目次に戻る 第2章へ進む 

シンお仕置き記録帳 第1章 南の島のバツイチ男

マタイによる福音書より 

19章4節 イエスは答えて言われた、「あなたがたはまだ読んだことがないのか。『創造者は初めから人を男と女とに造られ、

19章5節 そして言われた、それゆえに、人は父母を離れ、その妻と結ばれ、ふたりの者は一体となるべきである』。

19章6節 彼らはもはや、ふたりではなく一体である。だから、神が合わせられたものを、人は離してはならない」。


※警告※ 

この物語は、フィクションです。

また、この物語は、成人向けの「大人の懐かしい思い出話」として書かれたもので、未成年者に対する体罰、暴力、虐待、性的ないたずら、そして、それらに関連するあらゆる行為を、支持・奨励・助長することを意図して書かれたものではありません。私、太朗は、合法・違法を問わず、かかる未成年者に対する行為のすべてに絶対的に反対します。

また、この物語に、宗教的、政治的な主張は、一切ありません。

 

一、笞(ムチ)の音響く島の教会 

  ここは本州から遠く離れた南の小島。亜熱帯気候に属し元日に海開きが行われる暖かい島だ。

 2月の中旬の日曜日。午前9時、島の教会には日曜ミサのため、その日も多くの敬虔な信者たちが集まってきていた。

 その日のミサには 小村厳一主任司祭(55歳)の姿が見えず、信者たちはみな怪訝に思っていた。しかし、小村に代わり田原司祭見習い(27歳)によってミサも滞りなく進行し、田原が閉祭の挨拶をし、信者たちの閉祭の歌とともに、田原が退堂していく。

  ミサに参加していた信者たちが席を立ち、帰ろうとしている時だった。田原がやや興奮したような顔つきで聖堂に戻ってきて、信者たちの退堂を止めるかのように、

「皆様にお知らせがございます。本日これから、教会2階の小集会室で、緊急の集まりがございます。主任の小村がお待ちしておりますので、恐縮ですが、既婚の男性の方でお時間のある有志の方は、是非、ご出席願いたいと思います。」

と、そこに集まっていた信者たちに「緊急集会」の告知をするのだった。

「なんだ・・・神父様はいたのか・・・それにしても、何があったんだろう・・・」

 「緊急集会」。しかも、既婚の男性信者だけに招集がかかるとは、毎週教会へと通ってくる敬虔な信者たちにとっても意外なことだったようで、聖堂の中にざわめきが起こり、信者たちはみな互いに顔を見合わせているのだった。

 男たちの中には、訝しそうな顔をする者、面倒くさそうな顔をする者など様々だったが、小学生の息子を持つ父親たちの顔つきは、皆、どことなく不安げな落ち着きのないもので、お互いに顔を見合わせ、何やら話をしている者たちも多かった。

「またあの部屋に入るのか・・・なんかそれ考えただけでもケツがムズムズしてくるぜ・・・去年は、信二の分20発、信三の分11発で、31発の愛のムチだったからな・・・

 山田信(40歳)が己の尻をさすりながら、隣にいる鈴木孝(40歳)にそうささやくのだった。

「ああ・・・俺は孝一の分10発、孝二の分12発の計22発だ・・・田原君が俺のパンツ引きずりおろして生ケツにひんむかれた時のことがまだ夢にでてくるよ・・・

 不安そうな顔でそう答える鈴木孝。

「チェッ!おまえもお人好しだな・・・あの変態野郎のこと、君付けで呼ぶなよ・・・」

「ま、まあな・・・」

 二人は、中学時代からの親友だった。島の悪ガキだった頃から何か悪さをする度に親たちからだけではなく、小村主任司祭からも部屋に呼ばれてお小言を食らったり、時には、親たちの求めもあり、神父様特製の「愛のムチ」で痛くて恥ずかしいケツ叩きを食らったものだった。

 しかも、前年のクリスマス・イヴに行われた「愛のムチ授与の集り」では、息子たちを良い方向へと導くことができなかったとして、山田信も鈴木孝も、小村司祭から息子たちのケツを叩くその笞(ムチ)で己の生ケツをしこたま打たれ悪ガキ時代の思い出をしっかりとよみがえらせていたのである。

(注)「愛のムチ授与の集り」については、<お仕置き記録帳  第二譚 <パパ・サンタたちの夜半のミサ> ビシッ!!神父様の愛のムチ>を参考にしてください。 

 そんなケツの痛い思いを時折しながらも、敬虔な信者である山田信や鈴木孝は島の教会に通うのをやめようとはしなかった。それどころか、なにかにつけて、子供のしつけなど家庭のことだけでなく仕事のことなどについても、悩みやトラブルがあれば、神の前で祈り、救いをもとめるだけでなく、教会の小村司祭に相談し、教えを乞うて来たのである。

 そんな山田信や鈴木孝たちにとって、小村厳一司祭は、第2の父親のような存在だった。そんな父親のような存在の人が「話があるから2階へ来い!」と招集をかけたのである。しかも、既婚男性にだけだ。「これは何かあるに違いない・・・」と思いながら、教会2階にある小集会室へと続く階段を昇る男性信者たちの多くが緊張の面持ちだった。その中でも、小学生の男の子がいる父親たちの顔は、不安そうな中にも、昨年末のクリスマス・イヴの愛のムチのことが思い出されて、ちょっと気まずそうな顔をしている者も多かったのである。

「心配すんな・・・神父様の愛のムチを食らうのはお前らじゃねーよ・・・」

と、山田信と鈴木孝の後ろから声が聞こえてくる。

「えっ!」

「せ、先輩・・・や、やっぱり、これから愛のムチなんですか・・・」

 驚いて後ろを振り向く二人。後ろから聞こえてきたその声は、島の農業青年団の団長・大川大将(だいすけ)(42歳)だった。山田信と鈴木孝の二人にとって、大川は中学サッカー部時代からの先輩であり、島で農業を営む山田、そして、半農半漁の鈴木にとって、仕事そして農業青年団での先輩でもある。

「バーカ!あの変態野郎の興奮した顔つきみればすぐわかるだろうが・・・」

 変態野郎とは、見習い司祭の田原のことだ。いくら神父様からの指示とはいえ、「愛のムチ授与の集り」でムチ打たれる自分たちのケツを包む白ブリーフをやけにニヤついた顔つきで遠慮会釈なくガバっととズリ下げ、おケツを生にひんむく田原司祭見習いは島の父親たちからは嫌われていた。そして、自分たちがムチ打たれる姿をギラギラした目つきで面白そうにみつめ、その時、祭服のちょうど股間のあたりがまるでテントでも張ったかのようにモッコリと盛り上がっているため、父親たちからは「変態野郎」とあだ名されていたのだ。

「そういえば、あいつ、ヤケに興奮した顔つきでしたよね・・・」

「で、誰が食らうんですか?神父様のケツムチを・・・」

 山田信の問いかけに、先輩の大川大将はニヤニヤしながら、耳打ちするのだった。

「えっ!?マジっすか?」

「お、おい誰なんだ?」

 山田信は、先輩の大川のマネをするかのように、鈴木孝の耳元でささやくのだった・・・。

「えっ!?」

 思わず、大川先輩の顔をみる鈴木孝。大川は、ニヤけた顔を隠そうともせず、

「アイツ、とうとう奥さんに三行半つきつけられたらしいぜ・・・いまごろ、上の部屋の一番前の席でパンツ一丁でしょぼくれて座ってるんだろうな・・・フフフ。」

と小声で言うのだった。

 

 そんな三人が教会の聖堂を出た横にある教会2階へと続く階段を昇ろうとしていた時だった。

「や、やめてよ・・・だいちゃん・・・・ボ、ボク・・・そんなこと恥ずかしくてできないよ・・・」

と悲鳴にも似た声が後ろから聞こえてくるのだった。

「オラァ!!待てよ!!おまえ、男だろ!!逃げんなよ!!」

と野太い声がそれに続く。

 色白でちょっと太目の男子中学生が、聖堂の中からまるで逃げるかのようにして出てくるのだった。それは、島の中学校の2年生で、読書クラブそして天文部の部員でもある金城雅之(かなしろ まさゆき)であった。

 金城雅之は、両親とともに、島の灯台の官舎に住んでいる。雅之の父親は、島の灯台の灯台守(とうだいもり)であった。金城の両親も島の教会の信者ではあったが、鈴木や山田たちほど教会活動に熱心ではなく、雅之が小学生の時こそ小村司祭の指導に従い、「お仕置き記録帳」すなわち「金城雅之 心の成長記録」をつけてはいたが、一人息子の雅之が中学生になると、教会のミサに参加することはほとんどなくなっていたのである。

 一方、読書好きである息子の雅之は、中学校の図書室には置いていない本を探して読むのを目当てに教会の図書室に通うことを習慣にしており、小村司祭から教会図書室への入室許可をもらいやすくするため、日曜ミサには毎週通ってきていたのだった。また、雅之はいつもミサの後、教会の図書室に寄るついでに、中学校の同級生で友人でもある田所俊一のところに顔をだすことも楽しみにしていた。田所俊一は、島の中学校の2年生で、雅之と同じ天文部に所属していた。田所は両親のいない孤児で、島の教会に引き取られ、教会付属の寄宿舎で生活していたのだ。

「つるまさみっけ!!オラァ!!今日は逃がさないからな!!しっかりみせてもらうぞ!!」

と、教会の外にどうにか逃げようとした雅之の、今度は正面から、別の野太い声がとうぜんぼうをするかのように迫るのだった。

 雅之を挟みうちで捕まえようとしている野太い声の主たちは、後ろから大川大輔、そして、前からは今さっき教会から出て行ったばかりの山田信一だった。二人とも島の中学校の2年生で、雅之とは同級生であった。しかし、大輔も信一もサッカー部に所属しており、ここ数カ月で、体格もずっとたくましくなってきている。そんな二人に挟みうちにされた、ちょっと太目で色白の雅之は、二人と同じ学年でありながらも、二人に比べて小柄でまだ幼く頼りなく見える。雅之はどぎまぎした困ったような顔をしているのだった。

「コラァ!!大輔!!そこで何やってんだ!!早く帰って、母さんの手伝いでもしろ!!」

「コラァ!!信一!!おまえもだ!!」

「あっ・・・やべぇ・・・オヤジ・・・まだそこにいたんだ・・・」

「やべぇ・・・まだ2階にいってねぇ・・・」

「やべぇじゃねぇ!早くしろ!!グズグズしていやがるとタダじゃすまねーぞ!!神父様にお願いして愛のムチをいただこうか!!?」

「えっ・・・愛のムチ・・・」

「あ、愛のムチ・・・やべぇ・・・」

 サッカーパンツにTシャツ姿の大輔と信一は、オヤジたちからそう一喝されると、お互いに顔を見合わせるが早いか、「おまえ、向こうへ行け!!」といわんばかりに今さっきまで捕まえようとしていた雅之の胸を右手でドンと突き飛ばすかのように押しのけると、オヤジたちの方を向き、

「はい、わかりました!!」

「はい、わかりました!!」

と返事をして教会から出ていくのだった。

 オヤジたちの助け舟もあり、どうにか大川大輔、山田信一の二人から逃れられた金城雅之は、ちょっと安心したような、しかし、どこか寂し気な顔つきをして、教会入口の脇にある廊下を、階段とは反対方向にある図書室へ行くため、トボトボと一人寂しく歩いていくのだった。

「ったく・・・大輔のヤツ・・・図体ばかりデカくなりやがって・・・最近はオレの言うこともろくに聞かなくなったからな・・・一度、しっかり締めてやらないと・・・」

「うちの信一のヤツも同じですよ・・・オレの言うこともきかず、外で遊んでばかりです・・・」

「あのつるまさって呼ばれていたのはどこの子なんですか?」

「ああ、あの子か・・・灯台守の子で雅之君だ。おとなしくやさしい子で頭も良くてな・・・小学生の頃はうちの大輔なんかよく宿題を手伝ってもらったりしていたんだけどな・・・ったく、あいつったら、中学生になって自分の方がデカくなると、小柄な雅之君のことをからかうようになっちまって・・・仕方のないヤツだ・・・」

 そんなことを話しながら、3人の父親たちは、小村司祭の招集通り、教会2階の小集会室へと階段を昇っていくのだった。

 

 教会2階にある小集会室。

 祭壇に一番近い最前列中央の椅子に、がっしりした体躯で真っ黒に日焼けした男が座っていた。その姿は白ブリーフ一丁。隣の集会準備室で着ていた服を脱ぎ、パンツ一丁になっていたのだった。

 パンツ一丁のその男は、石本優太(42歳)。石本家は、代々、島で漁業を営み、優太は島の漁業青年団の団長だった。大川大将の同期であり、中学時代はやはりサッカー部所属。その代のサッカー部「わんぱく悪ガキトリオ」のうちの1人だった。

 石本優太は、中学時代においては、大川大将同様、山田信や鈴木孝のサッカー部の先輩であり、また、仕事に就いてからは、半農半漁の鈴木孝の先輩でもあった。同期の大川大将とは、中学時代からの悪ガキ仲間であり、お互い仲が悪いわけでは決してなかったが、そこは男同士、別々の仕事に就いてからは、酒や女のことでお互いをライバル視し、何かにつけて競い合っていたのである。

 特に、石本優太が漁師として独立する前の修行時代、水産会社の漁船で全国各地をまわり、巡る港々で出遭った女たちと遊んだという自慢話を島の居酒屋で聞かされる度に、農業高校を出て島に戻り実家の農家手伝いだった大川大将は、「うそつけ!あのほら吹き野郎・・・」と思いながらも、 優太の女遊び武勇伝に嫉妬していたのである。

 そして、大川大将のその嫉妬が頂点に達したのは、石本優太が東京・竹芝のバーで知り合った加代子という3歳年下の女を島に連れてきて、結婚すると宣言した時である。大川は、中学時代からの親友であるはずの石本の結婚式に出席もせず、それ以来、石本と大川はお互い疎遠になっていたのである。

 そんな石本優太の結婚生活は、残念ながら、順風満帆とはいかなかった。妻の加代子が島の古臭いしきたりに従おうとはせず、石本優太の両親や親せきと全くそりが合わなかったのだ。しかし、加代子が優太の子を身ごもると、加代子もだんだんと素直になり、優太の両親とも馴染むようになってきた。それで子供が産まれれば万事うまくいくだろうと優太が安心していた矢先、加代子は、長男・優一を産むと間もなく、優一をつれて島から逃げ出し行方知れずになってしまったのだ。それは優太が漁で島から離れている時だった。妻・加代子がいなくなってしばらくしてから、優太の元に届いた手紙には、「私と優一は元気です。捜さないでください。加代子」とだけ書かれていたという。それ以来、石本優太・加代子夫妻は、離婚もしないままの、妻行方知れずによる別居状態が続いていたのだ。

 小集会室の最前列に座っている石本優太は、肩を落として小さく縮こまるようにして座っていた。そして、後ろから男性信者たちが階段を上る足音が聞こえてくると、ビクッとしたように背筋を伸ばし、時々チラッチラッと後ろを見るのだった。それはまるで、デカい図体の悪ガキが、お仕置きをされるまで反省タイムを言い渡され、オヤジがいつ来るか気が気ではない時のようだった。 

 しかし、集会室の後方のドアが開き、男性信者たちが入ってくると、石本優太は、あきらめたかのようにさらに肩を落として、恥ずかしさでだんだん紅潮してくる顔を下に向けたまま、自分の穿く白ブリーフ、よく日に焼けした裸の逞しい両脚、サンダル、そして、集会室の木の床をジッと眺めることしかできないでいた。

 案の定、大川大将が集会室に入ると、石本優太が白ブリーフ一丁で集会室の最前列に座らされ縮こまっている。優太のその姿をみて、大川大将は、

「フフフ・・・東京の女なんかと結婚するからいけねぇーんだ・・・やっぱ嫁さんは、ぽっちゃり安産型の島の女が一番なんだよ・・・オレのかあちゃんのようによ・・・フフフ・・・優太のヤツ真っ赤な顔して下向いたままだぜ・・・ありゃ泣く寸前だな・・・ざまあみろ・・・まあ、今日はたっぷりと楽しませてもらうぜ・・・おまえが、神父様のムチ食らって悲鳴を上げるのをな・・・フフフ」

と思い、ほくそ笑むのだった。

 大川大将だけではなかった。教会の信者が離婚する時は夫がムチ打たれると結婚する時に親などから聞かされていて、石本夫妻が別居していることも知っている信者は、小集会室の石本優太の姿をみて、「そうか・・・ついにその時が来たのか・・・フフフ。」と思い、ほくそ笑む者もいたのである。しかし、保守的な考え方に支配されているその南の小島において、離婚する夫婦はめったにおらず、これからどんなムチ打ちの儀式となるのか、詳細を知る信者は、その日集まった中には一人もいなかったのである。

 

 教会2階の小集会室に既婚の男性信者たちが集まりつつあるとき、隣の集会準備室では、小村厳一主任司祭と車椅子に乗った前・主任司祭の喜名伸一(きな しんいち)(90歳)が話をしていた。前主任司祭の喜名は独身で教会の寄宿舎住まいであった。

 南の小島の教会・司祭は、生涯独身である。そして、主任司祭の座から退いた後も、教会にある寄宿舎に住み生活する。一方、教会では、前主任司祭が神に召されるまで、若い司祭たちや孤児の寄宿生たちが面倒をみる習わしだった。

「小村君・・・ムチ打ちとは少々厳しすぎないかね・・・今回は、むしろ奥さんの方に原因があるのだし・・・」

 そんな先輩司祭の言葉をきっぱりと否定するかのように、小村は、

「いいえ、夫婦どちらが原因であれ、離婚は神の教えに背くことであり、神に対する冒涜に他なりません!!夫婦関係の乱れは、男女関係にも影響を及ぼし、未婚の若い信者たちにも悪影響を及ぼします。離婚しようとする男性信者は、 神の前に跪き、ムチ打たれながら、神のお許しを乞わなければならないのです。」

と強い口調で言うのだった。

 南の小島にあるその教会では、信者たちに離婚を禁じていた。

 結婚する際に神の前で、お互いに「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすこと」を誓い合った仲である。神の前で、そんな心洗われるような言葉で誓っておきながら、いまさら離婚なんてするな!!ということだろうか・・・。

 しかし、どうしても離婚しなければならない時は、主任司祭と相談の上、神の前に跪き、懺悔し、結婚を最初からなかったものとする「離婚式」を経る必要があったのだ。

 特に、小村厳一司祭は、離婚に関しては厳しい導きが必要であると信じており、夫の尻を小村司祭特製の「愛のムチ」で叩くことを、教会として離婚を許可する「離婚式」の儀式の一つとしていたのである。その「離婚式」に夫婦揃って出席することは非常に稀なことではあったが、「愛のムチ」で尻を打たれるのは夫だけであり、妻である女性がムチ打たれることはなかった。男性だけがムチ打たれる理由に定説はないが、それはやはり南の小島が保守的な男性中心社会であり、夫婦生活の究極の責任は男がとるという考え方が支配している証なのかもしれない。

「ふむ・・・君がそこまでいうのであれば、私はもう何も言うことはない。君に任せることにしよう・・・」

「ご理解ありがとうございます。」

「それにしても、いつも愛のムチをつくるのはたいへんだねぇ・・・君には頭が下がるよ・・・」

 喜名は嫌味っぽく言うのだった。しかし、それを意に介すような風もなく、

「いえいえ、主任司祭として当然の務めです。さあ、そろそろ信者たちも集まったことでしょう。」

と言うと、小村は満足そうな顔をして立ちあがる。そして、喜名がのった車椅子の後ろへと回り、車椅子をゆっくりと押しながら、隣にある小集会室へと向うのだった。車椅子の手押しハンドルのグリップを握る小村の両腕は、よく日焼けしていて、神学校時代にラグビーで鍛えただけあって、55歳とは思えぬほど太く逞しく見えた。

 

 離婚式は、結婚式とは違い、教会の主祭壇がある聖堂(カテドラル)ではなく、2階の小集会室の祭壇の前で行われる。 結婚式とは違い事前告知されることはなく、その切羽詰まった状況からだろうか、日曜ミサの後に緊急告知され、離婚を希望する夫妻(ほとんどの場合は、夫のみ)と、有志の既婚男性信者によって催行される。

 しかし、離婚式は、そうめったにあることではなかったので、その日集まった既婚の男性信者たちの中で式の詳細について知っている者は一人もいなかった。石本優太がムチ打たるということ意外は・・・。

 小集会室の前の扉が開き、小村主任司祭と車椅子に乗った喜名前司祭が入ってくると、ざわついていた小集会室が一斉に静まり、集まった既婚の男性信者たちは、白ブリーフ一丁の石本優太を含めて全員その場に起立するのだった。小村だけでなく、喜名もいることに、集まった既婚男性たちは、いつも以上の厳粛な雰囲気を感じとる。

「先代の神父様もいる・・・こりゃ大事だってことだ・・・」

 一番前で起立している石本優太は、昔よくかわいがってもらったやさしいおじいちゃんである喜名前主任司祭もいることに、さらに顔を赤らめ、下を向いてしまうのだった。

 小村主任司祭は、さっき信者たちが入ってきた小集会室後方の扉から田原司祭見習いが少し遅れて入ってきたのを確認すると、祭壇の方にむかって、十字架のしるしをする。それをみて、既婚の男子信者たちも、一斉に、自ら十字を切るのだった。

「父と子と聖霊のみ名によって・・・」

 小村司祭の厳かな声が聞こえてくると、その声に応えるかのように、小集会室に男たちの野太い声が響くのだった。

「アーメン・・・」

「主は皆さんとともに・・・」

「また司祭とともに・・・」

「皆さん、儀式を行う前に、私たちの犯した罪を認めましょう。全能の神と・・・」

「兄弟の皆さんに告白します。わたしは、思い、ことば、行い、怠りによって、たびたび罪を犯しました。聖母、すべての天使と聖人、そして兄弟の皆さん、罪深いわたしのために神に祈ってください・・・」

「全能の神が私たちをあわれみ、罪をゆるし、永遠の命に導いてくださいますように・・・・」

「アーメン・・・」

「さあ、罪深き、迷える子羊、石本優太、そのまま前にでてきて、神の前に跪きなさい!」

 石本優太に指示を出す小村主任司祭の声には、厳しさがあった。

「は、はい・・・」

 石本優太は、下を向いたまま、肩を落として、前方中央にでると、祭壇の前にすでに設えられているクッションがついた小さなベンチのような台に両膝をついて、胸の前で両手のひらをあわせるのだった。

「さあ、皆さんはどうぞお座りください。」

 石本優太に対するのとは打って変わってやさしい声の響きで、小村主任司祭は、集会に参加している一同に着席を促す。そして、全員が着席したのをみると、小村主任司祭は再び厳しい声になり、

「石本優太、あなたの結婚生活について神に告白しなさい!」

と指示をだすのだった。

「は、はい・・・」

 石本優太は、ちょっと自信なさげに返事をすると、ボソボソと小声で告白をし始めるのだった。石本は、恥ずかしさで、もう後頭部まで真っ赤だった。

「私、石本優太は、神の御前で御誓い申し上げたにもかかわらず・・・結婚生活を上手く営むことができませんでした・・・」

「そんな小さな声では、神には届きませんぞ!!もっとはっきりとした大きな声で告白なさい!!」

 小村主任の厳しい声が石本に飛ぶのだった。

「は、はい!!ゴホン!!」

 そう返事をすると、石本優太は、咳払いして、さっきよりは多少よく聞こえる声で、

「私、石本優太は、神の御前で御誓い申し上げたにもかかわらず、結婚生活を上手く営むことができず、妻・加代子と離婚することを決意しました。神よ、どうか私の結婚を最初からなかったものとして、離婚をお許し下さい・・・」

と告白し、神に許しを乞うのだった。

 「離婚」という言葉を聞いて、いまさらながら、小集会室に集まった者たちからはざわめきが起きる。しかし、そのざわめきを打ち消すかのように、小村主任司祭がさらに厳しい声色で、

「ああ、離婚とはなんと罪深いことか!神は怒っておいでですぞ。石本優太、神の怒りをあなたの生まれたままの尻に存分に感じながら祈るのです。さあ、祈りなさい!!」

「は、はい・・・申し訳ありませんでした・・・・」

 そういって、石本優太は、事前に小村司祭から教えられた通り、両手を合わせて祈ったまま、跪いた上体を少し下げて、後ろに白ブリーフ一丁の尻を突き出すような体勢をとるのだった。

「罪深き、迷える子羊、石本優太よ・・・神はたいへんに怒っておられるが、いつかは神もあなたのことを許すでしょう。さあ、心ゆくまで祈り、懺悔するのです!!」

「は、はい・・・お導き、お願いいたします。」

「よろしい・・・」

 小村司祭はそう厳かに言うと、祭壇の横にかけてあった「木の棒」を持ってきて、石本優太が跪く横にある小台の上に置くのだった。それをみて、田原司祭見習いが、待ってましたとばかり、やる気満々に、ニヤニヤ笑いを隠すこともせず、石本優太の白ブリーフを後ろからガバッと引きずりおろして石本優太のケツを生にひんむこうと、横から石本の後ろに回ろうとするのだった。

「アイツ・・・前がもうギンギンおっ勃起ってやがる・・・・」

 ニヤニヤしながら、大川大将が、横にいた山田信の耳元でささやくのであった。

 しかし、田原司祭見習いが石本優太の白ブリの腰ゴムに両手をかけようとしたその時、小村主任司祭は、

「いや、待ってくれ田原君・・・今回は、君が補助してはならない!」

ときっぱりと言うのだった。小集会室からは驚いたようなざわめきが再び起きる。

「は、はい・・・・」

 主任司祭にそう言われた見習いの田原は、驚きながらも、顔に明かな落胆に表情を浮かべながら、正面横のもと居た場所へと引っ込むのであった。

 そんな田原の様子に大きくうなずくと、小村は、信者たちに説明するように、

「わたくしども教会の人間は、生涯独身でございます。神に仕えている身とはいえ、独身者の私たちが、既婚者である者の尻に神の怒りを知らせることはできません。どうか今日は、既婚者である皆さんが、 神の怒りを、罪深き迷える子羊、石本優太の生まれたままの尻に伝えてあげてください。そして、迷える子羊、石本優太を神の怒りから救ってあげてください!!さあ、遠慮なくどうぞ!!」

と言うのだった。

 小村司祭のその言葉に、小集会室は、さらにざわつくのであった。それだけではなかった。その日の迷える子羊である石本優太は、混乱したかのように、「えっ!?そんな話聞いてません・・・」とでも言いたげに、小村司祭の方を不安げな表情で見つめるのだった。

 小村は、迷える子羊・石本優太の視線に気づくと、

「迷える子羊よ!私の方をみても救われませんぞ!さあ、祈るのです。神の前で懺悔しなさい。そして、神の怒りを、己の尻で、存分に受け止め、かみしめるのです!!」

と、突き放すように言うのだった。

「やったぜ!!」

と、思わずうれしそうに小声を出し、ガッツポーズを決める大川大将。

「フフフ・・・まさか俺たちがアイツのケツを叩けるとはな・・・さすが神父様だ・・・」

 石本優太に年齢が近いアラフォー世代の男性既婚信者たちは、クリスマス・イヴにケツの痛い思いをした者も多かったので、皆、ニヤニヤしながら、ムチを振るしぐさをしながら、石本優太の逞しい漁師尻にビシッとムチを振り下ろすイメージトレーニングに興じている者もいた。

 そんな信者たちの興奮を鎮めるかのように、小村主任司祭は、「ゴホン!」と一つ咳ばらいをすると、

「さあ、どなたからもでよろしい、そこに置いてある神の使いのムチを取って、 神の怒りを、罪深き迷える子羊、石本優太の生まれたままの尻に伝えてあげてください。遠慮なくお願いしますよ!!」

と宣言するのだった。

「おぉ!!!」

と、集まった既婚の男性信者たちの興奮は収まるどころか、ますます盛りあがってきているようだった。

「神父様公認でムチを振りおろすなんて、クリスマス以外にはめったにないからな・・・ここは思い切りいくぜ・・・悪いな、優太・・・フフフ。」

と、優太と同じ漁業青年団の者たちは、特に、まるで獲物をみつけたサメがその獲物に狙いを定めるかのように、優太の白ブリーフに覆われたケツを、目をギラギラさせて凝視している。

 その日、小集会室に集まっていた既婚男性信者は、約30名ほど。年齢は、優太と同世代か、それよりもやや年下のアラフォー世代が中心だった。特に、小学生の息子を持つ父親たちは、「お仕置き記録帳」と「愛のムチ」で教会とのかかわりが強かったのである。

 そんな中、照屋正人(52歳)は、島の漁業青年団の元団長で、現在は青年団の「年寄」すなわち相談役となっており、石本優太が一番世話になっている先輩だった。優太が漁師として一人前になれたのも照屋の存在が大きい。優太の女遊びをかねてから注意してきたちょっと口うるさい先輩でもあった。当然、照屋が、優太の生尻に神の怒りを伝える一番手であった。

「さあ、どうぞ・・・」

「はい・・・」

 椅子から立ちあがった照屋は、神父の誘いに従って、祭壇の前に跪く優太のやや左斜め後ろに立ち、祭壇に向かって胸のところで十字を切ると小台に置かれていた木の棒でできたムチを右手に握るのだった。そして、

「罪深き優太を赦し給え・・・」

と小さな声でつぶやくと、優太の尻にめがけて、 「優太よ・・・オレの忠告に従わず、東京の女に手を出すからこういう目にあうんだ・・・よーく反省しろ・・・」の思いをこめて、神の怒りがこもったムチを振り下ろそうとするのだった。

 生唾をゴクリとのみこみ身構える優太・・・白ブリーフ一丁のケツは、よくしなるその木の棒を受けるには、あまりにも無防備そうに見えた。生唾をゴクリとのみこんだのは、優太だけではなかった。優太の同世代で、小学生のわんぱく息子がいる信者たちは、前年のクリスマス・イヴに神父様からムチ打たれた時のことを思い出し、椅子に座ったままながら、両ケツペタを思わずキュっと閉じようとするのだった。

 しかし、そんな信者たちの期待を裏切るかのように、小村主任司祭が、照屋に声をかける。

「いや、照屋さん・・・」

「は、はい・・・」

 思わず力が抜けたように、ムチを天井に向けて高く上げた右腕をガクッと下におろす照屋。怪訝そうな顔をして小村のことをみるのだった。

「ふぅ〜」 「はぁ〜」

 小集会室の信者たち、そして、ケツを後ろに出す石本優太も、思わず力が抜け、力を込めて緊張させていたケツ筋を緩める。緊張感みなぎっていた小集会室からもため息がもれるのだった。

 小村は、「人の話はよく聞けや!!」とでも言いたげな、やや不満そうな顔で、

「照屋さん、先ほども申し上げたように、神の怒りは、石本優太の生まれたままの尻でなければ、伝えることはできません。また、今回は、私ども独身者は、それに直接係わることはできません。お手数ですが、信者有志のみなさんが各々、石本優太の下着をひざまでおろし、神の怒りを伝えてあげてください。そして、神の怒りを伝え終わったならば、下着を元通りに上げてやってください。

と言うのだった。もちろん、小村の言う「下着」とは、優太がはく白ブリーフのことだ。

 照屋は、小村が最初に言っていたことを思い出したのか、顔を少々赤らめて、

「は、はい・・・そうでした・・・失礼しました・・・」

と返事をすると、右手に握った木の棒でできたムチを、一旦、優太の傍らにある小台にのせると、優太の白ブリーフの腰ゴムを両手でムンズとつかみ、それをガバッと、太もものところまでズリ下ろすのだった。

 優太の生ケツがむき出しにされる。石本優太は、今朝、トイレで大物と格闘のあと、ケツをよく拭かなかったのだろうか・・・。ちょっと香しいあの臭いが、照屋の鼻をつくのだった。よくみれば、優太の両太ももで拡げられた優太の白ブリーフのバックの部分には、うすい茶色い線がみてとれた、そして、フロント裏の部分は、うすく黄色い染みにもなっていた。 

「おーーーー」

 集会室に集まった既婚の男たちからは、優太の鍛えられた漁師ケツに対する賞賛だろうか、感嘆にも似た声が上がるのだった。優太は、妻、そして、一人息子とは別居状態だったので、クリスマス・イヴの「愛のムチ授与の集まり」に出席する機会もなく、漁師以外の男性信者たちの前でこうして生ケツを晒すこともいままでなかったのである。

 優太のプリッと盛り上がり引き締まった尻。それは、よく日焼けして逞しい赤銅色の上体を支えるかのような逞しさがあった。それがいま小集会室に集まった島の男たちの前に晒されたのだ。

「優太のヤツ、さすがいいケツしてるぜ・・・こりゃ、ムチの入れ甲斐がありそうだぜ・・・フフフ。」

と、大川大将は、サディスティックに目をギラギラさせながら、優太のプリッと盛り上がった逞しい尻を見るのだった。

 一方、同世代ながら、妻と子供とは別居状態の優太のケツを、教会の集会室でこうしてマジマジとみるのは初めての信者もいて、彼らの視線は優太の尻に釘付けだった。

 そんな視線を己のケツに嫌と言うほど感じながら、優太は、

「あぁ・・・とんだ晒しものだぜ・・・畜生・・・ケツがスースーして鳥肌が立ってきちまった・・・もう、早く終わってくれ、こんな恥ずかしい儀式・・・」

と思うのだった。いかし、「離婚式」は、男たちにとって恥ずかしいだけではなかった・・・おケツがとっても痛い儀式なのであった。

 優太の尻は、いつも赤褌一丁で漁にでているためか、ブリーフの跡だけでなく、六尺褌を締めこんだ跡もケツにクッキリとやや色白についていた。 もちろん、そうはいっても、日に焼けずにケツに残ったブリーフのペロ〜ンと白いパンツ跡が神様の怒りのムチのターゲットであることに違いはない。

 照屋は、優太の傍らの小台から、再び、木の棒を右手にとって、それを天井に向かって高く振り上げ、優太のケツに狙いを定めるのだった。

「く、くる・・・」

と、後ろにムチの気配を感じ、身構える優太。中学校まで悪ガキだった優太は、「お仕置き記録帳」卒業後も、しばしば、「愛のムチ」のお世話なってきた。ムチがケツに飛んでくる時のその感覚は、まさにケツに覚えのある懐かしい感覚であると同時に、思い出せば、胸キュンならぬ、尻キュンのほろ苦い青春の記憶でもあった。

 しかし、その期待は、再び、裏切られる。

「あ、あの・・・・神父様・・・・」

 ムチを振り上げた照屋が、躊躇して、申し訳なさそうに、小村主任司祭の方をみるのだった。

「あぁ〜」

 集会室の男性信者たちから、思わず、がっかりしたような声が漏れてくる。

 小村は、ちょっとイラついたような声で、

「照屋さん、なんですかな?何か質問でも?」

と、照屋に聞き返してくるのだった。

「あ、あの・・・さきほどお導きがあったのであれば、お許しいただきたいのですが、神の怒りを石本君の尻に伝えるには、このムチで、何発叩けばよろしいでしょうか・・・私は、聞き逃していたのでしょうか?」

と、照屋は遠慮がちだった。

「百発だ!!遠慮なく百発!!」

と大川大将が、間髪を入れずに、ヤジを飛ばす。その声に、小集会室の緊張が一気に破れ、男たちから大爆笑が起きる。

 これには、祭壇の方を向いて、神に祈りを捧げていた石本優太も、思わず、後ろを向き、幼馴染の大川のことをキッと睨むのだった。

「畜生・・・大将(だいすけ)のヤツ、人のケツだと思いやがって・・・」

と優太は思うのだった。

 大川大将のことを睨んだのは、優太だけではなかった。小村司祭も「大川君!!ちと冗談がすぎますぞ!!」と言わんばかりに大川のことを睨みつけると、

「ゴホン!!」

とまた一つ咳払いして、姿勢を正し、

「それは、本来、信者の皆様のお気持ち次第と言えましょう。」

と言うのだった。

「フフフ、ほら、やっぱり・・・それって百発でもいいってことだろ・・・」

と、大川が、後輩の山田にささやくように言うのだった。

「せ、先輩・・・また神父様に睨まれますよ・・・」

 そんな大川のささやきが聞こえたのか、小村司祭は、やや声を大きくして、

「しかし、まあ、皆様もお忙しいことでしょうから、心を込めて一発ということでいかがでしょうか。」

と言うのだった。それはまるで、葬式の予定が立て込んだ仏滅の日にセレモニーホールで司会をするお姉ちゃんの「ご焼香は、心を込めて、一回でお願いしまーす!!(ご焼香、一人三回もやられた日にゃ、日が暮れても葬式が終わらないのよ!わかる私のこの気持ち!?)」のようにも聞こえた。しかし、小村は、離婚する男性に対するムチ打ちに否定的な喜名前主任司祭に配慮し、「何発でもお好きなだけどうぞ!!」と言いたいところ、「心を込めて一発」としたわけである。それは、けだし政治的な回数と言えるであろう。

 小村のその言葉を聞き、安心したような照屋は、

「神父様、お導き、ありがとうございます。それでは・・・・」

と言って、ムチを振り上げ、

「神よ・・・優太を赦し給え・・・」

とつぶやくと、そのムチを思い切り、

ビシッ!!

と、優太のケツのど真ん中に振り下ろすのだった。

 神様の怒りを一発ケツに受けた優太は、

「いてぇ〜〜〜!!!」

と叫び、いままで胸の前で合わせていた両手のひらを、両ケツペタにもっていき、熱い衝撃が走ったケツを揉むように上下にさすり、ケツにジィ〜ンと広がる痛みを和らげようとするのだった。

 そんな優太の、まるで子供のようなしぐさに、小集会室からは笑いが起きる。

「石本優太!!尻などさすっている場合ではありませんぞ!!神の怒りを尻に感じたのであれば、祈り続けるのです。祈って、神の前で懺悔をなさい!!」

と、小村司祭の厳しい声が飛ぶのだった。

「は、はい・・・」

 優太は、うらめしそうに、小村の方をチラリとみると、両ケツをおさえていた両手を再び前にもっていく。そして、両手のひらを再びあわせ、祈る姿勢をとりつつ、ケツを後ろにプリっと突き出すのだった。 久しぶりのケツムチの衝撃と、恥ずかしさで、優太の後頭部はもう火が吹いたように真っ赤であった。

  照屋は、そんな優太に「よく反省しとけ!!」と小声で言うと、ムチを小台の上に戻し、優太の太もものところで広がったブリーフの腰ゴムをつかむと、やや乱暴にバガッと上げ、再び、祭壇方を見上げ、 胸のところで十字を切り、席に戻るのだった。

 照屋が席に戻ったのを見届けると、小村司祭は、 

「さあ、どなでもよろしい、次の有志の方、遠慮なくお願いします。」

と、神の代理として神の怒りを優太の生尻に伝える次のムチ打ち人を誘うのだった。

 漁業青年団の優太の先輩、同僚、後輩たちが、照屋に続く、

 ガバっとブリーフ下ろし!!そして、神に、

「アーメン!神よ赦し給え・・・」

と祈り、優太の生ケツに、

ビシッ!!

とムチを入れる。

 優太は、神の怒りが、己の生ケツに稲妻のように落ちるたびに、

「いてぇ〜〜〜!!!」

と叫び、尻を必死でさするのだった。そして、その度に、小集会室には笑いが起こる。もちろん、すかさず、

「石本優太!!祈るのです!!懺悔なさい!!」

と、小村司祭の厳しい声が優太に飛ぶのだった。

 そうはいっても、優太のケツを叩く強さは、信者によって様々であった。思い切りムチを振り下ろし、優太に悲鳴を上げさせる者もいれば、軽く叩くだけの者もいた。それは信者の自由と考えていたのか、小村主任司祭は、強さに関してダメを出すことはなかった。しかし、その日、小集会室に集まった約30名のうち、ムチ打ちが20名を越える頃になると、優太のケツも真っ赤な線が何本もクッキリと入り、ブリーフを上げ下ろしされる度に、ブリーフの木綿生地がケツに擦れて痛むのか、優太も唸り声をあげるようになってきた。それでも、 ビシッ!! ビシッ!! ビシッ!! と、神様の怒りは、信者たちが振り下ろすムチ先から、優太のケツへと、容赦なく伝えられていった。

 そして、もちろん、ラスト一発は、小・中学時代の優太の悪ガキ仲間である、農業青年団団長の大川大将であった。

「フフフ・・・ラストはオレで締めさせてもらうぜ・・・優太、覚悟はいいか・・・」

とニヤニヤしながら、大川は、優太の白ブリーフの腰ゴムをムンズとつかみ、それをガバっと優太の膝の上あたりまでズリ下ろす。優太のケツにビリっと電気が走ったような痛みが襲う。

「いっいてぇ・・・」

 小さな声を上げる優太。白ブリーフのゴムと木綿生地が優太のミミズ腫れしたケツを擦ったのである。しかし、そんなことにはお構いなしに、大川は、優太が跪く脇の小台の上に載せられた木の棒でできたムチを右手でつかむと、それを

ビュッ!!ビュッ!!

と空で打ちながら唸らすのであった。

「あと一発、あと一発、ガマンガマン・・・」

 そんなことを念じながら、優太は、大川からのラスト一発に覚悟を決めるのであった。

「優太・・・いい覚悟だぜ・・・こいつ、ケツ筋をキュッと引き締めやがった・・・いくぜ!!」

ビュッ!!ビシッ!!

 大川は優太のケツに、右手で高くかかげたムチを、思い切り振り下ろしたのだった。

「いてぇ〜〜〜〜〜!!!」

といままでよりもデカい声で叫ぶと、優太はもう我慢できんとばかりに飛び上がるように立ちあがり、ピョンピョンその場で飛び跳ねながら、ブリーフを膝まで下げたままで、まるで尻についた火をもみ消すかのように、必死にケツを両手のひらで揉み撫でるのだった。そして、大川大将の方を睨むと、

「おい!!おまえ、少しは手加減しろよ!!おまえのが一番痛かったぞ!!」

と、口をとがらせて言うのだった。

 ブリーフを膝の上まで下ろしたまま、大川の方を振り向いたため、優太の股間が衆目にさらされる。

「おーーーー!!でっけぇーーー!!」

 優太の股間にぶらりと垂れ下がったズル剥けの竿が、優太の股間に生えそろった陰毛の中からヌッとその亀頭をのぞかせている。そして、その後ろで重そうに垂れ下がるニコタマ。野郎同士と言えども思わず目を見張る、なかなか立派な股間のイチモツであった。

「うっせーな!!かみさん一人しっかりひきとめておけねぇ、おめえが悪いんだろが!!」

「なにぃ!!こいつ、やる気か!!」

 優太は、依然ブリーフを膝の上まで下ろしたまま、大川につかみかかろうとするのだった。

「コラァ!!二人とも、神の前ですぞ!!やめなさい!!」

と、あきれたような顔をした小村司祭が、二人を一喝する。

「は、はい・・・」

「は、はい・・・」

と、大柄でガッチリ体型の二人ではあっても、小村から一喝されるとすぐに、まるでしょ気た子供のように静かになるのだった。

「まったく、君たち二人とも中学生の頃と全く変わりませんね。この二人が、島の農業青年団長と漁業青年団長だなんて、私は信じられません!!」

「は、はい・・・すいませんでした・・・」

「は、はい・・・すいませんでした・・・」

 小村司祭は、大川と石本が祭壇の前で取っ組み合いの喧嘩を始めようとしたことに、神の前での神聖な儀式を汚された感じ、不愉快な表情を顔に浮かべるのだった。そんな主任司祭をとなりなすように、その日集まった男性信者の中では一番年長であった照屋正人(52歳)が、

「神父様、この二人のことは私があとできつく叱っておきますので、どうかここはお許しいただけないしょうか・・・・」

と言うのだった。

 それを聞いて、車椅子にのった喜名前司祭も、

「小村君・・・どうかね・・・あとは照屋さんにまかせることにすれば・・・」

と言うのだった。

 喜名前司祭の言葉に、小村主任司祭も、渋々ながら、

「喜名さんもそうおっしゃるならば・・・もう私は何も申し上げることはありません・・・」

と言って、矛をおさめるのであった。

 小村司祭は、気分を損ねたのか、信者たちに挨拶することもなく、小集会室から出て行ってしまう。田原司祭見習いも気まずそうな顔をして、小村の後を追うように、喜名の車椅子を押しながら、小集会室を出ていくのだった。その場は白けたような空気が広がり、「離婚式」は、自然閉祭となった。もちろん、そのあと、石本優太と大川大将の二人は、照屋からたっぷりと油をしぼられたのである。

 

 翌日。月曜日。石本優太が、右手に「離婚届」を持ち、左手で尻をぎこちなくさすりながら、村役場・戸籍係の窓口にやってくるのだった。

 村役場の戸籍係に勤める岡村豊(32歳)が、ニヤニヤしながら、応対する。

「石本さん、昨日はたいへんでしたね・・・お疲れさまでした・・・」

 岡村は石本に気をつかって声をひそめたつもりだったが、石本優太は、

「いや、あれから照屋さんに正座させられて1時間説教くらってよー、ケツ叩かれるわ、説教されるわで、まったく散々な一日だったよ・・・ワハハハ!」

と、デカい声で言うのだった。

 その声に、その場で事務をとっていた役場の女性事務員たちが、優太の方をチラチラみながらクスクス笑いをする。さすがに優太もそれに気がついたのか、顔をあからめ、ちょっと声を低めて、

「離婚届・・・お願いします・・・」

と岡村に言うのだった。

 岡村豊は、優太から受け取った「離婚届」に、記入漏れなど形式上の不備がないか慎重に点検した後、役場の受理印を押し、

「たしかに受け取りました。ご苦労さまでした。」

と優太に事務的に言うのだった。

 そして、それから約一週間後、東京の妻・加代子のもとに、南の小島役場から「離婚届受理通知」が届くのだった。  

 

二、旅立ち

 3月下旬。早朝。外はまだ薄暗かった。東京目黒にある高級マンションの玄関・車寄せで、4月から小学5年生となる石本優一が、母親・加代子のことをすがるような目でみつめていた。

「ねぇ・・・ママはどうしていっしょにいかないの?」

「優ちゃん・・・わかって・・・ママは東京でお仕事をしないといけないの・・・だからパパのところへは優ちゃん一人でいってね・・・もう5年生なんだからわかるでしょう?」

「でも、ボク、まだパパとあったことないよ・・・パパのことわかるかな・・・」

「パパの写真、渡したでしょう?」

「うん、でも・・・ボクのパパ、どんなひと?」

「だから、やさしい人だって何度も言ってるでしょう・・・優ちゃんもきっと好きになるよ・・・」

「そうかな・・・ママもあとからくるの・・・・?」

「ええ、ええ、ママもお仕事が終わったらきっといくから・・・」

「いつくるの・・・?」

「それは夕べから何度もいってるでしょう・・・もうママのことをこまらせないで・・・お仕事が終わったらいくからね・・・」

 昨夜から繰り返される母親のその言葉に、優一はあきらめたようにうつむくと、加代子の顔をみることもなく、

「うん・・・わかった・・・じゃあね・・・」

と言って、迎えに来ていた黒塗りのハイヤーに一人乗るのだった。

 加代子は、ホッとしたような顔をすると、

「運転手さん、この中に航空券と必要書類が入っています。羽田空港・国内線ターミナル、南の島航空のチェックインカウンターまでお願いします。」

と言って、きれいなピンク色のブーゲンビリアのイラストと「春休み お子様一人旅パック 南の島航空」と描かれたビニールポーチを運転手に渡すのだった。

 運転席で待っていた制服姿の初老の男性は、加代子にうやうやしく頭をさげると、

「かしこまりました、園田様・・・空港まで、おぼっちゃまはたしかにお預かりいたしました。」

と挨拶し、フロントドアのガラス窓をウィ〜〜ンとあげて、その高級マンションの玄関先から車を静かに発進させるのだった。

「優ちゃん!!パパと元気でね!!」

 大好きだったママの声が後ろから聞こえてきたような気がして、後部座席に独り座る優一は急いで後ろを振り向き、ハイヤーのリアガラスから向こうをのぞくようにしてみつめる。しかし、雨も降っていないのにガラスの向こうがにじんでみえて、次第に遠ざかっていく玄関の灯の下にママの姿を見ることはできなかった。 

目次に戻る 第2章へ進む