「色柄を持たないパンツはく山崎すぐると、彼の担任の中村大悟」番外07頭髪検査と懲罰床屋1980のスピンオフ
「大悟の兄貴・圭悟と県立一高の仲間たち」 パート3 1981 兄貴もつらいぜ!!勧誘失敗
それは、大悟たちが住む県において、高等学校・普通科がまだ男女別学で、県下一の進学校・県立第一高等学校が、男子校だった頃のお話である。「男女七歳にして席を同じうせず」(だんじょしちさいにして せきをおなじゅうせず)という戦前の教えがその県の学校制度にもまだ残っていた時代だった。
一、勧誘失敗
「圭悟!!約束通りケツバットだ!!ケツだせ!!」
放課後、硬式野球部の部室に入ってきた県立一高・硬式野球部・主将の三年・北村が、学ラン姿のまま、いきなり、三年生部員の中村圭悟に命令する。
放課後の部活準備のため部室に集まっていた部員たち全員が、北村の方を向く。そして、三年生の一部は、ニヤニヤしながら、圭悟の方もみるのだった。
ちょうど着替えの最中でスラパンをはこうとしていた圭悟は、あわてて白ブリーフ一丁の姿で立ち上がり、北村の方を向くと、
「な、なんでだよ!!」
と大きな声を出す。
北村は、大まじめな顔で、
「おまえの弟、中村大悟が、数学・パズル・電子計算機研究部に入部届を出したことがさきほど確認された!!」
と宣言する。
「うわぁ・・・北村節、さくれつだ・・・。」
「ったく、アイツ、クソまじめだよな・・・。」
と、まわりで着替えていた三年部員の中でも、圭悟と仲のよい森君と「マル」こと丸山君が、ヒソヒソ話を始める。
「えっ!!でも、まだわかんねぇーだろ!!あと一日!!あと一日待ってくれ!!オレが弟のこと説得してみせる!!」
「中村!!往生際が悪いぞ!!おまえの弟はもう他部に入部届を出しちまったんだ!!」
「で、でも・・・」
「でもじゃねぇ!!もし弟を野球部に勧誘できなかったら、3年生全員からケツバット一発ずつ受けるって言い出したヤツはおまえだろが!!」
「そ、それはわかってるけど・・・」
そう口ごもると、圭悟は、北村の視線を避けるように横を向き、悔しそうに唇をかみしめるのだった。まさに言いだしっぺは圭悟自身だったのだ。
「ちくしょう・・・大悟のヤツ、オレのメンツをつぶしやがって・・・夕べは考えとくとか言ってたくせに!!兄貴のことを裏切りやがったな!!もう数学教えてやんねぇからな!!」
と思うのだった。
しかし、もともとは、圭悟自身が、たいした確信もないのに、部員たちの前で弟・大悟の入部を約束したことが悪いのである。そのことは、圭悟もよくわかっており、入学式以来、野球部入部に関して首を縦にふらない弟・大悟の態度に、あせりまくっていたのである。
後輩の2年生部員たちの視線をビンビンに感じながら、新学期早々、主将に対してごねるのはヤバいと圭悟も思ったのか、
「わ、わかった・・・オレの負けだ・・・ケツ出せばいいんだろ!!」
と、ちょっとふてくされながらも言うのだった。
そんな圭悟の態度に、主将・北村は、ニヤッと笑って、
「その前に・・・サッサと着替えろ・・・」
と言う。
圭悟は、北村の視線を、黄色い染みがうっすらとついた己の白ブリーフのフロント部にビンビンに感じながら、「や、やべぇ・・・オレとしたことが、夕べ、パンツとりかえなかったぜ・・・」と思うのだった。
そして、真っ赤な顔になって、
「おっおぉ・・・」
というと、あわてて着替えをすませるのだった。
着替えをすませ、野球ユニ姿になった圭悟は、
「コイツらからのケツバット7本なんて、どおーってことねぇーよ・・・」
と自分に言い聞かせながら、部室の窓際の方にいき、窓に方に顔を向けて、万歳するように両手を上げ、両脚を開いてふんばるようにして立ち、窓におじぎでもするかのように上体をやや前傾させ、後ろにケツをプリッと突き出し、存分にやってくれといわんばかりに、
「ケツバットお願いします!!」
と男らしく約束破りの制裁を願い出るのだった。
それほど広い部室ではなかった。しかし、北村主将の性格もあってか、部室はきれいに整理整頓され、特に、窓際のところは、バットを振るのになんの障害物もなく、いつしかそこが部室におけるケツバットの定番スポットになっていた。
一方、三年生の圭悟が、ケツを出したことを確認すると、二年生統括の宮林真司が、
「失礼します!!回れ右!!」
と言う。
その号令で、部室にいた二年生部員7名は、一斉に、圭悟がケツを出しているのとは反対向きになるのだった。二年生部員たちは全員着替えが終わっていた。野球部では、後輩たちは、先輩より一足先に着替えをすませ、部活の準備にかかるというしきたりがあった。
二年生統括の宮林は、主将・北村に負けず劣らずのまじめ君。昨年度の一年生統括から順当に二年生統括にもなり、次期主将候補でもある。
そんな宮林が、春休みに、
「あのさー、先輩がケツバットされてるとき後輩がジロジロ見てるってのも失礼じゃないか?」
と言い出し、今年度から先輩がケツバットされる時は、後輩は後ろを向くことに決めていたのだった。
もちろん、ほとんどの二年生が、
「コイツ、何いってんだ?先輩がケツバットされるとこなんて、見なきゃ損じゃん!!」
と不満には思っていたのだが、北村主将のお気に入りである宮林に表だって異を唱える二年生はいなかったのである。
主将・北村は、二年生部員全員が後ろ向きになっていることを知りながらも、
「いいか!!おまえらもよぉーくみておけ、男に二言はねぇーんだ!!約束を守れなかったヤツは、上級生であってもケツバットだ!!」
と言う。
(太朗注:「男に二言はない」・・・もとは「武士に二言はない」。武士は信義と面目を重んじるものだから、一度口にしたことばを取り消したり、約束を破るようなことはしないという意味。現代では、それが転じて、「男に二言はない」という言葉が生まれた。1980年代頃までは、小学生から高校生まで、男子はよくこの言葉を口にした。)
圭悟と仲の良い三年生部員の森や丸山は、
「あのさー、三年同士でケツバットしあってなにがおもしろいんかね・・・・もっと仲良くやろうぜ・・・」
と思い、圭悟へのケツバット制裁には乗り気ではない。
森や丸山にとって、ケツバットとは、後輩に対するシゴキの象徴であった。一方、主将・北村にとって、ケツバットとは、部員全員に対する規律の象徴。そもそも認識が違うのだ。
もちろん、何を言いあったところで、部員同士のなあなあ主義がきらいな超・根がまじめ君の北村が、圭悟に対するケツバット制裁を撤回するはずもないことは、森も丸山も知っており、
「しゃーない・・・つきあうか・・・カラ約束した圭悟も悪いんだしな・・・」
と重い腰を上げるのだった。
北村主将は、
「これから、オレたちへの約束を守れなかった中村へのケツバットを行う!!中村以外の三年生全員から一発ずつ!!打順は背番号順だ!!」
と宣言する。
三年生全員、そして、中村圭悟も、声を揃えて、
「ィ〜〜〜ス!!」
と声を出す。
北村主将は、その返答に満足そうにうなずきながら、部室の隅に置かれていたノック用の木製バットを取り出してくる。そして、そのバットを、副主将で正投手の「ヨコ」こと横山に渡すのだった。
全員参加のケツバットにおけるケツバッターの打順は、背番号順。進学校の野球部は年功序列。3年生部員が9人以下なら、3年全員、レギュラーで背番号がもらえたのだ。
「よし!!まずはヨコからだ!!」
1番 ピッチャー 横山君。背番号1。
横山はニヤニヤしながら、
「ィ〜〜〜ス!!」
と返事をすると、圭悟の左後ろに立ち、バットを構える。
「中村、行くぜ・・・」
ガツゥ〜〜〜ン!!
ほどなく圭悟は、ケツから脳天へ重い衝撃が走るのを感じる。一瞬、息が止まりそうになる。
「ち、ちくしょう・・・フルスイング・・・」
思わず涙目となる圭悟。そして、息が止まらなかった安心感とは逆に、スラパンと白ブリに包まれたケツがジリジリ焼けるように熱くなってくる・・・。この痛みもつらい。
「い、いってぇー」
両手でケツを押えたくなる衝動を、グッとこぶしをにぎって堪える圭悟。窓の外、校庭に舞う桜吹雪が涙でうるんで見える。
「シタァッ!!」
圭悟は、自分を鼓舞するかのように、横山に大声で感謝する。
「よし!!次はオレだな・・・。」
そう言って、主将の北村が、横山からバットを受け取る。
2番 キャッチャー 北村君。背番号2。
正捕手の北村の本来の打順は3番。
「中村、行くぜ・・・」
ブン!!
ドスッ!!
容赦のないフルスイングが圭悟のケツに炸裂だ。ケツ穴の奥までズシンと響くケツバットだ。
「うぅ・・・」
圭悟がうめきごえをもらす。横山のケツバットの熱い痛みが頂点に達した時の二発目。強烈の一言。
意地でもケツをさするかと両拳をグッとにぎり、窓の外をジッとみつめる圭悟。絞り出すように、
「シ、シタァ・・・」
と感謝する。
「よし!!次、谷岡。」
そう言って、北村は手に持つバットを谷岡に渡す。
「ィ〜〜〜ス!!」
と返事をしてバットを受け取る谷岡。
「へへへ・・・ケツバット、ひさびさだぜ・・・」
とつぶやきながら、谷岡は、サディスティックな笑みを顔に浮かべている。
3番 ファースト 谷岡君。背番号3。
「中村、わりぃな・・・遠慮なくやらせてもらうぜ・・・」
といいながら、圭悟の右後ろの立ち、バットを構える。谷岡は左打ちだ。
谷岡は、眼光鋭く、圭悟のユニのケツに狙いを定める。圭悟のケツに入った二本目の制裁の焼けるような痛みが頂点に達するタイミングをジッと待つ。まるでど真ん中に入る甘めの球を待つかのように。
圭悟の心臓がドクンドクンと脈を打つのに共鳴するかのように、谷岡のスラパンの中で屹立した男性自身もドクンドクンと脈を打つ。
「このサディスト・・・やるなら早くやれよ・・・」
と、谷岡からの制裁を待つ圭悟の神経は、己のケツに集中する。
ベチィ!!
まるで濡れ雑巾を、コンクリートに叩きつけような鈍い音と、「うぅ・・・」とつらそうな圭悟のうめき声が、部室に響き渡る。後ろを向いている2年生部員のほとんどが、その瞬間、思わず、目をつむり、ケツの谷間の菊門をキュキュと引き締めていた。
谷岡の本来の打順は5番。ケツバットも容赦なかった。
圭悟は目から火花が散るのを感じ、ケツはズキッズキッと腫れるように疼いているのを感じる。だんだん鬼のようにつらくなるケツバット。3発目あたりからが一番つらい。根性のみせどころだ。
圭悟は、ここ一番の根性をふりしぼり、
「シ、シタァ・・・」
とどうにか感謝する。
「よし!!次、清野。」
「ィ〜〜〜ス!!」
の返事もよろしく、谷岡からバットを受け取った清野は、無表情に、圭悟の左後ろに立つと、淡々とバットを構える。
4番 セカンド 清野君。背番号4。
「圭悟・・・行くぞ・・・」
と清野。
「ィ〜〜〜ス!!」
と、圭悟の返事が早いか、
バシィ!!
と、清野の小ぶりだが鋭いスイングが、圭悟のユニケツの一番プリッとふくらんだところをとらえる。
「くぅ・・・一番いってぇーところきたーー、ケツが焼ける・・・」
ケツの奥の方に重く熱い衝撃を感じながら、ジッと窓の外を見つめる圭悟。校庭の向こう側に見える散り始めた桜の木。まもなく、圭悟たち野球部にも新入部員が集まってくる時期だ。
圭悟のオヤジ・悟は、古いタイプの人間で、
「男は中学生になったら、野球部に入って心と体を鍛えるべし!!」
が信条。そして、長男・正悟と次男・圭悟は、迷わずそれに従ってきた。しかし、ラグビーをやりたがる末っ子の大悟には、オヤジ・悟も大甘で、「まあ、ラグビーもスポーツだしな・・・」と、野球部入部を強制しなかったのだ。
「ちくしょう・・・オヤジは、いつも大悟には甘いんだからな・・・」
圭悟は、中学入学式の日、すぐさまバーバー青木でクリクリの丸刈りにして、喜び勇んで、野球部に入部届を出した。
兄貴・正悟から聞いていたケツバットのことはちょっと不安だったが、兄貴と同じ野球部に入れたうれしさの方が、その不安をはるかに上回っていたのである。
そして、正悟たち3年生部員からの手荒い歓迎。人生初のケツバット・・・。それは、まさに兄・正悟からのケツバットだった。
「あんときも泣くくらいケツが痛かったよな・・・」
校庭に舞う桜吹雪を見つめながら、そんなことをぼんやり考える圭悟。
「ちくしょう・・・大悟のバカ野郎・・・なんで野球部に入らないんだよ・・・一緒に野球したかったのによ・・・」
圭悟は、大悟に、数学だけでなく野球も教えたかったのだ。兄の正悟が、自分にそうしてくれたように。
同期からのケツバット制裁の痛みと屈辱に耐えながら、圭悟は、自分のその夢がはかなくも崩れ去っていくことを自覚するのだった。
「ちくしょう・・・マジで一緒に野球したかったのによ・・・大バカ野郎・・・」
そんなことを思いながら、なんか本当に泣きたくなってきてしまうのをグッとこらえる圭悟だった。
「おい!!圭悟!!礼くらい言えよ・・・」
バットを持ったままの清野の不満そうな声に、圭悟はハッとする。
「わ、わりぃ・・・シタァッ!!」
「ったく、ボケっとしてんじゃねーよ!!よし!!次、森。」
北村の指示で、清野からバットを受け取る森。「ィ〜〜〜ス!!」の挨拶はなかった。
5番 サード 森君。背番号5。
野球部で、森は、圭悟とは一番の仲良し。ショートを守る圭悟とは、「オレたち、鉄壁の三遊間だよな!!」と言いあう仲だ。
「圭悟・・・行くぞ・・・」
森は、ボソッと言うと、バットを構え、軽くバットを振り下ろすと、なでるように圭悟のケツにバットをあてるのだった。
それには北村も黙ってはいない。
「森!!もっと真剣にやれ!!」
「うっせー、真剣にやってますぅ!!」
お互いににらみ合う北村と森。いまにも取っ組み合いのけんかが始まりそうだ。
そんな二人を、
「おい、やめろ・・・」
「ほっとけよ・・・・」
と、横山と丸山がそれぞれなだめるのだった。
北村は、不満そうな表情で、
「てかげんしてんじゃねーぞ!!次!!丸山!!」
と言うのだった。
森からバットを受け取る丸山。
「ィ〜〜〜ス!!」
と返事をすると、早速、
ブゥ〜〜ン!!
ブゥ〜〜ン!!
と素振りを始める。丸山は、圭悟の動作や声から、ケツがもう限界で、マジで泣いてギブアップする寸前であることに気がついていた。
もちろん、主将・北村もそれに気がついていないわけではなかった。ギブアップの屈辱を味わうのも、圭悟へのいい薬になるだろうし、後輩へのいい見せしめになると思っていたのである。
6番 レフト 丸山君。背番号7。
ここからは、ケツバッター打順と、背番号が一番ずれる。なぜなら、圭悟が、ショートで背番号6であるからだ。残念ながら、部室でセルフはおあずけなのだ。
それはさておき、丸山は、チーム一のスラッガー。4番打者だ。
本来ならば、圭悟が泣いて詫びを入れるくらい強烈なケツバットが炸裂するはずだった。しかし、丸山は、2年生の冬に、監督の命令で、キャッチャーからレフトへコンバートさせられたばかり。正捕手の北村とはあまり良い仲ではない。もともと仲の良い圭悟に、本気でケツバットを入れるはずもなかった。
しかし、森よりも、少しだけ賢い丸山は、
「圭悟!!行くぞ!!」
と気合十分で宣言する。そして、それに「ィ〜〜〜ス!!」と気合を入れて応答する圭悟。
バン!!
丸山は、フルスイングにみせかけて、バットが圭悟のケツに炸裂する直前、力をスゥっと抜いたのである。
圭悟もそれに気がついたのか、「あれ・・・」と思いながらも、丸山の友情にすぐに気がつき、
「いってぇーー!!し、親友だろ・・・少しは手加減してくれよ・・・」
と言いながら、わざとらしく苦しそうに座り込んでケツを両手でおさえるのだった。
「マル、サンキュー・・・」
「圭悟、ナイス演技だ・・・」
丸山と圭悟の息の合った芸当に、主将・北村は、すっかりだまされたのだろうか・・・座り込んでいる圭悟を見下ろしながら、いつも以上の「上から目線」で、
「中村・・・もう、ギブアップなのか?だったら、そこに土下座して、オレたちに詫びを入れるんだ!!
『もうケツが痛くて耐えられません。もう二度と約束を破ったりいたしませんから、これ以上のお仕置きは許してください。』
って言ってな!!」
と、勝ち誇ったように言うのだった。
「チェッ・・・北村のヤツ、オレがギブすると思って、詫びいれのセリフまで考えてきてやがる・・・意地でもギブするもんか・・・」
圭悟は、しばらくの沈黙のあと、右手でケツを押えながら、いかにも苦しそうに立ち上がると、最初にしたように、窓に方に顔を向けて、万歳するように両手を上げ、両脚を開いてふんばるようにして立ち、窓におじぎでもするかのように上体をやや前傾させ、後ろにケツをプリッと突き出し、まだまだと言わんばかりに、
「ケツバットお願いします!!」
と言い放ったのだった。
圭悟のケツは、ちょっと動いただけで、スラパンの下にはく白ブリの綿生地がケツに磨れて激痛が走るほど、すでに腫れあがっていた・・・しかし、つらいケツバット制裁も、あと一発。ここでギブして、土下座の詫び入れだけは、男のプライドが許さなかった。
北村は、ちょっと不満そうな表情を顔に浮かべながらも、
「よし!!次!!寺田!!手加減すんじゃねーぞ!!」
と言うのだった。
「ィ〜〜〜ス!!」
と返事をして、丸山からバットを受け取る寺田。
7番 センター 寺田君。背番号8。
今回の制裁、ラストのケツバッターだ。3年生は圭悟を入れてもたったの8人。背番号9のライトは、現在のところ決まっていない。進学校・野球部のつらさではある。
「行くぞ!!中村!!歯をくいしばれ!!」
そういうと、寺田は、圭悟の左後ろに立ち、バットを振りかぶる。
「ィ〜〜〜ス!!」
圭悟の応答。圭悟は、最後の一発に覚悟を決め、両拳をグッと握りしめ、奥歯をグッと喰いしばり、両足をグッとふんばり、ユニケツを後ろへプリッと突き出すのだった。
バチィ!!
「うぅ・・・・」
思わず、うめき声を上げる圭悟。脳天への衝撃で、思わず前へ倒れそうになる。最後の衝撃は、圭悟の予想を上回っていた。すでにケツがジリジリ焼けるようだった。
そして、圭悟は、やっとの思いで回れ右すると、
「シタァ!!弟が入部しなくてすいませんでした!!」
と言って、北村たちにペコリと頭を下げるのだった。
「中村!!お前の弟が入部しない分、今後は、一人でも多くの一年生を連れて来い!!」
と北村。当時より部員不足に悩む進学校の運動部。大悟の入部を一番期待していたのは、ほかならぬ主将の北村だったのかもしれない。
「あ、あぁ・・・わかったよ・・・約束はできんが、できるだけがんばる・・・・」
と素直に返す圭悟。
その返事に、北村は、少しは気がすんだのか、
「よし!!これから練習前のミーティングをする!!宮林!!監督さんに準備ができましたって伝えてくれ!!」
と、何事もなかったように2年生統括の宮林に指示を出すのだった。
二、それでも大悟はかわいい弟 1981
「い、いってぇ・・・まだケツになにかはりついてるみたいだ・・・あーあぁ・・・今日のケツバット最悪だったよな・・・ヨコとか北村はしゃーねぇーけどさぁ・・・谷ちゃんとか清野も手加減なしだったもんなぁ・・・それにラストの寺田・・・この前、アンパンおごってやったのによ・・・アイツ、なに考えてオレのケツにフルスイング入れてんだよ・・・練習の時のスラパンのケツ締め付け感、もう最悪・・・ケツがムズムズかゆるくなるしさぁ・・・でもチャリのサドルにケツが当たるとズキッと痛くて乗れねぇーんだよな・・・こんなの中学ん時以来じゃねーかな・・・」
そんなことをブツクサいいながら、いつもは身体を鍛えるため自転車通学の圭悟も、自転車を押しながら、トボトボ、学校から一時間近く歩いての帰宅だった。
家に入ると、早速、濡れタオルを用意して、母屋の二階の自分の部屋へ向う圭悟。自分の部屋といっても、真ん中をカーテンで仕切っての、弟・大悟との共同使用部屋だった。
大悟はまだ高校から戻っていなかった。部屋の奥、窓側が圭悟のテリトリーだった。
「ったく、大悟ったら、また部屋の掃除してねーな・・・」
ちらかった大悟の区画を通って、部屋の奥の自分の区画へと行く、圭悟。カーテンをザーと引いて、プライバシーを確保すると、黒学ランの上着を脱ぐこともせず、学ランズボンを脱ぎ、白ブリーフを膝のところまで下ろすと、ベットにうつぶせに倒れ込むようにガバッと寝るのだった。そして、さっき用意してあった濡れタオルを、自分の紫色に腫れあがったケツにそぉっとのせてやるのだった。
「ふぅ・・・気持ちいい・・・ケツバットのあとは、これが一番効くんだよな・・・」
そんなことを言いながら、しばしのリラックスタイム・・・学校から帰ってきて、大悟がいない時は、まずはエロ本だしてムスコの面倒をみてやることも多かったが、その日は、おケツのケアーが最初だった。
部活の後、自転車を押して歩いて帰った疲れもあってか、ケツがすぅ〜と気持ちいい中、ウトウトと眠気が差してきたその時だった。ドタドタと階段を昇る音・・・そして、バッと乱暴に開く部屋のドア。自分を「裏切った」弟・大悟の帰宅だった。
「あっ・・・大悟だ・・・今日は、シカト・・・今日は、シカト・・・」
と思いながら、枕に顔をうずめる圭悟。
しかし、その日の大悟は、いつもよりテンションが高く。勝手に開けるなと言ってある二人の区画を区切るカーテンを、いきなり、ザァッと開けると、
「ねぇねぇ、兄貴!!オレさぁ!!やっぱ、数学・パズル・電子計算機研究部に入ることに決めたから!!すっげー面白いんだ!!」
と、興奮気味に、圭悟に話してくるのだった。
ケツ丸出しでベットにうつぶせになっているところへ、いきなり入ってきた弟・大悟。
圭悟は、
「もーーー!!!弟なんていらねぇー!!どっかいっちゃえ!!」
と思い、さらに深く、枕に顔をうずめるのだった。
さすがの大悟も、兄貴のその姿に気がついたのか、
「あっ、わりぃ・・・いきなり、カーテンあけちゃって・・・カーテンの向こうから話すから・・・」
と言い、カーテンの向こう側、大悟のテリトリーへひっこむのだった。
「・・・・・・」
シカトを決め込む圭悟。
「でもさー、オレ、早く兄貴に報告したくてさー、部活の顧問、川上先生って言うんだ。ちょっと怖いけど、今日、スッゲー面白い話してくれたんだ!!兄貴も、川上先生のこと知ってるでしょ?」
「しらねぇーわけねぇーだろ・・・去年は、アイツに、なんど、布団叩きでケツ叩かれたことか・・・まあ、遅刻しまくったオレもわりぃんだけど・・・とにかく、アイツが1年生担当になってせーせーしてるぜ・・・」
と、心の中で思う圭悟。しかし、顔は枕にうずめたまま寝たふりだ。
「それでさー、部活で川上先生が今日言ってたんだけどさー、これからは、個人で電子計算機を持つ時代になるんだって!!すげーよなぁ・・・パーソナル・コンピューターって言うんだってさ!!」
時はまさに1981年。前年度まで圭悟の学年を教えていた数学の川上先生は、その年の11月に発売予定だったパーソナル・コンピューター「NEC PC−8801」を学校として複数台購入するための予算獲得責任者となっており、圭悟たちの3年生担任からははずれ、数学・パズル・電子計算機研究部の顧問とともに、1年生クラスの副担任をしていたのである。
(太朗注:川上一人先生については、
< 関連スピンオフ 1980 兄貴もつらいぜ!!進学校・ケツバット
第2節 > を参照。)
「そんなこと、おまえに言われなくたってしってますぅ・・・」
と心の中で思う圭悟。
「ねぇ、兄貴?聞いてんのか?」
全く反応のない兄貴に、大悟は、再び、カーテンを開けて、圭悟のテリトリーの方に入ってくるのだった。
「ねぇ、兄貴?大丈夫か?」
と言いながら、圭悟のベットの方へ近づいてくる。そして、やっと、圭悟のケツにベットリとついた痣に気がつくのだった。
「部活でケツバット・・・やられたのか?」
と心配そうに聞いてくる大悟。
そんな大悟に、シカトを決めていた圭悟は、
「ま、まあな・・・で、でも、おまえのせいじゃないぞ・・・監督さんからやられたんだ・・・部室がちらかってるって・・・」
と、ついついしゃべってしまうのだった。
大悟は不思議そうな顔をする。これだけ部屋の整理・整頓が行き届いている兄貴が、部室をちらかすはずなどないのだった。
そして、大悟は、ハッとして言うのだった。
「あーー、だから野球部って嫌なんだよね・・・連帯責任とか言ってさぁ・・・軍隊じゃないんだからさー、平和国家日本でやめてほしいよねぇ。」
それを聞いて、圭悟は、
「ったく、大悟はまだまだガキだな・・・」
と思うのだった。
「あ、それでさー、川上先生から、課題出されちゃってさー、チェバの定理とメラネウスの定理って言うヤツ・・・中三の時の図形の復習だって・・・でも、オレ、そんなのやった記憶ないんだよね・・・ねぇ、兄貴、知ってたら教えてよ!!」
「バーカ!!メネラウスだろ!!知ってるけど、今日はケツが痛いからダメ!!あっち行って、少しは自分で考えてろ!!」
「わ、わかったよ・・・」
大悟は、機嫌悪そうな圭悟の態度と、その痛々しいケツを見て、その晩はあきらめたのか、再び、自分の区画へと戻っていくのだった。
大悟がカーテンの向こうへ行ったことを確認すると、圭悟は、ベットからそっと立ち上がり、本棚の方へ行く。そして、一年生の時の数学ノートにはさんであった川上先生のプリントを取り出すのだった。
「大悟のヤツめ・・・明日の晩を楽しみにしてろよ・・・オレさまがチェバとメネラウスの達人であることを知らないな・・・フフフ。」
そう言いながら、圭悟は、「理系私大難関校・図形穴埋め問題で頻出!! チェバの定理・メネラウスの定理 特訓プリント 川上」と書かれたプリントをフムフムフムと、フリチン、蒙古斑ケツ丸出しのままで、復習し始めるのであった。
圭悟は、弟・大悟が野球部に入らず、その責任をとって部活でケツバットを食らったことなどもうすっかり忘れているのだった。