた。兄貴との相部屋も、一人だと、なにかとても広く感じられた。

 大悟が制服に着替えるべくジャージを脱ぎ捨てた瞬間。青くさい臭いが鼻をつく。

「あっ、そうだ・・・やっべぇ・・・」

 大悟は、あわてて、氏名・クラス名明記の白ブリーフの腰ゴムを広げて、己のパンツの中へと視線を下ろす。スクール白ブリーフのフロント部にベットリとついた生乾きの茶色い大きな染みが大悟の目に入る。それをみて、大悟は、昨晩みた夢を思い出す・・・。 


  昼休みの校庭。手洗い場横のコンクリートの上に、白短パン一丁で正座させられている自分。背筋をピンと伸ばし、両目をつむり、両拳を軽く握って、それをそれぞれの両ひざの上に軽く置く・・・反省の正座体勢だ。こうして自分たちが正座させられ、順番を待っている光景に、生徒たちの好奇の目が注がれていることを痛いほどに感じる大悟だった。

 大悟の右隣には、D組でテニス部の福本君が、やはり自分と同じく正座して、そして、左隣には、3Bの西原君が同じく正座している。その日の頭髪検査違反者はやけに多く、総勢8名。A組4名、B組3名、D組1名、そして、C組からの違反者はゼロだった。

「よし次!!福本!!こっちへ来い!!」

と、A組担任の吉田先生の厳しい声が響く。

「は、はい・・・」

 福本の元気のない返事。

 しばらくすると、ウィ〜ンとバリカンの音が大悟の耳に飛び込んでくる。

「よし!!気合入れてやっからな!!だいだい、おまえらテニス部の連中は、いつもチャラチャラ長い髪しやがって、全然中学生らしくねぇーんだよ!!」

 そんな言葉を福本にあびせながら、吉田先生は、福本君の頭を、手際よくクリクリの五厘に丸く刈っていく。

 福本君が所属するテニス部の後輩を含むチームメートのギャラリーたちは、総勢十数名。お互い顔を見合わせている。

 そして、しばらくすると、

「よし!!一丁あがり!!よく似合ってるぞ、福本!!」

と言いながら、吉田先生は、手洗い場の方を指し示すのだった。

「ありがとうございました!!」

と挨拶し、木製の丸椅子から立ち上がった福本君。

 青刈りのクリクリ坊主頭に、よく日焼けしてテニスシャツの日焼けあとも逞しい福本君。しっかりわれた腹筋の下は、テニス部の白短パン一丁。その白短パンがやや下がって、白ブリーフの腰ゴムも見え隠れする。そして、福本君のケツの部分には、ブリーフラインがクッキリと浮かび上がっていた。

 吉田先生の指示通り、池永先生の待つ、手洗い場のところへと向かう福本君。手洗い場のところでどうすればいいのか、言われなくてもわかっていた。

 手洗い場のコンクリートの縁に両手をつくと、五厘刈りの頭をグッと下げて、

「お願いします!!!」

と言うのだった。手洗い場のところで上体を屈めた福本君の薄汚れたテニス白短パンのケツの部分にさらにクッキリとブリーフのラインが浮かび上がる。

 テニス部のチームメートたちは、手洗い場の前で後ろに突き出された福本君のテニパン一丁のケツを見て、次は、あのケツに吉田先生の竹刀が飛ぶことを思い、自分たちのケツがキュッキュッとかすかに痙攣していることに気がつくのだった。

 待っていた池永先生は、ニヤリと笑い、

「よし!!気合入ってるじゃねーか、福本・・・」

と言うと、水道の栓を全開にする。

 すると、池永先生が右手に持つ、最新式・水道の蛇口に装着していつでも使える!!朝シャン用簡易シャワーノズルのヘッドから勢いよく水が吹き出してくるのだった。

 池永先生は、福本君の五厘刈りの頭を手洗い場の沈めるかのようにさらいグイッと左手で押し下げると、そのクリクリ頭を乱暴に撫でまわしながら、豪快に吹き出るシャワーの水を、福本君の頭にかけていくのだった。

 乱暴な「洗髪」が済むと、池永先生は、用意してあった「保健室タオル」を福本君の頭に無造作にホイとかぶせ、そのタオルで、グリグリッと二度三度、荒っぽく福本君の頭のこするようにして頭に残った水分を拭きとっていく。

 もちろん、用意された「保健室タオル」は一枚。反省丸刈りを食らった違反者全員の頭の水分をこれでふき取るのだった。自分よりも前に坊主頭にされたヤツらの頭も拭いて、半分濡れたままのタオルを頭からかけられ、福本君は、これが罰であることを思い知るのだった。

 そして、それが済むと、池永先生は、五厘のため頭皮がジョリジョリ状態の福本君の頭に引っかかってしまうタオルを乱暴に引っ張り上げるのだった。

「ありがとうございました!!」

「よし!!戻って、全員が終わるまで正座して待ってろ!!すっきりして頭も冴えてるだろ!!しっかり反省しろ!!」

「はい!!」

 真っ赤な顔をして、反省のクリクリ坊主に変身した福本君は、列にもどり、再び、正座黙想するのだった。

・・・・・・・・・・・

 やがて、全員の罰丸刈りがすむと、吉田先生が頭髪検査違反者全員の前にやってきて、

「目を開けて立ってよし!!」

と言う。

 しびれた両足でやっと立ち上がった彼らの前に、竹刀を前にした吉田先生が仁王立ちになっている。彼らは、吉田先生の竹刀を目の当たりにして、ゴクリと生唾を飲み込み、吉田先生の「反省床屋」の仕上げのコース「短パン尻竹刀」に覚悟を決めるのだった。

「回れ右!!バンザイしてケツを後ろに出す!!」

「あぁ・・・ケツ竹刀だ・・・・畜生・・・なんでオレだけこんな目にあうんだよ・・・いいよなC組のヤツらは・・・」

「コラァ!!福本!!なにブツブツ言ってんだ!!反省が足りん!!竹刀一発追加!!」

「は、はい!!あぁ・・・・」

 隣の福本君のそんなボヤキと溜息を聞きながら、白短パンと白ブリーフのつつまれた大悟の股間は、ドクン!!ドクン!!と大きく脈打ち始める・・・。

「いいか!!おまえらに教えてやる!!おまえらの後ろで、おまえらのケツをみて、後輩たちがみんな笑ってるぞ!!三年生にもなって恥ずかしいと思え!!反省を確固たるものにするため、ケツに竹刀3発だ!!福本は一発追加で4発!!いくぞ!!」

パァ〜〜ン!!

パァ〜〜ン!!

パァ〜〜ン!!

「ありがとうございました!!」

 茶色く薄汚れた中三男子・白短パンのケツを、吉田先生は、容赦なく竹刀で打ちすえていく。

パァ〜〜ン!!

パァ〜〜ン!!

パァ〜〜ン!!

「ありがとうございました!!」

パァ〜〜ン!!

パァ〜〜ン!!

パァ〜〜ン!!

「ありがとうございました!!」

 違反者の白短パンの尻を容赦なく打ち据える吉田先生の竹刀の音と、ケツを打たれた生徒の苦しげな挨拶。順番は、後ろに突き出した大悟の白短パンのケツにもだんだん近づいてくる・・・・・。

「や、やばい・・・・も、もうこれ以上・・・ガマンできねぇ・・・ううっ」

 ハッと目が覚めた瞬間。己の股間に生温かいネチョ〜〜とした気持ちのわるい感覚を覚える大悟。この気持ち悪さをどうにかしなくてはと、必死で起きようともがく大悟。しかし、すぐにやってくる睡魔に、打ち勝つことなどできなかった。

「あぁ・・・またやっちゃったかも・・・ムニャムニャ・・・・」

 こうして、大悟は、深い眠りに落ちていったのだった・・・。


 そんな夢を思い出しながら、大悟は、あろうことか、再び、白ブリーフの股間にビンビンとテントを張ってしまうのだった。

 ふと目にとまる「整髪証明書」。昨日、「バーバー青木」で受け取ったものだった。忘れないよう机の上の目立つところに出してあったのだ。

「これを破れば・・・夢が現実に・・・」

 大悟の右手は、すでにブリーフの中でいきり勃起つ大悟の男性自身を玩んでいた・・・。

「ま、まだちょっと時間がある・・・兄ちゃんもいないし・・・・」

 そうつぶやくと、右手はブリーフの中に突っ込んだまま、大悟は、勉強机の椅子に腰を下ろすと、左手でラジカセのカセットの「PLAY」ボタンを押し、音量を「MAX」にする。ラジカセのスピーカーから岸田智史の「きみの朝」が流れてくる。そして、大悟の竿を扱く右手の律動も徐々にそのスピードを上げほどなく「MAX」に達する。

「あっあぁ・・・・・」

 それはあっという間だった・・・・。若い大悟は、ブリーフの中で果て、疲れたようにぐったりと勉強机に顔をつける。

 「きみの朝」を聞き流しながら、大悟は、

「あぁ・・・なんでオレってこんなことばっか考えちまうんだろう・・・」

と思うのだった。

 やがてなにかを決心したような顔つきで上体をスクとおこし、「整髪証明書」の両端をつまむように持つ大悟・・・。

「ダ、ダメだ・・・こんなこと・・・」

 大悟は、自分に憑いた考えをふり払うかのように顔を横に強く振ると、「整髪証明書」をカバンの中にしまいこむのだった。

 

五、テニスボーイの憂鬱 1980



 月曜日の早朝。今日は学校で頭髪検査の日。

 家でテニス部の朝練へ行く準備をする福本憲之。いつになく憂鬱だった。

「あっ、新曲だ・・・」

 テレビから流れてくる男性アイドル・田原俊彦の新曲「ハッとして!Good」。それはチョコレートのCMソング。人気女性アイドル・松田聖子との共演だった。

 軽井沢のテニスコートで偶然出会った二人。お互い一目見てハッとして恋に落ちる。そして、トシちゃんは、ガールフレンドになった聖子ちゃんに、一粒のアーモンドチョコレートを渡すのだ!!

 もちろん、トシちゃんは、当時流行した「トシちゃんヘア」。聖子ちゃんは、「聖子ちゃんカット」。

 そして、女子の聖子ちゃんが白のミニスカートならば、男子のトシちゃんは、程よいピッチリサイズの白短パンだ!!

 そんなテレビCMを横目でチラチラみながら、

「あぁ・・・オレもアイツみたいなヘアスタイルで県大会に出たかったよな・・・朝練行きたくねぇーな・・・」

とブツクサつぶやく福本君だった。


 案の定。市立三中・テニス部の朝練で、福本君は、ずっと浮かない顔。テニスにも全然集中できない。今日の「頭髪検査」ことで頭はいっぱいだった。

「コラァ!!憲之!!何考えてるんだ!!もっと練習に集中しろ!!」

と、テニス部の顧問兼コーチの宮本先生から注意が飛ぶ。

 そんな様子を、同じくテニス部で、3Cの秋吉健介君と森田学君は、ニヤニヤして眺めている。

「アイツ、昼休みには、五厘か・・・放課後の部活が楽しみだぜ・・・フフフ」

 二人は、放課後、テニスコートに恥ずかしそうに立つ、クリクリ坊主の福本君の姿を想像していた。

 やがて、練習も終わり、宮本信博(みやもと のぶひろ)先生(2B担任 体育担当)が、テニス部員全員に集合をかける。

「集合!!」

 部員たちは、三年生を最前列に、二年生、一年生と男女別に整列する。

「福本、前に出てきなさい。」

「は、はい・・・」

 宮本先生の指示に、うかない憂鬱そうな顔で列から前に出てくる福本君。そして、福本君は、整列しているテニス部員たちの方を向いて、宮本先生の横に立つのだった。

「どうしたんだ、憲之?今朝は、練習中、ずっとうかない顔してたじゃないか・・・集中力にも欠いていたぞ!!昨日の市大会の疲れが出たのか?」

と、宮本先生は心配そうに福本君に聞いてくるのだった。

 宮本先生は20代後半。背はそれほど高くなく170cmの福本君くらいだったが、よくテニス焼けして、ガッチリと逞しい体躯。部活の時に宮本先生がはくテニスパンツは、先生自身が大学テニス部で穿いていた白テニ短パンで、男子生徒のはくテニパンよりも短くピッチリとしていた。そして、宮本先生がその白短パンの下にはく白ブリーフの五角形のシルエットラインが、学生時代よりはき込まれた白短パンの上からもクッキリとよく観察できた。

「いえ、べつに・・・」

と宮本先生の問いかけにそっけない返事をする福本君。

 宮本先生は、怪訝そうな顔つきをするが、思春期男子にはよくあることだろうと思ったのか、それ以上、福本君には何も言わず、自分と福本君の前に整列しているテニス部員たちに、

「君たちにうれしい報告がある!!みんなも知っての通り、昨日の市主催の中学生テニス大会で、我らが三中テニス部の福本が、ベストフォーまで勝ち残った。そして、昨日の夜、市の中学テニス協会の岡部理事長から先生のところに電話があり、福本が、来週・県民運動公園・メインテニスコートで行われる秋季・全県中学生テニス大会の特別枠選手として推薦されることが内定した!!今日にも、岡部理事長から校長先生に正式にお知らせの電話がある予定だ!!」

と、誇らしげに報告するのだった。

「おーーーーー!!福本、すげぇーーーー!!」

「うわぁ!!福本君、すごーーーーい!!」

と部員たちから歓声があがり、拍手がわきおこる。

 しかし、福本君は、依然、浮かない顔つき。県大会推薦の報は、すでに前日の夜、宮本先生から福本君の家に届いていた。そして、その一報が、かえって福本君を苦しめるのだった。

「さあ、福本、みんなに挨拶するんだ!!」

「えっ・・・は、はい・・・・みんなの声援にこたえられるように、気合入れて、がんばります・・・」

 それだけ言って、沈黙してしまう福本君。

 3Cの秋吉健介君と森田学君は、再び、ニヤついた顔で、

「福本のヤツ・・・・気合の五厘で出場だな・・・フフフ。」

と思うのだった。

「なんだ・・・それだけか・・・まあ、いい・・・みんな、お前に期待しているんだからな!!がんばれよ!!よし、それでは解散!!朝のホームルームに遅れないように!!」

と宮本先生。

 宮本先生のその言葉は、福本君の心にズッシリと重く響く。

「あぁ・・・宮本先生が担任だったらな・・・」

 宮本先生の男子・頭髪検査にも、違反者には罰があった。福本君は、中一の時、宮本先生担任のクラスで、それを経験済みだった。

 その罰とは、平手でケツを一発バチィ〜〜ン!!と叩かれる。そして、「明日の夕方までに床屋に行ってこい!!」と指示されるだけ。しかも、部活で遅くなりそうな場合は、部活から早退できるよう宮本先生が顧問の先生に配慮をお願いしてくれたのだった。

「おい、福本どうしたんだ?何かあったのか?」

と、解散後、宮本先生が心配そうに福本君に話しかけてくる。

「・・・・い、いえ・・・別に・・・」

 宮本先生に相談すれば、もしかしたら、助けてくれるかもしれない・・・宮本先生なら、昨日、テニス大会の終了が遅れ、床屋の閉店時間に間に合わなかった事情をわかってくれるはずだ・・・・。

 しかし、福本君は、宮本先生に迷惑をかけるのではという心配から、そして、もしかしたら、宮本先生も自分のことを叱りつけるのではという心配から、その時は、何も相談することができなかった・・・。

 無言の福本君に、宮本先生は、「仕方のないヤツだ・・・」といったような顔つきをし、福本君の茶色くよごれた白短パンの尻をやさしく二、三度、ポンポンと平手で叩くと、

「まあ、がんばれ!!悩みがあったら、いつでも相談に来るんだぞ・・・」

とだけ言い残し、福本君よりも先に、校舎の方へと戻っていくのだった。

 福本君は、兄貴のような優しい宮本先生の後姿を、何とも言えない切なそうな表情でジッとみつめるだけだった。

 

六、職員室教育談義 

 昼休みの職員室。職員室内・入り口脇のところで、3Dの福本憲之が真っ赤な顔で正座させられている。上半身裸の白短パン一丁で、背筋をピンと伸ばし、両掌は軽く拳を握り両ひざの上に置いている。両目を瞑り、黙想し、「お仕置き」前の反省中だった。

「先生!!今回だけは福本憲之のこと、許してやってくれませんか!!お願いします!!」

 その同じ職員室で、体育担当で2B担任の宮本先生が、3A担任の吉田先生の机のところで頭を下げていた。

 朝と同じピチピチの白テニパンの宮本先生。深く頭を下げて、後ろにグッと突き出された宮本先生のテニパンのケツには、宮本先生の穿く白ブリーフのシルエットラインがクッキリ浮かび上がっていた。

 童顔でなかなかイケメンの宮本先生。吉田先生の机のところに立っている様は、まるで吉田先生から呼び出しを食らった男子生徒のようだった。

「先生が何度頼みに来てもダメなものはダメです!!例外は認められません!!わたしが行う男子の頭髪検査違反者には、丸刈りと竹刀です!!さあ、池永先生!!行きましょう!!」

 宮本先生の懇願を振り切るかのように、吉田先生は、池永先生に声をかけ、職員室の席を立つ。吉田先生の右手には、家庭用電動バリカンが握られていた。

「3Cでは違反しても、正座させられるだけだって話じゃないですか!!今回だけです!!お願いします!!」

と、さらに食い下がる宮本先生。

 宮本先生のその言葉に、同じ場所に座っていた3C担任の石井良太先生(音楽担当)が、顔に気まずそうな表情を浮かべるのだった。

「石井先生も宮本先生も甘すぎるんですよ!!いいですか!!中三の男子なんてものは、身体は大人でも、心は、まだまだ4、5歳のガキと同じなんだ!!福本憲之も例外ではない!!大人との約束を守れなかったら、ケツの一つや二つ、ビシッと叩いてやるのが一番効果があっていいんです!!」

と、池永先生。

 まだ若い宮本先生は、先輩の池永先生の説教のような言葉に、ちょっと気分を害した様子。しかし、何も言い返すことはできなかった。

 一方、池永先生のあてつけのような言葉に、石井良太先生は、顔を上げ、その黒縁メガネの奥の眼をキッと見開き、池永先生のことをジッと見つめるのだった。

 しかし、池永先生は、石井先生の視線を無視するかのように、

「いいですか、福本憲之は約束を破ったのです。大人との約束を破った福本憲之を、全校生徒の前で、丸坊主にし、ケツを厳しく叩くことは、アイツ自身のためだけではない!!全校生徒のためでもあるのです!!」

とキッパリ言い放つと、右手に竹刀を握って席を立つのだった。

 宮本先生の「嘆願」と、それに対する吉田先生、池永先生の言葉は、福本君にも聞こえていた。

 福本君は、目を瞑りながらも、いまにも泣きそうな表情を顔に浮かべ、

「チェッ・・・結局、オレだけみせしめかよ・・・」

と思うのだった。

 そんな福本君に、吉田先生が、

「さあ、福本!!立って、ついて来い!!」

と厳しく指示を出す。

 そして、吉田先生のその指示に、むくれたような表情をみせながら立ち上がった福本君の右太ももに、

パァ〜〜ン!!!

と池永先生の竹刀が飛ぶ。そして、池永先生は、

「コラァ!!福本!!何、むくれた顔してんだ!!反省が足りん!!生意気だぞ!!」

と、福本君を叱りつける。

 福本君は、真っ赤な顔で、己の右太ももを痛そうにさすりながら、

「モモ叩かなくたっていいじゃないッスか・・・グスン・・・」

と、涙声で、つぶやくように言うのだった。

 職員室を後にする三人の後を心配そうに追いかけていく宮本先生。

 そして、3C担任の石井先生は、憤懣やるかたないといった顔つきをする。

 一方、福本君が所属する3D担任の真行寺先生は、満足そうに何度もうなずいている。それはまるで、

「男の子は、あのくらい厳しくしてくれないと、わたくしの学級運営に支障がでるざぁ〜ます!!」

と言わんばかりの表情であった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 しばらくして校庭からきこてくる生徒たちのざわめき、そして、

パァ〜〜ン!!

パァ〜〜ン!!

パァ〜〜ン!!

という福本君のテニパンのケツを竹刀が強襲する音・・・・。結局、その日、頭髪検査違反で丸刈りとケツ竹刀の罰を受けたのは、福本君一人だった。

 石井先生は、依然、渋い顔つきで、自分の机のところから立つと、職員室の窓から外の校庭に目をやるのだった。

 五厘刈りにされた福本君が、痛そうにケツをさすっている。福本君はまさに青刈り坊主・・・よく「テニスやけ」した額の部分と刈られた頭の部分のコントラストが鮮明だった。

 そして、そんな福本君に心配そうに寄り添う宮本先生。宮本先生は、福本君の五厘刈りのクリクリ頭に、白のテニス帽をそっと被せてやっているのだった。

 石井先生は、拳をグッと握りしめると、

「ぼ、僕は、ああいったやり方には断固として反対です!!」

とつぶやく。

 驚いたようにハッとして顔を上げて石井先生の方をみつめる真行寺先生。石井先生のつぶやきには、その弱々しい風貌からは想像できない、力強い決意のようなものが感じとられた。

 

七、告げ口

 頭髪検査違反(整髪証明書不提出)のペナルティーである五厘刈りとケツ竹刀が敢行された後、3D福本憲之は、宮本先生に付き添われ、体育館一階・体育準備室横にある「体育科控室」に来ていた。

「痛っ・・・せ、先生・・・もっとやさしくぬってくださいよ・・・。」

 五厘に丸めた頭を真っ赤にさせて3D福本憲之が、白短パンと白ブリーフをペロンと下ろして、宮本先生の方にケツを向けている。福本のケツには、ベットリと赤紫色の三本の太線が焼き付けられていた。

 宮本先生は、

「わ、わりぃ・・・ちょっとだけガマンしてくれ・・・・」

と言いながら、福本の痛々しいケツの痣に、軟膏をできるだけやさしく塗ってやるのだった。

 少し離れたところで、今年市立三中に着任したばかりで、1A副担任の新人教師・近藤先生(体育)がその二人の様子を興味津々で眺めている。

「すげぇーアザだ・・・、ちょっと厳しすぎやしませんかね・・・」

「まあな・・・吉田、池永コンビだからな仕方がない・・・」

「ですよね・・・宮本先生も、頭髪検査違反者のケツ、竹刀で叩くんですか・・・」

「いや・・・オレは、男の場合は、ケツを平手で軽く一発バチン。女子の場合は、出席簿で頭を軽くバンだ・・・。」

「そうだよな・・・福本・・・」

「うっそぉ、先生の平手打ち、全然軽くないッスよ・・・」

「そ、そうか・・・やさしくやっているつもりなんだけどな・・・」

「ワハハハ・・・・宮本先生、言われちゃいましたね・・・・オレも、来年、担任受け持ったら、その線で行こうかなぁ・・・竹刀であんなフルスイング、できねぇーし・・・。」

「暴力反対!!」と、ケツを出している福本が言う。

「コラ!!先生に対して生意気を言うんじゃない!!」と、宮本先生がたしなめる。

「はぁ〜い。」

「よし!!終わったぞ!!もうすぐ5時間目だ・・・教室に戻りなさい!!ケツがすごく痛むようだったら、部活休んでいいんだぞ!!」

「ありがとうございました!!」

 そう言って、白ブリーフと白短パンをそぉ〜と上げる福本。

 そして、宮本先生の言葉には、

「ケツは大丈夫です。軟膏塗ってもらってだいぶ楽になりました。秋季全中もあるんで、今日も部活でます!!失礼します!!」

(太朗注:秋季全中・・・福本が特別枠で出場する「秋季・全県中学生テニス大会」のこと。第五節参照。)

と答えると、福本はペコリと頭を下げて体育科控室を出ていくのだった。

 福本が出ていくと、新人の近藤先生は、つぶやくように、

「それにしても、池永先生の竹刀、福本君のケツにジャストミートでしたよね・・・よくもあんな正確に人のケツを打ち据えられるよな・・・池永先生、学生時代はずっと水泳やってたんですよね・・・。」

と言う。

「ああ、でも、高校までは、警官のオヤジさんの影響で、ずっと剣道部だったらしいぜ。」

「そうなんですか!!どうりで・・・」

「池永先生のオヤジさんって、すごく堅物で厳しい人でな・・・帝都体育大で水泳部に入った池永先生のこと、この根性なしって、ボコボコにしたらしいぜ・・・」

「こぇ〜〜〜」

 そんな話をしていると、宮本先生が担任している2Bで、やはりテニス部員の寺原雄太が、控室に挨拶して入ってくるのだった。

「おお、雄太か・・・どうしたんだ・・・もうすぐ5時間目が始まるのに、こんなところにいちゃダメじゃないのか・・・」

と言う宮本先生に、2Bの寺原は、大きな目をクリクリさせ、息をきらしながら、

「だって、先生、職員室にいなかったじゃないですか・・・ボク、探したんですよ・・・」

「あ、そうかそうか、わりぃわりぃ・・・で、どうしたんだ・・・・」

「あの・・・ボ、ボク・・・昨日の夕方、みちゃったんです・・・床屋の、あっ、バーバー青木の裏口の家の玄関のところで・・・」

「ああ、バーバー青木の母屋だな・・・で、玄関のところでどうしたんだ?」

「えっと・・・秋吉先輩と森田先輩が閉店時間に間に合わなくて、髪切ってもらってないのに、整髪証明書もらってたんです・・・」

「えっ・・・」

「あの・・・ボク・・・福本先輩だけ罰を受けるなんて不公平だと思います・・・」

 そういうと、2B寺原は、宮本先生の顔を黙ったままジッと見つめているのだった。

 告げ口が大嫌いな宮本先生は、いつもなら、

「告げ口は男のすることではない!!」

と言って、2B寺原のケツを一発バチンと平手打ちして、教室に戻るように促すのだが、その時ばかりは、しばしの沈黙の後、大きくうなずき、

「教えてくれてありがとな・・・先生も不公平だと思います・・・・あとで石井先生に聞いてみるから安心しなさい・・・」

と言って、寺原を教室に帰らせるのだった。

 そして、寺原と入れ替わりに「体育科控室」に戻ってくる池永先生。右手にはさっき福本のケツを打ち据えばかりの竹刀が握られていた。

 新人教師の近藤先生は、その竹刀を見て、

「こっ、恐っえぇ・・・」

と小声でつぶやくと、思わず着ていた赤ジャージのケツを両手で隠すようにするのだった。

 一方、宮本先生は、

「池永先生、おつかれさまです・・・そういえば、夕べ、福本と同じテニス部で3Cの秋吉健介と森田学も散髪に間に合わなかったらしいですよ・・・あいつらも、石井先生から罰食らったんですよね?」

と、福本先生にさりげなく話しかけたのであった。

 その言葉に、池永先生は、思わず宮本先生の顔をジッとみて、

「いやっ・・・それは早速確認しないと・・・」

とだけつぶやくと、あわてた様子で体育控室を出ていくのであった・・・。

 池永先生の後ろ姿をみて、宮本先生は、

「オレは告げ口大嫌いだけど、不公平なのも大嫌いだ・・・秋吉、森田・・・覚悟しとけ・・・オレはおまえらのケツに軟膏はぬってやらんぞ!!」

とつぶやくのであった。

 一方、新人の近藤先生は、再び、

「こっ、恐っえぇ・・・また放課後、丸刈りとケツ竹刀か・・・」

とつぶやく。近藤先生は、自分がはいている赤ジャージの中の、白ブリーフに包まれた股間のイチモツが熱くビンビンに屹立するのを感じるのだった・・・。

 

八、音楽室の石井先生

 その日の午後。3C担任の石井良太先生(音楽担当)の5時間目は空き時間。受け持つ音楽の授業はなかった。

 また他の音楽の授業もなく、音楽室は空だった。そんな時、石井先生は、音楽室に独り籠り、ピアノを弾くのだった。職員室で嫌な事があった時にはなおさらだった。

 
 27歳の石井先生は、色白で細身・長身。肩あたりまでかかる長髪を真ん中分けして、まるで坂本竜馬、いや、当時スタートしたばかりのドラマ「3年B組金八先生」の主人公・坂本金八先生のように、その長髪を後ろで結わいていた。

 しかし、石井先生のことをあの金八先生のようだと言うものはいない。石井先生の色白でその弱々しい風貌は、長髪を後ろで結わく以外、あまりにも金八先生とは違いすぎたのだ。

 石井先生は、夏場の蒸し暑い時期でも、学校では、長袖の白ワイシャツを常時着用している。そして、レンズがやや厚い黒縁のメガネ。それもまた石井先生を特徴づけるファッションアイテムの一つであった。

 石井先生が音楽室でする一人ピアノコンサートの曲目は、いつも決まっていた。それらは、石井先生が、桐山音楽大学ピアノ科3年生の夏に満を持して出場した帝都経済新聞社主催「全国男子学生ピアノコンクール」の課題曲だった。

 一曲目は、コンクールの第一課題曲、フレデリック・ショパン作曲「ポロネーズ 第6番 変イ長調 作品53」(英雄ポロネーズ)。

 二曲目は、コンクールの第二課題曲、フランツ・リスト作曲「パガニーニによる大練習曲 第3番 嬰ト短調」(ラ・カンパネラ)。

 そして、三曲目は・・・・。

 もちろん、それはコンクールの第三課題曲なのであるが、いつもその曲を弾こうとすると、石井先生は、胃に焼けるような不快感を覚え、ピアノを弾く指が止まってしまう。

 帝都経済新聞社主催「全国男子学生ピアノコンクール」は、日本国内において、プロのピアニストへの登龍門と言われるコンクールの一つだった。そして、全国規模とはいえ、男子学生のみが参加するコンクールだけあり、そこで優勝できなければ、プロのピアニストとして将来食べていくことは絶望的といわれる厳しいコンクールでもあった。

 そのコンクールで学生だった石井先生は、第一課題曲・ショパンの英雄ポロネーズ、第二課題曲・リストのラ・カンパネラを難なくこなし、決勝に挑むも、帝都音楽大学ピアノ科三年生の漆原公平君に敗れ、準優勝で終わってしまう・・・。

 結果発表後、漆原君が、当時の石井先生に投げかけた言葉は、残酷だった。

「悪いな良太。でも、これでプロで食っていくのは無理だってことがおまえもわかったんじゃねぇのか・・・まあ、おまえとは長いつきあいでもあるし、オレのピアノコンサートで前座として使ってやってもいいんだぜ!!ワハハハハ!!」 

 その言葉を思い出すたびに、悔しそうに、拳を握りしめる石井先生。みるとそれは、石井先生の弱々しい風貌とはうらはらに、ゴツイ肉体労働者のような握り拳であった・・・。

「6時間目まではまだ時間がある・・・次は何を弾こうか・・・あの第三課題曲だけは絶対に二度と弾きたくはない・・・。」

 ピアノの前に座ったまま目を瞑り、そんなことを考えていた石井先生は、音楽室後方の扉が突然開く音に、ギョッとするのだった。

「チッ・・・いったい誰なんだ・・・ノックもせずに・・・」

 石井先生にはめずらしく、ややイラッとして、思わず舌打ちをしてつぶやく。しかし、音楽室に入ってきたその人物を見て、石井先生は思わずピアノの椅子から立ち上がるのだった。

 

九、不正発覚!!

「よ、吉田先生・・・突然、どうされたんですか・・・。」

 それは、石井先生が、その時、一番顔を合わせたくなかったであろう学年主任の吉田先生だった。音楽室のピアノの前で立っている自分の方へと近づいてくる吉田先生の顔は、いかにも不機嫌そうな顔をしている。石井先生の胃が、再び、キリキリと痛み始めるのだった・・・。

「どうしたかではありません!!石井先生、先生が午前中に私のところに持ってきた3C生徒の整髪証明書ですが、きちんと一枚一枚確認したのですか?」

「えっ・・・ええ、もちろんです。私のクラス全員の整髪証明書が揃っていたはずです。提出し忘れた生徒は一人もいません。」

「そういうことを聞いているのではない!!」

「じゃ、じゃあ・・・先生は、なにが問題だとおっしゃっているんですか?」

 吉田学年主任は、石井先生のその言葉に、呆れたような顔をして、

「ったく!!だから先生は甘いって言われるんですよ!!私は、生徒が正しい整髪証明書は提出したかどうか、一枚、一枚、確認しましたか?と聞いているんだ!!」

と、語気を荒げるのだった。

「せっ、先生は、私のクラスの生徒たちが偽の整髪証明書を出したとでもおっしゃるつもりなんですか?」

「そうです!!」

「そっ、それはなんでも生徒のことを・・・もっと生徒のことを信じてやるべきだ・・・と、私は思いますが・・・。」

「だったらこれをしっかりと見てください!!先生のクラスの秋吉健介と森田学が今朝、先生に提出した整髪証明書です!!」

 そういうと吉田先生は、音楽室のグランドピアノのところに叩きつけるようにして二枚の整髪証明書を置くのだった。

 それらをジッと観察する石井先生。しかし、秋吉君と森田君が提出した整髪証明書のどこが問題なのか、どこが正しくないのか、石井先生は容易にはわからなかった。

「この整髪証明書のいったいどこがまずいのですか?これは、うちのクラスの学級委員である青木の父親が営むバーバー青木の整髪証明書ですが、日付も間違いないし、店長印もある。それに、青木の父親は不正をするような人物ではないと私は確信しておりますが・・・。」

「では、この一週間に、バーバー青木で散髪した生徒が提出した正しい整髪証明書がここにあります!!これをよくみてください!!」

 そういうと吉田学年主任は、もう一枚の整髪証明書を石井先生にみせるのだった。それら三枚の整髪証明書を何度も何度も目を凝らして見比べる石井先生・・・。しかし、なにが問題なのか、石井先生は、なかなか発見することができなかった・・・。

 そんな石井先生に、吉田学年主任が、得意そうに説明し始めるのだった。

「いいですか、よくみてくださいよ・・・これは正しい整髪証明書です・・・右上の端がほんの一部切り取られているでしょう・・・これが今月の整髪証明書なんです。一方、秋吉と森田が提出した整髪証明書は、右下の端が切り取られている・・・これは、一学期の最終頭髪検査時、すなわち、7月の整髪証明書なんです!!先生はご存じなかったんですか!!」

「えっ!!」

 吉田学年主任の説明に、石井先生は絶句する。自分がそのことを知らなかったからだけではない。そこまでして不正防止を図り、生徒管理をしていたことがショックだったのだ。

 石井先生の驚愕したような顔をみて、吉田先生は、ドヤ顔になり、さらに説明を続けるのだった。

「いやね・・・私が電車に乗る時の切符をヒントにして、思いついたんですよ・・・電車に乗る前、切符を駅員に切ってもらうでしょう・・・あの切り口の形、入鋏痕(にゅうきょうこん)って言うんですけど、同じ駅でも毎日違うんです。また切る場所も同じようにみえて、日ごとに違うんです。鉄道会社も、そうやって不正防止を図っているんですね。」

「だからって・・・」

 しかし、吉田学年主任は、石井先生の反論を封じるかのように、語気を強めて、さえぎるのだった。

「いやぁ、石井先生のおっしゃっていることは全く正しい!!3C青木のオヤジさんは、不正をするような人物ではない。そのくらい私だって知っています!!だからこそ、整髪証明書の切り取り位置が毎月変わることを息子さんには話さなかったんでしょうね!!」

「・・・・」

「いいですか!!これはカンニングに匹敵するくらいの重大な不正行為です!!しかも、この不正行為は、バーバー青木の内部に協力者がいないと実行不可能だ!!」

 吉田学年主任の迫力に圧倒されたかのようにうなだれる石井先生・・・・。信じていた生徒に裏切られたかもしれない・・・吉田先生の話を聞いて、そう思ってしまう自分に対しても腹立たしかった。

「・・・・・・・・・・・」

 無言の石井先生に、吉田先生は、気持ちが悪いほどのやさしい声で、

「心配しなくても大丈夫です。秋吉と森田のことは、私と池永先生に任せておいてください。ただ、青木の取り調べは先生にお願いしますよ・・・頼みます・・・。」

と言うのだった。 

 石井先生は、そんな吉田先生の言葉に、「取り調べって・・・ここは警察ではないんですよ!!」と言い返す元気もなく、ぐったりとうなだれるようにしていた。そんな石井先生の様子を満足そうに眺めながら、吉田先生は、音楽室を後にするのだった。

 


十、大人の事情

 その日の5,6時間目。1A副担任で新人の近藤先生(体育)は2時間連続の空き時間だった。「体育科控室」の自分の机のところで溜まっていた書類の整理をする近藤先生。

 しかし、6時間目・・・。3Cでテニス部員の秋吉健介と森田学が吉田先生と池永先生に連れてこられると、近藤先生は、もう書類の整理どころではなくなってしまうのであった。

 こういった場合、近藤先生は、黙って席を立つこともできたし、みて見ぬふりをしてその場に居座ることもできた。通常、近藤先生は、他の先輩体育教諭と同じ行動をとる。しかし、その日、他の先輩体育教諭は、授業に出ていて体育科控室にはおらず、吉田・池永先生以外、その部屋にいた教師は、近藤先生のみだった。

「フフ・・・あの二人、もう泣きそうな顔してやがる・・・面白そぉ・・・このままここにいーよおっと・・・いや、これは貴重な見学の機会だな・・・先輩たちの指導法を間近で見られるなんて!!」

と思う近藤先生。貴重な見学の機会を得て、近藤先生の赤ジャージの下の白ブリーフに包まれた股間は、さっきにも増して、ギンギンに怒張していた・・・処理が必要なのは、書類ではなく、先生の股間の方だったのかもしれない・・・。

 そんな近藤先生のことには全く気がついていないのか、吉田先生も池永先生も、近藤先生には一切挨拶なし、いきなり、秋吉健介と森田学を、怒鳴りつけ、二人の頭を乱暴にグッと押えるようにして、二人を、体育科控室の床の上に正座させるのだった。

「オラァッ!!二人とも、なんで、ここに連れてこられたかわかってんだろうな!!」

バチィ〜〜ン!!

バチィ〜〜ン!!

「いっ、いたい・・・わ、わかりません・・・」

「いっ、いてぇ・・・ボ、ボクも・・・」

 いきなり、吉田先生の右足キックが、正座している二人の男子生徒の制服のケツに炸裂する!!秋吉も森田も、夏期の学ランズボン。その生地は薄く、正座すると、ブリーフラインもクッキリだった。

「オラァ!!とぼけてんじゃねぇーよ!!」

バチィ〜〜ン!!

バチィ〜〜ン!!

「うわぁ!!今度は左ケツにキック炸裂だ・・・さすが、サッカー部顧問の吉田先生だ・・・社会科教師ながら、体育教師なみの強烈キック!!それにしても、あの黒地にゴールド柄のプーマ上履きスニーカー、かっちょいいよなぁ・・・オレも、今度、給料もらったら、買っちゃおうかな・・・フフフ。」

と近藤先生はほくそ笑む。

 正座させられている秋吉も森田も、吉田先生から蹴られたケツを両手でさするようにしながらも、不平そうに口元を尖らせ、顔を紅潮させていた。

「だから、わからないって言ってるじゃないですか・・・石井先生呼んでくださいよ・・・」

「痛ってぇなぁ・・・蹴らなくたっていいじゃん・・・そうだよ・・・オレたちの担任は先生たちじゃねぇし・・・」

とつぶやくように言って、中三男子らしく、せめてもの反抗的な態度をみせるのだった。

 そんな態度の二人に、今度は、前から池永先生が、二人の頭髪をムンズとつかむと、それを思い切り上に引っ張り上げて、

「おめぇら・・・随分と髪の毛が長いじゃねーか・・・昨日、床屋で散髪してもらって、この長さか・・・・全然、中学生らしくねぇ〜んだよ!!」

と言う。

「いっ痛い・・・・髪の毛引っ張るのやめてくださいよ!!」

「いっ痛てぇなぁ・・・こんなの暴力じゃんか・・・」

 秋吉も森田も、池永先生に髪をつかまれ上に引っ張り上げられ、膝を床についたまま、腰を浮かせるのだった。

「オラァ!!いつまでも生意気言ってんじゃねぇ!!」

バチィ〜〜ン!!

バチィ〜〜ン!!

 秋吉と森田の浮いた腰、当然、ケツも浮き上がり、その浮き上がったケツに再び、吉田先生の強烈ケツキックが炸裂する!!

「いてぇ!!」

「いってぇ!!」

 二人ともそう叫ぶや、今度は、両手で、学ランズボンのケツを抑えるのだった。二人は、すでに、正座の体勢から、両ひざをついた半立ちの体勢になっていた。そして、二人とも、「ヤバい・・・床屋のこと、バレてる・・・」と思うのだった。

 その様子をニヤニヤ顔で眺めている見学者の近藤先生。

「たしかに、長いよな、あいつらの髪・・・あれじゃ、誰がみても、床屋に行ってないこと、バレバレじゃん・・・担任は、なにやってんだろう・・・・」

と思うのだった。

 その後もしばらく、吉田先生のキックと池永先生の髪の毛引っ張り上げが続く。

バチィ〜〜ン!!

バチィ〜〜ン!!

「おめぇら本当に散髪したのかって聞いてんだよ!!全然、中学生らしくねぇ〜んだよ!!オイ!!正直に答えろ!!」

グィ〜〜〜ン!!

グィ〜〜〜ン!!

「いてぇ!!先生やめてください・・・」

「いってぇ!!暴力反対!!」

 もちろん、これは暴力でも暴行でも、はたまた愛のムチでもない。それは、当時、男子教師が男子生徒の心を開かせるために行う、ごくごく標準的なスキンシップの手段にすぎないのであった。

 そんな吉田先生と池永先生の渾身のスキンシップにもかかわらず、3Cの秋吉健介と森田学は、なかなか強情で、素直に心を開こうとはしなかった。

 しかし、池永先生の次の言葉に、さしもの秋吉健介と森田学も、心開かざるを得なくなる。

「いいかぁ、おめぇら・・・いつまでもつっぱんてんじゃねぇーぞ。もう証拠はあがってんだ!!このまま正直に白状しなければ、どうなるかわかってんだろうな・・・停学だよ、停学・・・今の時期の停学は痛ってぇーぞ・・・内申書にモロ響くからなぁ・・・二人とも中学浪人決定だな!!」

「えっ・・・汚ったねぇーな・・・」

「えっ・・・そ、そんなの卑怯じゃん・・・」

「卑怯で汚いのはどっちの方だ!!ウソの整髪証明書を提出して、先生の目をごまかしやがって!!石井先生の目はごまかせるかもしれんが、オレたちの目はごまかせねぇーんだよ!!」

「そうだぞ!!おまえたちがいくらウソついたって、先生たちには、すべてお見通しなんだ!!」

「チェッ!!青木がチクリやがった・・・」と、秋吉健介が思わず口にする。

バッチィ〜〜ン!!

 すかさず、吉田先生のプーマ上履きスニーカーの右足が、秋吉健介の右ケツを強襲するのだった!!

「いってぇ!!!」

 秋吉は、反射的に右手のひらで、蹴られた右ケツを押えるのだった。

「やっぱり、青木からもらったんだな!!7月の整髪証明書を!!」

「えっ!アレ、7月のだったの・・・・?」

「バァ〜カ・・・黙れ・・・秋吉・・・やっべぇよ・・・・」

 森田学が、秋吉を責めるようにチラリとみて、思わずつぶやくのだった。

 それには、吉田先生も池永先生もニンマリとした表情を見せる。しかし、それには、どこか安堵したような表情も混じっていた・・・。

「いいか、二人とも、よぉ〜く考えろ!!いまからでも遅くないぞ!!これから正直に白状すれば、二人とも、五厘とケツ竹刀5発で許してやる!!しかし、これ以上、ウソをつき通すならば、二人とも停学だ!!」

と、吉田先生がダメを押すのだった。

「えっ・・・ご、5発も・・・」

「福本は3発だったじゃないですか!!だったら、オレたちだって・・・」

「バカもん!!!おまえたちは、ウソついた分、2発追加だ!!」

「そうだ!!一発もオマケはなしだ!!」

 吉田先生、池永先生の厳しい態度に、

「えぇ〜〜〜」

「ち、ちくしょう・・・上手くいくとおもったんだけどなぁ・・・」

と、秋吉も森田も、うなだれたように肩をガックリと落とすのだった。

 そんな二人に、吉田先生の厳しい命令が飛ぶ!!

「二人とも、6時間目が終わったら、短パン一丁で、校庭の水飲み場脇で正座して待ってろ!!逃げたりしたら、問答無用で停学だからな!!」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「わかってんのか!!返事はどした!!」

「は、はい・・・・」

「は、はい・・・・」

「よぉし!!では教室に戻ってよし!!」

 秋吉と森田は、まだまだ不平そうな真っ赤な顔をして立ち上がる。そして、「ケツ竹刀5発かよ・・・トホホ・・・」でもいいたげに、学ランズボンのケツをさかんにさするようなしぐさをしながら、体育科控室を出ていくのだった。

 そして、吉田先生も出ていくと、体育科控室に残った池永先生が、近藤先生にやっと気がついたように、

「あっ、近藤先生、騒がしちゃってわるかったな・・・ああでもしないと、あの二人はダメなんだ・・・」

と言うのだった。

 近藤先生は、池永先生に気を使ってか、

「いや騒がしいなんてとんでもないです・・・吉田先生と池永先生の指導法、すごく勉強になりました・・・それに、停学なしの寛大な処分・・・」

と返すのだった。

 近藤先生のその言葉に、池永先生は、

「ハハハハ・・・寛大か・・・近藤先生、そりゃとんだ見当違いだな!!」

と言う。

 近藤先生は面食らって、「えっ?」と思わず言ってしまう。

 池永先生は、そんな近藤先生に、「キミもまだまだだなぁ。」といった顔つきで、

「あのね、中三の今の時期に停学者を出すなんて、教師にとっても痛いんだよ。停学ともなれば、教育委員会報告事案だらかね。しかも中三の二学期に停学だなんて、学校の生徒管理不行き届きを問われかねない事態にもなり兼ねんからね。そうなったら、校長の面目丸つぶれだ。あの二人が、無事、ウソを認めて、オレも正直ホッとしたよ・・・」

と説明するのだった。

 池永先生のその言葉に、近藤先生は、

「ああ、結局は大人の事情ってわけですね・・・。」

と言おうとしたが、そんなことを言ったら、自分の赤ジャージのケツに池永先生の竹刀が飛んできそうなので、あわてて自分の口を押えるようなしぐさをし、

「勉強になりました!!」

とだけ言うのだった。

 近藤先生のその言葉に、池永先生は、満足そうな顔をすると、右手に持ってた竹刀を眺めながら、

「5×3で15発だな・・・この竹刀で持つかなぁ・・・弦を結びなおして、しっかり整備しておかないと・・・」

と言うのだった。

「こっえぇ・・・」

 そういう近藤先生の、赤ジャージと白ブリーフに包まれた股間のイチモツは、もう焼石のように熱くギンギンに硬く屹立し、もう噴火寸前の状態だった・・・。

十一、正座

 体育科に体育科控室があるように、芸術科(音楽)にも音楽控室があった。

 やはりその日の6時間目。音楽室からは、ピアノの音とそれにあわせて唱歌「追憶」(スペイン民謡、日本語詞 古関吉雄)を合唱する1Bの生徒たちの

星影やさしく またたくみ空   ♪

仰ぎてさまよい 木陰を行けば  ♪

との歌声が漏れ聞こえてきていた。

 音楽控室は、いわゆる音楽準備室であり、音楽室には出されていないさまざまな楽器などがきちんと整理整頓されて置かれていた。そして、部屋の片隅には、教師用の机と椅子がそれぞれ2組置かれていた。

 その一つに、いつもよりも渋い顔で座っている石井良太先生。そして、その傍らには、3Cの学級委員である青木義之が立たされていた。

 青木義之が部屋に来てからしばらくの間、黙って何も言わない石井先生。青木は、いったいなんで呼び出されたのか、思いをめぐらしていた。

 青木の所属する部活は、音楽部(担当は打楽器・パーカッション。)だった。音楽部の顧問は、他ならぬ、担任の石井先生だ。こうして、音楽控室に呼び出されることもめずらしくなかった。3年生の自分が音楽控室に呼び出されるのは、音楽部の運営に関して、なんらかのお小言やお説教がある時だ。しかし、そんな時は、部長や副部長も一緒に呼び出されるし、ましてや授業中に呼び出すなんて、いつもとは違っていた。それと、自分より少し前に、吉田先生に呼ばれていた秋吉君や森田君のことも気になっていた・・・。

「もしかしてあのことかも・・・。」

と、なんか嫌な胸騒ぎを感じていた。

「義之から先生に何か言うことはないのか?」

 いきなりそう問いかけてくる石井先生に、ギョッとする青木義之。青木の心臓は、いやがうえにも高鳴るのだった。

「えっ・・・別になにも・・・」

 石井先生は顔にややがっかりしたような表情を浮かべ、大きなため息を一つつくと、

「じゃあ、そこに正座しなさい・・・」

と、音楽控室の床を指さして言うのだった。

「は、はい・・・」

とそれに素直に従う青木。

「やっぱり、お説教だ・・・」

と思う青木。石井先生が自分たちにお説教をするときは、いつも正座だった。

 しかし、その後の、石井先生のいつもとは違う行動が、青木を驚かせる。なんと、石井先生は、椅子から立ち上がると、青木が正座しているところへとやってきて、青木のすぐそばにまるで寄り添うようにして正座したのだった。

 無言の石井先生。石井先生の男臭さが、青木の嗅覚を刺激する。そして、己の右太股に、石井先生の黒いスラックスに包まれた左太股を感じる青木。それは、石井先生の色白でやせて弱々しい風貌とはうらはらに、堅く男らしいゴツさを感じる太股だった。

 思わず少しだけ横に避けようとする青木。石井先生に傍に来られることが、別段、嫌なわけではなかった。ただ、自分の左太股と、先生の右太ももが、思わず、ピタッと密着し、驚いたのである。

 しかし、石井先生は、青木の方へさらに寄ってきて、青木の右太股に、再び、自分の左太股をピタッと寄せて密着してくるのだった。思わず、先生の方向、やや下を見てしまう青木。先生の薄地の夏期スラックス・・・先生がはくパンツのラインがクッキリと浮かび上がっている。先生も自分と同じ白ブリーフだった。

「あっ・・・先生、すごく怒っている・・・どうしよう・・・」

 青木義之は、3Dにいる親友・小山修一の言葉を、いままさに思い出したのだった。

 小山修一は、中一・中二の時、青木義之と同じクラス。その言動から「オカマ」とあだ名されていた。しかし、本人は、そんなことどこ吹く風。まさに「私は、ありのままに生きるのよ!!レリゴー、レリゴー♪」と言わんばかりに、「あたいは、将来、友和みたいな素敵な男性と結婚して、専業主夫になるのが夢よ!!」と豪語していた。もちろん、部活は、真行寺先生が顧問を務める「家庭科部」で、黒一点の男子部員だった。

(太朗注:友和・・・俳優・三浦友和のこと。)

 そして、その大胆な言動から、石井先生が担任だった中二の時、小山修一は、音楽控室で、石井先生から、ちょくちょく正座で説教されていたのだった。

 そんな小山が、ある日、仲の良かった青木義之に、

「ねぇねぇ、よっちゃん、知ってる?石井先生ったらね、お説教のとき、あたいが正座しているとなりにやってきて、先生も正座して、太股ピタッとくっつけてくるのよ。あたい、最初、ドキッとしちゃった・・・でもね、そんなときは、先生ったら、すごくがっかりしているか、すごく怒っているの・・・そんな時は、なんでも正直に言わないとダメよ・・・まあ、よっちゃんは、あたいとちがって、石井先生のこと、すごく怒らせることなんてないでしょうけどね・・・。」

と、しみじみと言ってきたことがあった。その言葉を、青木義之は、いままさに思い出したのだった。

「ボ、ボク・・・どうしよう・・・」

 いつも部活でお世話になっている大好きな石井先生を、もしかしたら、すごくがっかりさせてしまったか、すごく怒らせてしまっているかもしれないなんて・・・。

 石井先生の意外なくらいに逞しい太股を、自分の太股に感じながら、青木義之は、自分の心臓が、バックンバックン、大きく鼓動するのを感じるのだった。

 無言の青木義之に、石井先生は、その太股をピタッとつけたまま、ズバリ核心に迫ってくるのだった。

「昨日、散髪をしてない健介と学に、整髪証明書を渡したね・・・」

 石井先生のその問いに、しばらくは無言の青木。

 青木の頭の中で、小山修一の、

「そんな時は、なんでも正直に言わないとダメよ・・・」

との言葉が、何度も繰り返されていた。

「どうなんだ・・・義之・・・あの二人となにかあったのか・・・」

と聞いてくる先生。

「な、なにもないです・・・ただ、ただ・・・ボクが秋吉君と森田君に整髪証明書を渡したのは本当です・・・ご、ごめんなさい・・・」

と青木。

 青木のその告白に、石井先生は、大きなため息を一つつくのだった。青木が石井先生に、まだ半分しか本当のことを言っていないことは明白だった。しかし、これ以上、青木を追求しても、青木をより苦しい立場追いやるだけだと思った石井先生は、

「もう二度としないと先生と約束できるか?」

と、ちょっと厳しい声で聞いてくるのだった。青木の隣で正座している石井先生の太股が、さっきにもまして、青木の太股にピタァ〜〜ッと密着してくるのだった。

 青木の心臓はバクンバクンと鼓動の激しさを増してくる・・・。

「も、もう二度としません・・・だ、だから・・・」

「だから?」

「・・・・・・」

 無言の青木の気持ちを解したかのように、石井先生は、自分の太股をさらにギュ〜〜ウと青木の太股に密着させ、左腕を青木の左肩へと廻してくるのだった。そして、その左腕にギュッと力をこめて、青木の肩を抱き寄せるのだった。

「心配すんな・・・先生は、義之のこと、嫌いになんかならないぞ・・・ただ、罰は受けなければならない・・・それはわかってるね・・・」

「は、はい・・・」

 罰と聞いて、青木は、石井先生に抱かれた肩をガックリと落とすのだった。

「大丈夫だ・・・先生も一緒だ・・・」

「えっ?」

「さあ、もうそろそろ6時間目を終わりだ・・・教室に戻って、体育の時の短パン一枚になって、校庭の水飲み場脇で、正座して待っていなさい。健介と学もそこにいるはずだ。」

 やさしい石井先生のその言葉には、拒否することのできない凛とした男らしく厳しい響きがあった。

「は、はい・・・」

「さあ、立っていきなさい。」

「はい・・・失礼します・・・」

 そう言って立ち、音楽控室を出ていく青木義之の後姿をじっと見つめる石井先生。大きく深呼吸をすると、何かを決意したように、その風貌とはうらはらの、いかつい労働者のような拳をギュッと握りしめ、自分を鼓舞するかのように、

「よしっ!!」

と言って立ち上がり、音楽控室を出ていくのだった。



十二、懲りない奴ら

キ〜ン、コ〜ン、カ〜ン、コ〜ン ♪ 

キ〜ン、コ〜ン、カ〜ン、コ〜ン ♪

 6時間目終業のチャイム音を聞きながら、真っ赤な顔で、3C教室へと急ぐ青木義之。廊下ですれ違う生徒全員が、自分のことを注目しているようで、いたたまれなかった。途中、3Dの教室の前で、すでに短パン一丁の秋吉健介と森田学の姿をみかけ、青木義之は、彼等をさけるようにして、隣の3Cの教室へと逃げ込むように入っていくのだった。

 一方、3Dの教室の前では、秋吉健介と森田学が、

「オ、オイ・・・福本!!こっちむけよ・・・」

「ふくもとく〜〜ん!!」

と、昼休みに丸刈りとケツ竹刀のお仕置きを受けたばかりの3D福本憲之のことを盛んに呼んでいるのだった。

 もちろん、福本は、立ったまま、校庭がみえる窓の方を向き、秋吉と森田のことを完全無視。

「チェッ!!アイツ、俺たちのことシカトしやがって・・・。」

 そんなことをブツクサ言っている二人に、3Dの番長格で男気あふれる田村俊平が、長ラン姿で、教室の扉のところに立ち塞がるようにして、

「あっちへ行け!!おまえら、憲(のり)のアザだらけのケツみたのかよ!!アイツ、まだケツが痛くて座れねぇーんだぜ!!おんなじ部活やってるクセに、なんでアイツだけ仲間はずれにしたんだ!!帰れ!!」

と言って、両手をガバとひらき、秋吉と森田のことを睨みつけるのだった。

「わ、わかった・・・」

「ふ、ふくもと・・・わるかった・・・ゆるしてくれ・・・」

 番長格の田村がでてきてはかなわんと、秋吉と森田は、あわてて退散。

「やべぇ・・・別のクラスだ・・・」

 そんなことを言いながら、自分たちが所属する3Cのクラスをチラリと見る。

「あっ・・・青木だ・・・」

「あいつも着替えてるじゃん・・・まさか・・・」

 しかし、いまは青木のことをかまっている暇はないのか、3B、そして、3Aの教室の方へと急ぐのだった。

「あっ、3Aと3Bは体育だったのか・・・」

「好都合だ・・・体育館だ、体育館へ急ぐぞ!!」

「池永にみられたらヤバくねぇーか?」

「大丈夫・・・・体育控室の前は、屈んで通過だ!!」

「よしっ!!」

 その日の6時間目、3A、3Bは体育だったが、男子担当の池永先生は、「所用」により、女子担当の津田先生が兼任で、男子は、体育館でバトミントンの「自習」だった。そして、秋吉と森田は、体育館に行くこともなく、体育館から戻ってくる3Aと3Bの男子の集団に途中で出くわすのだった。

 短パン一丁の3C秋吉と森田の姿を見て、詳細はわからないが、だいたいの事情を察した3Aと3Bの男子たちは、みな、ニヤニヤ顔。 もちろん、A組の中村大悟も、「こりゃ、放課後は将棋どころではない・・・」と、短パンと白ブリーフにつつまれた股間を強張らせるのだった・・・。

「どうしたんだ?」

「なにやらかしたんだ?」

「まさか、おまえらも、吉田と池永からお仕置き?」

と面白そうに聞いてくる男子もいた。

 そんな声を無視して、秋吉と森田は、その男子たちの集団から、B組のツッパリ軍団の斉藤俊一、西原健太、細川良介、そして、3B学級委員の木下康介を見つけ出し、

「ちょ、ちょっと・・・こっち来てくれ・・・」

「たのむ・・・ピンチなんだ・・・」

と、彼ら4人を校舎の裏手に連れ出すのだった。

 そして、校舎の裏手にくると、秋吉と森田は、その場に正座して、土下座をするように頭を下げると、

「た、たのむ!!おまえらのパンツ、一枚ずつ貸してくれ!!」

「B組だから、もうわかってるだろ!!ケ、ケツがピンチなんだ!!ビックマックおごるからさ!!たのみます!!」

と彼ら4人に頼み込むのだった。

 B組の4人と秋吉と森田は、小学校時代、同じスイミングスクールに通う、おさな馴染みだったのだ。

 ツッパリ軍団の斉藤俊一、西原健太、細川良介は、ニヤニヤ笑いながら、

「なんだ、なんだ・・・軟弱C組のテニス部員が、オレたちに頼みだと・・・!!」

「パンツを貸してほしいだと!!おもしれぇーじゃん!!」

「池永のケツ竹刀くらいでビビってんじゃねーぞ!!」

と言ってくる。

「い、いつもとは違うんだ・・・」

「そ、そうなんだ・・・よりによって、ご、五発も・・・・」

「池永の竹刀、五発も食らったら、ケツがどうなるか、B組のおまえらならわかってんだろ・・・」

「なっ!!一生、恩に着るからさぁ・・・ここは助けると思って、頼む!!」

 池永のケツ竹刀五発と聞いて、思わず顔を見合わせる斎藤、西原、細川のツッパリ軍団。しかし、すぐにニヤニヤ顔に戻ると、

「さぁ、どうしようかなぁ・・・」

「ビックマックだけじゃなぁ・・・オレ、どっちかっていうと、フィレオフィッシュの方が好きだし・・・」

と、なかなか協力しようとはしない三人。

 そんな中、3B学級委員の木下康介が、

「今回だけだぞ!!絶対、おまえらのパンツの上にはけよ!!」

と言うと、短パンを脱いで、体育のすぐあとで、ちょっと汗ばんでいる白ブリーフを脱いで、森田に渡すのだった。

「す、すまん!!恩に着ます!!」

 そういって、さらに頭を深く下げる森田。

「よおっ!!さすがB組学級委員!!」

と、ちょっとからかったように言う秋吉。

 木下は、それには応えず、ちょっと恥ずかしそうに、体育上着で股間の前を隠しながら、短パンを直ばきするのだった。

 木下は、恩を忘れるヤツではなかった。小4の時、スイミングスクールで、家に置いてきてしまったスイム帽を森田から貸してもらい、コーチからのお仕置きであるケツ・ビート板10発を、あやうく逃れたことを、忘れてはいなかったのだ。一方、森田は、そのことをすっかり忘れてしまっていたが・・・。

 そんな学級委員の意外な行動に、斎藤が、

「おい、いいのかよ・・・見つかったら、おまえも・・・」

と戸惑ったように言う。

 しかし、木下は、あっさりと、

「ああ、そんときゃ、そんときだ・・・」

とだけ言い、教室の方へ戻っていくのだった。

 そんな木下の行動を、斎藤、西原、細川らツッパリ軍団は、「ツッパリ男子の度胸のある潔い態度」と勘違いし、

「学級委員もパンツ脱いだんだから、オレたちも脱がないと、男がすたる!!」

と思い、

「あとで、すぐ返せよ!!」

「絶対に、おまえらのパンツの上にはけよ!!」

と言いながら、それぞれパンツを脱いで、森田と秋吉に渡すと、短パン直ばきを決め込むのであった。もちろん、態度はツッパリでも、パンツはおケツにピッタリのかわいい白ブリーフ。しかも、池永先生の厳しい指導を受けたばかりなのか、3人とも、しっかり「記名式」白ブリーフだった!!

 森田と秋吉にパンツを渡すと、

「うわぁ!!やべぇ、短パン直ばきすっと、やたらチンチンすれんじゃん!!」

といいながら、教室の方へと戻っていく3人。

 その後姿を見ながら、ガッツポーズをとる秋吉と森田・・・。

「よしっ!2枚ずつはくぞ!!」

「ああ、これでちょっとは楽になるかも・・・」

 そんなことを言いながら、二人は、ちょっと汗ばんだ借り物白ブリーフを、自分のブリーフの上から、それぞれ2枚ずつはき、彼らの「お仕置き会場」である校庭の水飲み場脇へと急ぐのだった・・・。



十三、それぞれの着替え

(本節を書くにあたり、共学校における放課後の男子の着替え場所につき、日光さんより、貴重なご教示をいただきました。ありがとうございました!!)

「じょ、女子が戻ってくる前に、は、早く着替えなきゃ・・・。」

 すでに真っ赤な顔をした3C学級委員の青木義之は、女子たちが家庭科の授業を終えて家庭科教室から戻ってくる前に、「お仕置き」の準備をどうにか終わらせようとする。もちろん、それは、短パン一丁になることだ。

 自分が所属する3Cの教室の隅っこで着替えをする学級委員の青木。すでにランニングシャツと白ブリーフ姿になっていた。青木の白ブリーフのフロント部分には、校則通り、「3C 青木」の記名が極太油性黒マジックペンでクッキリとなされていた。

 青木の放課後の「着替え」に気を留める男子はいなかった。女子がたまたまいない放課後の教室ではよくあることだからだ。しかし、6時間目の最中に、担任の石井先生から呼び出されたことを気にして聞いてくる男子は数名いた。

「青木、おまえ、なんで石井先生から呼び出されたんだ?」

「えっ・・・な、なんでもない・・・だた、ちょっと・・・」

 青木は、3Cの男子クラスメートに、正直に事の成り行きを話すことができなかった。そんな自分たちの学級委員の態度に、怪訝そうな顔をしながらも、それ以上は、何も聞かずに、青木のところから離れていく男子たち。

 青木は、クラス名と苗字が入った白ブリーフの上に、体育白短パンを穿くのだった。そして、着替えはそこで終わりにしなければならない。

 石井先生の「体育の時の短パン一枚になって、校庭の水飲み場脇で、正座して待っていなさい。」の言葉が思い出される・・・それは、吉田先生と池永先生の命令に違いない。そして、これから、自分がどのように罰せられるのか・・・青木にはよくわかっていた・・・青木の心臓がバックンバックンと鼓動する・・・青木は自分の後頭部が、カァ〜ッと熱くなるのをいやが上にも感じるのだった。

 そして、他の男子に気づかれないようにそぉっと教室を出ていこうとする学級委員の青木・・・しかし、その時、ちょうど教室に戻ってきた女子たちの好奇の目が、白短パン一丁の青木に注がれるのだった。

 教室の扉のところに立ち塞がるようにして短パン一丁の青木のことをマジマジと見つめる3Cの女子生徒たち。色白でヒョロッとしている青木君。お世辞にも女子の目を釘づけする体型ではなかった。そんな身体に白短パン一丁。そして、その下にはく白ブリーフとブリーフの上に書かれた「3C 青木」の黒い文字がクッキリとシルエットとなって白短パンの前に浮かび上がる。野暮ったいことこの上なしであった。

「やだぁ!!青木君、短パン一枚でどうしたの?音楽部で何かあるの?」

 その問いに、なにも答えることができず、真っ赤な顔で、ただただジッと下を見つめる青木君。己の白短パンの前の部分にクッキリと浮かび上がる「3C 青木」と記名された白ブリーフの野暮ったいシルエットが、青木自身の目にも飛び込んでくる!!ますます恥ずかしさで赤面する青木君・・・。

「ウッソォ〜!!今日は音楽部は活動なしだよ!!お休みのはずよ・・・」

と、青木と同じ音楽部の岡村さんが思わず口にする。

「え〜〜、じゃあ、どうしたの!!青木君!!」

と、口々に青木を追及しはじめる女子たち。

 そんな女子たちに、教室にいた男子たちも無関心でいられなくなるのだった!!

「青木、何かあったのかよ?なんで短パン一丁なんだ?」

と聞いてくる。

 学級委員の青木君はもうたまらず、もうゆでだこのような真っ赤な顔をして、

「ちょ、ちょっと・・・下までいかなきゃ・・・ご、ごめん・・・急ぐんだ・・・」

と、小さな声を絞り出し、女子たちを押し分けるようにして、3Cの教室から出ていくのだった。

 廊下を小走りに階段の方へと向かう青木。もう周りの生徒を気にしている余裕はなかった。

 途中、女子生徒にぶつかりそうになれば、

「きゃぁ!!何あれ?」

と避けられ、男子生徒には、ぶつかるたびに、

「いってぇ!!気をつけろ!!」

と言われる始末。

 自分がいま飛び出してきた3C教室のざわめきが遠ざかっていく。しかし、何人かの男子たちは、「おい!!青木、どうしたんだよ!!」と青木のことを追いかけてきているようだった。

「も、もう・・・こっちへ来ないで・・・ボ、ボクは大丈夫だから・・・」

と心に念じながら、階段を降りて、校庭の水飲み場横のお仕置き待ちの指定席へと向かう。そこはお仕置き前の反省の場でもあった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 一方、ケツ竹刀のお仕置きから己のケツを保護する余分のブリーフを手に入れた3Cの秋吉健介と森田学は、校舎階段を昇り切った屋上部分にあるペントハウス、すなわち、塔屋(とうや)のところで、借り物白ブリーフを穿くところだった。

 学校管理上・塔屋の部分は、授業で屋上に出るとき以外は、立ち入り禁止になっている。ここにいることをみつかっただけで、男子の場合、ケツ竹刀ものだった。しかし、3年生のやんちゃ坊主たちは、放課後の着替えなどによく使っていたのだった。(もちろん、学校によっては、生徒たちの恰好のスモーキング・スペースに成りえたことは、いまさら、詳述するまでもない。)

「よし、よし・・・はくぞ・・・」

 そう言いながら、白短パンを脱いで、白ブリーフ一丁になる秋吉。もちろん、下半身は、「3C 秋吉」と記名の入ったパンツ一丁だ。ここに、B組の幼馴染から借りてきた白ブリーフを重ね履きするのだ。

 まずは、「3B 斉藤」と記名された白ブリーフの腰ゴムを広げる。内側の汚れは「普通」程度、すなわち、中三男子が一日はけば、通常汚れるであろう範囲の汚れだった。

 しかし、秋吉の目に、斉藤君のブリーフの裏バック部分にうっすらついた茶色い筋が飛び込んでくる・・・。

「うわぁ・・・これはあとまわしっと・・・」

 そういいながら、次のブリーフ。「3B 細川」と記名されたブリーフだった・・・。黄色い染みに、フロント部分にはなにやら怪しげな茶色いゴワゴワ・・・。それをみた秋吉は、ちょっとだけ顔をしかめるが、バック部分に茶色い筋がないことを確認すると、

「よし・・・こっちの方がましだな・・・」

と言って、それを己の「3C 秋吉」のブリーフの上に重ねて穿く。そして、さらにその上に、バックに茶色い筋つきの「3B 斉藤」ブリーフを重ねて穿くのだった。

 森田君も同様だった。

「うわぁ・・・なんかこの温たっけー感覚・・・きもわりぃ・・・」

 そういいながら、まずは、やや黄色い染みはあったものの、ちょっとだけきれいな「3B 木村」と記名された学級委員ブリーフを重ね穿く。

 それを聞いた秋吉が、

「ケツが痛いよりいいだろ!!」

と言う。秋吉の白短パンはやや膨れており、3C秋吉にもかかわらず、「3B 斉藤」のブリーフ記名文字が上からクッキリと透けて見えていた。

「ま、まあぁな・・・けどよ・・・これ、どんだけ効果あるんだ?」

 そういいながら、森田君は、「3B 西原」ブリーフの腰ゴムを拡げるのだった。その4枚のブリーフの中では、「3B 西原」ブリーフの内側が一番汚れていた・・・。

「B組の連中の話だと、かなり楽になるらしいぜ・・・」

「マジか・・・なら仕方ねぇ〜か・・・おぇ・・・このパンツ、スゲェ汚れてる・・・」

「内側いちいち見んなよ!!ちょっとのあいだ、ガマンしてはけ!!」

「おっおぉ!!」

 そういいながら、森田君は、「3B 西原」ブリーフの内側から目を逸らすようにして、そのパンツに両足を通すのであった。そして、なんともいえない気持ち悪そうな顔をしながら、その上に短パンをはきなおす。

 森田君の白短パンは、やや膨れていて、その前の部分に透けて見えるパンツの氏名は、3C森田君にもかかわらず、「3B 西原」であった・・・。

「よし!!行くぞ!!」

「おっおぉ!!」

 そういうと、秋吉と森田の二人は、幼馴染の友情のブリーフに包まれた己の短パンのケツを、両手でパァ〜〜ン!!パァ〜〜ン!!と気合を入れるように叩く。

 そして、その感覚に

「おお、いつもと感覚が違う!!」

「これなら、全然、痛くないかも!!」

と、満足しながら、準備万端!!階段を降りていくのであった。

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