金サポ翔太「真夏の夜の悪夢」1

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一、シューベルト事件 前半

「オラオラぁ!しっかりとケツを出せ!!」

パチ〜〜〜ン!

「ばかもん!おまえはあと二発追加だ!」

パチコ〜〜ン!

「なんだ!その目は!しっかり反省せい!!」

パァ〜〜〜ン!

 こ、今回は初っ端からかなりヤバイ状況ッス。俺が担任する1Cの教え子たちが、全員、教室の外の廊下で、ゴリからケツ竹刀を受けてるッス。今は水曜の五時間目ッス。本当なら、グランドで元気にサッカーでもしている時間ッス。けど、ゴリからケツ竹刀ッス。しかも、スクール・ブリーフ一丁のケツにッス!

・・・・・・・・・

 チィ〜〜〜〜〜ッス。お久しぶりッス!!オレ、東和大学付属第二高等学校・社会科教諭・フィールドホッケー部コーチの藤本翔太ッス。付属二高に来て、今年で三年目。今年度、俺は初めて自分のクラスを受け持つことになったッス。

 担任になったのは、1年C組ッス。新入生のかわいいヤツらッス。初めての担任ということで、責任重大。全く不安がないっていえば、うそッスけど、今年の一年の学年主任は、1A担任の猿田(えんだ)先生で、

「藤本先生!なにか困ったことがあったら、俺にすぐ相談しろよ!」

って言ってくれたんで、かなり気持ちが楽になったッス。

 そうッス。ゴリっす。二高のやんちゃ坊主たちに目を光らせる生活指導の要ッス。けど、困った時にゴリに「相談」していたのは、俺のような新入り教師だけじゃなかったッス・・・。

 で、今回の激ヤバ状況の、ことの始まりはこうだったッス。

 昼休みに俺が昼のホームルームのために、担任の1Cの教室へ向かおうとすると、いきなりゴリが俺に声をかけてきたッス。

「藤本先生!今日の五時間目の1Cの体育は、体操着に着替えて教室で待機するように生徒たちに言っといてくれ!頼んだぜ!」

「は、はい・・・」

 そろそろ一学期も終わりに近づこうとしている天気のいい暑い日。教室で待機なんて・・・俺は、不思議に思ったッス。それで、理由を聞こうとすると、ゴリはそれを遮るように、

「藤本先生!ところで、今日の五時間目は空いてっか?」

「は、はい・・・空いてますが・・・」

「そうか。それはよかったぜ。俺と一緒に1Cのクラスに来てくれ!」

 それは有無を言わせぬ命令口調で、俺は、

「は、はい!」

と返事をするしかなかったッス。

 これがまさか、東和二高で「これがないと一学期が終わらない!」と言う、夏休み前、毎年必ず起こる「恒例行事」いや「恒例事件」の、俺にとっての始まりだったとは、俺はこの時、まだ気がついてなかったッス。

 昼のホームルームでは、ゴリに言われたとおり、生徒にゴリの指示を伝えたッス。生徒は一瞬怪訝な顔をしてたッスけど、すぐにいつもの騒がしい昼飯時の教室の雰囲気に戻っていたッス。

 俺はその時、生徒たちが、

「今日の4時間目の音楽の時間、最高だったよな!」

「そうそう!あれには笑ったよな!」

って話しているのを、うかつにも、なにも考えずに聞き流していたッス・・・。その時、俺の1Cの教え子たちが、4時間目にしでかしたとんでもないことに気がついていれば、担任として、どうにか対処法があったかもしれないと思い、ものすげ〜〜悔やまれるッス・・・。

・・・・・・・・・

 五時間目の始業のチャイムが鳴って、ゴリと俺は1Cの教室に向かったッス。その途中、ゴリは、保健室によって、保健室の備品であるブリーフを5組ほど、養護の先生に断って、持ち出してきたッス。

「藤本先生!このブリーフを持っていてくれ!」

「は、はい・・・」

 俺は、手に持ったブリーフを見て、

「あ、これが『おもらしブリーフ』か!」

と思ったッス。



 生徒たちが「パンツ検」とか「ブリ検」と呼ぶ、ゴリの下着検査で、違反者が穿かされるブリーフは二種類あるッス。一つは、ゴリが用意した普通のスクール・ブリーフ。そして、もう一つは、生徒たちから「おもらしブリーフ」って呼ばれている保健室の取替え用ブリーフ っす。後者は、生徒たちの「こんなの穿きたくねぇ度」ワーストワンであることはもう述べるまでもないッス。

 もちろん、高校生が本来の目的でこのブリーフのお世話になる時は、もう救急車を呼ぶくらいヤバイ健康状態の時なので、ほとんどは、ゴリが生徒にお仕置き目的で穿かせるときに使われるッス。

 ベテラン教師のゴリは、一年生の一学期後半では、35人のクラスのうち、だいたい、5人くらいの生徒が、校則破ってトランクス穿いて通学してきてるってわかるらしいッス。

 ゴリはニヤリと笑って、

「もう夏場だからなぁ〜〜。5人くらいがトランクス派かぁ〜〜!」

って俺に言うッス。

 俺は、

「スゲェ〜〜!そんなことまでわかるんスかぁ!」

と思ったッス。

「いつもはまあ目をつむってやるが、今日は絶対見逃せねぇ!こういう時に、ついでにビシッと締めとくのが一番効果あるんだな、これが!」

って、ゴリはその日の決意を示すかのような口調だったッス。けど、俺はまだその時、それは通常の下着検査かと思ってたッス。

 1Cの教室について、ゴリは、俺を教室の後ろに立たせて、まさに男子校における「やんちゃ坊主たちの正しい締め方」を実践で教示してくれったッス・・・トホホ・・・締められるのは俺が担任の生徒たちッス。俺にとって、その日の五時間目は、もうまさに針のむしろだったッス。

 蒸し暑い中、男臭さの中にもまだ少年特有の乳臭さが残ってムンムンの男子校特有の熱気がこもった教室の教壇に立って、ゴリは、竹刀片手に1Cの生徒たち35人に睨みを利かせたッス。

「起立!」

 学級委員の高山が、クラスに号令をかけるッス。二高の白体操服と白短パンを着たクラス全員が、席から立ち上がり、再び、高山の

「礼!」

の号令で、ゴリに一礼したッス。

 そして、高山が「着席!」の号令を出そうとした時、ゴリは、それを遮るように、

「全員、椅子の上に正座しろ!!!」

と厳しい口調で命令したッス。

 俺はマジ驚いたッス。そして、それが通常の下着検査とは違うことを悟ったッス。

「え〜〜〜、なんで正座なんですかぁ?」

と1Cのヤツらは不満タラタラだったッス。

 そんなクラスの態度に、ゴリは、

ドッスゥ〜〜ン!

と手に持った竹刀の先端で、教壇を打ち鳴らし、

「バカもん!!なぜ正座させられるのか、胸に手をあてて、よ〜〜く考えろ!」

と一喝したッス。

 ゴリはそれでも不平をブーたれてる生徒たちを、

「さあ、グズグズ言っとらんで正座だ!正座しろ!」

と怒鳴りつけ全員正座させたッス。

 1Cの生徒たちが全員正座し、教室がシーンと静まり返ると、ゴリは、

「全員、目を閉じろ!」

と正座している生徒たちに命令したッス。その時のゴリの迫力ったら、もう俺も正座して目を閉じないとヤバイんじゃないかってマジ思うくらいだったッス。

 そして、

「今日という今日は、おめえらの二高生としての品位のなさに、俺は我慢がならねぇから、耳をかっぽじってよぉ〜〜〜く、聞いてもらう!!!今日の4時間目の音楽の授業のオメエらの態度はなんだ!!!!」

って、どこかの映画で聞いたような文句で、説教が始まったッス。 (2007年の夏、あの映画を見た人だけがわかるッス・・・フフフ。)

 俺はこのとき、「あ!まさか!」って思ったッス。そして、ゴリの説教が進むにつれて、「こ、これはマジやばい・・・」って冷や汗タラァ〜〜だったッス。

・・・・・・・・・・・・・

 実は、東和二高では知らないヤツはいない、毎年、一学期の終わりに恒例行事のように起こる「シューベルト事件」の当事者に俺の担任する1Cのヤツらがなっちまっていたッス。

 「シューベルト事件」とは、東和二高ではめずらしい女性教諭で音楽担当の谷岡このみ先生の授業で起こる「学級崩壊」のことッス。

 この「学級崩壊」は、必ず一年に一回きり、一年生のクラスのどこかで起こるッス。なぜ、一回きりかって言うと、この「学級崩壊」が起こると、谷岡先生は必ずゴリに「相談」し、その「学級崩壊」が起こったクラスは、後で、ゴリからこっぴどくお仕置きされるからッス。

 つまり、他の一年生のクラスと、上級生のクラスでは、ゴリから後でこてんぱんにお仕置きされることがわかっているので、この「学級崩壊」は起こらないってわけッス。まあ、二高のヤツらも、しっかりこの点は「学習」してるってことッスね。

 それにひきかえ、「学習」が足りないのは、谷岡先生の方ッスよ・・・ったく・・・あ、皆さん、「このみ」ってかわいい名前にだまされちゃダメッすよ。谷岡先生っつのは、二高の教師歴30有余年の、ゴリより10歳以上年上の、おばさん先生ッス。

 このおばさん先生、日本女子音楽大学・声楽科出身の人で、ソプラノ歌手みたいに、50才過ぎても、声は少女みたいッス。

 普通、二高のような筋肉系男子校では、教師が生徒を呼ぶときは、大体、苗字呼び捨てなんスけど、この先生は、「さん」づけで生徒たちのことを呼ぶッス。例えば、森田って名前の生徒を呼ぶときは、少女みたいな高い声で、

「はい、次、モ・リ・タさぁ〜〜ん!」

ッスよ・・・それがまた、生徒たちからこの先生がからかわれる原因になってるッス。

 で、「シューベルト事件」ッスけど、 それは、毎年、一年生の音楽のクラスで、とある曲を聴かせると起こるッス。ったく、男子校であの曲を生徒たちに聴かせるのは、もう禁忌だと俺は思うッス!

 そうあの曲とは、シューベルト(Schubert)作曲  

 歌曲「鱒」

(Die Forelle)D550(シューバルト詩)ッス。

 えっ?漢字が読めないッスかぁ?それ、マジやばいッスよ・・・エヘヘ・・・かくいう俺も、二高の教師になるまで読めなかったッス(爆)。

「鱒」は「マス」って読むッス!

 そうッス、高校生のやんちゃ坊主たちがその言葉を聞くと、魚ではなく、毎晩自室の机の前やベッドの中でシコシコ励んでる・・・そうッス、ひとりHを連想しちまう(思わず赤面)、男子校で使うにはかなり気をつかうセンシティブな言葉ッス。

 この言葉をクラス全体に一斉に聞かせると、もう蜂の巣をつついたような騒ぎになるッス。俺も、ついこの前、昼のホームルームで、生徒とコンビニ弁当の焼魚のことで雑談している時、

「あれは鮭(シャケ)じゃなくて、鱒(マス)じゃねぇ〜か?」

って不用意に言ったら、もうたいへんだったッス。あいつら、うれしいのか恥ずかしいのか、もう大騒ぎになっちゃって、その場を収めるのに一苦労だったッス。 あまりに教室が騒がしいので、ゴリが心配して、1Aのクラスから、

「藤本先生!なにかあったんですか?大丈夫ですか?」

って、竹刀持って飛んで出てくる始末だったッス・・・トホホ・・・俺のクラス掌握術は、まだまだ未熟なんスよね〜〜。あの時はちょっと凹みました。

 で、 問題の音楽の授業のことッスけど、このシューベルトの「鱒」っていう曲は、谷岡先生が音大の卒業課題曲として歌った思い入れの強い曲ッス。 だから、毎年のように騒ぎになっても、一年生の音楽の授業の鑑賞曲の一つになっているッス。谷岡先生は、二高では一応もうベテラン教師ッスから、だれも谷岡先生に、「鱒」を鑑賞曲からはずすように進言する人はいないッス。だから、毎年 、「シューベルト事件」ッス。

 それで、今年の1Cクラスでは、「鱒」っていう曲が谷岡先生の口から発表されると同時に、もうゲラゲラ笑いが始まったらしいッス。けど、谷岡先生は、生徒たちに、

「はい!この曲はシューベルトの名曲中の名曲ですよ!みなさん、もっとしずかに鑑賞しましょう!」

って、何度も注意して持ちこたえたらしいッス。

 軽やかなピアノ伴奏のあと、音楽室のテレビにギョロ目のドイツ人女性歌手の顔がアップになって、

In einem Bachlein helle ,           澄んだ小川に
Da schos in froher Eil          気まぐれな鱒がうれしげに
Die launische Forelle            矢のように
Voruber wie ein Pfeil .         かすめ過ぎて行った。
Ich stand an dem Gestade          私は岸辺に立って、
Und sah in suser Ruh          快く、静けさにひたりながら
Des muntern Fischlein Bade         澄み切った小川に
Im klaren Bachlein zu .         この元気な魚が泳ぎゆくのを眺めた。

と、第一節を歌い始めると、1Cのヤツらのゲラゲラ笑いと、私語、雑談はますます激しくなる一方だったッス。けど、谷岡先生は耐えたッス。

 そして、その女性クラシック歌手が、

Ein Fischer mit der Ruthe         一人の竿を担いだ漁師が
Wohl an dem Ufer stand,            岸辺に立ち、
Und sah's mit kaltem Blute          冷ややかに眺めていた
Wie sich das Fischlein wand.       その小さな魚が踊る様子を。
So lang dem Wasser Helle,            水に明るさが、
So dacht' ich, nicht gebricht,       私はそう思った、なくならない限り、
So fangt er die Forelle           彼も鱒を捕まえることは
Mit seiner Angel richt.         その釣り針でもできないだろうと。

と、第二節を歌い終えたとき、谷岡先生は、DVDのスイッチをいきなり消して、音楽教室の電灯をつけて、

「みなさん!もっとしずかに聴けないんですか!?画面に映っていらしたあの歌手の方は、ヘルガ・シュミットさんといって、ベルリン国立音楽院出身のすばらしい歌手の方なんですよ。実は、ヘルガ・シュミットさんの先生は、わたくしの先生でもある、ヤン・ステッグマイヤー教授なんです!」

と話をはじめたッス。谷岡先生にしてみれば、話をしている間に1Cのクラスのヤツらも、少しは落ち着いて静になると思ったらしいッス。けど、

「ステッグマイヤー??へんな名前!」

「ステッグマイヤー??しらねぇ〜〜〜〜!!」

なんて、1Cのヤツらの間からは、不規則発言が飛び出す始末ッス。

 それでも、谷岡先生は、それを無視して、

「わたくしは、大学四年生の時、日本にいらしていたステッグマイヤー先生から、『鱒』の指導を受けました。」

と続けたッス。「『鱒』(マス)の指導」と聞いて、1Cのヤツらは大爆笑ッス。

「しずかにして下さい!先生、みなさんにお話しているんですよ!例えば、さきほどみなさんが聞いた『鱒』の第二節の、"Solang dem Wasser Helle, so dacht ich, nicht gebricht."の"so dacht ich"(そう思った)は弱く歌うようにと、私は学生の時、ステッグマイヤー先生から何度も厳しく指導を受けました。みなさんもお気づきのように、ヘルガさんも、ビデオの中で、その通り歌ってましたね!すばらしいと思います!さあ、みなさんお静かに!!最初からもう一度、鑑賞しましょう!!」

と、谷岡先生が、DVDリモコンの再生ボタンを押そうとした時ッス。

 1Cでは一番のやんちゃ坊主の住谷が、

「先生!ステッグマイヤー先生は、先生の前で、マスかいたんスかぁ?」

って、手を挙げて質問しちまったッス!!!

 谷岡先生は、真っ赤な顔で、

「はぁ??あなた、何を言ってるんですか?」

って、半分叫ぶように、言ったッス。

 住谷は、笑いながら、

「ステッグマイヤーは、先生の前で、しっこったんスかぁ?」

って、重ねて言っちまったッス!!!

 これに谷岡このみ先生は、火に投げ込んだ木の実が爆発するように、ぶち切れたッス!!!

「あ、あなた!なんてこと言うの!!!た、立ちなさい!」

 そして、

「チェッ!このみちゃん、怒っちゃったぜ・・・」

ってブツクサ言いながら、面倒くさそうに立ち上がった住谷に、

「あ、あなた!お名前は?」

と谷岡先生。

 それに対して、住谷は、

「1Cの住谷でぇ〜〜〜す!だから!ステッグマイヤー先生は、マスターベーションの仕方、教えてくれたんスかぁ?」

と、とうとう言ってしまったッス!

 そして、クラス全体の大爆笑の中、谷岡先生は、真っ赤な顔になり、

「住谷さんですね!あなた!もういいです!先生のことをどんなに侮辱しても先生は怒りません!けど、ステッグマイヤー先生のことをそうやって愚弄することだけは、先生、絶対に許しません!もう、いいです!あなた方に、シューベルトの曲を鑑賞する資格はありません!今日の授業は中止です!!」

と金切り声で言い残し、逃げるように音楽教師室から飛び出していったッス。

「やったぁ〜〜〜!!!昼飯だ!!!!」

「さあ、教室に戻って、メシだメシ!」

と、後に残った1Cのヤツらは、大騒ぎ。

 クラス委員長の高山と、何人かのマジメなヤツらは、

「ちょっと・・・ヤバイんじゃねぇ・・・」

とお互いに顔を見合わせるも、クラスの勢いに押されて、

「まあっ、いいか・・・」

って感じでクラスの連中の後をついて行くように音楽教室から出て行ったッス。

 だれもいなくなった音楽教室で、シューベルトの「鱒」のディスクが入ったDVDプレヤーだけが、ウィ〜〜ン、ウィンウィン!と機械音をたてながら、「READY」の文字を点滅させて、誰かが再生ボタンを押してくれることを、空しく待っていたッス・・・。

・・・・・・・・・・・・・・

 そして、5時間目の1Cクラスっす・・・。全員が体操着のまま、椅子の上に正座させられて、説教が始まるや否や、生徒の中から、

「あっ!谷岡のヤツ・・・チクリやがった・・・」

と、かなりデカイ声のつぶやきが起こったッス!

 もちろん、住谷ッス・・・ったく、アイツ、始末におえないッス。

 ゴリは、住谷をギロリと睨み、いきなり、

「住谷!立て!!」

ッス。もう、俺、どうなっても知らないッスよ・・・トホホ。

「ィ〜〜ス!!」

って、部活式に返事をして、しぶしぶ椅子から降りて立ち上がった住谷に、ゴリは、

「机の上に正座し直せ!!!」

って、すかさず命令したッス。

「マ、マジかよ・・・」

と、ブツクサ言い始めようとする住谷に、ゴリは、

「早くしろ!」

と一喝ッス。

 ゴリがマジに怒っていることを察知した住谷は、不満そうな顔をして、他の連中よりは一段たかく、机の上に正座したッス。住谷のヤツ、座高が結構高いんで、本当に目だっていたッス。

 そして、ゴリの説教が、延々と約25分間続いたッス・・・ゴリの説教だけが響く、蒸した教室の中、校庭側、廊下側とも大きく開け放たれたすべての窓を通して、梅雨末期の湿った風が教室を吹き抜けていったッス。

 そして、1Cの連中の体からは、もう汗がタラタラだったッス。そして、いいかげん足が痺れてきたのか、全員、モジモジ落ち着きなく、ケツを左右に動かし始めた頃ッス。

 ゴリが、

「忍びがたきことではあるが!!!今日はおめえら全員に、愛のムチを加える!!」

と、またどこかの映画で聞いたことがあるようなセリフで、説教を締めくくったッス・・・。

 教室の後ろで、1Cの連中のケツをながめていた俺は、

「あ〜〜〜、ついにきたか〜〜〜!」

って思ったッス。

「よし!目を開けろ!これから出席番号順におめえらを呼ぶ!名前を呼ばれたら、パンツ一丁になって廊下に出て来い!!!」 

って、宣言したッス。

 ゴリのケツ竹刀はお情けなしのフルスイングなんで、たいてい、廊下で敢行されるッス。そして、今回は、ゴリのお仕置きの中でも一番厳しい、パンツ一丁でのケツ竹刀宣言ッス。

 ゴリのその言葉に、椅子の上に正座している1Cのヤツラからは、

「え〜〜〜〜!!!パンツ一丁なんて恥ずかしい!!」

「勘弁してくれよ・・・俺たち、ガキじゃないんだから・・・」

と、哀願するような不満が、口々にもれてきたッス。

 もちろん、ゴリは、

「おめえらが、谷岡先生にどんなに恥ずかしい思いをさせたか、もう一度、胸に手をあててよ〜く考えてみろ!」

って一喝したッス。

 し〜〜んと再び静まり返る教室をながめて、ゴリはニヤリと笑い、

「まあ、それを考えたら、パンツ一丁くらい当然だよな!」

って言ったッス。

 二高のヤツらって、根はまっすぐなんスよ。曲がってないんスよ。だから、ものすごいやんちゃなイタズラしでかした時でも、お仕置きは、信じられないくらい、素直に受けるんスよね〜〜。まあ、そんなところが、俺が二高のヤツらを憎めないところなんスけど。

 もちろん、1Cの連中からは、とまどいながらも、

「は、はい・・・・」

と返事する声が聞こえてきたッス。アイツらも、谷岡先生に悪いことしたって、心の底ではもうかわってるんスよね〜〜きっと。俺はそう信じたいッス。

「よし!時間がねぇ〜〜ぞ!出席番号順だ!名前を呼ばれたら、席を立って、パンツ一丁になって廊下に出て来い!!!」

と言いながら、ゴリは、手に担ぐように持った竹刀で、自分の右肩をパンパン打ち鳴らしながら、ガラっと教室の扉を開けて、廊下に出て行ったッス。

 東和二高の体操着である白短パンに白のシャツ姿で、教室の椅子の上に正座して順番を待つ俺の教え子たちは、

「ヤ、ヤッベェ〜〜!」

「クラス全員、ケツ竹刀・・・マジかぁ・・・」

と、つぶやきながら、ある者はケツをモジモジさせ、ある者は、ケツをさすっていたッス。

 俺は、それを見ながら、

「や、やべぇ〜〜、アイツらまさか・・・」

と、再び、冷や汗タラァ〜〜〜になっちまったッス・・・。それは、俺がしつこく勧誘して(爆)、1Cからフィールドホッケー部に入部した5人のことだったッス・・・。

 そんな俺の心配をよそに、

「よ〜〜し!1番!相原!パンツ一丁になって廊下に出てこ〜〜い!!!」

と、ゴリのお仕置きがついに始まったッス・・・。

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