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内容
中学二年生の野球部員が、6Cの野球部主将・松下のところへ、会議室のある高校校舎一階の偵察結果を報告に来ていた。
「松下先輩、目蒲先輩たち、会議室の中に入っていきました。」
「よし、ご苦労、部室にもどっていいぞ。」
「はい、失礼します!」
ペコリとお辞儀をすると、その中学二年の「諜報」部員は、6Cの教室から出て行った。
「会議室か!よし、急いで準備だ!ラグビー部と陸上部のやつらにも知らせないと・・・」
・・・・・・・
いったい、なにが始まるのだろうか、高校校舎からグランドをはさんで向かい側の特別教室棟の屋上に、高校三年生の命令で、高校一年生の応援部員たちが、約20人分の椅子を運び上げて、高校校舎一階の窓が見下ろせる位置に それらの椅子を配置していた。
先輩から命令された高校二年生の応援部員たちが、季節外れの練習をはじめるのであろうか?その他、何人かの高校二年生 ・応援部員も、援団の制服であるガクランに身をつつみ屋上に登ってきていた。
高校一年生の応援部員によって用意された椅子の準備が終わると、主に、野球部、ラグビー部、陸上部の高校三年生の部員たちがぞくぞくと集まってきた。
椅子に座った高校三年生は、みんな、目蒲、岡部、水野の悪友たちで、明和学園きっての「やんちゃ坊主」たち、すなわち、優等生たちの集まる進学校では「不良」の要注意人物たちだった。
もちろん全員、津島のブラック・リストに載っている奴等で、全員、最低一度は、ケツピン棒のお世話になっていた。
その三年生たちは、ある者は、校則違反のスナック菓子を持ち、ある者は、これまた校則違反の双眼鏡をもって、これからの「ケツピン」見物に備えていた。
この屋上での集まりは、最上級生がケツをたたかれる時だけ、しかも、特別教室棟の屋上から丸見えの会議室でそれが行われる時だけに開催される、明和学園名物の「ケツピン・ウォッチング」の集まりであった。
しかも、今回の「ケツピン・ウォッチング」は、後輩である高校二年生の応援団員たちの応援つきであった。
これは、会議室で油を絞られている三人、特に目蒲が、同級生にも、後輩にも、人気のある証拠であった。
もちろん、応援は冗談半分であったが、冗談半分であるだけに、ケツを叩かれる先輩に人気がなければ、いくら先輩の命令とはいえ、高校二年生の応援団員たちの協力は得られなった。
これから送られる目蒲たちへのエールは、冗談半分の応援とはいえ、こんな時代遅れの体罰を容認している学校に対するささやかな抗議の意味も込めた、生徒たちのパフォーマンスなのであった。
明和学園には、進学校にはめずらしく、常設の応援部があった。 すでに、高校三年生は、引退していたが、高校二年生の応援部員も全員、「やんちゃ坊主」ばかり。ケツピン棒の痛さも恥ずかしさも、身を持って経験ずみであった。
それだからだろうか、いくら冗談のパフォーマンスとはいえ、高校二年生の応援部員たちは、真剣に、人気の先輩のケツ苦難を応援していた。
とてつもなく、くだらなく幼稚なことでも、先輩のためには、かなり真剣にやってしまう、そんな、純情なところもある男子校生たちであった。
応援は、津島がケツピン棒の準備中に始めるのが、慣わしだった。
高二の新応援部・部長、すなわち、明和学園・第六十七代応援団長・西峯竜太が、三年生に大声で挨拶した。
「オッス!これから、岡部、水野、目蒲の各先輩に、エールを送らせて頂きますッ!!」
「ああ、悪いな、始めてくれ!」
野球部・主将の松下は、西峯に言った。
「オッス!」
といって、西峯は、再び、三年生の後ろに一列に並んだ、高校二年の応援部員たちの前に立った。
「オッス!」
西峯の挨拶。
「オッス!」
部員たちの返答。
「これから、ケツピン棒との、試練の戦いに、勇敢にも立ち向かう、岡部、水野、目蒲の各先輩に、我々応援部員が、後輩を代表し、エールを、送るッ!」
と、団長の西峯。
思わず、笑って吹き出し、口に入れたカレー味のカールを下に落とす、松下だった。
「西峯も、よくもあんな文句、考えたもんだ・・・」
「オッス!」
と、応援部員たちの返答。
再び、西峯、
「えんだぁ〜〜〜〜ん!手びょぉ〜〜〜〜し!かまえッ!」
「オッス!」
と、一糸乱れぬ、応援団の構え!
再び、西峯、
「フゥレェ〜〜〜〜〜〜〜!フゥレェ〜〜〜〜〜〜〜!オッ!カッ!ベッ!」
「フレ!フレ!岡部!フレ!フレ!岡部!」
こんな応援が、会議室での三人の先輩の体罰が終わるまで、延々と続くのであった。
・・・・・・・・
一方、放課後の部活で残る生徒たちの関心を一点に集める会議室の中では、ケツピン棒を仕上げながら、外から聞こえてきた応援団の声援に、自分自身の高校時代を懐かしく思い出しながら、ニヤニヤして、津島教諭は、目蒲たちに言った。
「ほら、後輩たちに応援されてるぞ。こりゃ、根性出して耐えるしかねぇ〜な、目蒲君。」
「は、はい・・・覚悟はできてます・・・」
ブゥ〜〜ン!
ブゥ〜〜ン!
ブゥ〜〜ン!
再び、あの不気味な音に、目蒲は、ケツ筋を思わず引き締めた。あの、「ケツピン棒」がいつ自分のケツに飛んでくるのか、気が気ではなかった。
「もうその威力はわかりましたから、はやく、始めてくださいよ・・・」
津島の焦らしに、そんな泣き言をいいたくなる三人だった・・・
しかし、津島は、そんな三人の気持ちを見透かしていたのか、出来上がった二本の「ケツピン棒」を、素振りしては、掌で、端から端まで丁寧に強く握りながら、ビニール・テープ を頑丈に固めているかのようであった。
素振りしては、握り固め、素振りしては、握り固める。そんなことを、何度も何度も繰り返し、津島は、一向に、ケツピンの儀式を始めようとは、しなかった・・・
津島の前の机の上で正座している岡部、水野、目蒲の三人は、痺れる足に耐えながら、外のグランドそして屋上の様子 が気になりながらも、
「あぁ〜、そんなに頑丈にしなくても・・・」
と、津島の掌の中で握り固められている黒い棒から目をそらすことができず、目の前の「ケツピン棒」が尻に振り下ろされる時の衝撃を想像し て、激しい心臓の鼓動を止めることができなかった。
目蒲が、ふと顔を上げると、開けはなたれた会議室の窓から、グランドの向こうの特別教室棟の屋上が見渡せた。
目蒲の部活仲間の悪友たちは、例年のお約束通り、一回戦で敗退した高校野球・西東京地区予選大会で使用されたプレートを両手に持って挙げていた・・・
それを見て、目蒲は、うれしいやら恥ずかしいやら、
「あいつら、マジかよ・・・他人ごとだと思って・・・」
と、つぶやていた・・・
この悪ふざけを男同士の美しい友情ととるか、目蒲にとっての恥の上塗りととるかは、人それぞれであろう。
教師たちも津島を含め、特に、この応援パフォーマンスと、屋上での「ケツピン・ウォッチング」を注意してやめさせることはなかった。
「また生徒たちが、くだらん悪ふざけをしとるわ・・・」と、容認して放っておくのが、明和学園の伝統であった。
素振りをやめた津島が、いままでにない、高圧的で厳しい口調で、三人に命令した。
「よし完了だ!全員、机から降りろ!そして、ジャージを下ろして、ここにおき、廊下に並べ!ジャージは、ケツピンのあとに返してやる!」
いよいよ、「代返」の大罪を、自らのケツで償う時が来た・・・
「はい!」
「はい!」
「はい!」
そういうと、痺れをきらした足を引き摺るように、机から降りて、目蒲たち三人は、ジャージの下を脱ぐと、白のスクール・ブリーフ一丁で、廊下にならんだ。
廊下で並ぶ、三人に、津島の最初の呼び出しがかかった。
「岡部哲史!入れ!」
「はい・・・」
と元気なく返事をすると、岡部は、会議室の中へ、消えていった。程なく、
ヒュウ〜・ビシッ!
という音が聞こえたかと思うと、岡部の
「一!お世話になりました!」
と、ケツピン棒に感謝の「挨拶」をする岡部の声が聞こえてきた。
教師ではなく、自分を鍛えてくれたムチに感謝する、それも、明和学園の伝統であった・・・
しばらく、間が空き、
ヒュウ〜・ビシッ!
「二!お世話になりました!」
再び、間が空き、
ヒュウ〜・ビシッ!
「三!お世話になりました!」
再び、間、
ヒュウ〜・ビシッ!
「四!お世話になりました!」
そして、近づいてくる足音・・・岡部は、片手に、ジャージを持ち、ブリーフのケツをさすりながら、泣きそうな顔で、目を充血させていた。
小声で、
「何発だった?」
と聞く、目蒲。四発だとは、わかっていても、一応聞くのが、明和学園の生徒たちの流儀だった。
「四!焼けるように、痛てぇ〜よ・・・」
外のヒソヒソ声が聞こえたのか。会議室の中から、
「ほら、そこで、話してるな!岡部は、教室で着替えたら、面談室でご両親が迎えにいらっしゃるまで待機だ!」
「はい・・・」
元気のない涙声で、返事をすると、
「じゃな、面談室でな。泣くなよ!」
と言って、6Aの教室へ向った。
「お前もだぞ!」
と、目蒲は言った。
・・・・・・・・・・・
そのころ、特別教室棟の屋上では、目蒲の悪友たちが、「ケツピン・ウォッチング」に興じていた。
双眼鏡をのぞきながら、
「おい、岡部何発だった。」
「四発らしいぞ。」
さすがに、部活の掛け声で騒がしいグランドを挟むと、棒の振り下ろされる音と、その後の叫び声は、屋上には伝わって来ないらしかった。
「俺にも、双眼鏡貸してくれよ!」
「はい、でも、すぐ返せよ!」
「あ、やってる、やってる、ケツ出してんのは、水野だな。あ、棒の色は、黒か、やっぱ、先輩の言ってた通り、高三になると、色が変るんだ!」
「あたりまえだろ、はやく、双眼鏡を返せよ!」
・・・・・・・・・・・・・・・
再び、会議室。次は、水野の番だった。
ヒュウ〜・ビシッ!
「一!お世話になりました!」
・・・・・・・・・・・・・
屋上では、
「ウッ〜〜ワッア〜〜〜、津島のヤツ、全然手加減してねぇ〜よ・・・棒を頭の上まで上げて、スゥイングして、振り下ろしてやがる・・・」
「どれどれ、双眼鏡、貸せよ・・・・」
「あれ、もうカールないの・・・?あのカール、俺が買ってきたんだぞ!まったく、ずうずうしい奴らだなぁ・・・」
・・・・・・・・・・・・・
再び、会議室、
ヒュウ〜・ビシッ!
「二!お世話になりました!」
廊下では、目蒲が自分の番を待ちながら、
「ヒヤァ〜〜、なんだあの重い音・・・」
ヒュウ〜・ビシッ!
「痛い・・・・!」
「ほら、どした水野、もう耐えられんのか?」
「いえ・・・まだです・・・、サンッ!お世話になりました!」
少し涙声まじりだったが、一際大きい、水野の声が聞こえた。
ヒュウ〜・ビシッ!
「四!お世話になりました!」
やはり、四発だった。しばらくして、ケツピン棒の「お世話」になり、足を引き摺りながら会議室を出てきた水野は、やはり、ケツをさかんにさすっていた・・・目が真っ赤で、頬には、涙の跡が、クッキリと残っていた。
そして、水野のはき古されたブリーフを通して、水野のケツが真っ赤に腫れているのが、目蒲には、わかった。
水野は、目蒲のことは、見て見ぬ振りをして、6Aの教室へ戻っていった。
「いよいよか・・・」
目蒲は、自分のケツを両手で、少し強くさすりながら、つぶやいた。
「目蒲!入れや!」
と、津島の呼び出しがあった。目蒲は、大きく深呼吸をすると、会議室の中へ入った。
「ヤベェ〜!折れちまったよ・・・お前は、もう一本のヤツで、やってやるからな!」
といって、津島がニヤニヤしながら、残った一本のケツピン棒を素振りしていた・・・そして、両手でケツピン棒の両端をもって、万歳の格好をすると、前屈運動まで、始めていた・・・
ブゥ〜〜ン!
ブゥ〜〜ン!
ブゥ〜〜ン!
あの、耳に残るいやな音が、再び、会議室に流れていた。
「よし、こっちへきて、ケツを出せ!」
「はい!お世話になります!」
これが、ケツピン棒を食らうときの、明和学園での挨拶だった。
ケツピン棒常連の目蒲には、津島はなにも指示しなかった。会議室の机の端に上半身を横たえ、津島の方にケツを向けた。いやな間が流れた・・・
「もうちょっと、上にあがって、ケツが上を向くようにしろ!ブリーフは、所定の位置にあるか?」
といいながら、津島は、目蒲の白のスクール・ブリーフの腰ゴムに手をやると、グィっと上へ引っ張った。目蒲の両ケツが半分、スクール・ブリーフからはみ出した・・・
目蒲のプリっとしたケツは、後ろ斜め前方に、ヌッと突き出された。
「よし、痛てぇ〜ぞ!歯をくいしばっとれ!」
・・・・・・・・
そのころ、屋上では・・・
「おい、いよいよ目蒲の番だぞ。」
「何発か、数えろよ!あいつ、ときどきごまかすからな!四発なのに、六発とか言って・・・」
「はやく、双眼鏡回せよ・・・」
「オ!見える、見える!目蒲のケツだ!みっともねぇ〜〜〜、白ブリーフ丸出し!」
クスクス笑いが、周りから、起こった。
・・・・・・・・・・
再び会議室、あの音が聞こえた・・・
ヒュウ〜・ビシッ!
黒いムチが、白い目蒲のブリーフの上に、振り下ろされた。
「イタッ!」
思わず叫んでしまうほど、ケツピン棒は痛かった。ビニールテープ半巻で、こんなに威力が違うのか・・・目蒲は、代返など頼んだことを後悔していた・・・
それに、この熱さは、なんだ。まるで、火の中から今さっき取り出してきて、自分のケツに振り下ろされたかのような錯覚に、目蒲は、陥った・・・
「目蒲、数はどうした・・・感謝の気持ちは・・・一からやり直しされたいのか?」
「いえ、い、いちっ!お世話になりました!」
目蒲は、大声で叫んでいた。会議室のクーラーは消され、窓は、すべて開け放たれていた。そのムチの音と目蒲の大声は、会議室に一番近いところで練習をしている野球部の後輩たちにも、聞こえていた。
・・・・・・・・・・・・
グランドで、野球部の練習が行われていた。
カキィ〜〜ン!
「ほら、どしたぁ〜。」
「もう一本、イクぜぇ〜!」
「オオ〜〜!」
「ファイトォ〜〜!!」
そんな、グランドの響きに打ち消されながらも、野球部員の耳には、その音と目蒲の叫びが聞こえていた・・・
・・・・・・・
ヒュウ〜・ビシッ!
「二!お世話になりました!」
ヒュウ〜・ビシッ!
「三!お世話になりました!」
ヒュウ〜・ビシッ!
「・・・・・四!お世話になりました!」
・・・・・・・
だれでも、ケツピン棒のお世話になどなりたくない・・・
あるものは、合宿で目蒲からシゴカれた仕返しでもできたかのように薄ら笑いを浮かべ、また、あるものは、自分が受けた仕置きのことを思い出し、会議室から聞こえるその音を、耳から振り払うかのように、声を出し、野球部の練習に集中しようとしていた・・・
・・・・・・・
再び、会議室、すでに、「最初」の四発が終わっていた。
「歯を食い縛れ!目蒲!次は、山口の分、四発だ!」
「はい!お世話になります!」
男の約束だった。男に二言はない!とまで、大見得を切った目蒲である。文句一つ言わずに、歯を食いしばり、目を瞑り、ケツピン棒のありがたい指導を待っていた。
ヒュウ〜・ビシッ!
「一!お世話になりました!」
・・・・・・・・・・・・・・・
再び、あの音と、目蒲の大声がグランドに漏れていた。
「え!」
グランドの一番後ろで、外野を守っていた、高校二年生の野球部員は、
「目蒲先輩、いったい、何発食らうんだ・・・」
そう思っていた。
・・・・・・・・・
屋上では、
「おい、いま何発目だ。」
「四発で終わりじゃないのか?」
「ああ、そうらしい。きっと、代返した山口の分だろ?」
「山口って、あの6Aのガリ勉?」
「ああ。」
「チェッ!優等生は、御構い無しかよ・・・やっぱ、頭のいいヤツには、甘いんだよな、うちの学校の教師・・・」
「おい、目蒲のケツ、もう真っ赤だぞ!ここからでも、はっきりわかるぜ。」
「ところで、何発目?」
「そんなの、知るかよ。とにかく、スゲェ〜〜よ。普通じゃないぜ・・・」
・・・・・・・・・
再び、会議室、神経質な津島は、毎回、ブリーフの位置にこだわってくる、その間がいやであった。
「ブリーフは所定の位置にあるか??」
そして、ブリーフの腰ゴムを掴んでは、それをグイっと、上に持ち上げるのだ・・・これで、六回目、ブリーフが目蒲のケツの谷間に食い込んできた。
ヒュウ〜・ビシッ!
黒いケツピン棒は、再び、目蒲のケツを強襲した。目蒲の目からは、涙が溢れてきた・・・そして、津島の額からは、汗が吹き出ていた。
目蒲は、大声を振り絞るように、叫んだ。
「にッ!お世話になりましたぁっ!」
・・・・・・・・・・・・
その音と、目蒲の叫びは、親が来るのを面談室で待っている水野と岡部にもはっきりと、聞こえていた。
岡部は、
「あいつ、四発じゃないのか・・・山口の分も引き受けたんだよな・・・」
と、独り言を言っていた。
「あ〜、あの音、聞きたくねぇ〜。はやく終わってくれ・・・」
一方、水野は、そういうと、両手で耳を塞いだ・・・
・・・・・・・・
再び、会議室、
ヒュウ〜・ビシッ!
「三!お世話になりました!」
ヒュウ〜・ビシッ!
「四!お世話になりました!」
「よし、これで、山口の分は終わりだ!次の四発は、校則違反の日焼けオイルの分だ!いいな!」
「はい!お世話になりますッ!」
怒鳴るようにそういうと、目蒲は、再び、くちを結び、歯をくしばり、目を閉じた。
ヒュウ〜・ビシッ!
まるで、ケツピン棒自体が熱せられているかのように、ケツに熱い痛みがひろがった。
しかし、そろそろケツの感覚が麻痺してきたのだろうか、これならどうにか最後まで、屋上で「ウォッチング」している奴らに根性を示せると、目蒲は、内心思っていた。
ケツに、重い何かが、張り付いたようだった。汗は、もうびっしょりであった。
「一!お世話になりました!」
ヒュウ〜・ビシッ!
「二!お世話になりました!」
・・・・・・・・・・・・・
その音と、目蒲の大声は、職員室にも響いていた。
「十二発ですか・・・厳しいですな・・・最近では、珍しいんじゃないですか、あんなに叩かれるの・・・」
「よっぽど、やんちゃ坊主なんですなぁ。目蒲という生徒は。」
「ええ、私は、中二の時の担任でしたが、もう、元気がよすぎて、それに頭もいいですよね。それに、なぜか、人気もあるんです。」
「あいつには、いい薬でしょう。これで、しばらくは、おとなしいでしょう・・・」
その言葉に、教師の一部から、笑いが起こった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
再び、会議室、
「ブリーフは、所定の位置にあるか?」
ブリーフの位置に神経質な津島は、再び、目蒲のブリーフの位置を気にし始めて、ブリーフの腰ゴムを持って、グィっと上へ持ち上げた。目蒲のケツは、もう、真っ赤に腫れあがっていた。
ヒュウ〜・ビシッ!
「三!お世話になりました!」
ヒュウ〜・ビシッ!
「四!お世話になりました!」
合計十二発、目蒲のケツピン棒のお仕置きは終わった。
目蒲は、焼けるようなケツに触れることもできず、
「お世話になりました!」
と、挨拶した。
津島は、
「よし!しばらくは、ケツがつらいだろうが、よく反省するんだな。代返なんて、卑怯なこと、おまえらしくないぞ!今度やったら、十や十二じゃ、済まんからな!よく覚えとけ!」
と、目蒲に言った。
目蒲は、
「はい・・・・」
とだけ、元気なく返事をすると、顔をしかめながら、ゆっくりとした歩調で会議室を出た。
白のスクールブリーフが歩くたびに、目蒲のケツを刺激して、痛かった。目蒲は、周りに誰もいないことを確かめると、指で腰ゴムを拡げ、ブリーフがケツに当たらないようにして、ソロソロと、まるで、アヒルのような格好で、着替えるために6 Aのクラスへと戻っていった。
岡部、水野、目蒲と、その三人の両親は、日が暮れるまで、面談室で、教頭先生と、担任の内藤教諭に、たっぷりと説教された。期末試験前ということで、停学・謹慎処分は免除された。
説教が終わり、やっと席を立ち、帰宅が許されたき、目蒲たちのケツは、何かが張り付いたような感覚だった。
担任と教頭に別れの挨拶をして、正面玄関から出て、正門のところへ来たとき、目蒲の父親が、いきなり目蒲の両頬に往復ビンタを食らわせた。
バシッ〜〜〜!
バシッ〜〜〜!
倒れこんだ目蒲に、工務店を営む目蒲の父親のカミナリが落ちた!目蒲の両頬は、ケツの両頬同様、赤紫に腫れあがっていた・・・
「バカ野郎!三年にもなって、みなさんにご迷惑かけて、てめぇ〜!それでも恥ずかしくないのか!」
母親は、困ったような顔をして、周りを気にしながら、
「おとうさん、こんなところで、殴らなくても・・・・久夫も先生に叱られて、充分反省してますから・・・」
その横を、練習を終えた、目蒲の野球部の後輩たちが、目蒲の前で制帽をとり、
「お先、失礼します!」
「お疲れ様でした!」
と、律儀にも、挨拶をして、東中野への道を急いでいた。
「いいよ、こんな時にあいさつなんてしなくて、早く帰れよ・・・」
目蒲は先輩の面目丸つぶれ・・・真っ赤な頬をして、涙を堪えるので、精一杯であった。
「さあ、帰るぞ!トットと、車に乗れ!」
そんな目蒲の親父の言葉に逆に助けられたように、目蒲は急いで隠れるように、父親の運転する白塗りのベンツの後部座先に、乗ったのであった。
翌日、黒塗りの高級車が、明和学園の正門前に止まっていた。車の中では、交通省の局長で、山口君の父親が、息子を高校へ行くように厳しく諭していた。
「さあ、勉。いつまでもわがままいってないで、車を降りて、学校へ行きなさい!学校をサボってかあさんが悲しんでも、とうさんは、もう、知らんぞ。」
いつまでも、渋っていた山口君だったが、一時間目の始業ベルが鳴る、例によって、五秒前に、諦めがついたのか、
「わかりました。お父さん。」
と言って、しぶしぶ車をおり、6Aの教室へ走っていった。高校三年生にしては、まるで、小学生のようだった。
ほどなく、「遅刻者取締り」のため、正門に、生活指導係の教師たちが、現れ始めた。
「ほら、お前ら、遅いぞ!何時だと思ってるんだ!」
そんな教師たちの怒鳴り声を聞きながら、息子の姿が、校舎のなかに消えるのを見届けると、山口君の父親は、
「運転手さん、寄り道させて申し訳ありませんでした。本省へ向ってください。」
と、運転手に言った。
山口君の父親は、まだ東中野駅から学校へダッシュで走る生徒たちを見送りながら、霞ヶ関へと向った。
一方、6Aの教室では、少し遅れて山口君が入ってくると、教室が一瞬静まり返り、クラスの全員が、山口君のことをジロジロと眺めていた。
しかし、真っ赤な顔で山口君が席につくと、再び、もとの騒がしい教室にもどった。一時間目の数学の教師は、まだ教室には来ていなかった。
山口君は、机のなかにノートと教科書をいれようとして、
「あれ?」
と思った。机の中には、誰がいれたのか、東中野駅前・大福堂の茶色い袋だった。
山口君が袋の中を覗くと、中には、山口君の大好物・大福堂のメロンパンが入っていた。
しかも、そのメロンパンは、早朝にしか手に入らないといわれ、明和学園の生徒からは、「幻」といわれている、朝一番・焼きたてのまだ温かいメロンパンであった。
そして、その袋の裏には、
「きのうは、すまなかった、あったかいうちに早く食えよ。目蒲」
と、鉛筆で書かれていた。
思わず後ろを振り向く山口君、しかし、目蒲は、教室の後ろで、きのうの会議室での出来事を仲間に自慢げに話していた。
「きのうのケツピン、痛かったんだぜ!12発だよ、12発。まだ、跡がくっきり・・・」
「また、また、目蒲ったら、口だけなんじゃない?」
「そうそう、絶対、信じらんねぇ〜よ!お前が、津島のケツピンを泣かずに12発も食えたなんて。」
「そうだよ、俺たち屋上で回数、数えていたけど、そんな多くなかったぜ。」
「違うよ!本当だよ。しっかり、数えたのかよ!なぁ!そうだよな!」
目蒲は、岡部と水野の方を、振り向いた。
「さあなぁ。俺たち、先に面談室に行けって、津島から命令されて、音、聞いたわけじゃなし・・・」
一緒に罰を受けて、知っているはずの岡部と水野は、とぼけて、ただ、ニヤニヤ笑っているだけだった。
「じゃ、目蒲!ケツみせてみろよ!」
「そうだよ!そうすれば、お前の根性、認めてやる。」
「ああ、いいよ、見たいなら見ろよ!」
そういうと、目蒲は、席からたって、後ろを向くと、制服のトラウザーと白のスクール・ブリーフを下ろした。
「うっわぁ〜!すげぇ〜、まだ、黒紫の跡がクッキリ・・・」
教室の全員の目が、目蒲のムチ跡鮮やかなケツに注がれていた。
「そうだろ!俺が、言ったとおりだろ!我慢したんだぜ!」
自慢げに教室の仲間にケツを晒す目蒲は、急に教室が静まりかえったことに優越感を感じていた。
「みんな、オレのケツみて、感動してるよ・・・やっぱそうだよなぁ〜!感動もんだよなぁ〜!津島のケツピン12発だぜ。」
しかし、静まり返った理由は、クラスの仲間が目蒲のケツに感動したわけでは、なかった。
「コラァ!そこで、汚いケツ晒してんのは、どこのどいつだ!これでケツ殴られたいのか!」
その怒鳴り声とクラスの大爆笑に、目蒲がビックリして後ろを振り向くと、数学の高山教諭が、大きなT定規をもって、黒板の前に立っていた。
目蒲は、あわてて、前を隠しながら、前に向き直ると、
「はい、いえ、遠慮しときます・・・」
といって、あの定規でさらに殴られたらたまらんと、あわてて、スクール・ブリーフと制服のトラウザーをはき、席につこうと した。その慌てぶりに再び教室から、大爆笑が起こった。
しかし、高山教諭は、
「お〜!目蒲君じゃないか!昨日の噂は、聞いたぞ。」
「誰が、ブリーフとズボンはいていいと言った。そのままで、前に来い!みんなに見せたいんだろ、ケツを。遠慮しなくていいんだぞ。」
「いえ、いいです。遠慮しときます。」
「ダメだ!前に来いっていったら、さっさと出て来い!グズグズしてると、物理の単位やらんぞ!」
「は、はい・・・このままでですか・・・」
真っ赤な顔で、前に出てくる目蒲だった。白いスクール・ブリーフをやっとはいたところで、制服のトラウザーは、席に置いたままだった。
「よし、ほら、黒板に顔を向けて、そこの教卓の上に、屈め!」
「はい・・・」
しぶしぶ、教卓に上半身を屈め、クラスの全員に白のスクール・ブリーフ一丁のケツを向ける目蒲だった。大爆笑の教室。
「ほら、静かにせんか!うるさいとお前らには『見せん』ぞ!」
静かになる教室。制服のワイシャツの裾を、持っていたT定規でめくり上げ、目蒲の背中に折りのせる高山教諭だった。目蒲の白のスクール・ブリーフに包まれたプリっとしたケツが、丸出しになった。
「よし、じゃあ、目蒲君のおケツを披露だ!」
そういうと、高山教諭は、目蒲の白のスクール・ブリーフの腰ゴムをガバと握り、目蒲の膝まで、一気に、ブリーフを引き摺り下ろした。
ここは男子校、クラスは全員男だ。だれが、野郎の汚いケツなど見たいだろうか?
しかし、「うわぁ!汚ねぇ!」の反応はなく、教室は、シィ〜〜ンと静まり返っていた。
クラスの連中全員は、目蒲のケツの全面に残った黒紫のアザと何本かの線を再び見せ付けられ、
「うわぁ!スゲェ〜!」
と、こころの中で、思っていた。
「これが、津島の高三用ケツピン棒、12発の威力か・・・オレは、遠慮しときたいよ・・・今度は、漢文、マジメに出席しないと・・・」
と、昨日サボって、上首尾に見つからずにすんだサボり組みの連中は全員そう思っていた。
また、山口君は、自分の身代わりで、ケツピン棒を二倍引き受けてくれた目蒲に、申し訳ない気持ちでいっぱいだった・・・
バシィ〜〜〜!
高山のT定規が一発、いきなり目蒲のアザだらけのケツを強襲した。
「痛てぇ〜〜〜!勘弁してくださいよ・・・先生・・・」
飛び上がって、ケツを押さえて、教壇の上で、ジャンプする目蒲。白のスクール・ブリーフが膝まで降りていることをすかっり忘れていた。
「お前、前まで披露する気かぁ〜〜?!自信のあるヤツはいいなぁ〜!さあ、さっさと自分の机に戻れ。」
大爆笑の教室。目蒲は、教室最後列の自分の席に戻ると、ケツを刺激しないように、腰ゴム思いっきり指でひろげ、そぉ〜〜〜っと、白のスクール・ブリーフをはいた。
そして、制服のトラウザーをはくと、机に両手を付き、付いた両手にグッと力を入れて、これまた、ケツを刺激しないよう、そぉ〜〜〜っと、椅子に座ったのであった。
目蒲が座ったのを確認すると、高山は、ザワつく教室を静めるように、
「ほら!静かにせんか!今日は、教科書78ページの練習問題1番からだ!!もちろん、おまえら全員、予習してきるよな!!85ページの演習問題までが、期末試験の範囲だからな!しっかり、気合入れていけよ!」
「エ〜〜〜〜ッ!そんなの聞いてませんよ!」
高山教諭の言葉に、一斉に不平のブーイングが教室に起こった。6Aの教室は、男子校のいつもの騒がしい教室に戻っていた。
その日の五時間目は、津島の体育であった。しかし、なぜか、ジャージにだけ着替えて、教室に待機するように、昼休みに連絡があった・・・
進学校では、試験前の体育の時間が、時々だが、自習の時間になるのであった。
特に、保健体育の試験もある期末試験前は、体育教師の事務処理が間に合わずに、そうなるのであったが・・・
津島は、教室に入ってくると、何も言わずに、出席を取り始めた。
「秋吉!」
「はい!」
「飯田!」
「はい!」
すると、いきなり、津島は、
「はい、飯田、ケツピン四発!パンツ一丁で、廊下に待機!」
と言った。
「え〜、どうしてですか?」
口をとがらせて、津島に、質問する飯田だった。
「とぼけるな!昨日の6時間目の漢文のことを、自分の胸に手をあてて、よく思い出してみろ!」
「飯田君!ピンチ!」
目蒲が、すかさず、野次った。
「うるさい、目蒲!お前は、黙ってろ!また、お世話になりてぇ〜か?」
教室、大爆笑!
「飯田、グズグズしてねぇ〜で、男らしく、罪を認めるんだな!さっさと、廊下へ出ろ!」
「はい・・・」
ふくれっつらの飯田は、真っ赤な顔をして、体育のジャージを脱ぐと、白のスクール・ブリーフ一丁になり、廊下に出た。
飯田の他にも、代返を頼んで前日の漢文をサボった連中が、津島からケツピンの宣告を受け、つぎつぎと、白のスクール・ブリーフ一丁で、廊下に出て、待機させられた。
そして、出席も後半にさしかかった頃、
「松岡!」
「は、はい!」
「はい、松岡君、ケツピン四発!パンツ一丁で、廊下に待機!」
「あのォ・・・ブリーフ忘れました・・・」
「バカ野郎!高三になるとこういうヤツがいるから、やりにくんだよな・・・トランクスはいてきたのか!」
「はい・・・すみません・・・」
「校則違反だろ、指定以外のパンツをはくのは!お前、フリチンで、行進するか?」
「いえ・・・いやです・・・それだけは・・・なんとか・・・」
真っ赤な顔で、津島に懇願する松岡だった。さすがに、泣きそうな松岡がかわいそうになったのか、津島も
「仕方ねぇ〜な・・・じゃあ、この予備のヤツをはけ!お漏らししたヤツ用の予備のSサイズ・スクール・ブリーフだ・・・ホラ!」
そういうと、ジャージのポケットから予備のSサイズ・スクール・ブリーフを取り出し、松岡に投げた。
教室内、爆笑!
「一応、俺は、今年、中一の正担任なんでな・・・中一は、カワイイぞ。素直で、お前らみたいに反抗的じゃないからな・・・」
「中一がカワイそぉ〜〜」
「先生のクラス、全員、登校拒否するんじゃねぇ〜」
大爆笑!
「うるさい!黙れ!」
「それから、松岡は、校則違反で、一発追加だ!」
「先生!たった一発は、甘いんじゃなイッスか?俺、高一の時、トランクスはいてきて見つかって、ケツピン三発だったんですよ!」
再び、目蒲だ。口から生まれてきたサルのように目蒲は、口達者だった。
「うるさいよ、いちいち、目蒲は!お前は、特別なんだよ!」
再び、教室内、大爆笑!
「よし、出席の続きをとるぞ」
・・・・・・・
そして、全員の出席がとり終わり、予想外の時間のケツピン宣告を受けると、
「よし、これで、昨日、代返なんて卑怯な手を使ったヤツは、全員、廊下だな!いいか、代返して上手く逃げられたと思ったら、大間違えだからな!今度から、友達に代返頼む時は、ケツピン覚悟で頼めよ!」
「はぁ〜い!」
「よし、他のヤツは、教室で、静かに自習だ。来週の一時間目の、保健体育の試験、難しいからな!しっかり復習でもしとけ!」
目蒲たち三人を除く、6Aの漢文・サボり組み12名が、廊下に勢ぞろいした。
ただのサボりではない、「代返」という卑怯な手をつかって、楽をしようとしたヤツらだった。
そして、目蒲たちが捕まってくれたお陰で、うまく逃げられたと、ほくそえんでいた奴らだった。
昨日出席をとり直した町田教諭から、残りの奴らにも、たっぷりとお灸を すえるように依頼された津島が、放課後ではないが、自分の時間を利用して、残りの奴らに、正義のケツピン棒を食らわせることにしたのであった。
津島は、廊下に出ると、廊下に並んだ、12名の代返サボり組みに、
(注:代返を頼まずに、サボったヤツには、今回はお咎めはありませんでした。)
「お前ら、図体だけは、デけぇ〜が、格好は、小学生そのものだなぁ・・・スクール・パンツがお似合いだぞ!」
津島の嫌味が始まった。その12名のサボり組みの連中は、顔を真っ赤にさせて、モジモジしながら、その皮肉に耐えていた。
「高三用のケツピン棒は痛てぇ〜ぞ!ビビって、お漏らしすんなよ・・・」
再び、津島の、高三男子のプライド直撃の一言。
「お漏らし」の部分は、他の教室も聞こえるように、ひときわ、大きな声だった。
そして、津島が、首からかけていたフォイッスルを一吹きした。津島の声が、急に、厳しくなった。
「気をつけぇ〜〜〜!両手は、きちっと脇に付け、指先は、ピンと伸ばす!背筋は、ピシッと伸ばして立つ!」
体育祭の行進練習の前の、いつもの津島の怒鳴り声だった。
「よし、休め!気をつけぇ〜〜〜!では、右向け!右!行進ィ〜〜ン、はじめ!」
「1,2!」
「3,4!」
「1,2!」
「3,4!」
津島のフォイッスルと6Aの代返サボり組み12名の掛け声が静かな廊下に響き渡った・・・いよいよ、お仕置き部屋行きの行進が、始まったのであった。
夏の暑い校舎、廊下側の窓と、扉が開け放たれた教室の脇を、6Aの代返サボり組み12名が行進していった。
行進が近づくと、もちろん授業は中断。これから、「お仕置き場」に送られる、罪人たちを見送る同級生・後輩の、同情や嘲りの視線を一斉に受ける、12名であった。
・・・・・・・・・
夏休みも、すぐそこの、蒸し暑い季節であった。クーラーもない校舎では、すべての教室の校庭側、廊下側のすべての窓、そして、教室のドアが開け放たれていた。
授業中、または、自習中で、静まり返った高校校舎、しばらくすると、高校校舎1階の会議室からは、あの音と、6Aの悪ガキたちの感謝の叫びが 、高校校舎中に響き渡っていた。
ヒュウ〜・ビシッ!
「一!お世話になりました!」
もちろん、四階の6Aの教室にも、かすかではあるがその音が届いていた・・・
普段は自習時間など、雑談で騒がしくなる6Aのクラスだったが、期末試験前だからだろうか、それとも、あの音と叫び声のためだろうか、目蒲も含めて全員が、静かだった・・・
「あ、飯田の声だ・・・・」
6Aの全員がそう思っていた・・・
ヒュウ〜・ビシッ!
「二!お世話になりました!」
ヒュウ〜・ビシッ!
「三!お世話になりました!」
ヒュウ〜・ビシッ!
「四!お世話になりました!」
しばらくたつと再び、
ヒュウ〜・ビシッ!
「一!お世話になりました!」
これらが、合計48回、繰り返されることになっていた。
・・・・・
まだ、ムチの音と感謝の叫びは、聞こえていたが、しばらくすると、最初にケツピン棒のお世話になった飯田がスクール・ブリーフ一丁で教室に戻ってきた・・・
「もう、最悪・・・」
飯田は、真っ赤な顔で、右手でケツを押さえながら、そして、足を引き摺りながら、教室に入ってきた。飯田の席は、前の方だったので、ケツをさすりながら、教壇の上をそろそろ歩きながら、自分の席に座ろうとしていた。
教壇の上を歩いている飯田に、目蒲は、
「飯田!ケツ見せて!」
と、大声でいった。笑いは起こらなかったが、教室の全員が、顔を上げた。飯田は、さらに恥ずかしそうに、手だけで、ダメダメ!と、合図した。
目蒲は、
「あいつ、マジで、泣きそうだ・・・」
と思い、目蒲もそれ以上突っ込まなかった・・・
「罪」を償った6Aの悪がきたちが、次々と、スクール・ブリーフ一丁で、教室に戻ってきた。
目蒲は、後ろのドアから入れないようにして、教室前方から入ってくる全員に、
「ケツ見せて!」
と、言った。
あるものは、無視し、あるものは、大胆も、教壇にベンド・オーバーして、クラス全員に、誇らしげに、ムチ跡鮮やかなケツを、披露した。
Sサイズブリーフを借りた松岡は、哀れだった。
上半ケツが丸見えで、ブリーフを下ろすまでもなく、ムチ跡の様子が見てとれた。
他の者より、一発多い、五発だったが、その五発すべてが、松岡のケツの、ブリーフからはみ出したところに、振り下ろされたらしかった。
津島の松岡に対する「ケツピン棒・五発」とは、むき出しの尻に対する、五発だったのだ。
松岡のケツ上部のSサイズ・ブリーフからはみ出した部分には、二本の真っ赤な線が残っていた・・・
そして、松岡の顔の両頬には、涙の筋が二本クッキリと残っていた。しかし、それをからかう者は、6Aにひとりもいなかった・・・
職員室で、6Aの「残党」たちの体罰の音を聞いていた漢文の町田教諭は、満足そうな顔をして、うなずいていた。
「もう、津島先生にすべてをまかせても大丈夫そうだな。これで、わしも、そろそろ引退できる・・・」
と、独り言を言っていた。
目蒲も、山口君も、そして6Aの全員が、少しだけ成長した、高校三年の夏であった。もちろん、6Aの二学期の漢文の授業の出席率は、100%であった。
高三で、一応「甲子園出場」をかけた地区予選に、すでに一回戦で敗退している目蒲にとって、夏休みは、練習も合宿もない、受験勉強一本の夏休みであった。
来週からの代々木駅前予備校での夏期講習を前に、目蒲にしては珍しく、シコシコと、自分の部屋で勉強に励んでいた。
嫌いなわけではなかったが、頑固で厳しい親父の家を早く出たいのと、小さい頃から海に憧れていたことから、全寮制の「S大」が第一志望と決まっていた。
目蒲の実家は、中央線で、中野からさらに西へ下った三鷹というところにあった。当時としては、珍しい、三階建ての家で、一階が、父親の経営する工務店、二階と三階が、住居になっていた。
下から、目蒲が津島教諭の次に苦手な親父の大声が響いてきた。
「久夫!かあさんと、ちょっとでかけてくるから、しっかり、留守番頼んだぞ!」
「ああ!」
と返事をする目蒲であった。
「あ〜あ、眠いなぁ〜。こんな天気がいいのに、勉強なんて、受験生はつらいなぁ〜!」
と、何気なく、机の横の窓から、下の通りを眺めると、あのマッシュルームカットの山口君が、目蒲の家の前を行ったり来たりしていた。
「うわ!あのキノコ頭、いったい、俺んちの前で、なにしてるんだぁ??」
最初は、声もかけずに、ジッと観察する目蒲だったが、もうすでに三十分以上、山口君が、自分の家の前をウロウロしているので、目蒲は、工務店がある表からではなく、裏の家の玄関からそっと表に回って、山口君を待ち伏せた。
山口君のうしろからそっと近づき、
「山口君、みっけ!」
といって、山口君を羽交い絞めにする目蒲だった。
「ワァッ!」
と驚く山口君に、目蒲は、
「もう、逃げられないぞ。俺んちの前で、三十分近く、なにウロウロしてんだよ。」
「いや、あの、その・・・・ちょっと、近くまで、用があったから・・・」
「うそつけ!お前、夏期講習、御茶ノ水台予備校の帝都大・現役特進コースだろ!講習会どうしたんだよ!」
「いや、あの、今日は、午前中だけだから・・・」
「本当か?先生に、教えてください、山口君!」
目蒲の津島教諭の口真似に、思わず笑う、山口君であった。
「あ、そっくり!目蒲君」
「だろ!入れよ!」
「え!」
「俺んち!いいから、入れよ!暑い中、のど乾いただろ!」
「いいの?」
「もちろん、遠慮スンナよ、兄貴たちもいないし、親もいま出かけていて、俺、ひとりなんだ!それに、お前に質問したいことあってさ、数Vの無限級数のところが、どうもピンとこなくてな・・・教えてくれよ!」
「それなら、じゃあ・・・おじゃまします・・・」
・・・・・・・・・・・
落ち着きがなさそうに、目蒲の部屋の中を眺めながら、目蒲のベットの端に、足を閉じて、ちょこんと座るマッシュルームカットの山口君だった。
あまり片付いてなく、男臭い部屋だったが、寒いくらいクーラーのよく効いた六畳の部屋だった。
二階の台所にある冷蔵庫のなかから、コーラの缶を二本と、チーズ味のカールを持ってきた目蒲だった。ジャージの上下を着ていた。
「こんなのしかないけど、遠慮せずに、飲めよ!」
「ありがとう・・・じゃ、遠慮なく・・・」
二人とも、コーラの缶を開けた。
「俺、夏はいつもクーラーガンガン効かせて、そのなかで、長袖のジャージで過ごすんだ・・・」
「そう・・・」
「で、話は、なんなんだ。俺に、用だったんだろ?」
「うん、まあ。数学の質問って、なに?」
「バァ〜カ、あれはウソ!俺、こう見えても、数学は、得意なんだぜ!数Vの数列のとこは、もう勉強終わったよ。そうでもいわなきゃ、お前、俺んちなんか、上がんねぇ〜だろうと思ってさ・・・で、話は、なんなんだ?先生に、教えてください、山口君!」
「もう、僕のこと笑わせないでよ・・・あの、実は・・・」
「実は、なんだよ?」
「ごめん、ごめんなさい・・・」
「なに、謝ってんだ?」
「津島先生に、目蒲君が、高校校舎の屋上にいることしゃべっちゃったの、僕だったんだ・・・」
「なんだ、そのことか!それなら、もう、知ってたよ。そんなこと、気にしてないから、もう忘れろよ!」
「それに・・・メロンパン、すごく美味しかった・・・ありがとう。それから・・・」
「それから、なんだよ・・・」
「目蒲君、僕の分まで、お尻たたかれたんでしょ、津島先生に・・・そう言ってた、岡部君が・・・」
「あいつ、おしゃべり・・・言うなって、念押しといたのに・・・」
そこまではなして、自分でも口がすべったことに「あ、しまった!」と、後悔する目蒲だった。
「とにかく、そんなこと、もう、どうでもいいんだから、気にすんなよ!忘れようぜ!な!」
「あの・・・僕のお尻・・・津島先生から叩かれた分・・・」
「お前のケツがどうしたって?はっきり言えよ!」
「あの・・・僕のお尻・・・」
「なんだよ?はっきり言えよ!男だろ!」
「あの・・・僕のお尻たたいてよ!」
「え!???」
「あの・・・僕のお尻たたいて!津島先生から叩かれた分、でないと、僕、目蒲君に悪くて、悪くて・・・」
「え!???お前、何言ってんの?」
「だから、僕のお尻、津島先生から叩かれた分だけ、目蒲君が叩いて!でないと、そのことが気になって、勉強が手につかないんだ!あの日から、毎晩、そのことばかり、考えちゃって・・・」
いきなり、バカ笑いする目蒲。
「笑わせないでくれよ・・・ふざけんなよ・・・そんなのやだよ・・・」
「お願いします!叩いて!でないと、僕、帰らないから・・・」
「お前なぁ・・・お前、案外、ワガママ!だろ・・・」
「ね!頼むから。頼みます。それに、僕、昨日で、18歳になったんだ。もう大人だよ。だから、心配しないで、親とかにバレても、平気だから・・・」
「あのなぁ〜、それと、お前が、18歳になったこととは、あまり関係ないような気がするけど・・・」
「ね!ね!いいでしょう?」
もう、これは、一発でもいいから、山口君の希望通りに叩いてやらないと、山口君は、絶対に、引かないと思った。
とんでもないヤツを、部屋に入れてしまったと、目蒲は、少し、後悔していた。
「ん〜〜〜!わかったよ。わかりました。じゃ、叩いてやるから。実は俺、ケツピン棒、持ってるんだぜ!」
「え!なんで、津島先生からもらったの?記念とかに?」
「バァ〜〜カ!違うの!自分で練習するため。」
「練習??」
「そうか、お前は、わかんないんだ。あのな、俺が、中学の時、早弁してんの捕まって、次の日に、初めて津島からケツピン食らうことになっちゃった時、どのくらい痛いか試すために、竹刀を壊して、自分で作ったの!」
「え、それって、もしかして、怖かったから??」
結構、人がグサっと傷つくこと、平気な顔して言ってくれるよなコイツと、目蒲は思った。
「違うよ!高二の先輩から、津島のケツピンは死ぬほど痛いって、脅かされてて、ちょっと、心配だっただけだよ!」
「へぇ〜!そう!じゃ、その棒で僕のこと叩いてよ!」
「わかったよ!いま出すから、そこどいて!」
目蒲は、自分のベットのマットをどかすと、そこに、何冊かのエロ本に混じって、赤のビニール・テープに巻かれた、竹刀の割り竹の切れ端が、出てきた。津島のケツピン棒と、ほぼ同じものだった。
「よし、あった。これが俺がつくったケツピン棒なんだ。」
「へぇ〜〜!目蒲君って、いっぱい雑誌もってんだね!」
「あ、これ、全部、兄貴たちからもらったヤツ。お前も読む?」
「え!こんなエッチなヤツ???」
「お前だって、エロ本の一冊や二冊必要だろ!あの時さ!」
「え???あの時って???」
「え????お前・・・冗談だろ?」
「なに?冗談じゃないけど・・・」
「まあ、いいや。その話は、もっと時間がある時にしよう。とにかく、これがケツピン棒だ。こんな硬い棒で、ブリーフ一丁のケツ、たたかれるんだぜ!どうだ、怖くなっただろう!」
「早く、叩いてよ!目蒲君の親が帰ってきたら、できないでしょ?音がでるから・・・」
「わかったよ。わかった。じゃ、俺の机の上に、屈んで、ケツを出して!」
とにかく早く、一発でもいいから叩いて、山口君を納得させたかった。
「違う!いま、ブリーフ一枚のお尻って、言ったでしょ。僕もズボン脱がないと・・・」
「わかったよ。早く、脱げよ・・・」
山口君は、ズボンを脱いだ・・・白のスクール・ブリーフだった。それに、前の部分に、明らかにあの跡だとわかる染みが・・・
「信じらんねぇ!山口って、ふだんもスクールブリーフなんだ。しかも、あの染み・・・ほんとにやったことないんだ・・・アレ・・・山口、兄貴いるよなぁ・・・教えてもらわなかったのかなぁ・・・まあ、いいや」
と、考えながら、目蒲は、山口君が、再び、机に屈むのを待った。
「いいか、じゃ、叩くぞ!」
「ちょっと、待って!違うよ!」
「なんだよ!あと、何が違うんだ?」
「その棒の色!岡部君、黒い棒だって、言ってた。」
「いいじゃん。色なんて!同じ竹の棒なんだからさ!」
「やだ!黒が、高校三年生用だって、言ってた。岡部君。僕も、黒い棒で叩かれたい!」
「わかったよ。でも、黒のビニールテープなんて、ないぞ、俺んちに・・・」
「心配しないで、持ってきたから!」
ヒェ〜〜〜、負けるよ・・・なんだ、コイツは・・・と、目蒲は、思った。
仕方がない、ここまで来たんだから、とことん、コイツにつきあうかと、目蒲も、決心がついたようだった。
「わかったよ。早く出せよ!持ってきたんだろ!」
「うん!はい、これ。目蒲君が準備している間、正座して待つんだよね!ね!そうでしょ!」
「そうだよ!じゃあ、そこに、正座しろ!」
「は〜〜〜〜い!」
なんでこいつ、こんなにうれしそうなんだ?と、目蒲は、思っていた。目蒲は、とりあえず、赤いテープを隠すように、黒いテープを巻いて、なんとか、ごまかすことにした。
「はい、できたぞ。机に屈んで、ケツ出しな!俺が津島から食らった、ケツピン四発、お前にお返しだ!」
山口君は、真剣な顔になり、
「はい!目蒲君の居場所、しゃべっちゃって、ごめんなさい・・・」
と、言った。目蒲も、
「そうだよ。お前のせいで、ケツピン四発、余計に食らったんだからな!仲間を裏切ったんだぞ!本当だったら、俺たちから、ボコボコにされたって文句は言えないだからなぁ!わかってんのか?」
「うん!わかってる。」
目蒲が「仲間」って、言ってくれたことに、山口君は、内心、飛び上がるくらいうれしかった。
「じゃ!俺たちの居場所を津島にしゃべった制裁だ!その机の上に屈んで、男らしくケツを出せ!」
「はい!」
と言って、山口君は、目蒲の勉強机の上に屈んで、ケツを突き出した。
「もっと、足を開いてケツを突き出せ!」
そういって、目蒲は、わざと乱暴に、足を閉じている山口君の足を、目蒲自身の足をつかって、大の字に開かせようとした。
「うわぁ〜!結構、乱暴で、不良っぽい!」
と、山口君は、内心、喜んでいた。
山口君は、足は開いたが、膝が曲がったままで、内股の状態だった。それを、ガニ股に開かせようとして、目蒲は、言った。
「お前な、男は、ケツの突き出し方も、かっこよく決めなくちゃいけないんだぜ。お前のは、なんとなく、ナヨって、してるんだよなぁ・・・両膝を曲げずに、もっと伸ばして、大股に、大の字に開いてみ。それで、ケツ、思いっきり後ろに、突き出すんだ。」
「こんな感じ・・・」
山口は、目蒲の言われた通り、ガニ股になる感じで、足を大の字に開いた。
「ん〜〜、イマイチ、イマ二、くらいかなぁ・・・まあ、いいよ。ケツの突き出し方は、それで、合格だ!」
「じゃ、一発目、いくぞ!痛いからな・・・しっかり奥歯を噛みしめていろよ。いいか、これは津島にチクッた制裁だからな、遠慮はしないぜ。」
「はい・・・お願いします・・・」
目蒲は、目蒲が中学生の時、自作したケツピン棒を頭の上まで振り上げ、それを思いっきり、山口君のお尻に振り下ろした!
ヒュウ〜・ビシッ!
「い、痛い!」
思わず、山口君は、叫んだ!そして、机から起き上がり、お尻を手で、さすった。
「だ、だいじょうぶか?」
心配そうに、山口君をみる目蒲だった。
「だいじょうぶ。ゴメン、大声だしちゃって・・・我慢するよ、僕、どんなに痛くても・・・僕のせいで、目蒲君も、津島先生から、同じ罰をうけたんだから・・・」
「ほんとに、いいのかなぁ・・・」
「いいの!お互いに、18歳なんだから、十分に同意した大人同士だよ!」
「・・・・・・」
「ほら、挨拶の仕方、教えてよ!」
「わかったよ・・・わかりましたよ。お前がこんなにワガママで強引でしつこいヤツだとは思わなかったよ!いいか、お前は、中一以来、一度も、ケツピン棒のお世話になったことがないから、わからないだろうけど、叩かれた後は、先生に、『ありがとうございました!』って、挨拶するんじゃなくて、『ケツピン棒』に、鍛えて もらったお礼を言うんだ、『お世話になりました』ってな。わかったか?」
「うん!でも、それって、結局、先生にいってるのと、同じじゃないの?」
「まあ、なぁ!そういう、理屈っぽいことは、いいの!だから、頭のいいヤツは、やりにくいよ・・・」
「ごめん・・・もう、いろいろ聞かないから、続きを教えて・・・」
「わかった。それで、あと、数も自分で数えるんだ。」
「わかった。じゃ、こうだね。『一!お世話になりました!』でしょ。」
「ん〜〜〜、なんか、お前が言うと、女みたいなんだよなぁ・・・もっと、デッカイ声で、すばやく一気にいうんだ。『一!お世話になりましたぁッ!』って。」
「うわぁ〜!すごい、目蒲君、迫力あるね!」
「ん!そうか、まあなぁ!慣れてるからな・・・言ってみな!大声で、すばやく、一気に!」
「いちィ!お、お、お、お世話になりまいたぁ・・・!」
目蒲は、真剣な山口君に悪いと思ったが、思わず笑ってしまった。
「あせらなくて、いいんだよ。デッカイ声で、落ち着いて、言えよ。」
「うん・・・一!お世話になりましたぁ〜!」
「まあ、そんなとこか・・・お前が言うと、イマイチだけどな・・・じゃ、二発目だぞ!ケツを出せ!」
「はい・・・・」
ヒュウ〜・ビシッ!
目蒲は、本当に、思いっきり、山口君のお尻に、ケツピン棒を振り下ろした。手加減しては、真剣な山口君に、悪いと思ったからだ。
「あ、痛い・・・!」
「ほら、数をかぞえろ!甘ったれるな!男だろ!」
「二!お世話になりましたぁ!」
「よし、だんだん、カッコついてきたじゃないか!」
「そう!ありがとう!」
「じゃ、三発目いくぞ!覚悟しろよ!」
ヒュウ〜・ビシッ!
「三!お世話になりましたぁ!」
「じゃ!ラストだ!」
ヒュウ〜・ビシッ!
「四!お世話になりましたぁ!」
そういうと、山口君は、起き上がって、お尻を、両手で、必死に撫でていた。
それを見ていた目蒲は、少し、心配そうに、
「痛かったか?ケツ、ホカホカするだろ!ちょっと、ケツ見せてみ」
といって、山口君のブリーフの腰ゴムを拡げて、ケツを上から覗いた。四本の赤い線が付いていた。
「このくらいだったら、2,3日で、消えるな・・・」
と目蒲は思った。
「うん!お尻叩かれるのって、こんなに痛いの?」
「当たり前だろ!津島なんか、思いっきり、体重かけてくるんだぜ!」
「へえ〜!厳しいんだね・・・」
「よし!これで、おあいこだからな!さっぱり、代返のことは、忘れようぜ!」
「うん!わかった。ところで、あの時って、何の時?」
お尻をさすりながらも、山口君は、目蒲に聞いてきた。
ウ!こいつ、覚えてやがる。だから、頭のいいヤツは、やりにくいんだよな・・・仕方ねぇ〜か、もう少しつきあうか・・・と、目蒲は、思った。
「お前、ひとりHしたことないの?」
「うん、なにそれ・・・教えてよ!」
あまりも無邪気にそう答える勉強一本のガリ勉・山口君が、目蒲には、なんかかわいそうに思えてきた。
おせっかいだとは思ったが、小6の時、兄貴に教わったことと同じことを山口君に教えてやった。
もちろん、部屋のカーテンは閉め、目蒲は、トランクスをとり、山口君も、ブリーフを下ろしていた・・・
目蒲は、山口君が、目蒲の部屋を出る前、ベットの下から、目蒲が読みふるした、兄貴からの「お下がり」であるエロ本三冊を、
「こんど、欲求不満がたまったら、これでも読んで、しっかり、ひとりHしろよ!」
と言って、分けてやった。
山口君は、喜んで持って帰ったが、目蒲は少し心配だった。
「あいつ、あれに耽りすぎて、成績、落ちないかなぁ〜」
目蒲のおせっかいな不安は、二学期になって、見事に的中した。
目蒲からもらったエロ本の影響だろうか、ひとりHにはまってしまった山口君は、二学期以降、成績が、ガタ落ちとなり、帝都大・現役合格を果たすことができなかった。
あの、代返を引き受けてしまった日から、山口君の人生の歯車は、少し、ずれてしまったようだ。
山口家は、父親も兄貴たちも、全員、帝都大・現役合格のエリート一家だ。山口君は、山口家のクズだ、恥だと、さんざん父親や兄貴から嫌味をいわれたらしかった。
しかし、目蒲が大学二年の夏に、三鷹の実家に戻った時、山口君は、一浪後、見事、国立帝都大合格を果たしたと風の噂に聞いて、目蒲は、ほっと一安心したのであった。
実家に戻って、部屋の窓から表通りを眺めると、あのマッシュルームカットで色白の山口君の姿と、あのケツピン12発の痛かった体罰を、懐かしく思い出す目蒲であった。
終わり
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