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「色柄を持たないパンツはく山崎すぐると、彼の担任の中村大悟」番外07頭髪検査と懲罰床屋1980のスピンオフ

「大悟の兄貴・圭悟と県立一高の仲間たち」 パート4 1981 兄貴もつらいぜ!!敗戦のロッカールーム 喧嘩なし

 

 それは、大悟たちが住む県において、高等学校・普通科がまだ男女別学で、県下一の進学校・県立第一高等学校が、男子校だった頃のお話である。「男女七歳にして席を同じうせず」(だんじょしちさいにして せきをおなじゅうせず)という戦前の教えがその県の学校制度にもまだ残っていた時代だった。

  

一、敗戦のロッカールーム

 ああ、船場吉兆か野々村か、はたまたベッキーかSMAPか・・・。

 世に謝罪の仕方は数々あれど、昭和の高校球児たちが監督さんに自ら詫びを入れ、すすんでケツバットを願い出る姿ほど、潔く、見ていてすがすがしいものはないであろう。


「自分たちはふがいない試合をしました!申し訳ありませんでした!ケツバットお願いします!!!」

 そうデカい声で言うと、県立一高・硬式野球部主将の北村が、ロッカールームにはいってきた荒井監督に、ペコリと頭を下げる。

 それに従うように、北村主将の右に整列していた選手たちも、

「申し訳ありませんでした!ケツバットお願いします!!!」

とデカい声で監督に謝罪すると、北村同様に、べコリと頭を下げるのだった。

 そんな部員たちの様子を、面食らったような表情でながめる荒井監督。

 しかし、そんな荒井監督の反応を待つことなく、北村主将は、自分の右に整列したベンチ入りの選手たちに、「全員、回れ右してケツを後ろ!!」と号令をかける。

 主将の「回れ右してケツを後ろ!!」の一声は、ケツバットを受けるため回れ右しておケツを後ろへ突き出せという命令だ。

 県立一高ナインたちは、全員、ためいきをつくように肩を落とすも、北村主将のその指示に従って、

「ィ〜〜〜ス!!」

と返事をし、隣で整列しているヤツの動きに合わせるように回れ右をする。

 それぞれの選手は、悔しそうに唇をかみしめるも、すぐに「よし来い!」と覚悟を決めたような潔のよい表情をみせ、少し両足を開き、万歳をするかのように両手を上げると、やや前傾姿勢をとり、ケツを後ろへと突き出す。土のグランドで試合をしてきたばかりの県立一高ナインのユニのケツは茶色く汚れていた。

 ケツバットの整列は、やや開き気味の両腕の先の握り拳が隣のヤツの握り拳に触れるくらいの間隔で並ぶ。その年度のベンチ入りの選手(登録選手)は12人。それでも、県営球場・3Bロッカー室は十分に広かった。

 木製バットを右肩に担ぐように持ちながら、選手の後ろをゆっくりと歩く荒井監督。感慨深そうな表情を浮かべながら、特に三年生の選手たちの汚れたユニのケツを一人ずつ眺めていく。

「県内、選りすぐりの秀才たちとはいえ、所詮、野球部は野球部・・・男子は男子か・・・オレは、この三年間、こいつらのケツに、何本、このバットで気合を入れてきたんだ・・・」

 そんなことを思いながらも、無言のままの荒井監督。県立一高に来て5年目。県立一高・社会科教諭でもある31歳の荒井監督は、選手たちと同様、真っ黒に日焼けし、丸刈り頭。身長は選手たちよりも高く178cmほど。学生時代に野球で鍛えたケツは、30歳を超えても、まだまだムッチリとした安定感を漂わせていた。

ドキッ・・・ドキッ・・・ドキッ・・・。

 自分たちの後ろを無言で歩く監督の足音を聞きながら、選手たちの心臓は高鳴り、その神経は、己のおケツに集中する。荒井監督が、自分たちのケツを一人一人じっくりと観察していることを、たしかに感じながら・・・。

「ああ、あんな試合しちまったら、ケツバット一本くらいじゃ、すまねぇよな・・・」

「ちくしょう・・・来るなら・・・はやくきてくれ・・・・」

と、荒井監督の「じらし」に苦しめられる選手たち。地方大会前の合宿で食らった監督さんのケツバット。ケツへのあの重い衝撃を思い出しなら、キュッとケツ穴をすぼめ、ギュッと目ん玉を閉じる選手もいる。

 特に、北村主将から一番遠い「下座」に整列する4人の2年生部員たちは、3年生部員と一緒に食らうケツバットに思いはさまざまだ。

 そんな2年生選手の一人で、次期主将が確定的となっている宮林真司は、3年生以上に一番悔しそうな顔をして

「ちくしょう・・・絶対、来年こそは、ケツバット受けなくても済むような試合をしてみせる!!」

と、来年への決意を新たにする。

 他の3人の2年生部員は、交代要員、および、記録員としてであり、試合には出してもらえなかった。しかし、試合に負けた連帯責任で、先輩と一緒に整列してケツを出さなければならない。なんともやるせない気持ちだが、そこをグッと抑えてガマンする。

「ちくしょう・・・ケツバットか・・・オレたちの代になったら、こんな恥ずかしい試合は絶対にしないぞ!!」

と、宮林同様に、来年への決意を新たにする。まだ来年のある2年生選手たちにとっては、そのケツバットは、来年へ向けての気合入れか。 

 登録選手(ベンチ入り)12人で臨んだ、その年度の夏の地方大会。県営運動場・第三野球場で行なわれた対県立農芸高校との試合結果は、「県立農芸 15−0 県立一高」で5回コールド負け。

 北村主将の「ふがいない試合」は、謙遜でもなんでもなかった。当時としては、敗戦後のロッカールームでケツバットを覚悟するのも当然のこと。もちろん、まじめな北村は、監督さんから言われる前に、監督さんに詫びを入れケツバットを願い出たのだ。

 しかし、選手たちの耳に「期待された」監督さんの怒号は、聞こえて来なかった。ただ、無言で、選手たちのユニのケツを見ながら、選手たちの後ろを行ったり来たりするのみ。

 税金を湯水のように投入して設営されたプロ野球対応の県営運動場の野球場。すべてのロッカールームにエアコンが整備されている。し〜んと静まり返った敗戦チームのロッカールームに、エアコンのモーター音だけが響いている。

 そのモーター音を聞きながら、列の真ん中あたりでケツを出している3年生の中村圭悟。

「ちくしょう・・・あいつら、オレたちのことを無視しやがって・・・」

 ギュッと両目をつむってケツバットを待つ圭悟は、その顔にさらなる悔しさをにじませる。

 試合結果がどうであれ、試合後、審判を挟んで、ホームベースの前に整列し挨拶をする。そして、その挨拶の後、両チームの選手たちは、「ナイスゲーム!」と言いあいながら、握手しあうのがお約束。

 しかし、その日の試合後、県立農芸ナインたちは、圭悟たちを無視するかのように、挨拶も握手もせずに、圭悟たちの間を素通りしてしまったのだった。

 圭悟たちの薄汚れたユニのケツをながめながら、ロッカールームの端から端まで、行ったり来たりしていた荒井監督が、突然、「そろそろだな・・・」といった顔をして、ロッカールームのドアを開けるのだった。廊下のムッとした空気が、エアコンがよく効いたロッカールームに入ってくる。

「あっ・・・監督さん、なんでロッカールームのドアを開けるんだろう?」

 そんなことを思いながらも、ひらすらケツを後ろにつき出し、監督さんからのガツンとキツイ一発を待つ圭悟たち。

 昭和の高校球児たちにとって、ケツバットは「げんこつ」のようなもの。一発ガツンとやられて、それでおしまい。長ったらしい説教よりも、気持ちの上ではよほどすっきりすると考える球児たちも多かった。

 もっとも、おケツをバットでガツンとやられるその衝撃は、ケツ穴の奥の方の微妙な部分も刺激するため、思春期男子たちにとっては、しばらく、苦痛なのか快感なのか、気持ちがいいのか悪いのか、ケツ穴から股間へと貫くなんともいえない、ともするとクセになりそうな余韻を味わうことになるのだが・・・。

 しかし、それだけに、そのキツイ一発をジッと待たなければならない「じらし」ほど、圭悟たちにとってつらいことはなかった。早くケツをバットで一発ガツンとやられてすっきりしたかったのだ。

 

二、勝って兜の緒を締めよ!

「もー、ガマンできねぇ・・・」

「監督はいつになったら、オレたちのケツを叩くんだ・・・」

 荒井監督の「じらし」作戦に、圭悟たちがしびれをきらしかけていたその時だった。荒井監督がニヤニヤしながら「おまえらもよく聞いとくんだな・・・」と言うのだった。「えっ・・・」と驚いたような表情を浮かべる圭悟たち・・・。依然として、ロッカールームには、エアコンの音だけが響いている。

 開け放たれたロッカールームのドアの向こう、すなわち、廊下には人影もなくやはりシィ〜ンと静まりかえっている。

 一回戦負けがお約束の県立一高がからむ試合を、試合後取材したいと思う新聞社や雑誌社などあるはずもない。また、「県下一の進学校・硬式野球部における暴力(ケツバット)の実態」を暴こうとするセンテンス・スブリングの記者なども心配する必要がなかった時代だ・・・。

 しかし、やがて、廊下の向こう側にある、県立農芸高校が陣取る3Aロッカールームから、なにやら怒鳴り声が響いてくる。そして、その怒鳴り声は圭悟たちの耳にもはっきりと聞き取れるほどのド迫力だった。

「オラァ!!整列!!」

「オラァ!!なにボケッとしてるんだ!!一年も全員、整列だ!!」

「オラァ!!おまえら!!試合後のあの態度はなんだ!!」

「そうだぞ!!対戦チームにあんな態度をとるようでは、決勝戦はおろか、2回戦も勝ち残れんぞ!!」

「勝って兜の緒を締めよだ!!これから気合をいれてやる!!回れ右してケツをだせ!!」


「あっ・・・県立農芸のヤツら・・・叱られてる・・・」

 圭悟たちがそう思う間もなく、3Bロッカールームから、かすかにあの音が聞こえてくる・・・。

バン!!

バン!!

バン!!

バン!!

 そして聞こえてくる「シタァ!!」の挨拶・・・。

「あいつら・・・ケツバットやられてんだ・・・」

 それがわかった時、圭悟たちの心臓がドクンドクンと鼓動を打ち始める。まるで自分たちのケツにもバットが飛んできそうな気分になる。

バン!!

という、かすかだがはっきりと耳に届くあの鈍い音が聞こえてくるたびに、思わず目をつむってしまう圭悟たち。

「すっげぇ・・・荒井監督のケツバットなんかより、何十倍もキツいんだろうな・・・県立農芸のケツバットは・・・」

 そんなことを思いながら、圭悟は、試合中、ベンチにドシリと腰を下ろす、サングラスをかけた県立農芸の恐そうな監督やコーチたちの姿を、いまさらながらに思い出すのだった。

バン!!「シタァ!!」

バン!!「シタァ!!」

バン!!「シタァ!!」

バン!!「シタァ!!」

 試合後、コールド負けした自分たちを無視した対戦相手に「ざまぁみろ・・・」などと思う気分にはなれなかった。いやそれどころか、その音を聞きながら、県立農芸の野球部員たちに同情の念すらわいてくるのだった。

「がんばれよ・・・負けるなよ・・・絶対に決勝までいけよ・・・。」

 そんなことを念じ始める圭悟なのであった。

バン!!「シタァ!!」

バン!!「シタァ!!」

バン!!「シタァ!!」

バン!!「シタァ!!」

 やがてその鈍い音が止む。そして、圭悟たちの耳に、荒井監督の声が飛び込んでくる。

「回れ右!!」

「えっ・・・ケツバットは・・・?」

「も、もしかして・・・なし?」

 ケツバットなしを悟り、思わずにやけてしまう県立一高ナインたちの顔をみて、荒井監督は、

「コラァ!!ニヤニヤすんな!!」

と一喝。そして、

「おまえらの試合後の態度は堂々としていて立派だったぞ!先生は誇り思う。三年生は、これで引退だが、いまの気持ちを忘れずに大学受験に臨むように!!そして、二年生も、今日の悔しさを忘れずに、来年に向けて、練習に励むように!!よし!!今日はこれまで!!おつかれさん!!」

と、圭悟たちを褒めるのだった。

 圭悟たちは、

「おつかれさまでした!!ありがとうございました!!」

と元気にあいさつすると、荒井監督に、深く一礼するのだった。

 

三、納得のフリチン整列

 試合後の圭悟たちには一つの楽しみがあった。それは、リゾート温泉なみに豪華な県営運動場・野球場のシャワールームだった。

「やったぁ!!入っていいんですか!?」

「ああ、もちろんだ。汗をながしてさっぱりして来い!!」

 荒井監督の許可も得て、喜び勇んでシャワールームへと向かう圭悟たち県立一高・硬式野球部員の面々。シャワールームは野球場ごとにあり、貸し切り状態。そして、さすが、税金を湯水のように投じて建設された施設だけあり、そのシャワールームは、広くて、超高級リゾート温泉ホテルの大浴場並みの豪華さ。高校野球部ならば、2チームが一緒に入ってもまだ余りある広さの浴槽もあった。

 圭悟ら県立一高ナインたちも、一皮むけば、普通の男子高校生。早速、スッポンポンのポ〜〜ンになり、ワイワイガヤガヤ、試合の汗と泥を流すため、シャワーを浴びて風呂に入りリラックスするのだった。

 しばらくすると、圭悟たち12人で騒がしいシャワールームに、別の高校生の集団が入ってくる。そう、対戦相手の県立農芸高校の野球部員、総勢15名の男子高校生たちだった。

 県立農芸ナインたちがシャワールームに入ってきたとたん、圭悟たちは、ピタリと会話をやめる。しぃ〜〜んと静まり返るシャワールーム。なんとも気まずい雰囲気になる。

 そんな中、

「おい、圭悟・・・見ろよ・・・あいつらのケツ・・・真っ黒だぜ・・・」

と、立ってシャワーを浴びる圭悟の右腕をつつきながら、隣でシャワーを浴びていた丸山がささやくような小声で言うのだった。

 チラリと県立農芸の選手たちをみる圭悟・・・。

「うわぁ・・・すっげぇ・・・。」

 自分たちよりも一回り大きく、ガッチリとした体格。彼らが、圭悟たちより鍛えていることは、その股の太さやケツのデカさをみれば明らかだった。圭悟たち同様、日焼けして真っ黒の県立農芸の野球部員たち。しかし、これもまた圭悟たちと同様、プリッと盛り上がったケツの部分は、日焼けせずに、肌色のまま。ただ、圭悟たちと違うところは、県立農芸の選手たちのケツには、監督さんとコーチたちからバットで気合を入れられたばかりの証が、真っ黒に刻印されていたことであった。

「うわぁ・・・ケツバット食らって、ケツにあんな痣こしらえたら、オレ、恥ずかしく絶対にタオルで隠すよな・・・。」

と思う圭悟。

 その痕をみるにつけ、圭悟たちは、自分たちとの格の違いを思い知らされる。もちろん、自分たちも、荒井監督からケツバットを食らうこともあったし、時には、主将の北村がケツバットを敢行することもあった。しかし、その痕は、2〜3日もすれば、きれいになくなってしまう。その程度のものだった。一方、県立農芸の選手たちのケツについたケツバット痕は、とてもではないが、2〜3日できれいに消えてしまうような代物ではないことが、圭悟たちにも十分にわかるのだった。

 お互いに意識しながらも、圭悟たち県立一高ナインの視線をはばかることなく、無言のまま、黙々として、圭悟たちに真っ黒なケツを見せつけるようにシャワーを浴びる県立農芸の選手たち。それはまるで制裁の烙印であるはずの恥辱のケツバット痕を、「これはオレたち高校球児の勲章だ!」とでも誇っているかのようであった。

「おい・・・そろそろ出ようぜ・・・」

 県立農芸の選手たちの堂々とした振る舞いに、萎縮するかのように静まり返る県立一高の部員たちに、主将の北村が声をかける。

「おっ・・・おお・・・そうだな・・・そろそろ出るか・・・」

 圭悟たちは、北村の一声に救われたかのように、その気まずい空気が流れるシャワールームから出ようとするのだった。

 しかし、その時だった。

「おい!!待てよ!!」

と、圭悟たちの後ろから、圭悟たちを呼び止める低い声が響くのだった。

 圭悟たちは、まるでビビった少年のように、ギクッとして、後ろを振り向く。

 果たして、その声の主は、県立農芸・硬式野球部の主将・早川だった。その県で野球をしたことがある野郎ならば、早川の名前を知らない者はいない。リトルリーグ時代からの地元ではちょっとした有名人であった。

「な、なんだよ!!」

と、県立一高・野球部の中でも喧嘩っ早い丸山が言いそうになるのを制止するように、タオルで前を隠した北村が前に出て、

「な、なんですか?」

と精一杯の虚勢を張るのだった。

 圭悟は、「うわぁ・・・オレたち、ビビりまくってるな・・・このままじゃ、後輩の手前、立場ねぇ・・・」と思う。他の3年生部員たちの思いも圭悟と同じだった。

 シャワールームには、宮林たち2年生部員もいる。ここぞという時は、一歩も引かずに後輩を守る。それが先輩であり、これこそ男気というものだ。

 圭悟たちは、宮林たち2年生部員4人の盾になるかのように、宮林たちを自分たちの後ろへと引っ込め、「なんだよ!!」といわんばかりに背一杯の「目力」を飛ばしながら、県立農芸の野球部員たちに対峙するのだった。

 そんな圭悟たちの緊張感を破るかのように、県立農芸主将の早川は、ものすごく気合の入った大声で、

「整列!!!」

と号令をかけるのだった。

「ィ〜〜〜ス!!」

 早川の号令に負けず劣らずの気合の入った応答をし、県立農芸の野球部員14名が、早川主将の横に集まり整列するのだった。

 それをみて、北村もあわてて、

「せ、整列!!」

と、圭悟たちに号令をかける。

 「いったいなにが始まるのか・・・」とキョトンとしてしまっている県立一高の部員たち。「やばい!!」と思った圭悟があわてて、県立農芸の部員たちに負けじと、気合をいれて、

「ィ〜〜〜ス!!」

と返事をし、北村の横に立つのだった。

 それが呼び水となり、口々に「ィ〜〜〜ス!!」と応答して、整列する県立一高の部員12名。

 前に整列する県立農芸の選手たち。一人としてタオルで前を隠すこともなく整列するのその姿は、圭悟たちよりも格段に逞しく、そして、野郎臭かった。いや、彼らに比べたら、圭悟たちは、まるでシニアリーグの中学生のようにもみえた。

「うわぁ・・・早川のチンチン、デッけえなぁ・・・・」

と思う圭悟。早川だけではなかった。真っ黒に日焼けした県立農芸の部員たちのヘソあたりと、両太股にクッキリついた白いスラパンのライン。そのラインに挟まれた日焼けしてない部分のほぼ中央、両足の間からヌッと垂れた男性自身は、みな一応にズル向けで、テカテカに黒光りし、とても高校男子の逸物には見えなかったのだ。

 ムスコを堂々と丸出しで豪快に整列する県立農芸球児たちに、どうしてもタオルで前を隠してしまう県立一高球児たち・・・。

 しかし、そんなことを気にかける様子もなく県立農芸主将の早川は、整列した部員たちに対し、「気をつけ!!礼!!」の大号令をかける。

「ありがとうございました!!」と早川。

「ありがとうございました!!」と、他の部員たち。

 自分たちの前に整列し、ペコリと頭を下げる県立農芸のフリチン球児たちに、北村もあわてて、「き、気をつけ!!礼!!」と号令をかけ、

「ありがとうございました!!」

と言い、頭を下げる。

「ありがとうございました!!」

と、北村に続くように、ペコリと頭を下げる圭悟たち県立一高ナイン。

 その挨拶が済むと、茫然と立ち尽くす圭悟たちを尻目に、何事もなかったかのように、シャワーや浴槽の方へと戻っていく県立農芸の部員たち・・・。ここでも結局、圭悟たちに「ナイスゲーム!!」と握手を求めてくることはなかった。

 しかし、圭悟たち県立一高の部員たちは、彼らの真っ黒なケツを眺めながら、

「やっぱ、アイツらには勝てねぇーわ・・・オレたちは、早く学校へ戻って、受験勉強、受験勉強・・・」

と妙に納得しながら、シャワールームをあとにするのだった。

<参考事項> 

 高校野球においては、「日本学生野球憲章」で使われている用語に従い、野球部の顧問(責任教師)のことを「部長」と呼びます。一方、野球部において実際に野球の指導を行う「監督」については、学校が認めれば、高等学校の教員資格がない者でもその任に就くことができます。(ただし、その者がプロ野球経験者の場合には、別に就任条件についての規定があります。)

 しかし、一部の強豪校を除いて、特に公立高校などでは、監督を雇う予算がないため、野球部の部長(顧問)が、ほとんどボランティアで監督を兼任することが多いらしいです。今回のお話において、県立一高の荒井監督は、県立一高の社会科の先生という設定にしてあります。

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