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シンお仕置き記録帳 第3章 スパルタ宣言

 

※警告※ 

あなたがこれから読もうとする小説は、フィクションです。

また、これらの小説は、成人向けの「大人の懐かしい思い出話」として書かれたもので、未成年者に対する体罰、暴力、虐待、性的ないたずら(大人が快楽を得る目的で未成年者の尻を叩 く行為を含む)、そして、それらに関連するあらゆる行為を、支持・奨励・助長することを意図して書かれたものではありません。私、太朗は、合法・違法を問わず、かかる未成年者に対する行為のすべてに絶対的に反対します。

また、この小説に、宗教的、政治的な主張は、一切、ございません。

<閑話休題 用語整理>

 今回のシリーズでは従前のお話に比べて「世界マップ」が拡大しますので、お話にでてくる地名等を整理しておきたいと思います。お話本文で説明する場合もあります。

南の小島・・・物語のメイン舞台。本州から遠く離れた南の島。亜熱帯気候に属し元日に海開きが行われる暖かい島。島の中心に笞(ムチ)の音響く教会がある。

南の大きな島・・・南の小島から船で3時間ほどの大きな島。南の小島の住民は、「本島(ほんとう)」と呼ぶ。

本土(ほんど)・・・南の小島、南の大きな島が属する県がある場所。

 

南の島空港・・・南の大きな島にあるジェット機も離発着できる空港。東京・羽田空港からの飛行時間は、ジェット機で約2時間30分。

南の島航空・・・南の島空港をハブ空港として本拠を置く日本の航空会社。航空会社コードはSIまたはNSI。ブーゲンビリアの花の色にちなみ、赤みがかったピンク色(桃赤色)がコーポレートカラー。その色は、わんぱくなお尻(*^^*)が平手でスパンクされた時にお尻が染まる色を彷彿とさせる。ただし、機上でお仕置きが行われるわけではない。

 

一、出戻り男子2人旅 

 3月下旬。朝の羽田空港国内線ターミナルの2F出発ロビーは春休みのためか通常よりもかなり混雑していた。手狭な国内線ターミナルのチェックインカウンターの前の客たちは、新ターミナルが完成するまでは仕方がないと、半ばあきらめムードで長蛇の列に黙って並んでいた。

 そんな出発ロビーのど真ん中に、大手航空会社のチェックインカウンターを押しのけるかのように、ド派手なピンク色のチェックインカウンターが1区画あった。言わずと知れた保守党の代議士・宮良富蔵が大株主の航空会社である「南の島航空」のチェックインカウンターだ。

 宮良が交通省の役人に働きかけて、半ば強引に2F出発ロビーのど真ん中にチェックインカウンターを設けさせたのだ。それは、南の島航空がLCC(ローコストキャリア)ではなく、大手航空会社と同じくフルサービスキャリア(レガシーキャリア)であることの主張であった。しかし、その実情は、MCC(ミドルコストキャリア)に近いものだったが・・・。

 

「ったく、ガキが一人で飛行機旅かよ・・・贅沢なこった・・・あー、いったいどんくらい待たせるんだよ・・・あのガキの手続きにも時間がかかりそうだしな・・・」

 そんなことを思いながら、南の島航空のチェックインカウンターに並んでいる大浜良平(42歳)は、自分の一つ前で搭乗手続きの順番を待っている子供の後ろ姿をながめている。

 大浜良平のその視線に気がついているのか、その子供は、時々、チラッチラッと後ろを気にするように振り向きながらも、大浜良平と目があいそうになると、サッと前を向いて、自分の右手をしっかりと握っている帝都ハイヤーの運転手・高山の手をギュッと握り返すのだった。

「大丈夫だよ・・・心配しなくても・・・もうすぐだからね・・・」

と、高山はやさしそうにその少年に声をかける。

「うん・・・・」

 そう答えた少年は、色白でもやしのように痩せた「都会のもやしっ子」という喩えがぴったりとくる男の子だった。いかにも上品な半ズボンをはき、上は洗練された長袖の青いシャツにグレーのVネックベストでスマートカジュアル・コーディネート。しかし、かなり痩せているのか、シャツも半ズボンもサイズが大きすぎてブカブカにみえ、まったく似合っていない印象が強かった。

「お待たせしました。石本様・・・」

 南の島航空の地上係員の女性の声が大浜良平の耳に入ってくる。

「石本・・・どっかで聞いたことがある名前だな・・・まっいいか・・・そんなことより、そのガキの手続き、さっさと頼みますよ・・・」

 そんな大浜の願いが届いたのか、その少年のチェックインはすぐに終わり、いままで付き添ってきていた帝都ハイヤーの運転手・高山が

「それではお願いします・・・」

と言って、ブーゲンビリアの花のイラストがついたビニールポーチと、「中目黒(なかめぐろ)スイミングスクール」の文字が入った黄色いエナメルバッグを、ピンク色の制服を着た航空会社の女性地上係員に渡すのだった。

「ありがとうございました。お気をつけていってらっしゃいませ・・・」

 運転手・高山は、そう言って、その少年にうやうやしく頭を下げる。その少年は、礼を言うこともなく、そっけなく、

「じゃあね・・・バイバイ・・・」

といって、右手を振るのだった。

「さあ、お姉さんと一緒にいきましょうか!」

 高山運転手に代わって、よく日に焼けた南国美人の南の島航空・女性地上係員が、その少年に左手のひらを差し出す。

「うん・・・」

 その少年は、差し出されたその手のひらを右手でギュッとつかむようにしてにぎるのだった。女性地上係員は、少年のスイミングスクールの黄色のエナメルバッグを右肩から下げると、その少年を連れて、空港の保安検査場へと向う。一方、お客である少年を無事送り届けて満足そうな顔をしたハイヤー運転手・高山が、大浜の横を通り過ぎていく。

 そんな運転手のことなど気にとめることもなく、大浜は、その少年を連れた女性地上係員のピンク色のミニスカートの尻を目で追いかけていた。

「お姉さんといきましょう!だと・・・俺とたいして違わんだろうがあのおばさん・・・まあ、おばさんのわりにはいいケツしてるけどよ・・・フフフ」

 大浜の言う通り、その少年に付き添っている女性係員は、決して若手ピチピチではなくアラフォー女子であることは明らかで、ピンク色のミニスカート姿は、大株主・宮良の決めた制服とはいえ、やや痛々しくも見えた。

「お客様、どうぞ!!」

 気がつけば、いよいよ大浜がチェックインする順番だった。

「おっといけねえ・・・」

 大浜はあわてて前に進み、ズボンの尻ポケットに入れてあった航空券を挨拶することもなくぶっきらぼうにチェックインカウンターの女性に渡すのだった。

「おはようございます。いらっしゃいませ・・・たいへんお待たせいたしました・・・」

「朝から随分混んでるね・・・今日は満席?」

「お陰さまで、ほぼ満席のご予約をいただいております・・・・」

 その女性係員は、大浜の顔をみることもなく、大浜から手渡された航空券と、その日の乗客リストを慎重に見比べながら、チェックインカウンターのキーボードを操作している。

「お預けになるお荷物はございますか?」

「いや、引っ越しの荷物は全部、別にして送ってあるから、今日はこれだけ・・・」

 そういうと、大浜は、持っていた青色のエナメルバックを女性係員に見せるのだった。そこには、「東京都北区立赤羽岩淵第三中学校・サッカー部」という白い文字が入っていた。

「はい、かしこまりました・・・いましばらくお待ちください・・・」

と言うと、キーボードの決定キーをパンとやや強めに押すのだった。そして、しばらくして、女性係員は、かがんで、カウンター裏の機械からでてきた紙片をビリっと切り取ると、それを大浜の前に差し出し、

「お待たせいたしました。これが、大浜様の搭乗券でございます。B01番ゲート、ご搭乗はご出発の約10分前、7時50分までとなります。それまでには必ず搭乗ゲートにお越しください。」

「おお、サンキュ・・・1Cか・・ねぇ、これってもしかしてファーストクラスの席?」

 自分の搭乗券をみながら、大浜は、その女性係員に質問する。大浜の馴れ馴れしい口調に、その女性係員は、無表情ながら、大浜の姿をしげしげとみつめて、「えっ!!その恰好でファーストクラス?図々しい男ね!」と思う。しかし、そこは客商売、丁寧な口調で、

「申し訳ございません、大浜様・・・大浜様のお席は、一番前方ではございますが、私どもの便は、すべて普通席でございますので・・・」

と応答する。大浜は、笑いながら、

「ワハハハ・・・そうだよな!!南の島航空にファーストクラスなんかあるわきゃねえよな!!」

と大きな声で言うのだった。大浜は、真っ赤なアロハシャツに、かなりピチピチな白色ハーフパンツ姿。南の小島出身の男らしく、よく日焼けして、白のハーフパンツのケツの部分には、大浜がはく白ブリーフのラインがくっきりと浮かび上がっていた。いまからビーチリゾートにでも行きますよといった大浜のその格好は、春休み期間中とはいえ、商用客の多い平日朝の羽田空港にあって、南の島航空のチェックインカウンターの前であってもかなり目立っているのだった。

 大浜のその言葉に苦笑いする女性係員だったが、忘れていたことを思い出したかのように、

「大浜様、これは弊社のブーゲンビリアラウンジのご招待券でございます。どうぞご出発まで弊社ラウンジにてゆっくりとおくつろぎくださいませ。ラウンジの場所は、保安検査場を抜けましたら、左手、B03番ゲートの前でございます。それではお気つけていってらっしゃいませ・・・」

と言って、大浜に、「ブーゲンビリアラウンジ・ご招待券 南の島航空」と記されたピンク色の紙片をうやうやしく手渡すのだった。

「おお、サンキュ!!」

といって、大浜は、その紙片を片手で受け取ると、すでに搭乗券(ボーディングパス)の挿してあったアロハシャツの胸ポケットにしまい、青のエナメルバックを肩から下げて、保安検査場の方へと向うのだった。

 

 羽田空港・国内線出発ロビー2Fにある南の島航空・ブーゲンビリアラウンジ。そこは、国内線の出発ロビーの喧騒がウソのような静かな空間だった。

「うわぁ・・・豪華な部屋・・・羽田にこんなところがあっただなんて知らなかったぜ・・・宮良のじいさん、くちうるせーけど、なんやかんやいって、オレに気を使ってくれたのかなぁ・・・」

 ピンク色のソファにふんぞり返るようにして座る大浜良平。羽田空港内の特別な空間にいる自分にすっかり満足しているようだった。

 もちろん、宮良富蔵が大浜良平に気を使って大浜がラウンジに通されたわけではない。気を使ったのは、社長の高城賢三であり、空港の地上係員に指示して大浜をラウンジに通すように手配したのだ。これは高城が大浜の素性を知ってのことではなく、宮良の事務所を通して予約を入れてきた客には、万が一にも無礼なことがあってはならないということで、社長の指示のもと南の島航空のVIPラウンジへ招待するのが慣例になっていたのだ。

「いらっしゃいませ・・・お客様、お飲み物でもいかがでしょうか・・・」

 大浜に言わせるとさっきの地上係員の女性よりちょっとはマシなピンク色のミニスカートの女性が、大浜に深々お辞儀をして挨拶すると、テーブルの上に、官製ハガキ大の小さなメニューを置くのだった。大浜はそれをみながら、

「おっ!ここに書いてある「ビールおつまみセット」、朝でもあるの?」

と聞くのだった。それに対して、係員の女性は、

「はい・・・ただ、当ラウンジでご用意できるおビールは、南の大きな島の地ビールであるレッド・ブーゲンビリア1銘柄だけとなりますが・・・それでもよろしければ・・・」

と、朝からお酒はあまり推奨したくないといったような口調で答えるのだった。

「おお、赤ビールだな。懐かしい!!」

「お客様、南の大きな島のご出身ですか?」

「いや、そこから船で3時間くらい離れた小島の出身だよ。でも、赤ビールはガキの頃からあったよ。中学の時、サッカー部の仲間と、オヤジの目を盗んで赤ビールのんじゃってさ、それ、オヤジたちにバレちまって、大目玉食らったもんだよ!!ワハハハ!!」

「まあ、お客様、やんちゃでいらしたんですね!」

「おお、まあな・・・で、おつまみって何?」 

「『南の島の胡麻入りサクサクわかめスナック』でございます。」

「おお、それも俺の好物だ・・・じゃあ、それもらうわ。もってきて。」

「はい、かしこまりました。少々おまちくださいませ。」

 ほどなく、小洒落た盆に載せられた冷えたビールグラスとレッド・ブーゲンビリアの缶ビール、そして、皿に盛られたスナック菓子が、 大浜の前のテーブルに供される。係員の女性は、「ここはバーではないし、私はホステスでもないの。あとはご自分でどうぞ!!」と言わんばかりに、小洒落たお盆を大浜の前に置くと、「どうぞごゆっくり!」とだけ言って、ラウンジの一区画にある給湯室のような小部屋に戻っていってしまうのだった。

「チェッ!サービスわりぃの・・・最初くれえグラスにビール注いでくれたって、バチはあたらんとおもうけどな・・・まあ、しゃあないか・・・おばさん相手じゃ、気分でねーし・・・」

 そんなことをブツクサつぶやきながら、自分で缶をあけ、グラスにビールを注ぐのだった。

 その日の朝のVIPラウンジには、もう一人の客がいた。チェックインカウンターで大浜良平の前に並んでいたあの少年だった。その少年は、大浜のソファからは少し離れた飛行機がよく見える窓側の席に座り、前のテーブルにおかれたグアバジュースとお子様向けお菓子セットの中の「南の島・黒糖かりんとう」をポリポリと音を立てて食べていた。

 そして、チラッチラッと大浜の方をみては、大浜と目があいそうになると、「ボク、おじさんのことなんか知らないよ!」と言わんばかりに、さっと窓の方をむいてしまうのだった。

「チェッ!あのガキ、俺の方、チラチラみやがって、なんか気になるなぁ・・・それにガキのクセにラウンジにいるなんて、生意気だぜ・・・まさか、宮良のじいさんの孫とかじゃないよな・・・」

と思うのだった。

 その少年がラウンジにいたのは、その少年が宮良富蔵の孫だからではなく、「お子様一人旅パック」を利用した児童の客だったからだ。いくら手狭とはいえ、大人でも迷子になりやすい羽田空港の出発ロビーで、お子様の客が迷子になられたのでは定時運行に大きな影響がでかねないので、「お子様一人旅パック」の児童客は、搭乗まで、一律、ラウンジに「閉じ込めて」おくのが慣例であった。それは、単なるサービスではなく、顧客安全管理の一環なのであった。

 大浜良平が地ビール・レッドブーゲンビリアを1缶あけ、いい気分になった頃、大浜とその少年が搭乗する予定の南の島航空002便(SI002便)の搭乗案内が、ラウンジの壁のスピーカーからも流れてくるのだった。ほどなく、南の島航空の女性の地上係員がその少年を迎えにきて、少年は、大浜より一足先にラウンジを出ていく。

「チェッ!俺にはピチピチミニスカ姉ちゃんのお出迎えはないのかよ・・・仕方ねぇ、いくとするか・・・南の小島に戻るのは本当に久々だな・・・みんな元気かな・・・」

 大浜良平は、そんなことをつぶやきながら、ビールを飲んでいい気分となりいつまでもラウンジのソファに座っていたい気持ちを断ち切るように、 ソファから重い腰を上げ、ラウンジを出ると、搭乗口であるB01番ゲートへと向かうのだった。

 

 大浜がゲートにつくと、すでに搭乗が始まっていた。搭乗ゲートには、ピンク色の看板が掲げられており、その看板には「目的地/経由地 南の大きな島」「定刻08:00」「南の島航空NSI」「便名 SI002」とそれぞれ黒文字が刻されたピンク色のプラカードがさがっていた。

 その日のSI002便は、ほぼ満席だったが、搭乗はことのほか順調で、長く見えた乗客たちの待ち列も、あっという間にボーディングゲートそして飛行機の中へ吸い込まれるように消えていく。大浜良平も、列に並び始めてからほどなくして無事搭乗することができたのだった。 

 座席の上方にある座席番号案内「1 ABC」をみて、

「え〜と、俺の席は、1Cだったな・・・よし、ここだ!!フフフ・・・ここって、離陸の時、スチュワーデスの姉ちゃんと向かい合わせになるんだよな・・・美人のミニスカ姉ちゃん、頼みますよ!!ついでに、パンティーのチラ見せサービスもね!!今日のパンティー何色かなぁ・・・フフフ。」

と思ってニヤニヤしながら、自分の席である最前列通路側の席1Cに座ろうとする大浜良平、隣の1Bは空席だった。これは偶然ではなく、宮良の事務所から予約した客の隣席は常に1席空席になるようブロックされるのが慣例だったのである。これが女性地上係員が大浜に言った「ほぼ満席」の意味だったのだ。

 1Cの席に落ち着き、「1Bに誰もこねー、ラッキー!!」と思いながら、大浜良平は、窓側1Aの方をみる。

「あっ!」

と思わず口にしてしまう大浜。1Aには、ラウンジにいたあの少年が、ちょこんと座っていたのである。今度は、お互い目があってしまう大浜と少年。しかし、その少年は、再び、

「ボク、おじさんのことなんて知らないよ!!」

とでも言いたげに、すぐに視線をそらして、窓の方を向いてしまうのであった。

「チェッ!俺のこと、警戒してやがる・・・かわいげのないガキだな・・・」

と思いながら、大浜良平は、席のベルトを締めながら、出発の時を待つのだった。

 

 その日のフライトは順調で、あっという間の2時間半だった。午前10時30分。定刻通り、大浜の乗ったSI002便は、南国情緒が漂う「南の大きな島空港」に着陸する。飛行機がターミナルに着き、ドアが開くと、女性の地上係員が一人乗ってきて、1Aの座席に座る少年に、

「石本優一様ですね・・・さあ、お姉さんといきましょうね!」

と言って、その少年を一足先に降機させるのだった。

 自分の座っている前を、自分を無視するかのように通って、ドアの方へ行く少年をみながら、大浜良平は、

「チェッ!ガキのくせにVIP扱いだな・・・中目黒スイミングスクール?いかにも金持ちのガキが通ってそうな水泳教室の名前だぜ・・・それにしても、石本優一か・・・どっかで聞いたことある名前だな・・・あっ!あのガキ・・・優太の息子?まさか!?」

とつぶやくように言うのだった。

 

 教会のある南の小島へは、南の大きな島から船で約3時間。小型フェリーが1日3便、南の大きな島と南の小島の間を運行している。運行会社は、もちろん、あの宮良富蔵が経営する宮良交通(株)の子会社・宮良マリン交通(株)であった。

 羽田発午前8時の飛行機に乗り、南の大きな島空港に午前10時30分に着く。空港から港まで宮良交通の路線バスかタクシーを使えば、正午発の南の小島行きフェリーには十分に間に合うのだった。

 こうして、南の小島行きのフェリーの一般船室の椅子に座っている大浜良平。あの少年も乗船していることがわかっていた。大浜良平は、再び、背中に視線を感じていた。しかし、後ろを向くと、そこには誰もいない・・・。船室の鋼鉄の柱があるだけだった。

「フフフ・・・あのガキ、あの柱の向こう側に隠れてやがるな・・・グズグズしていると小島についちまうからな・・・そろそろ捕まえてやるか・・・オレ、昔から、かくれんぼとかケードロとかで捕まえんの得意なんだよな・・・」

 大浜は、サッと身をかがめ、客席の背もたれから頭がでないようにして、上体をかがめたまま素早く柱の向こう側へと回り込むのだった。案の定、柱にへばりつくようにして隠れたあの少年が、さっき大浜がいた方向に頭だけを出して見ているのだった。

「あっ!きえちゃった・・・」

「みーつけた!!」

 大浜はそういうと、少年の後ろから少年の両肩を捕まえるのだった。 

「うわぁ!!は、はなして・・・」

 少年はびっくりしたように大浜の方を向いて、自分の肩をつかんだ大浜の手から逃れようとしてあとずさりする。「中目黒スイミングスクール」の文字がはいった黄色いエナメルバッグを前に抱えて持ち、警戒モード全開だった。

「お、おじさん、ボクのことつけてきたでしょ!」

「ワハハハ!!つけてきたとは、いわれちゃったな!!」

「だ、だって、はねだくうこうから、おじさん、ずっといっしょだもん!!」

「ぼうずは、南の小島にいくんだろ・・・おじさんも、そこにいくんだ。」

「・・・おじさん、しまの人なの?」

「ああ、そうだ。ずっと東京にいたんだけどな、島に帰ることになったんだ・・・」

 それを聞いて、不安と緊張の面持ちで大浜をみつめていた少年の表情が少しだけ緩むのだった。

「ぼうずは、春休みに、じいちゃんか、ばあちゃんにでも会いにいくのか?」

「ううん・・・ち、ちがうよ・・・パパと・・・あっ、でもママがおじいちゃんとおばあちゃんもいるっていってた・・・」

 少年の表情はやや暗く、あまりうれしそうな感じではなかった。大浜は中腰になり、少年と目線をあわせると、少年の頭に右手のひらをやさしく置く。

「どした?そんな顔して・・・うれしくないのか?」

「ボ、ボク・・・島でうまれたんだけど、赤ちゃんのとき、ママといっしょに東京にきちゃったの・・・だから、まだパパにあったことないんだ・・・」

「そうか・・・ママは来ないのか?」

 その言葉に、少年はうつむいてしまう。大浜は、「しまった・・・」と思い、再び、少年の頭にやさしく右手のひらを置き、

「わるかった、わるかった・・・余計なことだったな・・・」

と謝るのだった。

 しばらく黙ったままだった少年は、再び、顔をあげて、大浜良平をみると、

「ううん・・・いいの・・・ママはお仕事終わったらくるっていってたけど・・・きっとこないよ・・・だって、園田のおじさんと結婚しちゃったんだもん・・・ボク、夜にね、ママと園田のおじちゃんが話してるの聞いたの・・・ボクは『せき』にはいれないんだって・・・だから、ひとりでパパのところにきたの・・・」

と悲しそうに言って、また下を向いてしまうのだった。

「これからパパに会えるんだろ・・・よかったじゃないか!」

と、大浜は少年を励ますようにいう。

「ぼうず、名前なんてぇんだ?」

「石本、優一・・・」

「パパは?」

「えーと、石本、優太・・・」

「そうか!!やっぱりな!!ぼうず、だったら、大丈夫だ!!パパはやさしくていい人だぞ!!」

「ほんと!!おじさん、なんでわかるの?」

「それはな!パパとおじさんは、友達だからだ!!子供のころからの友達だ!!」

「えっ!ほんと!!」

 優一が大浜の前で初めて笑顔をみせる。大浜は優一のその笑顔に、幼馴染のわんぱく仲間の面影をみるのだった。

 大浜良平、石本優太、そして、大川大将(だいすけ)の三人は、小中学校時代の同級生であり、中学時代は、サッカー部の部活仲間でもあった。大浜良平は、かつて、オヤジたち、そして、小村主任司祭をさんざんてこずらせた「わんぱく悪ガキトリオ」のひとりだったのである。

 

二、スパルタ宣言

 石本優一と大浜良平が乗った船が、南の小島港に接岸する。少数ではあったが船からあがってくる乗客たち。そして、彼らを岸壁で出迎える者たち。その中に、優一の父・石本優太(42歳)、祖母・キヨ(61歳)、そして、優太の後輩でもある鈴木孝(40歳)と次男・孝二(4月から小5)がいたのだった。

「ほら、あの子だよ・・・あの子が優一だよ・・・赤ん坊だった優一が・・・まあー、あんなに大きくなって歩いているよ・・・無事でよかったよ、ほんと・・・」

 優太の母親であるキヨがすでに涙ぐみながら、下船してきた色白の少年の方へと小走りで近寄っていく。一方、優太は、その場に立ったまま、

「あれが俺の息子なのか・・・加代子が送ってきた写真でみるより、ずいぶん白くて小さいヤツだな・・・」

と思うのだった。

 優太の隣に立っていた鈴木孝も、

「あの子が孝二と同じ年か・・・ずいぶん小さくて幼くみえるな・・・それに色が白くてもやしのようだな・・・まるで女の子、いや、島の女の子の方がよほどたくましいぞ・・・東京の子ってのは、あんなものか・・・」

と思うのだった。そんな父親の思ったことを代弁するかのように、孝二が、

「ねえ・・・パパ・・・あの子がゆういち君なの・・・ほんとにこんど5年生?・・・それに・・・なんか、髪が長くて女の子みたいだね・・・ともだちになれるのかな・・・」

とつぶやくように言うのだった。優一は、その小島の人間がみると、まるでかつらをかぶったようなマッシュルームカットの男の子だったのだ。

「そんなこといわないで、優一君とは仲良くしてやるんだぞ。」

と、鈴木孝は、次男の孝二をたしなめるように言うのだった。

「う、うん・・・わかってるけど・・・」

 孝二は、そう返事をしながら、興味深い眼差しを祖母・キヨに抱かれようとしている優一に向けるのだった。

 鈴木孝と次男・孝二がその場にいたのは、息子の優一がすぐにでも島の子供たちに溶け込めるようにと、優一と同じ年の鈴木孝二を港に連れてきてほしいと優太が依頼したからであった。

 先輩のその依頼に鈴木孝は、親馬鹿というわけではないが、自分の次男・孝二が優一の世話役にいちばん相応しいと思い快諾する。先輩である石本優太がおとなしい孝二のことをしっかり評価していてくれたことに、鈴木孝はうれしく思ったのだった。

 鈴木孝の次男・孝二は、その前年、寝小便クセがたたり、クリスマスには、不本意ながら「愛のムチ」となってしまったが、誰にでもやさしい穏やかな性格であることを父親は買っていた。本当であれば、年下の面倒見がいい長男の孝一も連れてきたいところではあったが、いままで兄貴ベッタリで3兄弟の中で一番の甘えん坊だった孝二に、少しでもたくましくなれるような役割を与えようと考え、あえて孝二だけを港に連れてきたのだった。

(注)孝二のおねしょ話は、< お仕置き記録帳 > を参考にしてください。

 

「よおっ!!優太!!久しぶりだな!!そんなところに突っ立ってねぇで、早く息子のところにいってやれ!!」

と、優一と一緒に下船してきた大浜良平が、息子に近寄ることなく立ってジッとみている石本優太に声をかけるのだった。優太は、驚いたような顔をして、

「お、おまえ!!良平か!!なんでこんなところにいるんだ?帰ってきたのか?」

「おまえの息子のボディーガードとして、息子のこと東京からエスコートしてきてやったんだよ!!」

「ボディーガード?」

「エスコート?」

 その言葉に、祖母・キヨに抱きつかれている優一も顔をあげ、「おじさん、ウソつき!!」と言わんばかりに、良平のことをメッと睨むのだった。優一のその視線に気がついたのか、良平は、

「ワハハハ!!!まあ、そういう細かいことは気にしない!気にしない!」

といって、笑ってごまかす。そして、

「そんなことどうでもいいから、さあ、早く早く!」

と言うと、良平は、石本優太の後ろに回り、優太を、泣いているキヨに抱きつかれた優一の方へと押しやるのだった。しかし、やや近づいたものの、息子のすぐそばには寄ろうとしない優太だった。

「ゆうちゃん・・・よく無事で帰ってきたね・・・おばあちゃん、ずっと心配してたんだよ・・・もうどこにもいっちゃダメだよ・・・」

 そう言って泣く祖母・キヨに抱きつかれ、優一は、とまどうような顔つきをしつつも、祖母の肩越しに、さっきよりは近くに立っている父親のことをジッとみつめるのだった。

「えー、この人がボクのパパ・・・すごくこわそー・・・向こうに立っているおじさんの方がやさしそうだよ・・・どーしよーーー」  

 キヨを挟んで、パパと息子が初めて対面する。しかし、優太は、そっけなく、

「さっ、行くぞ!!」

とだけいって、良平や鈴木孝たちが待っている方をむくと、すたすたと歩いていってしまうのだった。

「優太ったら・・・すこしはやさしいこといってやったっていいだろうに・・・ねえ・・・ゆうちゃん・・・」

 すでに孫ベッタリの祖母・キヨは、優一のことを抱きしめながら、不器用な長男に不満の言葉を漏らすのだった。

 

「なんだよ・・・赤ん坊のとき以来だろ、感動の再会だろ!!なんかいってやれよ・・・おばさんじゃねーけど、『よくきたな』とか『大きくなったな』とかさ・・・」

と、大浜良平も、優太のことをたしなめるのだった。

「そういうのはおふくろに言わせときゃいいんだ・・・それにあいつの写真はもうみたよ・・・加代子が送ってきたからな・・・」

 優太のその応答に、

「ったく・・・」

と良平。後輩の鈴木孝も苦笑いするのだった。

 石本優太・優一父子、鈴木孝・孝二父子、大浜良平、そして、石本キヨの5人は、港にある小さな商店街にそって、自分たちが住む集落のほうへと歩いていく。

 港から優一たちが住む集落へは歩いて15分ほど。港へは、農作物や魚を運ぶ小型トラックや、ホンダのリトルカブといったバイクでいくことが多かった。しかし、その日は、息子の優一に島を歩いてみせたいとの優太の意向で、キヨ以外は、往復徒歩になったのだった。キヨは港へ向う往路のみ、優太の弟である優次に車で送ってもらっていた。

「それより、良平、いつまで島にいるんだ?」

「先輩、東京の中学校の先生ですよね。」

「ワハハハ!!まあな・・・でも、4月から島の中学校の教師として赴任してきたんだ・・・」

「えっ!!そうなんですか!!」

「えっ!!おまえがか!!またどうしてだ?」

「ワハハハ!!まっ、まあな・・・いろいろあってな・・・大人の事情ってヤツだ・・・」

 笑いながらもぎこちない表情の良平をみて、優太も、後輩の鈴木孝も、それ以上聞いてくることはなかった。

「じゃあな・・・こんど、ゆっくり飲もうぜ!!」

 ほどなく、大浜良平は、まるで逃げるかのように、弟の良助がいる島の駐在所のところで別れるのだった。大浜良平の父親は元警察官だった。しかし、長男の良平は、父親に反抗して教師になる道を選ぶ。一方、弟の良助は、警察官となり、今は、島の駐在所のおまわりさんだった。

 

 そんな大人たちの会話をうわらのそらで聞きながら、鈴木孝の次男・孝二は、自分の後ろで石本キヨに手をつながれて歩く優一のことを、時々、チラッチラッと振り返りながらみるのだった。しかし、優一は、なかなか自分と目をあわせてくれない。港近くの商店街へは、いつも友達たちと自転車で往復することが多く、孝二は、少し退屈になってきていた。

 一方、優一は、そんな孝二からの視線に気づきながらも、恥ずかしさもあるのか孝二の方をみることができないでいた。祖母・キヨの手をしっかりと握り、前を歩くパパの背中をジッとみているのだった。また、商店街の道で、行き交う島の人たちが、みんな自分のことをジロジロとみることも気になっていた。

 その小島にあって、小学生の男の子は、孝二のようにスポーツ刈り(または丸刈り)で、ランニングシャツにデニムの半ズボン(または学校の体育白短パン)が普通である。優一のように、かつらをかぶったようなマッシュルームカットに、下はハーフパンツタイプの半ズボン、上は上品で洗練された青いシャツにVネックのベストを着込んだ東京・目黒のスマートカジュアル・キッズファッションでは、嫌でも目立つのだった。しかも、その日は、天気もよく、南の小島は、海で泳ぎたいほどの蒸し暑さ。実際、優一の青シャツにも汗がにじんできていて、やや暑苦しくも見えたのだ。

 やがて歩く道は、商店街を抜け、両側が畑となる。小島ののどかな畑道。しかし、その日もそれほどのどかではなく、やや騒がしかったようだ。ただ、その騒がしさはあまりにも日常的な光景で、優一のスマートカジュアル・ファッションほど、注目されてはいないようだった・・・。 

「こらぁ!!!健次!!またタンカン盗み食いしやがったな!!ちょっと、こっちへ来い!!」

 みれば、 木下果樹園のタンカン畑のわきで、果樹園の木下建造(39歳)が、息子で次男の健次(4月から小5)の耳をひっぱっている。

「い、いってぇよ、とうちゃん・・・もうタンカンもおわりだし、ひとつくらい食ってもいいだろ!!」

「バカやろう!商売もんのは、無断でくっちゃダメだって何度いえばわかるんだ!!まったく、お前ってヤツは!!口でもいってもわからんのなら、ケツに教えてやる!!」

「うわぁ!!とうちゃん、かんべんしてよーーー、耳ひっぱらないでよーーー」

 尻を叩かれるとわかり、真っ赤な顔になって必死で抵抗し始める木下健次。しかし、オヤジの力にはかなわなかった。

「ダメだ!!今日と言う今日はゆるさねぇからな!!」

 そういうと、木下オヤジは、農協へ出荷する際に果物を入れておく黄色いプラスティックケースをひっくり返して2段に重ねたところへ、健次の上半身を押し付けかがませると、息子がはいていた小学校ではく白の体育短パンを、下にはいていた白ブリーフとともに、グイっと膝の上あたりまで一気におろすのだった。そして、息子が逃げないように、左腕で息子の腰あたりをグッとそのケースの底の上に押さえつけるのだった。

「うわぁ!!ごめんなさい・・・もうタンカンぬみませーーーん・・・」

 しかし、その日のオヤジは、断じて許さなかった。その小島で、タンカンの旬は2月上旬から3月中旬で、健次が言うようにタンカンの季節は終わっていたのだが、まだ残っていたタンカンも十分に商品価値のあるものだ。一個たりとも忽せにはできない。しかも、その年は、年明け以来、木下果樹園は何度も「タンカン泥棒」にやられていたのだった。

「ったく、おまえってヤツは、とうちゃんに何度尻叩かれれば気が済むんだ!!」

「うわぁ!!はんせいしているよーーーー、ごめんなさーーい!!」

「今日は、とうちゃん、おまえのいっていることは信じねーぞ!!手で叩くくらいじゃ、効かねぇーらしいからな・・・今日はたっぷりこれで・・・」

「うわぁ!!ぶたないでーーー!!」

 息子の懇願を無視するかのように、木下オヤジは、健次の腰をグッと押さえつけたまま、少しかがんで足元におちていたタンカンの木の小枝を右手で拾う。そして、それをブン!ブン!と空を切るように振ると、高くかかげて、息子・健次のプリッとしたわんぱくな桃尻に狙いを定めるのだった。

 木の枝のムチ先が、まもなく己のケツに容赦なく飛んでくることを予感してか、息子・健次は、ケツに鳥肌がたつのを感じる。

「いてぇ〜〜〜〜、ぼうりょく、はんたーーい!!ゆるしてーーー!!」

「暴力反対だと!!生意気なこといいやがって!!とうちゃんにいわせりゃ、泥棒反対だ!!それに、叩くのはこれからだ!!痛いのはこれからだ!!オラァ!!」

ビシッ!!

 オヤジの右手に握られた木の枝が、健次の生ケツの中央を強襲する!!!

「いでぇーーーー!!!ごめんなさい!!!もう、ぶたないでーーーー!!!」

「♪いでで、いでで、いでぇでお〜〜ってか!!!一発で許してもらえるほど甘かねぇーんだぞ!!オラァ!!もう一丁!!!」

 オヤジは、ジャマイカ民謡「バナナボート・ソング」の節をマネながら、うっすらピンク色の線が真ん中についたタンカン泥棒の生ケツに、 

ビシッ!!

と2発目のムチを入れる。

「いでぇーーーー!!とうちゃん、ゆるしてーーー、もうぬすみませーーーん!!」

「♪いでで、いでで、いでぇでお〜♪ お仕置き記録帳のバッテンは、いくつにするかな・・・」

ビュッ!!ビシッ!!

「いでぇーーーー!!!もう8つだよ〜〜、お仕置き記録帳のバッテンはゆるしてよーーー、もうしませーーん!!」

「ダメだ!!三つ、いや、バッテン四つだな!!♪いでで、いでで、いでぇでお〜♪オラ!!もう一丁!!」

ビュッ!!ビシッ!!

「ぎゃぁーーーー、いでぇーーーー!!!ごめんなさーーーい!!うわぁーーん!!!」

 ケツムチ4発目。木下果樹園の次男・健次の叫び声は、泣き声に変わってくるのだった・・・。

 そんな木下果樹園から聞こえてくる賑やかなムチ音と声を聞きながら、畑道を行き交う人たちは、みなニヤニヤしている。しかし、果樹園で繰り広げられている父と息子の生ケツ・スキンシップをチラッとはみるものの、そんな父子のお仕置き風景もさしてめずらしくはないのか、みな、何事もなかったように通り過ぎていく。むしろ、東京・目黒のスマートカジュアルな服装に身をつつんだ優一のことを、みんな好奇心むき出しでジロジロとながめていくのだった。

「まったく、木下君ちの子は、何度叱られても懲りませんねー。5月はスモモ、7月はパッションフルーツ、8月はマンゴー、9月はパイナップルにドラゴンフルーツ、そして、10月はバナナですからね・・・。」

といって、鈴木孝はニヤニヤするのだった。

「あっ・・・ボクも、この前、けんちゃんからタンカンもらって食べた・・・アレ、ぬすんだヤツだったのかも・・・どうしよう・・・バレちゃうかな・・・おしおきされちゃうよ・・・」

と、父親と並んで歩いている鈴木孝二は、急に不安になってきて、顔を紅潮させるのだった。鈴木孝二と木下健次は、ともに4月から5年生で島の小学校の同級生だったのだ。

 そんな後輩の言葉を聞きながら、石本優太は、ニヤっとして後ろを向き、優一の方をみると、

「おまえもワルさをするとああだからな!!」

と言うのだった。

「えっ・・・おしり・・・ぶたれるの・・・」

とつぶやき、祖母・キヨの手のひらをいままでよりも強くギュッと握る優一。左手ではオシャレな半ズボンの尻をさするようなしぐさをする。優一は、いままで母親を含めて家庭でも学校でも叩かれたことがなかった。優一の顔は、みるみるうちに真っ赤になってしまうのだった。

 孫の不安を感じ取ったのか、

「大丈夫、大丈夫、ゆうちゃんは、いい子だもんね!!」

と言って、孫のことを安心させようとする石本キヨ。そして、息子・優太のことを、たしなめるように、キッと睨む。その目をみて、優太は苦笑いし、

「ったく・・・おふくろも孫には甘いよな・・・ガキのころ、どんだけ、オレのケツ叩いたんだよ・・・」

と思うのだった。

 

 お仕置きの話となると、男の子は特に恥ずかしいという気持ちになるのか、石本優一だけでなく鈴木孝二も気まずそうな表情で顔は耳まで真っ赤だった。そして、いままで決して目を合わそうとしなかった優一が、孝二の方を、

「こうじくんのうちも、おしおきされるの?おしりぶたれるの?」

とでも聞くかのように、チラッチラッと、孝二の方をみてくるのだった。孝二は、優一の視線にすぐに気がつき、真っ赤な顔ながらも、ニッと笑って、手を振るのだった。それに、やはりニッと笑って手を振りかえす優一。孝二は、「よし!ゆういちくんとはきっとなかよくなれる!!」と思い、少しだけうれしくなるのだった。

 しかし、そんな孝二のちょっとうれしい気持ちが一気に吹っ飛んでしまうような光景が、通りかかった山田家の庭で繰り広げられていた。

バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!!

「うわぁ〜〜〜、パパ、ごめんなさーい!!おしり、いたいよーーー!!もうおねしょしませーーん!!」

という泣き声が聞こえてきたのだった。その泣き声は、山田家の三男、信三(4月から小2)のものだった。みれば、縁側に胡坐をかいたパパ・山田信の膝上で、おケツ丸出しの信三が、パパからケツを叩かれているのだった。理由は、庭に干されたなかなか立派な世界地図付きの布団をみれば明らかだった。

バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!!

「うわぁ〜〜〜ん!!いたいよ〜〜!!もうぶたないで〜〜〜!!」

と泣きわめきながら、パパの膝上で両脚をバタバタさせる信三。しかし、パパは許してくれなかった。

「ったく、ママのいいつけをきかずに、昼寝の前にジュースばっかり飲んでるから、寝小便するんだ!!わかってんのか!!信三!!今年はこれで3回目だぞ!!!」

バチン!バチン!バチン!バチン!バチン!!

「わかってるよ〜〜!!おしり、いたいよーーー、ごめんなさーーーい、ぶたないでーーーー!!」

「ったく、お仕置記録帳にバッテン3つだからな!!」

バチン!バチン!バチン!バチン!ベッチ〜〜ン!!

「うわぁ〜〜〜ん!!ごめんなさーーーい!!」

「よし!!ふとんが乾くまで、ふとんの横に立って反省してろ!!」

「はーーーい・・・グスン、グスン・・・・」

 信三は、やっとパパの膝上から解放されると、真っ赤なお尻をなでながら、縁側から庭におりる。そして、いまパパから叩かれてホカホカしているお尻を両手でさすりながら、トボトボと布団の横まで歩き、道の方にかわいいお尻をむけて立つのだった。下はサンダルをはいてお尻もおチンチンも丸出しのスッポンポン、上は白のランニングシャツ一枚だった。

 南の島特産のフルーツジュースは種類が豊富で、どれもカリウム成分が豊富である。そのせいで、利尿作用が強く、子供が寝る前に飲むと、寝小便をしやすくなるらしい。そういうわけで、寝小便してお仕置きされる光景も、その小島では決してめずらしくはなかったのだ。 

 

 そんな山田家でのお仕置きの光景を脇目でチラッチラッとみながら、オヤジである石本優太も鈴木孝もニヤニヤしている。

「信三君、やらかしちゃったみたいだな・・・」

と思う鈴木孝二。そして、石本優太は、再び後ろの息子の方を振り向いて、

「おまえも、寝小便したらああだぞ!!」

と優一に言うのだった。

「えーー」

と言って、なんとも言えない不安そうな表情をする優一。再び、おばあちゃんの手をギュッと握る。

「大丈夫、大丈夫・・・ゆうちゃんは、お兄ちゃんだから、おねしょなんてしないよね・・・」

と、優一の祖母・キヨが、優一を安心させるように言う。そして、今度は、

「優太!そんな子供をおどかすようなことばかり言ったら、ゆうちゃんがこわがるだろ!!この子は、今日、島についたばかりなんだよ!!」

と、口をとがらせて息子を諫めるのだった。

 「チェッ・・・おふくろは甘いよな・・・」とでも言いたげな表情をしながらも、優太は、

「ああ、わかってるよ・・・」

とぶっきらぼうに言うだけだった。

 一方、優一の祖母・キヨの「お兄ちゃんだから、おねしょなんてしないよね・・・」という言葉に一番に反応したのは、鈴木孝二だった。もちろん、石本キヨは、孝二にあてつけるために言ったのではない。しかし、孝二は、いまにも泣きそうな顔をして、

「ボ、ボク・・・今年なってから、まだ一度もおねしょしてないよ・・・」

と、キヨには聞こえないような声で、下をむいたままボソッと言うのだった。息子のその声を聞いて、鈴木孝は、苦笑いし、「わかってる・・・わかってる・・・おまえは今年になってから一度もおねしょしてないよな・・・・」となぐさめるかのように、孝二の頭をやさしく撫でてやるのだった。

 そんな孝二の気持ちの揺れに気がついたのか、優一が心配そうに孝二のことをジッとみている。その視線に気がつき、孝二も、優一の方をみる。

 そして、今度は優一の方から、ニコっと笑って、孝二に手を振るのだった。それをみて、孝二は、再びうれしくなり、ニコッと笑って手を振り返す。優一は「よし!あの子とはなかよくなれそうだね!!」と思い、パパにお仕置きされるのではという不安が少しだけ和らぐのだった。

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